マクロスFRONTIERでエロパロ まとめwiki

4-467

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
467 :キミの元へ ~アルシェリ~:2008/12/24(水) 17:25:44 ID:8tSk58EG

※うん、アルシェリなんだ。アルシェリなんだよ?(大事なことなので二回言いました)
 ランカも出るけど、ランカスキーな人はスルーを推奨するんだ。
 捧げるほどのものではないけど、私からのクリスマスプレゼントかな。エロは無いけどすまない。


はは、そんなん全然オッケーだぜって方のみどうぞ。



バジュラとの大戦は終結。人類は新たな惑星へと足を踏み入れ、調査船団としての役割は成功に終わった。
と、聞けば聞こえはいいかもしれない。
当然のごとく、死者は多数。食料の自給も危ういため他の船団から援助を受けての配給制。
星に降りたからといって、すぐにその惑星で生活できるはずも無く。しばらくはアイランド1での生活
を余儀なくされる。
その理由としては数多くあるのだが、大気中や水中、土中に含まれる細菌などに有害なものが含まれる
可能性があるというのが大きな理由の一つだろう。

よって。そんな未開拓な星に生身で降り立った元SMSやアルト達が入念な検査が行われることになる
のは、当然のことだった。

「……」

それは、まぁいい。
結構な人数がいたため検査が深夜…
といっても恒星の光がなくなっただけで時間はわからない…までつき合わされたのも我慢しよう。
血を抜かれ、脳まで検査されたのも、我慢できる。

ただ一つ、アルトが納得できないのはシェリルのことだった。

すぐにでも。誰に聞かれてもかまわない、そんな気持ちで大戦に出る前に告げようとしたことを伝えよう
としたのと同時に、軍からの勅令で引っ張り戻されたのだ。
もちろんそれ自体はランカもシェリルも同様であるのだが、シェリルは以前からのV型感染症のこともあ
り、検査に時間がかかるといわれた。
新たな惑星への到達を喜ぶ隊員や、仲間の死を悼む隊員を横目にアルトは長く細い溜息をついた。

「……これで終わり、か」

ルカはナナセに付きっ切りで、クランもいつの間にか姿を消していたから、その溜息は誰にも聞こえなかった。
背中をたたかれて、『辛気臭いわね』と。あのストロベリーブロンドが見れないかという期待も叶わない。

少なくともバジュラとの戦争はもう起きないだろう。だが、民衆はどこまで納得するのだろうか。
アルト自身、あの誰よりも軽薄そうで、本当は誰よりも一途だった親友のことを思い出さないはずが無い。
結婚を控えていたピクシーのララミアの婚約者は? あのお調子者の部下達の家族はどう思う?

全員が、バジュラや裏切り者とされてしまったランカのことを許すことができるのだろうか。
少なくとも、自分には少し時間が必要だとアルトは思った。また、血を吐きながら遠のいていった顔が脳裏を掠める。
気づけば、足はその場から離れようと動いていた。




馬鹿な奴だった。
遊びとだけわかってる女とセックスして。その場限りの愛の言葉でも囁いたのだろうか。
両手両足の指すべてでも足りないくらいそんなことを繰り返してたあいつは結局、一人で逝っちまった。
誰よりも一人を愛していたくせに。誰よりもそれから目を背けて。

そのことを、あいつは後悔してるだろうか。
それとも死に際に愛してるなんて言って彼女を泣かせたことを、後悔してるだろうか。もっと早く言えればよかったのに、と。
……両方かも知れない。

「なぁ、どうなんだ? ミシェル」

丘の上にあるグリフィス・パークまで上ったのにちっぽけな星達。見上げて、呟く。
少なくとも俺は、そんな後悔はしたくなかった。

「お前が話してくれた誰より、あいつは複雑で…。時間空いたせいでよくわかんなくなっちまった…」

学園に通っている間、ミシェルからは色々聞かされていた。
口説き方やデートの流れも、よく覚えてないが含まれていはず。
その中のどれを選んだら、あいつは喜んでくれるんだと、誰もいない公園でまた溜息を吐く。

