英雄龍
たまたまのところで、英雄軍というクリーチャー達と出会したアークノア達。
しかしその英雄軍のリーダーは、まさかのアークノアの失われた火の魂であったのだ。
明日、瘴気の怨霊殿に行くことになっているため、マスティア達とストライクジーク以外の英雄軍は寝てしまった。
そんな中、アークノアはこの夜、ジークと対面して自分のことを全て話した。
自分が5つの分散した魂を探していること。そのうちのひとつがお前であることも全て。
当然、そんな話をされたジークはかなり驚いた様子を見せた。
その返答は
「笑いが、その願いは受けられない」
当然、NOだった。アークノア自身も、 セイヴァージャンヌの一連もあってか、どこか淡い期待していたが、むしろ彼女が珍しかっただけなのを改めて思い知らされた。しかし
「...だけどもしアークノア、君が何か危機的な状況に陥った時、かならず俺達が君を助ける。君と一体化することはできないが、それに見合うだけの活躍はしてみせる」
それは協力の提携だった。彼自身の正義感が、そのままでは放っておけないと思ったのだろう。
アークノアはその申し出に応じた。彼も嫌がる相手を無理矢理吸収するつもりなどない。
むしろジークが率いる英雄軍の強さは、手合わせしたアークノアには十分分かっており、彼がいないとその真の強さは発揮されないと踏んだのだ。
無沌世壊
次の朝、当初の計画どおりアークノア達は瘴気の怨霊殿へと向かった。
瘴気の怨霊殿は事前の情報からも分かってはいたが、かなり邪悪で忌々しい雰囲気を放っていたのだ。
苦しそうに進むマスティアを気遣いながら一同は奥へと進み続けていたが、突如として陰から何者かの攻撃が襲ってきた。
アークノアとジークはすぐさま対応するも、その攻撃の主の正体に思わず息を呑んだのだ。
奴らは歪だった。纏っている文明のオーラと奴らの中身の文明が釣り合っていなかったのだ。それどころか全員が全員、まるでキャンバスに様々な絵の具をぶちまけ、真っ黒に混ざったかのような悍ましいクリーチャー達がそこにいた。
「なんだ....このクリーチャー達は.....」
英雄軍達の追っていた殲滅の魔王の配下でもなさそうであった。あまりに謎の存在に、ただただ困惑するしかないようだ。
なんとか撃退したものの、彼らの心に残ったのは妙な不安、胸騒ぎ、得体の知れない存在に対する警戒心であった。
だが、そんな思いが、思いの外早く的中してしまった。
「...な、なんだあれは!?」
彼らが見たものは、瘴気の怨霊殿にて蔓延る異常なクリーチャー達の数であった。
先ほどまで戦っていた存在と同じオーラを放つクリーチャー達を前に、言いようもない不気味さを感じていた。
「ジーク、マスティア、オルタ...何やら我々が予測していない事態が起こっている可能性がある。気をつけて行くぞ」
アークノアのその言葉に一気に緊張が高まった一同。
不気味な領域に重い足を踏み込み、彼らは瘴気の怨霊殿へと侵入していった。
帝下暗黒四天王
アークノア達が瘴気の怨霊殿に踏み入った瞬間、身体を逆撫でられるような不気味で不快な気分を味わった。
闇文明は治安が崩壊していて中枢都市、ましてや国や街なんてものはない。しかし負のオーラが強いここが実質的な闇文明の中心として存在していた。
そしてこの瘴気の怨霊殿には死んだクリーチャーの魂が連れ攫われ、永遠に魂を屠られ続けるという噂がある地獄のような場所でもあった。彼らの苦しみと憎悪が、今を生きるアークノア達にも伝わるほどここは危険な場所なのである。
彼らが足を進める中、ついに侵入に気がついた無沌世壊のクリーチャー達が攻撃を仕掛けてきた。
彼らはうまくその攻撃に対処するものの、俄然その違和感は残ったままだった。
相手を攻撃しているのにまるで手応えがない。暖簾をなぐって水を切るような、意味のない行動を続けているようであった。
痺れを切らしたのか、英雄軍やアーク軍の一部のクリーチャー達が前面を切り拓こうと前に突撃していった。しかし次の瞬間、空から放たれた混沌に満ちた黒い光の柱が彼らを呑み込み、一瞬にして消し去ってしまった。
怒りと困惑の表情を浮かべ、空を見上げるアークノアとジーク。
そこには2体のクリーチャーが並んでいた。
「あいつはスカルジャック!」
