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空の向こうのきみに

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medaka

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 あれからいくど雪が降り、花が咲き、木の梢に豊かな葉が揺れて、また散っていったことだろう。
 もの言えぬ身になってから、昔のことばかり思い出す。
 砂漠の夜、細い指で、リュカの背中の傷をたどっていた愛しい妻。その傷は、奴隷時代に、傷の上にさらに傷を重ねるように、鞭打たれた名残だった。
『リュカにこんなことをした奴を、あたしは絶対に許さないわ…!』
 ビアンカは、リュカのために怒って、泣いてくれた。
 砂漠の満天の星を、その青い瞳にうつしながら。
 もっともっと昔――ひっつめのおさげを元気に揺らしながら駆けていた幼い頃には、小さな一匹の猫のために、お化けの住む城へと無謀にも乗り込んだこともあった。
 つないだ手はブルブル震えていたくせに、口ではいっしょうけんめい強がりを言っていた。
『怖いの、リュカ? 大丈夫よ。何が出てきたって、あたしがぜったいに守ってあげるから』
 女の子に守られるなんて、男の名折れだ……と思いながらも、ビアンカのその言葉は頼もしかった。
それが強がりだとわかっていても、なお。

 そのときから、うすうす感じていたせいかもしれない。 
 ビアンカは、誰かのために戦える人だ。誰かのために、泣き、怒り、笑える人だ。
 人一倍正義感が強くて、でもほんのすこし泣き虫で。
 たくさんの明るさをくれる、そんなビアンカだからこそ、ともに人生を歩みたいと思った。
生涯の伴侶として、支え合いたいと思った。いつも二人、手をとりあって。 


 蒼穹の空を、鳥が渡る声が聞こえる。
 見上げることはできないが、それでも、想いだけは一心に空にこらす。

 鳥よ、いつかビアンカのもとに行くことがあれば、どうか伝えてほしい。
 きみのことだから、また僕のために泣いていてくれるかもしれないけれど、そんな必要はないんだよって。
 ビアンカを幸せにしたくて結婚したのに、泣かせてばかりじゃ、夫としての面目が立たないものね。
 また会える……ぼくは、信じてるから。
 いつか再会したときのことを考えて、微笑んでいてほしい。

 愛してる、ビアンカ。
 ぼくはきみに会える日まで、太陽の光に君の髪の色を、空の色に瞳の色をうつして、きみを想っている。
 寂しくないと言えばそれは嘘だけど、記憶の中のきみはいつも変わらずに鮮やかでいるよ。
 ビアンカ。
 願わくは、どうかきみのいる場所も、明るい光の下でありますように。
 優しい風が吹く場所でありますように。
 きみの大好きだった花が咲く場所でありますように。
 願いは、尽きないけれど。
 何よりも、大きな願い――きみの幸せを、ずっとずっとここで祈っている。

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