芸能科から転向して入ったパイロットコース。そこで出会った馬鹿なあいつと愛らしい顔した後輩。
憧れていた空に近づいたと浮かれたのはほんの一瞬で、正直に言えば退屈な日々が続いていた。
偽りの空を飛ぶことで、それさえ誤魔化した。
そんな退屈な毎日が、急に輝きだしたのはあいつが現れた、あの日から。
見飽きて、偽者だと蔑んでいた映像の空も、あいつと一緒なら、あいつの歓声があれば、ダイアモンドのように輝いた。

友人が少なくて、正直に言えば孤独だっただろう俺。別に平気だと思っていた。孤独には、慣れていたさ。
けど、今は。隣にあいつ一人が。後ろにあの馬鹿一人がいないだけで、こんなにも。俺は独りだ。

世界中で一番普通の女の子らしくないようで、実は誰よりも女の子だった彼女に。
ただ伝えればいいと思っていた。一言『好きだ』って。
けど、それだけであの強がりなあいつは納得するだろうか。もしかしたら、また同情と受け取って泣くかもしれない。

「恋人ごっこ、だったのか。あの数日に満たない俺達の時間は。少なくとも…俺は…」

恋人だったらこんな感じだろうと思っていた。
恋人だから誰よりもあいつの傍にいられる。いろんな表情を見れる。あいつの弱音だって聞いてやれる。
そんな距離を、俺はいつの間にか手に入れ、いいものだと感じていた。



「こんな気持ちにさせといて……。いまさらお前は……」

俺から離れて行っちまうってのか。また、独りで。
そんなの許せるはずがない。俺が傍にいてやらなくちゃ…。

そこまで考えて、俺は自分の頬を打った。その痛みはなんとなく、あの馬鹿に殴られたときの痛みに似てる。

「俺が、傍にいたいくせにな」

いつも笑顔で俺を引っ張りまわしてた。
風のように現れて、嵐のように俺を掻き乱して、時に追い風のように振舞ってくれた。
最後の最後まで強がって、俺にさえ弱いところは数回も見せない。

弱さまで隠して、妖精であり続けようと最後まで立ち続けた彼女に惹かれ。
隙間からほんの少し漏れた弱さを、俺だけが受け止めてやりたかった。

そんな気持ちに気づくことなく、いつまでも素直になれなかった自分。
どこかであいつの傍にいることに義務感を感じるようにして誤魔化してた自分。
情けないにも程があるだろ。いい加減、本気で、素直になれよ早乙女アルト。
素直に言えば、雨に濡れたあいつを連れて行く兄弟子に、掴みかかりたかった。
俺が、真っ先にあいつを見つけてやりたかった。

家の血筋も、体裁も何も無く素直に大声で本音を言い合える、こんな俺の弱ささえ受け入れてくれるあいつに。
俺はたまらないくらい……惚れていたのに。

「じゃあな、ミシェル。……ちょっと行ってくる」

もう、これ以上時間をおく必要は無い。臆病な影が差し込む前に、あいつに伝えたい。
まるでそれを肯定するように光ったイヤリングの宝石は、もういないはずのあいつが、いつものニヤケ顔で背を押して
くれたようだった。
そんなときだ。

「アルト君!」

すぐ傍まで、小さな影が来ていた事に気づいたのは。



全て、終わってしまった。
あそこで燃え尽きて。燃え尽きるまで歌って、シェリル・ノームはシェリル・ノームのままで果てるはずだったのにね。
V型感染症のランカちゃんの主治医であったらしいカナリアさんからの検査結果を聞きながら、ふとそんなことを考えた。

「見たところ、V型ウィルスは体液中には存在しない。ランカ・リーと同じように下腹部に完全に固着してるようだ」
「……それで?」

彼女だって自分の家族が心配だろう。それなのに私についてくれてるから、気の無い返答は申し訳なく思える。

「毒素も検出されていない。それ以外は健康体だから、もう、心配要らないだろう。おめでとう」
「ありがとう。けど、あそこで歌いきって果てるのも、悪くなかったかもしれないわ」
「……それは、お前の体を心配してる人たちに対して、失礼だぞ」

