「すごいすごい! リュカ、早くこっちおいでよ! すっごくふかふかだよ!」
今後についての話し合いを終え、初めて自らの寝室となる部屋に足を踏み入れたリュカを、ビアンカの嬉しそうな声が出迎えた。
「こんなすごいの、アルカパの旅館にもなかったよ!
本当にふかふかしてて気持ちいい~」
一足先に入浴も終えていたビアンカは、パジャマのシャツとパンティだけというあられもない格好で、ふとんの心地よさを楽しんでいるようだった。
結婚してそれなりの月日がたっているというのに、その刺激的な容姿にはついドキドキさせられてしまう。
「あのさあ、ビアンカ、下も着たほうが」
「今日は少し暑いから、このままでいいよ。用意してもらったパジャマ、ズボンが少し長かったし」
リュカの提案を簡単に退けるビアンカ。
(僕がよくないんだけどなあ)
リュカは、惜しげもなく露出された綺麗な脚を目の当たりにして、自分の欲望を抑えきれるかどうか少し不安にならざるを得なかった。
(どうせ、誘ってる気なんか全くないんだろうなあ、妊婦なのに……ビアンカらしいと言えばビアンカらしいけど)
心の中でこっそりと笑いながら、まわりをあらためて見渡してみる。
「こんなすごいの、アルカパの旅館にもなかったよ!
本当にふかふかしてて気持ちいい~」
一足先に入浴も終えていたビアンカは、パジャマのシャツとパンティだけというあられもない格好で、ふとんの心地よさを楽しんでいるようだった。
結婚してそれなりの月日がたっているというのに、その刺激的な容姿にはついドキドキさせられてしまう。
「あのさあ、ビアンカ、下も着たほうが」
「今日は少し暑いから、このままでいいよ。用意してもらったパジャマ、ズボンが少し長かったし」
リュカの提案を簡単に退けるビアンカ。
(僕がよくないんだけどなあ)
リュカは、惜しげもなく露出された綺麗な脚を目の当たりにして、自分の欲望を抑えきれるかどうか少し不安にならざるを得なかった。
(どうせ、誘ってる気なんか全くないんだろうなあ、妊婦なのに……ビアンカらしいと言えばビアンカらしいけど)
心の中でこっそりと笑いながら、まわりをあらためて見渡してみる。
「これからは僕たち、ここで寝るのか……」
今まで旅烏(たびがらす)のような生活を送ってきたリュカとしては、この急激な環境の変化に戸惑いを隠しきれない様子だ。
いくらグランバニアが田舎の山国とはいえ、国王夫妻の寝室ともなるとまさに豪華の一言に尽きる。五つもの部屋からなるその寝室には見るからに高そうなインテリアや調度品がズラリと並び、テラスの前には天蓋付きの大きなベッドが鎮座している。
机には王家の紋章が刻み込まれた純銀の燭台。壁には美事な意匠が施された大きな飾り鏡。そしてグランバニアを象徴する、“森の王者”たる鷲の彫像。
今まで旅烏(たびがらす)のような生活を送ってきたリュカとしては、この急激な環境の変化に戸惑いを隠しきれない様子だ。
いくらグランバニアが田舎の山国とはいえ、国王夫妻の寝室ともなるとまさに豪華の一言に尽きる。五つもの部屋からなるその寝室には見るからに高そうなインテリアや調度品がズラリと並び、テラスの前には天蓋付きの大きなベッドが鎮座している。
机には王家の紋章が刻み込まれた純銀の燭台。壁には美事な意匠が施された大きな飾り鏡。そしてグランバニアを象徴する、“森の王者”たる鷲の彫像。
(あれ?)
