突然の飛来
聖都市エレジェンドの戦いからしばらく経ったところ、アークノア達はとある不思議な石盤を発見した。
石盤には『もう時期訪れる世界崩壊録』とだけ書かれており、全てが意味不明であった。
旅の疲れから3人はここで休むことにしたが、突然空が白色に染まったのだ。
雨でもなければ曇りでもない、晴天のような気温でもない空の様子にアークノアはどこか警戒している。
しかし次の瞬間、白い空の一部がひび割れ、中から謎の物体がこちらに飛来してきたのだ。
その姿は隕石...しかし隕石にしては三角錐という形が整った見た目をしており、明らかに常識を超えたクリーチャーであることは確かであった。
マスティアは困惑した様子でその隕石らしき物体を見つめていたがアークノアとオルタだけはその正体に気がついた。
超巨大なトライストーンが突然目の前に現れたのだ。
ゼニス
突然飛来してきたトライストーンは自身を 《「威嚇」の心頂 ブラックオパール》と名乗った。
しかしそれ以外はいっさい明かさず、不気味な立ち振る舞いを貫いていた。だがアークノアとオルタはその存在が“ゼニス”という伝説上の存在である可能性を感じ取っていた。
「我々の目的はただ一つ、この世界を無にかえることのみ」
奴は突然そう言い出したかと思えば、いきなりアークノアやマスティア達に大きなオーラを覆い被せてきた。
これはブラックオパールの持つ無自覚の威嚇の力である。この威嚇は生物に無意識の中で恐怖や緊張感など大きなプレッシャーを与えるものであった。
奴らの理由不明の目的、そしてこの得体の知れない力。アークノアはすぐにこの存在を排除すべき外敵だと判断した。マスティアやオルタもさらに同調し、 《機構戦士 Alterヴァルキリー》へと変身し、戦いを開始した。
戦う中でアークノアやマスティアは大きな違和感を感じた。
奴の威嚇の能力は気持ちの問題ではなく、物理的にこちらに干渉しているのでは?と思ってきたのだ。
いつも以上に出力がない自分達の攻撃に疑念が湧いてきたのだ。
しかしその原因はわからない。探ろうにもあの無機質な存在から情報を取り出せそうにもなかった。そのことからアークノアはこの状況を力技で突破することを決めた。2体のクリーチャー 《機構騎艇アーク・ブレイザー》と 《黄金機構剣獣アルティメット・アーク・ブレイズ》を呼び出し、彼らをクロスギアとしてアークノアは合体した。
赤色の翼と黄金の剣を手に入れた彼は、先程までは比べ物にならないほどパワーアップしたのだ。
出力が出ないのなら、より強い力を出せばいい。その強引ながらも合理的な考えによって、ブラックオパールの能力を真正面から打ち破ったのだ。
しかし奴は最後の最後まで、倒されるその瞬間までいっさい様子が変わらなかった。
「以前変わらない。この世界を無に還すまで....」
そう言って奴は消えていった。
「無情」の極心
最後の最後まで不気味で理解不能な様子を保ち続けたブラックオパールに対し、どうしようもなく晴れない気持ちが残っているアークノアとマスティア。
しかしそのほぼ同時に、白い空の穴から新たなる存在がこちらに向かってきた。その瞬間、アークノアは悟った。今から奴は先程まで相手していた敵よりも遥かに強大な存在であることを。
空からゆっくりと舞い降りてきた謎の存在は、ブラックオパールと同じように静かな不気味さを醸し出していた。
しかし次の瞬間、身体から得体の知れない白い光線を放ち、その光線はAlterヴァルキリーを貫いたかと思ったら、2人の合体を強制解除してしまった。
「きゃっ!!」
「マスティア!!」
しかもマスティアのみ奴の手に渡ってしまう。続けて起こる奇怪な現象に彼らの脳はパンクしかけていた。
そのとき
自らをアレキ=シャングリライトと名乗る彼はマスティアを捕縛したままゆっくりと話す。その様子はまるで穏やかそうであるのに、全くもって隙がなかった。
奴らの目的がやはり世界を無に還すことだと分かった以上、彼らは退くつもりはなかった。しかしマスティアを人質に取られている以上下手に動けないのも事実であった。
そんな様子を見たシャングリライトは、無の様子を保ったまま、どこか嘲笑うような雰囲気を一瞬見せた。
「...お前達は何かを勘違いしている。彼女はお前達の動きを止めるための人質ではない。目的を達成するための駒の一つにする」
その瞬間、奴はマスティアに自身の周りを浮遊する三角錐の一つを強制的に埋め込んだ。
すると彼女の目からは光が消え、その髪色や姿は白いものへと変化していく。まるで幽霊のように空虚な存在となった彼女は一瞬にして別人のようになってしまった。
「ばかな....!!」
「あれは、アンノウン化!?」
