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Ver3.5 |
Ver3.5 |
身長 |
月下の花の如く |
女王が目を覚ますと、そこは深い森の中だった。 私は今までどうしていたのか… 以前にもこのようなことがあった気がする。いや、それともあれは夢だったろうか。 まだぼんやりとする頭でそんなことを考えていると、柔らかな草の感触が、きらめく木漏れ日が、小鳥たちのさえずりが、徐々に女王の感覚を呼び戻した。 ――ここを知っている。ここは、私の森だ。 すると、不意に「お目覚めですか?」と少女の声がする。声の主に向き直ると、鋼のメイドを従えた少女が、うやうやしく頭を垂れていた。 「久方ぶりですわね、『妖精の女王』ティターニア殿… 大変お待たせいたしましたわ。とうとう、約束の時がまいりましたの。いつぞお借りしたものを返させて頂きますわ」 少女は頭を上げると、穏やかに微笑んだ。その懐かしい顔に、女王もまた微笑みを返した。 「これは「冥府の女王」ヘル殿。…ああ、やはりあなたが私を呼び戻してくださったのですね。ご尽力を賜り、感謝申し上げます。まさか再びこの森を歩ける日が来ようとは…」 「ふふ、今度こそ『夢』ではありませんわ。さあ、ご挨拶はこのへんで。私達の再会と友情を祝ってお茶にいたしましょう。あなたのお好きなダージリンをご用意してお待ちしておりましたのよ」 彼女が後ろに立つメイドに合図をすると、メイドは用意してあったティーカップにお茶を注ぎはじめた。それとともに懐かしい香りがゆるやかに立ち上る。女王と少女は椅子に腰かけると、静かにカップを合わせた。 「またこうしてあなたとお茶を頂けるなんて、この上ない喜びです。実は私、あの時のお茶の味が忘れられなくて…。それにしてもあの時は驚きました。まさか『夢の国』でお会いするとは。今日はあの子はいないようですが、息災かしら?」 「あの子なら元気にしていますわよ。ウフフ、今は佳境で忙しそうですわ」 「そうですか、またあの子ともお茶をご一緒したいものね。…ところで。あなたが私を復活させたということは――またこのティターニアに頼みごとがあるということですね?」 少女は、すぐには答えようとせず、しばらくカップの中を眺めてから言った。 「ティターニア殿は今、この世界のことをご存じかしら?」 「ええ、創世主の大いなる意志の中で眠っている間にも、この世界の動きは感じておりました。混沌の輩は、相も変わらずあの手この手と忌々しい…」 少女はゆっくりとお茶を飲み干すと、静かにカップを置いた。 「実は私、今は“あちらの方々”ともお茶をご一緒しておりますの」 少女の言葉に、女王は思わず強くカップを置いた。 「なぜ!? どうしてあなたが“あの者”らの手助けなどするのです!?」 「それはまだ言えませんわ。たとえ、古い友人のあなたでも。それでね、あなたには、もうひとかたのお茶会にご出席頂きたいの」 彼女は尚も澄ました顔で言った。 「どういうことです? それでは、私とあなたは――」 「一旦は、“そういうこと”になってしまいますわね」 そう言うと、少女はかたわらの焼き菓子をひとつつまんだ。 女王は何も言えなくなり、少女の空いたカップにメイドがお茶を注ぐ様子を、ただ黙って見つめるしかできずにいた。そんな女王を、少女は何も言わずに見つめた。 その涼やかな瞳は、何か計り知れない大きな流れを見据えているように見えた。女王はカップを手に取ると、残っていた茶のふくよかな香りをゆったりと嗅ぎ、最後まで丁寧に味わった。 「――分かりました。あなたの言う通りにしましょう。この美味しいお茶のお礼として」 彼女は、先ほどよりも心なしか朗らかに微笑んだ。 「ありがとうございます。そう仰って頂けると信じておりましたわ。こんなことをお願いできるのは、あなたしかおりませんもの」 メイドはすかさず女王の空いたカップに、お茶を注いだ。香しい湯気が、再び女王の鼻孔を優しくなでる。 「あなたに頼りにして頂けて、私も嬉しいかぎりです。それでは最後にもう一度、私達の友情に乾杯しましょう」 『妖精の女王』と『冥界の女王』は、再び静かにカップを合わせた。
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体重 |
舞う花弁の如く |
生息域 |
妖精の森 |
好きな紅茶 |
ダージリン |
夫 |
オーベロン |
友人 |
ヘル |
イラストレーター |
碧 風羽 |
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