噛み合わない歯車◆LS20fpS0gY



「無理言うわね、あの豚」

 クロエ・フォン・アインツベルンが、放送を聞いて呟いた第一声がそれであった。
 無理とは言うまでもなく、ポーキーが提示した優勝内容の事を指す。

「二十四人で手を繋げとか、狙って下さいって言ってるも同然じゃないの」

 数を集めるとするということは、それだけ人目を集めるということに繋がる……というより、二十四人なんてよっぽど目立つ真似をしないと集められない。
 それは同時に危険人物――十二人を殺す方で優勝を狙う人間の気も引くだろう。成し遂げられるとは思えない。むしろそういう効果を狙っているのかもしれない、とクロエは思った。相当なお人好し――例えばイリヤとか――が真面目にそれを狙ったところで足を引っ張られて死ぬのは目に見えている。実はかなり計算した上で用意した釣り餌なのかもしれない。

(十二人殺しのほうはまだ可能性がなくもないけど……私達、三人いるし)

 こちらは口に出さず、内心に留める。近くに同行者がいることを考えれば、言うべきではないだろう。
 後味の悪さを無視してこちらでの優勝を狙うとしても……願いが一つと言った以上、「二人を連れて帰りたい」が通じるかは微妙なラインだ。その場合、一人が救いの手から転げ落ちる事になる。
 かと言って、この六時間にイリヤか美遊のうちどちらかと出会って二人で同時に十二人殺しに成功、なんてできるはずがないに決まっている。そもそも、イリヤは十二人殺しをしようなんて案に絶対に乗らない。
 クロエが肩を竦めながら後ろを振り向くと、ジークがスマートフォンをじっと見つめていた。こちらはこちらで、あの放送に思うところがあったのだ。

「一つ聞きたいのだが、セリムという名前は放送で呼ばれなかったという事でいいだろうか」
「そう言えば大統領の息子、死んだ奴にはいなかったわね」
「いや、そちらではなく繰り上げ当選の方だ」

 ジークの言葉にクロエはしばらく首を傾げていたが……すぐに得心したように頷いた。

「なるほど、やっぱ嘘の素性を言ってたってわけね。なんでそんな嘘を吐いたのかは知らないけど。
 それよりあなた、自称セリムを知ってるの?」

 クロエの足が僅かにだが後じさる。あそこでセリムが死んでいる以上セリムの名を知っている人物は極めて少ないはずなのだ。それこそ、他にセリムに会ったのは襲撃者くらいだろう。
 そんなクロエの様子が理解できず、ジークはみまつやを指差して説明する。幸い、クロエの眼ならはっきりと見える距離だ。

「セリムなら、向こうで今も俺を待っているが」
「そういうこと……あの子、私が見た時には胸を撃ち抜かれてたのよね」
「説明してもらってもいいだろうか?」

 ジークの言葉に、クロエはしんのすけと出会った時の事を話していく。
 しんのすけが襲われていたこと、それを助けたこと、近くに死体があってしんのすけ曰く大統領の息子であったこと。
 それはセリムがジークに語った内容ともだいたいは合致する。セリムが死んでいなければ、だが。

「ま、胸に穴が開いても生きてる奴はいるでしょうけど。一部の魔術師とか死徒とか。
 でも――」
「少なくとも、ただの人間ではない。
 偽名のほうについては、このような場で素性を偽るのはやむを得ない事だが」
「だけど、あなたが会ったのはそういう嘘を吐く程度に頭を使う奴ってことじゃない」


 その指摘は、ジークも認めるしかない事実であった。
 残念ながらセリムは、パニックに陥っていたようでその実、かなり冷静な思考をしていた事になる。クロエが実は襲撃者本人で嘘を吐いている、という可能性も考えなかったわけでもないが、こう仮定したところでセリムが偽名を使っていた事実は覆るわけでもない。
 この一点だけで危険人物だと排除はしないが、対応は考えるべきだとジークは自戒した。今後の行動方針を考えても、だ。