天頂開戦ゼニス
マスティアを敵よってアンノウン化させられたことで、状況は一変した。オルタはすぐさま 《装甲 Alternative-戦闘モード》になったものの奴の力は強大であった。
アレキ=シャングリライトの力は破壊の封印。つまりは相手に危害を加えるという行動そのものが奴によって封じられてしまっているのだ。そのせいでせっかくのダブルクロスギアの力も奴には通用しなかった。
それだけではなく、ゼニス化したマスティアが持つ力は相手の技を奪うというものであった。
まるで相手を束縛し自由にさせない動きに、2人はピンチを迎える。
まずいと感じたアークノアは仲間であるアーク軍団を呼び出す。革命ドロン・ゴーの力を持つ彼らは有用な戦略であった。
しかし、アレキ=シャングリライトもそれに乗じて白い空の上から大量のクリーチャーを呼び出したのである。
それは全てアンノウンとトライストーンのクリーチャーであった。中にはゼニスであろう敵も存在し、戦いは壮絶なものとなる。
戦いの軍勢はアークノアの方が多いものの、奴らゼニスの軍勢はそれ以上に1体1体が協力であった。さっきのブラックオパールと同等の力を持つクリーチャーがぞろぞろ現れていて、しまいにはこちらが押される状況にまでなっていた。
誰にも気が付かれない戦いであるがまさにこれはゼニスとの戦争、つまり天頂開戦ゼニスといっても過言ではなかった。
あり得なかった合体
予想だにしないゼニスの襲撃、マスティアの敵化、アレキシャングリライトの能力....。これらによりどんどん追い詰められていくアーク軍。
そこでオルタがとんでもない提案をした。
それが自分とアークノアの合体であった。
いつもマスティアと合体しAlterヴァルキリーとなっているオルタだが、今回はアークノアと合体を試そうと言いだしたのだ。
しかしあの合体は対象が人型かつオーラの弱い、限りなく普通の人間ようなクリーチャー相手だからこそ可能の変身であり、既に強力な力を持つアークノアとの合体はどうなるか不明であった。
とはいえ今のこの状況、それ以上に打開策があるとは思えなかった。アークノアの決断は一つに決まる。
「いいだろう。その話に乗った」
「やってみまショウカ。ワタシ達の合体を!」
そう言ってオルタはいつもの合体をアークノアに対して行った。しかしそれをした瞬間、予想通りかなり大きな拒絶反応を起こしたのだ。
まるでマイナスとマイナス、プラスとプラスを合わせたみたいに反発し合い、合体したばかりなのに今にも分離しそうな勢いであった。
しかし、彼らは諦めずにその反発に耐えようとしていた。ここで自分達が合体に成功しなければこの状況を覆す手段はない。必死の抵抗でその力に抗い続ける。
その様子は周りのアーク軍達も気がついたようだ。主と仲間のロボットが今必死になって力を解放しようとしていると。
無言でその状況を理解したアーク軍達は彼らの邪魔をさせないように同じく必死の抵抗を見せた。
苛烈するゼニス軍の攻撃に、何体ものアーク軍が倒れ続ける。
しかしその時だった。突然、アークノアとオルタの身体が合致するかのように抵抗が収まり、今度はそのエネルギーが大きく外側に放出された。
身体中から溢れんばかりのエネルギーが生まれだし、ついにアークノアとオルタは合体に成功し 《銀河機構龍 Alterアークノア》へと変身したのだ。
再熱する戦いの風
ついに合体に成功しAlterアークノアとなった2人。
先ほどまでとは違いどこか異質な力を手に入れたように感じられた。その理由はこの覚醒に、奴らゼニスの影響があるからだ。この戦いで多くのゼニスの攻撃を受けたアークノアとオルタは合体する際に、ゼニスの力を得たのだ。
どこか雰囲気が変わった様子を見たシャングリライトは配下のクリーチャー達を全員Alterアークノアに突撃させた。
しかしオルタの鎧とアークノアの本来持ち合わせていたゼロの力で、奴らゼニスの力の無力化に成功しており、次々と襲いくるクリーチャーを撃破することができるようになっていた。
しかしそこに駆けつけたのはアークノアの側近にして、彼がゼニスに覚醒したのと同時に同じくゼニスに覚醒した 《ゼニス・アークロード》であった。
「ここは任せてくださいアークノア様」
そう言うと彼は3体の前に立ち塞がり、アーク軍の重鎮メンバーを一気に揃えたのだ。
邪魔がなくなったアークノアは今度こそアレキ=シャングリライトと対面する....かと思いきや。
「なるほど....やはりお前が立ち塞がってくるか」
アレキ=シャングリライトがアークノア達の前に出したのはマスティアであった。
Alterアークノアvsマスティア・ロストエデン
