Prologue/tragedy attacked them. ◆ysja5Nyqn6


     0. Prologue/tragedy attacked them.


   ―――では、彼等の話をしよう。

 醜く現実を歪める、狂おしい悪夢の物語(はなし)を。


     §


 ―――光の全くない完全な暗闇。
 でありながら、自分や周囲の様子はしっかりと把握できる。
 そんなよく理解できない不思議な空間で、鹿目まどかは不意に意識を取り戻した。

「………え? あれ?」

 状況を理解できず、戸惑う様に周囲を見渡す。
 辺りには、自分と同じくらいか、それよりしたと思われる子供の姿があった。
 だが彼らのほとんどが、今の自分と同じように戸惑い辺りを見渡している。

「ここ、どこ?」

 まどかは思わずそう不安を溢すが、返ってくる答えはない。
 当然だろう。彼らの多くは、今の彼女と同じような不安を懐いているのだから。

 即ち――自分がここにいる理由が、まったくわからない。

 いつ、どこで、何をしていたかなど関係なく。
 彼らはいつの間にか、本当に唐突に、この場所にいたのだ。
 加えて前後の記憶も不確かで、その理由さえも見当が付かないのだから。
 中には素早く状況を理解し、情報を集めようとする者もいたが、彼らにしてもそれは同じことだった。
 そんな中で、ある一点を除いてごく普通の中学生に過ぎないまどかに、この状況を解明することなどできるはずもなかった。

  だが、このままじっとしていてもどうしようもないからと、近くの子供に声をかけようとした、その時だった。
 ガコン、という音とともに、この不思議な暗闇の一部が、スポットライトで照らされるように明るくなった。
 光の発生源は、どういう訳か視認できない。
 そして光で照らされた地点には、周りの子供と違って泰然とした態度をした、青い髪の少年がいた。
 ライトに照らされたことにより周囲の視線は一気に彼へと集まっているが、しかし少年には気に留めた様子もない。
 それどころかただ見下すような、あるいは憐れむような視線で自分たちの様子を眺めるだけだ。

「ようこそ諸君。無用な諍いは起きていないようで大変結構。
 俺は今回の催し物の進行役を務める、アンデルセンというものだ」
 青い髪の少年――アンデルセンがそう自己紹介をした。

 進行役……という事は、あの少年はこの状況について、何か知っているのだろうか。
 と、まどかがそんな風に思うと、周りも同じような事を思ったのか、先ほどまで続いていたざわめきが速やかに静まった。
 ……だがその静寂は、少年が次の言葉を放つまでの、ほんのわずかな間の事でしかなかった。

「今回貴様らに集まってもらったのは、単純明確に言ってしまえば、殺し合いをしてもらうためだ。
 当然、貴様らには反論があるだろうが、残念ながらこの場に集められた時点で拒否権はない。諦めろ」

 アンデルセンの告げた『殺し合い』という言葉に、暗闇は一瞬だけ一層静まり返り、
 次の瞬間、破裂するような喧騒に包まれた。
 意味が解らず首を傾げる者、理解できるが故に怯える者、憤り声を荒げる者など、子供たちの様相は様々だ。
 中には興味がなさそうにしている者や、愉快気に笑みを浮かべる者さえいる。
 まどかもその例に漏れず、その心中は、意味が理解できるが故の恐怖と、それを行う理由に対する疑問に溢れかえった。
 だがその一切を無視して、アンデルセンは淡々と話を続けていく。


「勝利条件は一つ。とにかく最後まで生き残る事だ。そのための手段や方法などは一切問わん。
 無論。報酬もなしに殺し合えとは言わん。ただ働きではやる気も起きんだろうしな。
 そして報酬の内容は、“神”に等しい力を得られる、とだけ言っておこう。詳しい内容は自分で確かめろ」

 アンデルセンがそう言い切ると同時に、唐突に黄色いリボンが出現し少年を拘束する。
 同時に彼らの中から黄色い髪の少女が飛び出し、彼へと向けて長銃を突き付けた。

「マミさん!?」
 見覚えのあるその姿を見て、まどかは思わずその名前を呼んだ。
 巴マミ。自分の先輩である魔法少女。彼女も自分と同じ様に、この場所に集められていたのか。

「ふざけないでくれる? “神”に等しい力を得られるだなんて、そんな言葉で私たちが、貴方の言い成りになるとでも思っているの?」

 マミは怒気を露わにしながらも、アンデルセンへとそう尋ねる。
 決まった。とまどかは思った。
 マミのリボンによる拘束魔法は、一度捕まれば簡単には抜け出せない。
 対して少年は、武器をも何も持っておらず、筋力的にも優れているようには見えない。
 何かしらの魔法でも使わない限り、マミの拘束を破ることは出来ないだろう。
 そして魔法を使おうとしたところで、その魔力の波動を察知すれば、あの状況からなら即座に封じ込めることも可能だ。
 つまりアンデルセンは、自らが知る事を、否応なしに喋らざるを得ないのだ。………そのはずなのに。
 拘束され身動きを取れないはずのアンデルセンは、しかし、自身に突き付けられた銃口など気にも留めず、少女を小馬鹿にするように笑みを浮かべた。