「……そうだな。二十四人の手を繋ぐ際には、全員が信頼しあっている必要がある。
 偽名を使われるような状態では無理だろう」
「ちょっと、まさか本気でやるつもり?」
「いや、もちろん無理にやるつもりはない。方法の一つとして考えておくというだけだ。
 成功した所でポーキーが素直に帰すのかという問題がある。
 何より、仮にポーキーが応じたとしても場合によっては残り二十三人を見捨てる事になる」
「この状況で二十四人も帰れたら、上出来じゃない?」

 悲観的なクロエの言葉に、ジークは頷く事で肯定を返した。もっとも、しばらく黙り込んでからだったが。
 六時間で死んだ人数は十三人。ざっと20%が死んだ計算になる。このままのペースで行けば、次は十人が死ぬ。
 単純に考えれば一日も待たずに残りの参加者は三十人を割り込むだろう。禁止エリアにより舞台が狭くなっていく事を考えると、殺し合いの速度が減速する事には期待できない。

「でも、言われてみればそういう問題もあるわね。
 私の知り合いが二十四人の中にいない状態で手を繋いで終わりにしよう、なんて事になったら困る。
 やっぱり二十四人が手を繋ぐのはまず無理でしょ。成功しても争いが起こるもの」
「やはり、名簿にいるイリヤスフィールというのは君の親族か」
「ええ、まぁ……妹だけど」
「念のため聞くが。
 君は妹のために殺して回るという選択はしていない、という事でいいのだろうか」

 む、とクロエは不機嫌そうな様子の声を漏らした。
 とはいえ、ジークの確認は当然ではある。クロエが妹のために参加者を殺して回るというのは、クロエがセリムを襲った者であるというよりは現実味のある仮定だ。

「もちろん、見知らぬ誰かと知り合いだったら迷わず知り合いを取るけど……
 無駄に殺し回るつもりはないわ。私の考え方、気に食わない?」
「いや、魔術師としてはむしろ人の良いほうだろう。
 進んで殺しに行くつもりでないのならば、不満はない」
「魔術師ね……アインツベルンは、さっき話し合った通りの状況だけどね」
「……すまなかった」
「いいわよ、もうあの家のことは気にしてないから」

 軽い皮肉を真に受けて頭を下げるジークに、クロエはひらひらと手を振る。
 放送が開始する直前、二人は賢者の石を使った治療の時間のついでにそれぞれが知っているアインツベルンの状況を話していた。一方で、互いの切り札――ジークフリードの力であり、アーチャーの力であり、即ち自らの知る聖杯戦争――はまだ秘めていた。

 ジークは生まれつき聖杯戦争の知識と自らの存在についてを刷り込まれているが、生まれつきの知識は聖杯戦争にせよ自らの生まれにせよ基礎的なものに留まる。彼の世界におけるアインツベルンの現況を知るホムンクルスは、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの罵倒と治療を受け、或いはそれに付き合った者達くらいだろう。
 クロエは本来のイリヤスフィール・フォン・『アインツベルン』としてアインツベルンの魔術師たる知識を持ち合わせているが、彼女の人生と聖杯戦争はゼロにすら辿り着かず、十年の間に何があったのかを知らない。彼女が知るアインツベルンの現況は、アイリスフィールが語った「アインツベルンは既に無い」という事柄のみである。

 そんな状態でジークがアインツベルンという名に引っかかるものを覚え、そちらに話を持っていけばどうなるか。


「俺達がアインツベルンの技術で作られた事は知っていた。
 もっとも、当のアインツベルンがもはやないとは知らなかったが」
「私だって驚きよ。アインツベルンからホムンクルスの技術が流出しちゃってるなんて。
 潰れちゃった以上しょうがないんだろうけど、世の中は無常よねぇ」