Alterアークノアとマスティア・ロストエデンは空中で激しい戦いを繰り広げた。
互いに距離を取った遠距離攻撃の撃ち合いであり、下手に入り込めば巻き込まれてもおかしくないほどである。
しかし戦況は若干アークノアの方が有利であった。ゼニス化したマスティアの攻撃を全て軽減できる影響からも、彼女相手に一歩リードしていたのだ。
しかしそれはあくまで彼女を倒すという目的ならばの話である。彼らはマスティアをシャングリライトの支配から解放することを考えていたため、迂闊に強い攻撃は出せなかった。
その結果、今は有利でもジリジリ詰め寄られてもおかしくはなかった。
そんな状況が長く停滞するなか、ついにオルタがある情報を手に入れたのだ。それはトライストーンから解放されるには「感情」を取り戻すことが必要であること。
つまりは記憶を取り戻さなくてはならないのだ。
2人はそれを理解すると、アークノアの電撃とオルタのハッキング能力によりマスティアの周りを浮かぶトライストーンに、オルタの意識を潜入させることに成功したのだ。
その中でオルタは沈黙するマスティアの姿を発見した。必死に呼びかけるも返事はない。
この潜入には時間制限があり、失敗すれば二度とトライストーンの中に入ることは不可能だと理解していた。
オルタの説得の声もただ響くばかりで彼女には届かない。そう感じていたその時、彼はあることを思い出した。
それは彼女の夢、この旅の目的、理想郷に連れて行ってほしいという願いである。
「マスティア、あなたは覚悟したはずデス!あなた自身の不幸な過去を救うため、未来を明るいものにするため、ワタシと一緒に“全宇宙の理想郷”に向かうと決意したでショウ!!」
オルタのその言葉を聞いた瞬間、黙って動かずにいたマスティアの様子に変化が見られた。
その変化をオルタが見逃すはずもなく、最後の言葉の一撃を与えることにした。
「あなたを必ず全宇宙の理想郷に連れて行って見せマス。
約束シマス。なぜならワタシはあなたの相棒デスから」
その言葉を聞いたマスティアはそっと目を開いた。氷のように動かなくなっていた少女が目覚めた瞬間であった。
そっと機械の手を彼女に差し伸べる。目を覚ましたばかりの少女もまたその手を恐る恐る取った。
「そうだ....私は......こんなところで.......」
その瞬間、あたりは白くぼやけていき、オルタの意識はアークノアの元へ戻った。
一瞬焦ったオルタはマスティアの方を見る。
そこにはトライストーンや白い不気味なオーラなどなく、いつもの変わらぬ少女の姿があった。
「....どうやら、取り戻せたようデスネ」
説得が成功したことに彼はほっと一安心した。
トライストーンのゼニスの目的
今度の今度こそアレキ=シャングリライトと一騎打ちとなったアークノア。
しかしその前に彼はどうしても聞きたいことがあった。
それが世界を無に還す理由だ。
戦ってみて感じたことは、奴らは虚構魔獣達のように己の快楽のみで動いているようではなく、何かしらの使命を背負って闘っていると思ったのだ。
するとシャングリライトはゆっくりと話し出した。
この啓示は紛れもなくこの世界の意思であると。
もうじきこの世界には、大いなる危機が迫ること。
そのときにこの星は破壊され尽くされ、クリーチャー達は全てを奪われ、絶望の中朽ちていく未来が見えたのだと。
トライストーンのゼニスであり、ガーディアンの力を持つアレキ=シャングリライトも最初この啓示を受けたときは、かなり悩んだそうだ。
その侵略者達は到底太刀打ちできないほどの力を有しており、まともに戦えば死と敗北は必然であった。
その結果導き出されたのだがこの星、世界を無に還し、誰もが破壊による絶望から身を守ることにあった。
感情を失えば苦しいという心もなくなり、ただ植物のように死に身を任せることができる。
迫り来る絶望にはこれが最適だとシャングリライトは考えたようだ。
「.....なるほど、やはりそういうことか」
全ての話を聞いた上でアークノアは納得した。そして再び剣を構える。
「悪いが、私が目指すのはただ朽ちていく世界で死んだように生きることではない。この世界を襲う侵略者が来るというなら、もう一度戦うのみだ」
アークノアのその様子を見たシャングリライトは、やはり分かりあうことは不可能と判断したのか、己のオーラを限界まで高め、彼と1対1な勝負に出た。
無情の死宝vs銀河機構龍
Alterアークノアとシャングリライトの最後の戦いが始まった。
互いに相手の力を無力化できることから、この戦いはシンプルな光線と拳の混ざり合いとなった。
その機動力を生かし相手を翻弄する動きをするAlterアークノアに対し、防御術や搦手などを駆使して相手にカウンターするようにして戦うアレキ=シャングリライト。