「エレジェンドの混乱の元凶がなぜあそこに!?」
だがそれ以上に強大なオーラを放つのが隣の存在であった。
そのオーラは一瞬にしてやつがこの不気味なクリーチャー達のボスであることを察知できるほどであった。
「碧雷の....帝王だと」
聞き覚えのない単語に困惑するアークノア。彼が封印される前にはそんな存在はいなかった。
「我が帝国軍の勢力拡大のため、この地に眠る殲滅の魔王、 アナザーバイオレンスを完全復活させ、我が軍下におさめる」
激突
殲滅の魔王完全復活。それは封印を目論むジークにとっては何よりも阻止しなくてはならないことであった。それに加えて、奴らのせいで大事な仲間を殺されてしまった彼は怒りを抑えきれなくなっていた。
しかしそんな彼を宥めたのは、同じく部下を失ったアークノアである。
「おちつけ、気持ちはわかる。だが今ここで奴に無謀に挑めば返り討ちに遭うに違いない。奴らの実態を持たない闇の力は、かなり難解な能力だ。
それを解き明かさない限り、仇を討つことなど到底不可能だ!」
そう言うアークノアの右手も拳に震えていた。決して彼も冷酷な人物ではなく、現場のために非情に徹しているだけであった。
その様子を見て落ち着きを取り戻したジークは改めて、討つべき敵に向かい合った。
「マスティアとオルタは周りの部下を、ジークはスカルジャック。...私は奴らのボス、アライバル・ゼロを倒す」
「.....うん」
「...わかったぜ、アークノア」
次の瞬間、アライバル・ゼロの合図によりいっせいに混沌のクリーチャー達が飛びかかってきた。
彼らも同じくいっせいに剣を取り出し、奴らに立ち向かった。
Alterヴァルキリーvs無沌世壊
マスティアはオルタと合体し、 Alterヴァルキリーとなり無沌世壊のクリーチャーと戦った。彼女は乱戦向きな能力をしており、この戦いでも華麗に動けていた。
しかし同時にある種の決定打に欠けていたのも事実である。奴らは実態が不明の敵であり、彼女の攻撃が通らなかった。闇が全てを吸収すると言っても過言ではないほど、まるで攻撃の衝撃が消えてなくなるという風であったのだ。
しかしそんな戦いの中、オルタはあることに気がつく。
「あいつらの闇は純粋な闇ではありまセン。様々な色が混じり合った結果生み出された混沌の闇デス」
この無沌世壊のクリーチャー達は、様々なクリーチャーの遺伝子を出鱈目に繋ぎ合わせたキメラのようなクリーチャーであった。
その結果、奴らは自身の持つ文明に対して本来持つはずのない種族や能力を兼ね備えていた。
つまりその繋がり、それを断つことができれば彼女の勝機も存在するのだ。
「マスティア!」
「うん!わかってる!!」
するとそれまで無敵かのようなだった無沌世壊のクリーチャー達が次々と崩壊していった。闇が蒸発するように消える姿を見て奴らは動揺していた。
「どうやら、本人ですら自分たちの特性に気がついてなかったようデスネ」
「...ちょっと可哀想だけど、今ここで止めたりなんてしない!!」
そうすると突破口を見つけた彼女達は次々と無沌世壊クリーチャー達を倒していった。
ストライクジークVSスカルジャック
ストライクジークとスカルジャックの戦いも熾烈を極めていた。スカルジャックは例の呪文を手に入れた報酬として、アライバル・ゼロから強化させてもらっており、以前聖都市エレジェンドで見た時よりも強くなっていた。
しかし同時にジーク自身もかなり強く、強化されたスカルジャック相手に対等に戦っていた。
「なかなかやるじゃないか!あの雑魚軍団のリーダーのくせして!」
「好きに言ってろ、すぐに後悔させてやる!」
そして戦ううちにジークも奴らの混沌の闇の生態に気がついた。しかしこちらは闇の繋がりを裂くのではなく、大きな闇を覆い潰すほどの眩き光の力を放つつもりでいたのだ。
スカルジャックの攻撃を避けその隙を見出した瞬間、彼は 《ジャスティス・ストーム》を放った。
その光線はスカルジャックを呑み込み、完全に打ち消したと思われた。しかし
「油断したなァ!!」
「なッ!!」
消えたと思ったスカルジャックの腕が、突然背後から出現しジークを貫いたのだ。
思いもよらぬ攻撃を受けてよろける彼は、奴が持つ他の無沌世壊クリーチャーにはない能力に気がついた。