 こうなった。
 二人がそれぞれの聖杯戦争――冬木の大聖杯の在り処という違いを知れば、違和感に気付いただろう。ジークは『自分の世界の』トゥリファスの聖杯は冬木の聖杯が奪われたものである事を知っており、クロエは『自分の世界の』冬木の聖杯は今も冬木の地下に眠っていることを知っている。だが、聖杯戦争の詳細はそれぞれの奥底に直結する事柄で、他人に軽々と話すものではなかった。
 それでもジークは生真面目な性格から「聖杯戦争の技術が流出していて各地で亜種聖杯戦争が起こっており、自分は魔力供給用に造られたが偶然が続きマスターになった」ということを令呪を見せながら教えたが、クロエは見知らぬ他人、もしくはホムンクルスに自分の深層に繋がる事柄を喋るほどお人好しではなく、アインツベルンの娘だという事のみを伝えた。しばらくして放送が始まったこともあり、二人の自己紹介は歯車が噛み合っていない事にすら気付かず終わったのだった。

「さて、今後はどうするつもり?」
「俺としては、やはりセリムの所へ戻りたいと思う」
「嘘吐いてたのに?」

 面倒くさそうに言うクロエを、ジークは全く視線を逸らさずに頷いてみせる。

「吐いていたからこそ行く必要がある。彼がどんな人物なのか確かめなくてはならない。
 単なる自衛のためなら許すべきだし、危険な相手なら迅速な対応をすべきだ。
 証言の必要性や戦闘になる可能性を考えると、できれば手伝ってもらいたい」
「私だって、約束があるんだけどねぇ」
「そうか。ならば仕方がない」
「何も断るわけじゃないわよ。条件次第ってコト。
 魔術の基本は等価交換、って言うでしょう」
「何をすればいい?」

 その返答に、クロエは意地悪な笑みを浮かべる。それはまさしく、獲物を見つけた表情であった。
 ちなみに、この場合における獲物とは弄りがいのある相手と同義である。

「あなた、元は魔力供給用のホムンクルスなんでしょ?」
「その通りだが――待て。なぜ肩を掴む」
「大したことじゃないわよ。
 アインツベルンの魔術師として、あなたに本来の目的を果たしてもらおうと思って♪」

 近づいてきたクロエに拘束され狼狽するジークの顔に、クロエの顔が少しずつ近づいてくる。
 この手の経験も知識もない彼は、当然ながらこれから行われるであろう行為に気付かず顔を赤らめることもない。狼狽も、安全そうだと思った相手に拘束されたからに過ぎない。
 だがしかし、なぜかジークの脳裏にジャンヌとライダーが怒っている様子が浮かんだ瞬間――

「!」

 いきなり、クロエが横を向いた。

「クロエ、すまないがさっきから何を……」
「………………」

 肩を掴まれたまま問いかけるジークだが、クロエは向きを変えず穴が空くほど一点を見つめている。
 その顔は最初は何かを探しているような様子だったが、しばらくしてそれは疑問の表情に変わり、そして最終的には眉を顰めた。

「……おっかしいなぁ。
 ジーク、しばらくここで待ってなさい」

 そう言うと半ば突き飛ばすような勢いでクロエはジークを開放し、その場を凄まじい速さで離れていく。
 後には、混乱したままのジークが残された。




『……美遊様』
「クロだよね、あれ」

 放送前。
 遮蔽物に身を潜めて、美遊は西にいる二人の様子を伺っていた。その姿は転身を済ませ、魔力を肉体能力……特に視力の強化に回している。
 高町なのは――実際には別人だが――から離れて休息を取るべく南東へ向かっていった美遊だったが、叫び声らしきものを聞いてこちらへ向かってくれば予想外の相手を見つけてしまった。
 考えてみれば、美遊はイリヤのことばかりでほとんどクロエの事を考えていなかった。彼女ならどう動くのだろうかと考えてみたが、全くわからない。

(イリヤは絶対にこんな殺し合いに乗らない……
 でも、クロは?)