一進一退の攻防はどちらも引けを見せなかった。
しかし全体の戦況を見渡せばそうではなかった。
アーク軍がじりじりとトライストーンゼニス達を追い詰めており、この戦いに決着が着くのは時間の問題だった。
つまりこの拮抗が続けばいづれ自分達が負けると判断したシャングリライトはついに勝負に出た。
己の限界のパワーを溜めて、必殺の奥義 《無情秘伝Chaos×Peace》を放った。
この奥義はかなりの力を使用するが、相手に直撃すれば戦況を一気に覆せる恐ろしい技なのだ。
どちらもこの必殺技に全てを賭けている。
譲れない信念がぶつかる中、なんということか僅かに上回ったのはシャングリライトの方であった。
アークノアとオルタはこの時初めて、奴がどれだけ自分の目的に本気かを思い知った。
世界を無にすること...それが彼にとっては本気で世界のクリーチャーを絶望から守るための最善手だと言うのだ。
アークノアやオルタも負けじと必死で抵抗する。
しかしここで予想外のことが起きる。アークノアとオルタの合体が分離しかけているのだ。
やはり無理矢理合体した影響か、時間が経つと融合が解けかけてしまうようで、それがまさかのこのタイミングで起きてしまいそうになっていたのだ。
万事休す、2人は敗北と死を覚悟した。
しかしそのとき後ろから1人の陰が現れた。それは支配から解放され真実の名に目覚めた マスティアであった。
真実の名に目覚めた彼女は同じくゼニスに対抗する力を得たのだ。
僅かに劣っていたアークノア達の必殺技が瞬間的にシャングリライトの必殺技を上回る。
その機をアークノアは逃さなかった。
「これで、終わりだ!」
残っていた全ての力を吐き出し 《ヴレイン・アークストライク》を追撃したアークノア。
その一撃はシャングリライトの破壊光線や奴本人をも貫き、ついにシャングリライトを撃破した。
決着とトライストーンの解放
アレキ=シャングリライトが倒された瞬間、全てのアンノウンとトライストーン達が消滅し始めていた。
それは奴らによってゼニス化させられていたクリーチャーも同じであり、奴を倒す前にマスティアを救い出せてよかったとホッとしていた。
こうして戦いが終着したこの時、アークノアはある一つの疑問を持っていた。それを最後に問いただそうと、いまだ息をしているアレキ=シャングリライトのところへ向かった。
「お前達の目的はわかった。....だがそれならなぜ私達を集中的に狙ったのだ。もし戦略を分散し、この世界全体にお前の配下をばら撒けば、お前自身の目的達成ももっと早かったはずだ」
奴らが自分を集中狙いしてきたことにアークノアは疑問に思っていた。
たまたまいて攻撃したのならともかく明らかに殲滅を狙っていたからだ。
すると奴は一言...こう溢した。
「....それも啓示だ」
「啓示だから狙ったのか?」
「.....いや厳密に言えば違う。我は啓示によりもう一つの言葉を授かった」
一言置いてシャングリライトは放った。
「我がお前達を狙った理由はただ一つ。この世界に未来訪れる危機の中心にお前達がいると分かったからだ」
「...!?どういうことだ!!」
アークノアは強く踏み込み、その言葉の真意を聞き出そうとした。だがシャングリライトはそんなアークノアの驚きをまるで理解していないかのように無表情を貫いている。
「お前達を消せば未来の危機も消えると思ったが....どうやらうまくはいかなかったようだ。
我はもうじき消える。
だがお前達の道は未だ続いてゆく。その先に待ち受ける全ての困難を......お前は乗り越えることができるだろうか.......」
そう言い残したシャングリライトはついにアークノアの目の前から姿を消した。
最後の最後まで不気味な空気を保ったまま消えた奴に対し、アークノアは得体の知れない気持ちの悪さを感じどこかスッキリしない様子であった。
啓示
こうして短くも激しいトライストーンのゼニスとの戦いは終わった。
アークノア達が持っていたゼニスの力はいつの間にか使えなくなってしまった。
まるで何事もなかったかのように旅は再開する。
3人のそれぞれの目標を叶えるための旅が。
ふとアークノアは目を下にやった。そこには一番最初に見た『もうじき訪れる世界崩壊録』と書かれた石盤があった。
いづれ訪れるかもしれない世界の危機。
しかしそれは自分達が中心にいるかもしれないという啓示。
それが真実か杞憂か......
今の彼らには知る由もない。全てが始まるそのときまでは....
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