返事もせずに、あたしは扉を閉じた。
心配してくれる人、か。一瞬、誰よりも不器用だけど、あたしの傍にいてくれたあいつの顔が思い浮かぶ。
いつのまにかあんなに男らしい表情ができるようになっちゃってさ。最初はただの、生意気で素直じゃない子供だったのに。

「あたしも一緒か……」

検査用の薄い服を脱ぎ捨てて、自分の服に袖を通す。
あいつをあそこまで成長させたのはこの戦争よね。
その中でも、彼女を守ろうという気持ちはあいつの中で何よりも大きかったはず。
今は少しだけ、あなたが羨ましいわねランカちゃん。

「けどあの子は、これから大変になるわ」

希望の歌姫から一転、裏切り者扱いまでされたのだから。
社会復帰にすら支障をきたすだろうし。操られていたとはいえ、生き残った人たちの恨みは少なからず彼女にも向くはず。
そんな彼女を、あいつが守らないはず無いわね。

「あたしが、鈍いあいつの背中、押してあげなきゃいけないのに……ね」

なのに。どうしてこんなに胸が痛むの。脈打つ心臓は、どうしてあたしを駆り立てようとするの。
待合室の椅子に座れば、いつの間にか暗くなって誰もいないことに気が付いた。
ランカちゃんだってとっくに検査は終わってるから、今頃二人でいるのかしら。
そうしたら、あたしの出る幕は無くて済むかもしれないわね。

「……それがどんな言葉でも、歌えなくなる…なんて」

本当は、抱きしめたかったくせに。抱きしめてほしかった、くせに。
強がって強がって。傍にいてくれるアルトに、甘えていたかったくせに。



「けど、そんなのシェリル・ノームじゃないわ。シェリル・ノームはいつだって強気でなくちゃ」

散々、甘えたでしょ。恋人『ごっこ』、楽しかったわよね。
初めてだった。家族のような時間を過ごすのも、誰かの帰りを待ってあげるのも。
一緒に料理を作るなんて、なんて暖かい時間を、あいつはあたしにくれていたの?
平気な顔で笑って、嘘をついて。嫌気がさして。そんな、楽ばかりしようとしていた。

「だから、だから。あたしはもう、いいのよ……」

なのにどうして、体は震えるの。思い出す記憶は、どうしてあいつとの時間ばかりが通り過ぎるの。
怯えたスラムの闇も、冷たい雨も。あたしを気にも留めない人たちの記憶も、こんな時ばっかり鳴りを潜めて。

いやよ。離したくない。傍にいてほしい。あたしを孤独にしないで欲しい。
シェリル・ノームのペルソナを外して唯一触れ合えるあいつと、一緒にいたい…。

なんて、我侭。
アルトはランカちゃんを守るためにパイロットになったんだから。
同情すら引くことのできない今のあたしに、勝ち目なんて無い。
ランカちゃんを守るためにあいつは宇宙を飛んで、バジュラと戦った。
ランカちゃんを救うために、宇宙でミサイルの雨に向って行った。

だから、だからねランカちゃん。あたし、あなたが羨ましいわ。

あえて辛い道を選ぼうとするあたしを応援してくれたアルト。
そんなあなたを、たった一人だけ。『友達』と呼ぶことにしてあげるわ。
軍の部屋に戻ろう。それで、こんなあたしとはさよなら。そう考えて病院の外に出た。
そんなときだった。

「シェリル!」

あたしの目から堪えていたはずのものが一つ零れ落ちるのと。
聞きたくなかったはずで、聞くだけで僅かに嬉しくなれる声が聞こえたのは。



息を切らし、頬を赤くしながら深呼吸を繰り返す少女に、俺は首をかしげた。

「ランカ…。どうして、こんなとこに」
「へ、へへ。ほんとはね、お兄ちゃん…あ、オズマお兄ちゃんに外には出るなって
言われたけど、今日だけワガママいったんだ!」
「そう、か」