 少なくとも、クロエはイリヤほど殺人に抵抗感はないだろうとは思った。しかし、ならどうするのか? 
 自分の考えを聞いたらどう思うのだろうか? そもそも、殺し合いに乗っていないのだろうか? 乗るとしたらクロエ自身のためか、それともイリヤや自分のためなのだろうか?
 全く予想がつかず、悶々とする美遊の元に放送が響いてくる。煩悶の答えは出なかったが、行動の指針は立てることができた。

「サファイア……ここから離れよう」

 クロエがこちらを向いていないのを確認した上で、美遊は遮蔽物――東京タワーの影から姿を現した。
 ポーキーが人を集めることによる脱出案を提示したのは、まずい。もしクロエと同行する事になって、かつ彼女がこの周辺で人集めをする気なのならば、アベル達とばったり鉢合わせという事も有り得る(実際にはアベルに関しては杞憂なのだが)。
 永沢がまだ生きているのも不安だったし、なぜか新規の参加者に高町なのはの名前が呼ばれなかったのも分からない。一旦、落ち着いて考えなおす必要がある。

「クロはこっちに気付いてない、はずだよね」
『そのはずです。でも、確かに』
「……うん」

 そして何より、ここに隠れている間にどこからか視線を感じたような気がした。
 ここを離れて南へ向かおう、と美遊は警戒しながら歩いていく。彼女の指針ならば真っ先に排除すべきであろうジョーカーが周囲を……美遊を見下ろしているのだが、クロエに注意していた美遊は幸か不幸か気付かず、消耗していたクラウスはそのまま美遊を見逃して監視に徹した。
 建物の合間を縫うように、美遊は歩いて行く。鎮守府へ向かおうかとも思ったが、未だに東京タワーが気に掛かる。

「あそこに誰かいると思う?」
『分かりません。ですが、あそこなら見下ろすのは簡単かと』

 今更ながら東京タワーを見上げてみるものの、この距離ではもう何か見えるわけでもない。クラウスは見つからないよう注意を払っているのだから尚更である。
 美遊はしばらく考えたが、東京タワーから目が届くであろう鎮守府へは行かずこのまま南へと向かうことにした。磯野家かアメストリス軍中央司令部で休もうと考えてのことだ。

 結果的に、その選択は失敗だった。

 クラウスが美遊を見逃したのは、ここで派手な戦いを起こせばクロエが気付くだろうという理由もあった。仮に不意討ちで美遊を殺せたとしても、今の状態で美遊とクロエの二人と連戦になって勝つのは困難だ。
 クロエはアーチャーのスキルを大幅に劣化した状況ではあるがその身に宿している。そして、アーチャーは千里眼のスキルを持つ。クラウスは事前にそういった情報を把握しているし、美遊も当然ながら知っている。
 単純に言えば、クロエは素の状態でもかなり視力がよいということだ。

 クロエに注意を向けながら(もっとも、もはや強化した状態でも遠目にしか見えないが)美遊は歩いていたが、ふと小さく見える人影が重なり始めているのに気付いた。
 美遊の目から見たクロエはもう体形すらはっきりと分からず、それこそ何か動いていることくらいしか分からない。何をやっているんだろう、と美遊は考えこんで……思い当たった。思い当たってしまった。
 実際はまだ寸止めなのだが、距離の関係からすでに唇を合わせているように見えた美遊は思わず硬直してそのまま動きを止めてしまう。遮蔽物のない中、棒立ちのままで。


「!」

 クロエがこちらを振り向いたような気がして、慌てて美遊は身を隠した。しばらくして、バレていなかったかどうか確認しようとすれば……クロエが走ってくるような様子が見える!
 反射的にまた隠れた美遊は、どうするべきか悩んだ。大人しくクロエに会うべきか、会わないべきか……しかし、血塗れのクラレントを見てその悩みはあっさり霧散する。会う気にはとてもなれない。
 クラレントを隠すようにランドセルに放り込むと、身を隠しながら逃げ出した。とはいえ、空は跳べない。ただでさえ平原を走るのに、宙に浮こうものなら即座に存在が露見する。
 とは言え、身を隠しながら美遊と飛び跳ねながら追ってくるクロエでは、移動力の差は歴然だ。しばらく走り続けた後に届いた音が、それをはっきりと実証した。、

