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Ver3.5 |
Ver3.5 |
全長 |
見る者の恐怖に比例 |
村正と十兵衛、そしてヘパイストスの三人は、北の山を目指していた。理由は、数日前に届いた、幕府御庭番衆が頭領、服部半蔵が鷹に結んで寄こした“忍び文”―― “十兵衛殿、これが届くということは、そこもとが生きている証。魔界城は焼失、天草四朗時貞並びに妖刀の行方は知れず。月が半ばに欠けるまで、北の三角山、山道口にて待つ” 目的である村雨が、魔界城に囚われていると思い進んでいた一行は、探す当てを失い、ひとまず半蔵と合流することにしたのであった。 道中、街道の茶屋で休んでいると、店主が話しかけてきた。 「あんたたち、そこの森を抜けるつもりかい? やめといたほうがいいよ。あそこには今、恐ろしい化物がでるって話だからねぇ…」 何でも、その森には巨大な化物が出るらしい。その恐ろしい瞳に見つめられた者は、身動きひとつできなくなる、と。おそらく、皇帝軍のはぐれものであろう、ということだった。 だが、谷に挟まれた森の街道は、北の山へと通じる唯一の道。 村正は「それならば、私たちが退治いたしましょう」と店主に告げると、茶屋を後にした。
然して、森の深くへと入り込み半日程進んだ頃、巨大な影が、三人の上にどろりと落ちた。 「出おったなぁ、妖怪ぃぃぃ!!」 十兵衛の合図と共に、三人はそれぞれに背中を合わせ、周囲を見回した。しかし、化物の姿はどこにも見当たらない。 「誰だ誰だ誰だ… お前かお前かお前か…」 頭上から響き渡る恐ろしい声。とっさに上を見上げた一行の目に映る『目』――宙に浮かび、赤金に輝く巨大な瞳。三人は得物に手をかけようとするが、魔眼に射抜かれたせいか、その体はピクリとも動かすことができない。 巨大な目玉は、なおも恐ろしげな声を上げる。 「誰だ誰だ誰だ… 違う違う違う…」 そのまま三人にずずいと落ちてくる目玉。万事休すかと思われたその時、化物の大きな瞳がニヤリと歪み、三人の体にふぅっ、と自由が戻った。そして、化物はその瞳に無垢な笑みを浮かべながら三度声を上げた。 「友だち友だち友だち… 嬉しい嬉しい嬉しい…」 「んん? おお! お前さん、バックベアードか!? こんなところで何をしておるんだ??」 「んなぁ!? 翁よ、あの妖怪、お主の知り合いであるか!?」 森は静けさを取り戻し、三人と一体は木々の開けた空間に座り込んだ。 「ウハハ、こやつは昔一緒に旅した仲間でな、見た目はこうだが、仲間思いの良い奴よ」 「フフ、そのようですね」 「この目玉が良い奴…か。んむ、儂も見聞を広げねばならぬのぉ…」 「バックベアード、ここでお前さんに会えたのはまさに僥倖よな。村正よ、お前さんの“剣”たる力の成せる技かもしれんぞ?」 「どういうことでしょうか…?」 へパイストスはオホンとひとつ、大仰に咳をついた。 「このバックベアードの目玉は何も金縛りだけがぁとりえじゃない。こやつは時間も時空も越えて、あらゆるものを“見る”ことができるのよ。ほかにもわしも知らぬ機能がてんこ盛りという、ありがた~い“友だち”なんだわい。つまり――これで、嬢ちゃんの姉君の居場所を探ることができる!」 村雨捜索の手掛かりを無くし、途方に暮れていたところ突然訪れた幸運に、色めき立つ村正。十兵衛は「やるのぉお主ぃ!!」とバックベアードをバシンとはたき、ぎろりと睨まれ固まっている。 「さあて、それではさっそく探してもらおうかの。バックベアード、この子の姉、村雨を探してくれ。村雨はこの子の刀の姉妹刀でもある。同じ妖気を手繰れば良い」 すると、バックベアードは、ふわりと空中に浮かび上がると、大きな目玉をぎょろぎょろと縦横無尽に動かし始めた。 「村雨村雨村雨… どこどこどこ…」 しばらくの間その動作が続き、それをホケーっと見上げる三人。すると、急にバックベアードがビクンッとその巨体を揺らす。合わせて三人の体もビクンと揺れる。見ると、目玉が一点を凝視して止まっていた。 「村雨村雨村雨… いたいたいた…」 「おおっ! 見つけたか! さすがバックベアード! その眼力、少しも衰えておらんのう!」 「バックベアード様、それで、姉はどこに…?」 そう問いかける村正に、バックベアードは答えた。 「連れて行く連れて行く連れて行く…」 頭上に浮かぶバックベアードがぐるぐると回転しだし、彼が地面に落とす影がひときわに黒くなっていく。三人がものすごい勢いで頭上を回るバックベアードに目を奪われていると、急に足元の感覚がなくなり、三人は影の中に――ストンと落ちた。
ガシャン! ドスン! ポヨンと三者三様の音をたて、三人は地面に落ちた。 「…あいたたた。ここはどこじゃ?」 「時空転移か…なんと、あやつにこんな力まであったとはのう…」 「ここに、姉上が…」 周りを見渡す三人の目に映ったもの――それは、何もない、ただただ真っ黒な空間にポツンと浮かぶ古城だった。
一方その頃、バックベアードは、送り出した三人に伝え忘れた大事なことを思い出していた。 「まずいまずいまずい… 『教会』『教会』『教会』… 危険危険危険…」
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重量 |
見る者の恐怖に比例 |
正体 |
一切が不明 |
性格 |
忘れっぽい |
大事なもの |
友だち |
捜索中 |
百鬼の掟に背きし者 |
イラストレーター |
あかぎ |
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