座ってる俺の隣に座るでもなく、横でずっと立ってるランカに、俺は横目で視線を送った。
どこかわざとらしい喋り方だとか、いつもより触れ幅が大きい髪だとか、きっと何か伝えたいことがあるんだろうと思う。
それくらい、わかる。

「あ、あの!」
「ん?」
「あ、あの…星! すっごくキレイだったね! デカルチャーだよね!」
「そうだな、キレイだった」

デカルチャーは死語だろ。
話がそれだけだったら、俺はもう行きたいんだけどな。
病院で入れ違いとかやったら、あいつの部屋まで行くことになるし、そうなると警備が硬い。

「あ、あのさ。アルトくん…。えっとね、実は……」
「悪い。用事があるなら、できるだけ早くしてくれないか。時間がかかるなら付き合うが、用件もわからないんじゃ……」

僅かに、ランカの肩がビクリと震えた気がした。
二回の深呼吸の後、ランカは小さな声で。この夜の静寂が手伝わなければ聞こえないような声で、言った。

「……わたし、アルト君のこと大好きでしたって、言ったよね」
「―――っ」

今度は俺が僅かに身動ぎする結果になった。
肩に添えられた手。小さな手からは想像もできないが、ゼントランとのクォーターであるランカの力は強い。
眼前にある柘榴石をはめ込んだような瞳と、唇。映画のキスシーンのように、近い距離。

「わたし、今でも…ううん、前よりずっとアルト君のこと、好きだよ」
「ラ、ンカ……?」

いつに無く強引なランカの瞳と、目が合う。
揺れる瞳。だが、なにがその目を揺らしている?
少なくても情欲や、俗に言うドキドキなんて類のものでないことはすぐにわかった。
一言で言えば、それは『不安』。

「……アルト君」

少しずつ近づいているランカの顔。
鼻と鼻の頭が触れ合いそうになり、互いの息の匂いも、体臭でさえ感じ取れそうなこの距離。
ガーネットの瞳が、タンザナイトだったら。一瞬でもそう思い、一瞬だけ重ねてしまった最低な自分に、吐き気がした。



ギリギリ、今まで動けなかったのはなんだったのかわからないくらい早く、二人の唇の間に掌を滑り込ませる。

「はぁ…。はぁ…」
「……っふ」

止まってた呼吸が再開する。
見る見る内に涙で濁っていくランカの瞳から、俺は目を逸らそうとはしなかった。
『不安』に震える瞳と、拒まれたときのランカの顔を見て、俺は今までの自分の行動がどれだけ彼女の感情を
正負問わず揺るがしたのか、理解したから。

「すまない…。ランカ、俺は……」
「バカ」

ポツリと呟かれた一言と一緒に、ランカの目から涙が続けて零れ落ちる。
慰めの言葉は、相手を逆に傷つけるだろうか。少なくとも、俺はランカを、これ以上傷つけたくはなかった。
流れる涙は止まらないのに、無理やり笑おうとしたから、その笑顔はくしゃくしゃに歪んでいるけれど。
どこか、清清しさを感じるものだった。

「フられちゃったね……、わたし」
「ランカ……」
「すごく悲しくて、苦しいよ。アルト君に会わなければ、こんな気持ちにならなかったのにね……」

その涙に、ハンカチを差し伸べる資格さえ今の俺には無いように思えた。
自分の手で涙を拭い、ましてや抱きしめて胸を貸してやるのは、好きな女だけでありたいという気持ちも、正直ある。
ランカが嫌いなわけじゃない。それどころか、好きなんだろう。
だが、『愛した』わけじゃなかった。『愛しい』と思ったわけじゃ、なかっただけだ。これは、言い訳だろうか。

「けど、アルト君に会えたの、後悔なんてできない……。
 今のわたしは、アルト君とシェリルさんのおかげだって、ちゃんとわかってるから」
「悪いな……。気の利いたこと、何もいえなくて」
「いいよ、アルト君だもん」