「――待って、ミユ! なんで逃げるのよ!?」
「!」

 美遊の耳ではっきり判別できるほどの声。振り向けば、視界に映るクロエの姿は顔が判別できる程度に大きくなっていた。
 もう完全に気付かれている。このまま行けば、二人が出会うのは確実。

「やらせないぞ、ジュラル星人!」
「……え?」

 の、はずだった。
 突如、横から割り込んできた少年――チャージマン研が破壊光線を放つ。慌てて伏せるクロエに、容赦なく研は照準を合わせる。

「今度はそんな姿に化けたんだな、ジュラル星人!」
『!?』
「じゅ、じゅらる星人?」

 研の台詞を聞いても、美遊もサファイアもさっぱり事態がわからない。無理もない事だろう。
 泉研の思考回路を説明すると、こうなる。

 女の子が黒い女の子に追われている
 ↓
 襲われている
 ↓
 ジュラル星人の仕業に違いない!

 キチガイじみた三段論法だった。

「や、やめて!」
「え?」

 慌てて美遊が制止の声を上げると、さすがに研は振り向いた。振り向いたが、撃つのはやめない。
 クロエは後退しつつ、なんとか接近するタイミングを見定めている。

「あの子は、私の知り合いで……」
「…………そうか、わかったぞ!
 きっとジュラル星人が君の知り合いに化けているに違いない!」
「は、はあぁ!?」

 あっさり視線をクロエに戻す研。その瞳はキラキラ輝き、美遊を助けようという意志に燃えた善意100%の目つきである。だから始末に負えないのだが。
 舌打ちしながらクロエは干将(莫耶まで投影する余裕も必要もない)を放り投げ、『壊れた幻想』で爆破した。派手に爆炎が上がり、研の目を眩ませる。
 魔力が尽きかけていることもあり、クロエは退いていった。研はその様子を確認すると、美遊の手を掴んで、言った。

「ジュラル星人は逃げ出したけど、このままここにいたら危ない!」
「あの……ジュラル星人って……」
「君をどこか安全な所に隠すから付いて来るんだ!」

 まったく理解できていない美遊をよそに、研は半ば引っ張るような形で美遊を連れて行く。反射的に振り払おうとしたものの、その力はかなり強い。
 完全に混乱している事もあり、美遊はそのまま攫われていくしか無かった。
 研はのび太の死について深く反省していた。のび太達を放置しジュラル星人の手下を深追いしてしまったのは紛れも無いミスだったからだ。彼の中では。
 のび太のような犠牲者をこれ以上増やすわけにはいかない。そう思った研は以前の経験を活かし、まず襲われている相手の安全を確保した上で動くことにしたのだ。

 そもそもこの会場で彼が敵と見なした相手に、ジュラル星人は一人もいないという事に気付くこともなく。





「戻ってきたか。
 クロエ、いったい何がブッ!?」

 律儀にその場でクールの手当(賢者の石を使わないのではジークにできる事はあまりないが)を行いながら待っていたジークは、いきなりクロエに押し倒された。
 そのまま唇に、何か柔らかいものが触れる感覚。さらさらとした銀髪が顔をくすぐり、胴体には小さな膨らみが接触する。足を足で押さえつけられているからか、股間にはクロエのしなやかな太腿が擦れる感覚が伝わってきた。
 どういうつもりか聞こうにも、口が塞がれていては聞きようがない。しかも、クロエは押さえつけたまま離れたようとはしない。結局なすがままでいるしかなく、解放されたのは結構な時間が経ってからのことだった。
 ジークにはよく分からなかったが、とりあえずなぜかジャンヌとライダーがぶっ倒れる様子が脳裏に浮かんだ。ちなみに彼は気に留めていないが、言うまでもなくファーストキスである。

「はいごちそうさま。予想以上に時間が掛かったわね……
 普通の人間よりは相性いいと思ったんだけど。やたら魔力消費するのと、何か関係が有るのかしら?」
「その前に説明しろ。今のはなんだ」
「ん、先に言ったでしょ。魔力補給よほきゅー。
 そっちの魔力が回復したらまたよろしく♪」