ふと、違和感を覚えた。
全てが初めて見るもののはずなのに。
ラインハットの城とは違う、うっすらと感じるこの懐かしさをこの部屋から感じるのは何故なのか。
ふと、違和感を覚えた。
全てが初めて見るもののはずなのに。
ラインハットの城とは違う、うっすらと感じるこの懐かしさをこの部屋から感じるのは何故なのか。
「…………」
刹那、すべてを理解した。
手近な椅子に腰を下ろしたリュカは、目を細めながら独り言のように呟いた。
「まさかこの光景を実際に見ることになるなんて」
「?」
突然の、脈絡のない言葉に、まじまじとリュカの顔をのぞき込むビアンカ。
刹那、すべてを理解した。
手近な椅子に腰を下ろしたリュカは、目を細めながら独り言のように呟いた。
「まさかこの光景を実際に見ることになるなんて」
「?」
突然の、脈絡のない言葉に、まじまじとリュカの顔をのぞき込むビアンカ。
「昔、夢を見たことがあるんだ」
「夢?」
「子供の頃、父さんと旅をしていたときに見たんだ。僕が生まれるときの夢でさ。
信じられない話だけど、夢で見た場所もほとんどここと同じような部屋だったんだ。
その時、父さんは王様みたいな格好をしていて、確か母さんとどんな名前を付けるか話し合っていたような気がするけど……その先はもう忘れちゃった。父さんに夢のことを話したら、寝惚けてるんだろ、って言われちゃったけど」
「そうだったの……」
(しかし、こんなすごいことがあるのかしら? 自分がまだ生まれていない時の出来事を夢に見るなんて)
ビアンカは、両親と彼を繋ぐ不思議な因縁を感じないわけにはいかなかった。
「きっと、パパスさんとお母さんが、リュカをここまで導いてくれたんだね」
「ああ……」
ベッドの上に掲げられたパパスとマーサの肖像画を静かに凝視しながら頷く夫を目の当たりにして、ビアンカは何を思ったか、ベッドから立ちあがってリュカの横に立つと、両手で包み込むようにゆっくりと彼の手をとって、自分のお腹にあててみせた。
「夢?」
「子供の頃、父さんと旅をしていたときに見たんだ。僕が生まれるときの夢でさ。
信じられない話だけど、夢で見た場所もほとんどここと同じような部屋だったんだ。
その時、父さんは王様みたいな格好をしていて、確か母さんとどんな名前を付けるか話し合っていたような気がするけど……その先はもう忘れちゃった。父さんに夢のことを話したら、寝惚けてるんだろ、って言われちゃったけど」
「そうだったの……」
(しかし、こんなすごいことがあるのかしら? 自分がまだ生まれていない時の出来事を夢に見るなんて)
ビアンカは、両親と彼を繋ぐ不思議な因縁を感じないわけにはいかなかった。
「きっと、パパスさんとお母さんが、リュカをここまで導いてくれたんだね」
「ああ……」
ベッドの上に掲げられたパパスとマーサの肖像画を静かに凝視しながら頷く夫を目の当たりにして、ビアンカは何を思ったか、ベッドから立ちあがってリュカの横に立つと、両手で包み込むようにゆっくりと彼の手をとって、自分のお腹にあててみせた。
「ねえリュカ、これからは、キミがお父さんになるんだよ」
「ビアンカ?」
「私ね、気のせいかもしれないけど、ときどき赤ちゃんの命の鼓動っていうのかなあ、それがね、聞こえるような気がするの。まだ全然お腹だって大きくなっていないのに。
でも、なんかこの子たちが早く『お父さんに会いたい』って言ってるみたいで」
そのように、微笑みを浮かべながら子供のことを優しく語るビアンカの横顔は、未だ母という存在を肌で知ることのないリュカにとって、この上なく神聖なものを見たように思えた。
「ビアンカ?」
「私ね、気のせいかもしれないけど、ときどき赤ちゃんの命の鼓動っていうのかなあ、それがね、聞こえるような気がするの。まだ全然お腹だって大きくなっていないのに。
でも、なんかこの子たちが早く『お父さんに会いたい』って言ってるみたいで」
そのように、微笑みを浮かべながら子供のことを優しく語るビアンカの横顔は、未だ母という存在を肌で知ることのないリュカにとって、この上なく神聖なものを見たように思えた。
あの表情を見るだけで
乾いた心の隅々に染み渡るように広がる
この潤いのある安心感は何だろう
乾いた心の隅々に染み渡るように広がる
この潤いのある安心感は何だろう
これが母親というものなのか
「僕の母さんもこうして……」
リュカの小さくか細い呟きは一瞬のうちに空気の中へと溶け込んでしまい、ビアンカの耳には届くことはなかった。
「だから子どものためにも私たち、しっかりしたお父さんお母さんにならないとね!」
まだ見ぬ子どもたちとの日々を思い浮かべて破顔したビアンカの明るい声に誘われるように、リュカも微笑みながら妻の額に口づけをした。
「あら」
ビアンカはリュカの首に手を回しながら、いたずらっぽい微笑みを浮かべる。
「キスは、こっちでしょ?」
そう言うと、夫の唇に唇を重ねた。
リュカの小さくか細い呟きは一瞬のうちに空気の中へと溶け込んでしまい、ビアンカの耳には届くことはなかった。
「だから子どものためにも私たち、しっかりしたお父さんお母さんにならないとね!」
まだ見ぬ子どもたちとの日々を思い浮かべて破顔したビアンカの明るい声に誘われるように、リュカも微笑みながら妻の額に口づけをした。
「あら」
ビアンカはリュカの首に手を回しながら、いたずらっぽい微笑みを浮かべる。
「キスは、こっちでしょ?」
そう言うと、夫の唇に唇を重ねた。