そういって寂しげに笑う彼女は、いったいいつの間にこんな表情ができるようになったのか。
もう、行っていいよというランカの言葉が、見ないでと、言っている様な気がした。

だから。
俺も振り向かないであいつのところへ走り出す。
言い訳として、彼女以外の誰かにでなく。本音として、彼女に。一番最初に伝えたかった。
そんな、言葉があるから。

ランカの頬を伝う涙には、胸が痛む。
けれど、今はもう本当に一人ぼっちのあいつだって、どこかで。
やっぱり独りで、不安に泣いているんじゃないか。そんな気がしたから。

今はただ高く広い空じゃなくて。低くせまっ苦しいコンクリートの道を、がむしゃらに走った。
街中で流される、あいつの歌だけを、追い風にして。



遠目に見えた、シェリルから落ちる光の雫は、ここだけの話、綺麗だとアルトは思った。
けどそれ以上に、まるで茨で締め付けられるように、痛かった。やっぱり、あいつは独りで、泣いてる。

「シェリル!」

もう、止められなかった。これ以上待てない。
逃がさないように、誰かに時間を奪われないように。シェリルの身体をアルトは掻き抱いた。

「ア、アルトッ!?」

狼狽した声も、構わず。まだ強く。
細い肩。腰も。いったいどこに力を入れて立ち続けていたのか、アルトにはわからない。
ただ、その抜けるように白い肌や。密着したことにより届く吐息が、暖かく。
生きている鼓動が聞こえることだけが、ただ嬉しかった。

「シェリル。話がある」
「――っ。わかったわ。聞くから、少し離れなさい。苦しいのよ、アルト」
「…悪い」

離れていく温もりは若干どころか大いに名残惜しいが、それよりも話のほうが重要だった。
シェリルに、認めさせなければいけないからだ。誰よりも強がりな名役者に、自分の気持ちが本物だって事を。

「それで話って? ランカちゃんとのデートの相談とかかしら?」
「茶化すなよ。言っとくけどな、今までに無いくらい、俺はマジだぞ」
「――っ」

さっきからの息を呑むような反応からして、きっとシェリルもわかってるんだろう。
僅かに残った涙の跡を、指の腹で拭ってやる。それだけで、シェリルは恥ずかしそうに頬を染めた。
その表情に、もっと早く気持ちに気づいていればよかったと馬鹿みたいなことを思う。

「好きだシェリル。もうどうしようもないくらいに、俺はお前が……好きだっ」
「シェリル・ノームを口説くって割には、一つの飾り立ても無い言葉、ね」
「そんな必要、ないだろ。それに、俺は一度もお前を銀河の妖精扱いなんてしたこと無かったはずだぜ」

シェリルは、そこが好きだと、前に言ってくれた。
だからアルトはいつまでもシェリルを一人の女として見る。いや、見ずにいられない。

「……それだけ?」

顔を隠すように俯いたシェリルの表情はわからない。
けれど、くぐもった様な声でそう聞こえた。

「傍にいたい、シェリルに傍にいて欲しい。お前に…シェリルだけに!」
「最近気づいたけど、あたしすごく我侭で、きっと泣き虫で、一度アルトの手をとったら、きっと離せなく……なるわ」
「そんなの、全部俺が受け止めてやる。前にお前がそうしてくれたように、背中を押して欲しかったら俺が全力で押してやる」