 微妙にきつい様子で問いかけるジークから目を逸らすどころかむしろ後ろを向いて、クロエは適当な調子で答えを返す。
 その目は、さっき行ってきた方向を見ているようだった。

「はぁ……今から追っても無理か。それに、追いついてもあのキチガイがいるし」

 彼女としてはできれば魔力をさっさと回復して美遊のところへ戻りたかったのだ。
 しかし、ただでさえ往復に結構な距離があるのに予想以上の時間が掛かってしまった。この状況でまだ追いかけっこをして、事態が改善するとは思えなかった。

「質問したい事が更に増えているのは気のせいだろうか」
「何してきたかってこと?」

 ようやく振り返ったクロエへ向けて、ジークは真顔で首肯する。
 続いてクロエの口から漏れたのは、ため息。

「知り合いを見つけたんだけどなぜか逃げられて、追っかけたら変な奴に変な勘違いされて攻撃されただけよ。
 ……ジュラル星人って知ってる?」
「いや、聞き覚えはない。なんだそれは」
「私が聞きたいわ」

 呆れたように吐き捨てるクロエだが、聞かされているほうはもっとわからない。言っているほうがわからないのだから当然だが。
 それでもジュラル星人とは何か悩むジークの様子を見て、クロエの方が話題を変えた。

「まあ、考えてもしょうがないわ。
 それより、犬の方はもう動かしても大丈夫そうなんでしょ? 自称セリムの方へ向かいましょう」
「ついて来てもらえる、という事でいいのか?」
「等価交換って言ったじゃない。それに、そっちの用事が終わったら慧心学園まで来てほしいし。
 さっきの知り合いを探しに行きたいから、こっちの連れのお守りをお願いしたいのよね」
「そういうことならば問題ない。保護や護衛ならこちらの指針にも沿う。
 知り合いの名前は?」
「ミユ。美遊・エーデルフェルト

 その言葉と共に、クロエが意識がないクールを軽々と片手で抱え上げて歩き出した。
 もともとアーチャーの筋力は低いのにそれが劣化しているため、クロエの筋力はサーヴァントランクにすれば最下層だ。しかし、それでも一般人とは比較にならない力がある。少なくとも今のジークと腕相撲すればあっさり勝てるだろう。
 じゃあ行きましょう、と勝手に歩を進めていくのは自分勝手にも見える行動であったが、ジークはこれといって何か思うこともなく黙ってついてくる。
 おかげで、クロエは顔を見せずに考え事に集中することができた。
490 名前: ◆LS20fpS0gY [sage] 投稿日: 2014/06/03(火) 21:46:47 UhC/2apU0

(……なんで逃げたんでしょうね、ミユ)

 ジークに見せたような小悪魔じみた笑顔とは程遠い、真剣な表情で考える。
 最初に浮かぶのは認識ミスの可能性。暗示など、その手の正しく認識できなくなる魔術は腐るほどある。
 だが、その可能性は真っ先に捨てた。クロエからも美遊が研を止めようとしていた様子は見えていた。少なくとも、美遊はクロエから逃げていただけで攻撃はしたくなかったということになる。
 つまり、分かった上で会いたくないということ。それはまるで、何か重大な隠し事でもしているようで。

(考えたくはないけど)

 もしイリヤや美遊と知らない人間達のどちらを取ると言われれば、クロエは前者を取る自信がある。例え、後者の数が六十億だろうと。
 理由は単純だ。衛宮切嗣とアイリスフィールがそういう決断をした結果、今のイリヤスフィールがいるのだから。
 だが、それはあくまで助けずに見捨てるという話で……二人のために自らの手で殺して回るような覚悟までは、クロエには無い。
 だから今のような宙ぶらりんで場当たりな方針になり、今後を二人と相談しようと考えていた。
 しかし。

(仮に、ミユが人を殺しちゃってるのなら――私は、どうすればいいのかしら……)

 僅かに、俯く。
 しんのすけにヒーローみたいと言われたことが、なぜか今思い出された。


 一度目は互いに気付かず。
 二度目は気付きながら辿り着かず。

 三度目を求めるクロエだが、それは果たして彼女の迷いによい結果を齎すのだろうか?