「まさか! そこまで人間の心が単純なら、俺は物書きになどなっていない。
 加えてこの殺し合いの主催者どもは、貴様のような正義感を懐いた馬鹿も含めた、人間の情動の観察を目的の一つにしているのだ!
 こんな馬鹿げた殺し合いに反抗する者がいるのは当然という事だ。いやむしろ、どのような形であれ反抗しない者の方がおかしい。
 ……そして愚か者が。忘れたか? 俺は進行役。つまりはこの殺し合いを運営する者の一人だという事を」

 アンデルセンのその言葉に、マミが何かに気付いたように目を見開き、
 次の瞬間、パンと音を立ててその頭部が弾け飛んだ。
 首から上を失った少女の体は、その断面から噴水のように血を噴き出した後、バタリと、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「ぇ―――? マミ……さん?」
 その光景が信じられず、まどかは呆然とその名を呟いた。
 一体、何が起こったのか。
 アンデルセンは何もしていないというのに、どうして彼女の頭が破裂したのか。
 その一部始終を視認していながら、まどかには今、何が起きたのかを全く理解することができなかった。

「まったく……行動するならきちんと状況を考えてからにしろ、馬鹿者め。感情だけで行動するから自滅する羽目になるのだ。
 まさか自分に掛かったままの首輪にも気付かんとはな。……いや、気付いていたのか? だとすれば、大方変身すれば問題ないとでも思っていたのだろうな。
 だがとんだ見込み違いだ。貴様らをこの場所に連れ込んだ時点で、その能力を把握している、つまり対処をしていることぐらい想像できるだろうに」
 ほこりを払う様に服を叩きながら、アンデルセンはそうつまらなさげに口にする。
 まどかはその言葉の中に含まれた『首輪』という単語に反応して、恐る恐る自分の首を探る。
 するとそこには、身に着けた覚えなど全くない、『首輪』の固い感触のが――――

「あ、ああ………。
 イヤァァアアア――――ッッ!!」

 ようやく追いついた理解と、いつかどこかで見たような少女の死体。
 そして自分の命を握る首輪に、まどかは堪らず悲鳴を上げた。

 その悲鳴で、凍り付いていた思考がようやく動き出す。
 あまりにもあっけない少女の死に、まどかが崩れ落ちるように地面へとへたり込む。
 それを見た金髪の少年-―レックスは弾かれたように駆け出し、周りの人を掻き分けて少女の死体へと近寄った。

「ッ―――! ザオリク!」
 そうして少女の死体へと向けて、上級の蘇生呪文を唱えた。
「そんな……どうして!?」
 ……だが何も起こらなかった。死体は死体のまま、少女は生き返らない。
 それでも繰り返し呪紋を唱えるが、呪紋の効力は発揮されず、虚しく声が響くだけだ。


「残念だが、この殺し合いにおいては、蘇生呪文の類は一切効力が発揮されない。
 無駄な魔力の消耗は止めておけ、少年」
「っ、おまえ――!」
「ダメ、お兄ちゃん!」
 レックスはその言葉に激高し、思わずアンデルセンへと飛びかかろうとする。
 だがそれを、似たような顔立ちをした、青い髪の少女が押し止めた。双子の妹のタバサだ。
 ………だが、何かおかしい。とレックスは思った。
 自分の髪は母と同じ金色。そして双子であるタバサも同様に金髪だったはずなのに、なぜか彼女は青空のような髪色をしている。
 一体どういう事だろう、と首を傾げるが、その疑問は続けて放たれたアンデルセンの言葉に隅へと追いやられた。

「段取りが狂ったが、まあいい。先に禁止事項について説明する。
 この禁止事項を破った場合、先ほどの少女のように、貴様らの首につけられた首輪が爆発する仕組みになっている。
 まあ中には一回殺された程度では死なん奴もいるが、しかし、そんな連中であっても例外なく死に至る仕掛けがあることを付け加えておく。
 これを信じるか信じないかは貴様ら次第だ。」

 首やの爆発、と聞いて再び頭に血が上りそうになるが、背中に感じる妹の気配に、どうにか冷静さを取り戻す。
 今の状況でアンデルセンに飛びかかったところで、先ほどの少女の二の舞だ。
 タバサの事も守らなければいけない以上、そんな真似はできない。