――どうして人は歌ったり、飛んだり……宇宙の果てまで行こうとするんだろうな
――あんたバカなの? そうしたいからに、決まってるじゃない

シェリルにとっての些細な一言が自分の背を押したように。
背中を押す力が欲しいときは俺が押してやりたい、と。アルトは言葉にしなかった。

「なんで、あたしなの?」
「お前みたいないい女、滅多にいないからな」

ちょっとからかう様に言ってみたが、シェリルは益々俯いていく。
だが、それだって正直な一言だ。



「ランカちゃん、守りたいんじゃなかったの?」
「あいつにはパワフルな兄貴達がいるだろ。俺は、お前を守ってやりたい。さっきだって……ん」

出撃前と同じように、人差し指で言葉を止められる。
でも、いつものように勝気な声は無くて、ただ震える声でシェリルは綺麗な声をこぼす。

「シェリルは! 泣かないのよ……。だって…シェリル・ノームなんだから……!」

嬉しくて、泣いているのか。苦しくて、泣いているのか?
アルトにはわからない。それほどまでにシェリルが役者なのか、自分に経験が無いからなのか。

もう一度抱きしめる。
やっぱり温かい。頭に手を当て、シェリルを胸に押し付けた。
嗚咽は誤魔化せない。けれど、それを聞くのもこんな姿の彼女を見るのも、自分だけでいい。
アルトはこれが自分の特権であることに、自負すら抱きたい気分だった。

「言っただろ。俺が全部受け止めてやる。だから、誰よりも。お前の近くにいさせて欲しい。
そして、誰よりもお前に、俺の傍にいて欲しいんだシェリル!」
「アルト…。アル、ト……」

シェリルの腕がアルトの背中に回る。
僅かに上を向いたシェリルに、顔を近づけていく。
アルトからのキスは、これで二度目だ。けれど、それもまた、止められた。

「これ以上は、本当に戻れなくなるわ……」
「『楽園』になんて、帰してやらねえ。俺の、傍にいろよ」
「それ、んっ……ふ」

シェリルの歌のワンフレーズ。
その歌が流れる街は今は遠く、シェリルの音と、アルトの音以外耳には届かない。
やがて唇が離れると、普段のシェリルがそこにはいた。

我侭で女王様で、何事も楽しめる才能を持った、愛しい姿で。

シェリルの中で、強がりや欲張りが、無意味になっていく。
それはきっと、アルトに愛されたあの日々から、少しずつ始まっていた変化だったように思える。

「こんなサービス、めったにしないんだからね……。大好きよ、アルト」

そんなお前を見せられたら。
何度だって、俺はこいつに惚れるだろう。

「自由でも、余裕でも……。そこにいるのがあたしだけだったら、虚しいわ。だから、傍にいなさい……」
「あぁ……。あぁ!」

ねえ、アルト。
あたしの友達、一人減ったわ。



条件は、俺が親父と和解すること。

なんのって、シェリルが俺と暮らしてくれるための条件として突きつけられた。
まぁ、その一言が無くたって。会いに行くつもりではあった。病院で見た最後の姿も、気にはなっていたからだ。
シェリルは今日、コンサートがある。といっても、入場料がないからチャリティーコンサートだけどな。
バジュラやランカのこと、インプラント化によってグレイスの支配下にあったギャラクシーの人達のために伝えたい
ことがあるからと、そういった仕事をシェリルは喜んでやってる。
もちろん、それはいいことだ。歌を続けることには俺も納得した。あいつは、歌を歌ってるときが一番『活きてる』から。

「お待ちしていましたよ、アルトさん」

親父は、入院していた。
扉の前で待っていた兄さんに続いて病室に入ると、そこには親父が。それ以外、物はほとんど無い。
以前のように気圧されることも無く、俺は親父と真っ向から視線を合わせる。
この目に見つめられるのは、昔から苦手だったのに。不思議と、平気だった。

「一つだけ、訊こう。お前をそこまで変えたのは、空か。それとも戦争か」

空は憧れだった。戦争は俺が背負う咎の一つだった。
けれど、俺を変えたのはそのどちらでもあるはずが無い。人を変えられるのは力と、金と。そして、同じ人でしかない。

「惚れた女だ」
「…そうか。もう、下がっていい」

失礼しますだなんて言葉は言わない。
振り向いて初めて気づいた。入るときには見えない場所。そこに一つだけポツリと。
俺が知る姿よりも若い、仏頂面の親父と綺麗な女性の写真だった。

「有人。良き、女に惚れたな」
「……また時間を見つけて来る」

歌舞伎のことについては何も言わない親父は、なにかを悟っているようにも見えた。
俺も、言うようになったな。あいつの前でも、これくらい真っ直ぐに伝えられれば楽だというのに。
扉が閉じる僅かな時間に、たった一言ずつで別れを告げる。