【C-3 市街地/一日目 朝】
【ジーク@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康、右手甲に傷、魔力消耗(小)
[装備]:アストルフォの剣@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式、小さなメダル×n@ドラゴンクエストⅤ、
     けんじゃのいし@ドラゴンクエストⅤ(一回使用済み)、雑貨多数(食料多め)
[思考・行動]
基本方針:参加者を保護し、殺し合いを打破する。
1:セリムに名前の件について確認し、どんな人物かを探る。
2:その後、クロエに付き合って慧心学園へ向かう。
3:黒のアサシンは早急に排除する。
4:魔術の秘匿についてどこまで徹底するかは、もう少し情報を集めてから考える。
5:ジャンヌとライダーに悪いことをした気がするのは気のせいだろうか?
※原作第三巻終了時点からの参戦です。
※『竜告令呪――デッドカウント・シェイプシフター――』残り三画。
※暗示の魔術は制限されています。

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消耗(小)
[装備]:少年探偵団バッジ@名探偵コナン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
     少年探偵団バッジ@名探偵コナン×2、お菓子(たくさん)、飲料水(たくさん)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:ジークの用事を済ませた後、慧心学園付近まで移動
2:その後しんのすけ、ゆまをジークに任せて美遊を探す
3:魔力タンクには当分ジークを使いましょ♪
4:ゆまちゃんから魔力を供給して貰うのは、大変な状況の時だけよね、うん。
※参戦時期は少なくともイリヤとの和解以降。
※制限により魔力補給は通常よりも時間が掛かります。 時間が掛かるだけで補給することそのものは問題ありません。







 アメストリス軍中央司令部まで来た所で、ようやく美遊は解放された。
 途端にサファイアを向けられながら「説明して下さい」と問い詰められ、研は身構える。
 とは言えジュラル星人に襲われていたのだからジュラル星人ではないだろう、と考えたらしく、困ったように説明を開始した。無論、スマホに映るか確認してから、だが。
 それはただでさえ精神的に参っていた美遊の頭を、更に痛くするものであった。

 曰く、世界にはジュラル星人という地球侵略を目論む悪の宇宙人がいる。
 曰く、彼らは卑劣かつ残虐であり、地球人に化けて様々な悪行をするのだ。この殺し合いもジュラル星人の仕業と見て間違いない。
 曰く、恐らくジュラル星人は主催者だけではなく、参加者の一部に化けてかわいそうな子供達を殺し回っているのだ――

「というわけなんだけど、わかったかい?」
「…………」

 返事はない。
 研の言葉は何一つ分からなかったが、美遊に一つだけわかったことがある。

(この人は、狂ってる)

 これならまだダリウス・エインズワースと話すほうが楽だと、割りと本気で美遊は思った。少なくともダリウスはいちおう理屈が通っているが、研には理屈すら見いだせない。

「僕はここから南で上がった光を調べに行くつもりなんだ。スカイロッド号とも近いからね。
 たぶん、ジュラル星人との決戦になる。その間、ここに隠れているんだ」
「…………はい」

 もう何も言いたくないのか、美遊は生返事だけを返した。もっとも、それを聞いた研は満足気に南へと歩いて行ったが。
 ひとまず研の言う通り美遊は司令部の中へ入ると、疲れきったように座り込んだ。肉体的にはさほど疲労はないし、魔力の消耗も大してない。疲れきっているのは心である。

『美遊様。あの方は不意討ちで殺しておくべきだったと思います』
「サ、サファイア……!?」

 そんな中で、サファイアが爆弾発言をした。
 普段から凛とルヴィアに対してやけに物騒な発言を繰り返すサファイアだったが、研に対してはこの二人以上に鬱憤が溜まっていたらしい。

『クロ様のことはもちろんですが、それ以上にあの方は放っておくと何をするか分かりません。
 人殺しどころか戦ってすらいない相手でも、研様は難癖をつけて襲いかかるでしょう』
「…………」