「この殺し合いにおいて禁止されている事項は、主に以下の四つだ。」
 一つ。今のように運営役に危害を加えようとした場合。
 二つ。首輪を無理矢理に除去しようとした場合。
 三つ。殺し合いの舞台となる島の外など、進入が禁止されているエリアに入った場合。
 そして四つ。死者が一人も出ないまま放送を迎えた場合だが……ま、これはまずないだろう」

 それはつまり、この殺し合いに乗る人物は間違いなくいる、とアンデルセンが考えているという事だ。
 そんな事はない、とレックスは否定したかったが、どうしても出来なかった。

 アンデルセンと戦うにはまず首輪を外すしかない。しかし無理に外そうとすれば首輪は爆発する。
 たとえ逃げ出そうとしても、あるいは殺し合いを否定しても、首輪がある限り運営役には逆らえず、結果、死にたくなければ殺し合うしかない。
 そんなどうしようもない状況に、レックスは湧き上がる悔しさから歯噛みした。
 勇者と呼ばれていながら、どうして自分はこんなにも無力なんだ、と。

「次は放送について説明する。
 この殺し合いは深夜零時から開始され、六時間ごとに殺し合いの進展状況が放送される。
 その際に放送されるのは、これまでの死者と、新たに進入禁止となるエリア、その他の追加事項だ。
 そしてもし進入禁止エリアに入った場合、首輪から十秒ほど警告音が鳴り響いた後に首輪が爆発する。忘れるな」


 そんなレックスの様子を眺めながら、アンデルセンは説明を続ける。
 この殺し合いの主催者が何を考えているのか、アンデルセンは全く知らない。
 いやむしろ、あの“人外ども”が何を考えているかなど知りたくもない。興味すら湧かない。と言い換えてもいいだろう。
 そうでありながらルール説明を続けるのは、これがこの殺し合いにおける彼の役割であり、彼の在り方だからだ。

「最後に、この殺し合いで支給されるアイテムについてだ。
 この殺し合いの開始と同時に、支給品の入った道具袋が支給される。
 道具袋には基本的な道具に加え、貴様らの主装備を含めた最大三つのアイテムが入っている。
 なお、基本支給品の内容物は、地図とコンパスに時計。筆記用具とランタン。二日分の水と食料。一部を除く参加者たちの名簿となっている。
 そして不明支給品にはアタリとハズレの二種類がある。せいぜい自分の運に期待し、上手く活用することだな」

 たとえそれが不満しかない役割であろうと、任された以上は全うする。
 たとえ語ることで舌を抜かれ首を絶たれようと、尋ねられた以上は最後まで語る。
 たとえ書きたくない物語であったとしても、一度でも自らペンを取った以上、最後まで書き切る。
 そんな己の在り方が故に、アンデルセンはこの殺し合いの進行役を務めている。
 何故なら“人間観察”という点において、彼に勝るものはそうはいないからだ。

「以上でこの殺し合いのルール説明を終える。他にも細々としたものはあるが、詳しくは基本支給品の中にあるルールブックを読め。
 貴様らのようなガキでも読める程度の文字で記載されている親切設計だ。ありがたく思え。
 ただし、文字自体を読めん奴に関しては、知らん。他の参加者にでも聞け」

 そうして、アンデルセンによるこの殺し合いのルール説明は終わった。
 同時に、この空間の空気が張り詰めていく。
 これから殺し合いが始まるのだという実感に、緊張、不安、悲嘆、興奮など、様々な感情が入り混じり始めているのだ。
 それらを見て取ったアンデルセンは、一つ頷くと、いつの間にか携えられていた本を掲げた。

「お集まりの紳士諸賢、淑女の皆様。
 これよりアンデルセンが語りますは世界から外れた物語。
 見目幼き子供たちが、己が未来を勝ち取るために、無垢なその手を鮮血に濡らす殺し合い。
 その惨劇の名はバトルロワイアル。
 悲劇を食い止めんと立ち上がりしは、純真なる魂を持つ少年少女。
 されど悲劇を起こすのもまた、純真なる魂を持つ少年少女
 もはや善悪の区別に意味はなく、その手を取るか、刃を取るか、如何するかは彼ら次第。
 この物語がいかなる終焉を迎えるか、どうぞ皆様、最後まで目をお話なきように――!」

 アンデルセンがそう宣言すると同時に、暗闇の空間に光が満ちた。
 そしてお互いの姿も見えなくなると同時に、彼らその舞台へと転移した。
 幼い子供たちによる、血で血を洗う殺し合いが、ついに始まったのだ――――。


【ロリショタバトルロワイアル2014――開幕】

[全体の備考]
※勝利条件は、『とにかく最後まで生き残る事』です。

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最終更新:2014年03月08日 15:01