シェリルは、きっと。死ぬつもりだっただろう。それくらい、俺だって理解できた。
それでも止めなかったのは。あいつを信じていたのと、なにか確信めいたものが、俺の中にあったから。
死、という直面せざるを得ない現実が、愛し合う人々を引き裂こうとする。だから、より一層。
俺達は惹かれあったんじゃないか。
あいつのためなら。いくらでもいくらでも、頑張れる気がした。今日の事だって、その一つだ。

一回のロビーには、見慣れた一年後輩の坊ちゃんと、黒ぶちメガネのこれも見慣れた顔。
赤面しながらも一生懸命一緒に笑おうと頑張る一年に陰ながら声援を送りつつ、俺は病院を後にした。



ギタースクラッチの音が、音響も何もあったものではないコンサート会場に鳴り響く。
そこはもう、シェリルの世界だった。あるのはステージと、僅かな証明と、数多の観客だけ。
その中で舞い、音を身体で奏で、汗さえも輝きを増す要素の一つとしている彼女は、まさしく妖精だった。

そんな彼女を見ながら、俺は少し離れた場所でEX-ギアを着込む。
俺は、飛び続ける。シェリルは歌い続ける。俺はシェリルの歌を風に、シェリルの存在を家として、宇宙を飛ぶ。
もう手放さないと誓った。あいつは俺が、守ってみせる。それも全力でだ。

「さってと。行くか、サプライズゲストはサプライズゲストらしく、な」

あらかじめルカに無理を言って設置してもらった簡易のカタパルトから、相変わらず低い空に飛び立つ。
頬を切る風も。耳に鳴り響くノイズも。大気があったガリア4やバジュラの星とは比べ物にならない。だが、それもいい。
彼女と目が合う。その瞳は海なのか空なのか、少なくとも俺を惹きつける何かだって事は確かだ。

瞬く間に縮まる距離。あんなに近く、なのに遠かったあの距離感はもう存在しない。
ちょっと驚いたような顔。けど、すぐに細まるその『空』。鳴り響くドラムとギターに煽りを受けて、俺は彼女を抱き上げる。
シェリルとのファースト・コンタクトは、こんな感じだった。
ファンの真上を飛び、あいつと同じ数だけできるようになったスクリューを見せ付ける。
耳元で聞こえる、機械を通してないこいつの歌声は、俺だけのものだ。
いつか空より掴みたくて、無理矢理にでも手を伸ばそうとした、声。

人間もゼントラーディも、鳥や木々にだって。この場には境界線なんて存在しない。
シェリルの歌は全てに等しく響いて、魅了し、昂ぶらせる。耳を過ぎる風の音も、どこか勢いを増していた。
跳ねる客のドラムは、地鳴りのようで。歓声はまるで風のよう。

ありふれた日常は、急に輝きだした。心を奪われた、あの日から。
孤独でも平気だったさ。シェリルやミシェルに出会うまでは。一人は勝手に旅立っちまったけど。お前だけは。

「……傍にいてくれ、シェリル」

聞こえるはずも無いが、呟いて。
ステージに着地する瞬間に、観客からは見えない角度で、キスをされた。
リップノイズすら聞こえない浅い口付けが。人にとっては些細なことかもしれないかが、こんなにも俺の心を昂ぶらせる。

「……当たり前でしょ、バカ。もう荷物、送ってあるから……」

何事も無く離れていくようで、俺はシェリルの耳が赤くなっているのを見逃さなかった。
きっと俺は、それ以上に赤くなっていただろう。

「今日は次の曲で終わりだけど、また近いうちにコンサートやるわ! だから、全力であたしの歌を聴けえぇぇ!!!」

歓声は、鳴り止まない。
それはまるで、俺がシェリルと一緒にいるときの心臓のようだった。

...end



長くなって申し訳ないです。
一行が長かったり、読みにくかったりすることも申し訳ない限りで。
続くかどうかは未定ですが、他の職人さんの作品もいつも楽しませてもらってます。
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