 反論の余地はなかった。実際、美遊は知らないが研にはすでに前科があった。
 きっとイリヤは殺し合いになんて乗っていないだろう、と美遊は信じているし、彼女のそんなスタンスは人殺しを嫌う者達の信頼を集めるはずだ。
 だが、おそらく研にはそんな理屈は通用しない。彼という歯車は誰とも噛み合う事はないだろう。

「分かった。次に会った時はなんとかして倒す。
 でも、今は」
『分かっています。ですがこのまま休むのは危険ですし、疲れも取れません。
 どこか休めそうな部屋を探すべきかと』
「……うん」

 その言葉にゆっくりと立ち上がって、転身を解除し司令部の中を歩き出す。当初はどこかで休むつもりだった美遊に、このまま研を追いかけて殺す気力は残っていなかった。
 そういう意味では、研の行動は美遊にとって渡りに船だったと言える。

 しかし、美遊は知らない。
 研の行き先に、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがいる事を。



【D-3 中央司令部周辺/朝】
【泉研@チャージマン研!】
[状態]:ほぼ無傷
[装備]:アルファガン@チャージマン研!、スペクトルアロー@チャージマン研!
[道具]:基本支給品一式×2、まふうじのつえ@DQV、ランダム支給品×0~1
    ランダム支給品(のび太)×0~2、みずいろまんまる×11@リリカルなのはシリーズ
[思考・行動]
基本方針:ジュラル星人に化けた老人を殺す
0:ジュラル星人に対する激しい怒り
1:あの光の柱の周辺及びスカイロッド号を目指す
2:タバサを浚ったジュラル星人を退治し、のび太の仇を討つ
3:一般人は出来る限り保護する
4:超能力で人外と分かった相手は全て警戒、もしくは殺害
※真月を敵性宇宙人、雷、電、響をジュラルの人間ロボット、クロエをジュラル星人と考えています
※のび太の支給品を手に入れました

【D-3 中央司令部/朝】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(大)
[装備]:マジカルサファイア@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ、燦然と輝く王剣(クラレント)@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本方針:イリヤを生きて帰す。
1:首輪の解除が終わるまで、ポーキーが殺し合いの中断(首輪の爆破)をしないよう殺し合いを進め上手く立ち回る。
2:イリヤに害を為す危険人物や弱者の排除。有用な参加者は殺さずポーキーに気付かれぬよう補助。特に研は早期に排除する。
3:今は休息を取り心を落ち着かせる

※参戦時期は少なくともイリヤ、クロエの和解以降。
※アベル、愛莉、ジャイアン、永沢達からの情報を得ました
※星光の殲滅者を高町なのはだと思っていますが、なぜか参加者に高町なのはがいない事が気になっています。






 クラウスとしては、放送の内容に特に思うことはなかった。
 手を繋ぐ二十四の参加者は、クラウスにとって狙い目であると共に阻むべき事象だ。しかし、対集団となるとやはり回復が必要。温泉を探すことに変わりはない。
 すでに、隠し施設の位置は見当が付いている。だが、C-3に参加者が多いのが厄介だった。隠し施設が発見されることはないだろうが、そこへ移動する自分が発見される可能性は否定出来ない。
 ちょうど、東京タワーに背を向けて歩く形になっているクロエ達を双眼鏡で見やる。ディアーチェはまだ眠っている以上、C-3にいる参加者でもっとも危険なのはあの二人だ。
 彼女たちの動きを警戒しつつ、クラウスは東京タワーを離れるタイミングを図る。


【C-4 東京タワー /朝】
【クラウス@MOTHER3】
[状態]: 左手に火傷(処置済み)、PP消費(大)、ダメージ大(処置済み)
[装備]: クラウスの剣、刹那のバイク
[道具]: 拡声器、救急セット、基本支給品一式
[思考・行動] 基本方針:殺戮
1:C-3にある温泉に向かう
※隠し施設の位置の詳細は後続の方にお任せします。
※温泉が穂群原学園の屋上にあるかは不明です。

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最終更新:2014年06月13日 00:14