それはEXライフ。奴はアライバル・ゼロからこの能力を預かり、複製されたもう一つの命を手に入れたのだ。
これにより大きな一撃を放ち疲弊しきったジークに対して、自分の死というさらに大きな隙をも生み出し、彼に大打撃を喰らわせたのだ。
「やはりお前もバカだったな。英雄軍なんて肩書きを呑気に担いで、所詮ただのお山の大将だったということか」
そう一通り罵倒するようにして笑うと、奴はジークの前に一歩踏み出した。
「すぐに楽にしてやる」
そう言うかのように奴は大きな黒い剣を取り出した。
しかし、うずくまるジークの顔は一瞬だけ、ニヤッとした表情を見せた。
「....それで終わりか言いたいことは」
「死ぬ間際まで足掻くのか?みっともない」
「そうじゃない。お前に時間やってやったんだ。.....遺言を残すためのな」
その瞬間、ジークからありえないほどのオーラが飛び散った。驚いたスカルジャックはすかさず後ろに下がるも、そのオーラが止まる気配を感じない。
ジークのこの力は“英雄ハイパー化”と呼ばれる彼の持つ奥義であった。
仲間の力を借りることである一定時間に限りとてつもないパワーを発揮することができる。
焦ったスカルジャックはすぐにトドメを刺そうとその剣をジークに向かって振るった。
しかしそれよりも素早く、ジークの持つ剣がスカルジャックの首を打ち落としたのだ。
「ばか.....な........!!」
「これが、お前がバカにした仲間達の力の結晶だ。俺1人じゃ乗り越えられない壁も、仲間達がいることでどこまでも乗り越えることができる」
ジークはスカルジャックを遺言を残す間もなく細かく切り裂き倒したのだ。
アークノアVSアライバル・ゼロ∞
アークノアは早い段階でアライバル・ゼロの特性を見破っていた。しかし奴はそれ以上に摩訶不思議な力を操るため、アークノアは他の2人以上に苦戦を強いられていた。
奴はアークノアと同じく文明を操る能力を持っており、それを持って敵の能力を封印する力を使っていたのだ。
この力は強大であるが故にアークノアはゼロ文明の力のみを使わざるをえなかったのだ。
仲間をGR召喚することで呼び出し、共に戦いつつもなかなか突破口が見えずにいた。
しかしそのとき
「アークノア!こっちはほとんど片付いたよ!」
「お前の言っていたセイヴァーの仇は俺たちが訴ったぞ!あとはボスのそいつだけだ!」
ついに残すところはこいつただ1人となったようだ。2人も加勢のためにここに向かって来ようとしている。
しかしそれを察したのか、アライバル・ゼロは怒りの表情を見せて、ここで初めて体にまとわりつく混沌の闇のオーラを解除した。
その姿はまさに邪神像と呼べるほど禍々しく歪であり、奴が改めて生命としてまともでないことの実感を得た。
「どいつもこいつも役に立たなかった。こうなればやることはただ一つ、すべての時間を奪うのみ」
そう言うと奴は 《カオスオブ・パラド・ラグナ》を発動させ、この瘴気の怨霊殿に蔓延るすべてのクリーチャーの時間を停止させた。
そして停止した時間の中、全てを巻き込むほどの巨大な火球を作り出したアライバル・ゼロはこの土地ごとアークノアを葬り去ろうとした。
しかし彼の目線にはある者が動いていた。
「ばかな!?なぜ貴様動ける!!」
なぜかAlterミネルヴァことマスティアとオルタはこの止まった時の中を動けていたのだ。オルタの超然的な化学機能を持つ鎧により時間停止を乗り越えることができたのだ。
苛立ちを隠さずにいるアライバル・ゼロは彼女めがけて混沌の波動を放った。あまりに素早い発射....一瞬それはマスティアを呑み込んだと思われたが、それは彼女の 《閃光 ギャラクシー・フェイク》により作られた偽物であり、本物は奴の背後を取っていた。そして奴に大きな一撃を加えることに成功した。
本体に大ダメージを与えたことで時間が崩れ去り、止まっていた時は再び動き出す。
「ナイスだマスティア!」
「このままこいつを討ち倒す!!」
時間が解除された瞬間、ハイパーモードとなったジークと闇を消し飛ばすために 《革命の法皇 セイヴァー・アークノア》となったアークノアはアライバル・ゼロの前に立ち塞がった。
奴はカオスオブ・パラド・ラグナを使用したことで、一時的に能力が使えなくなってしまったため、一気に追い詰められてしまったのだ。
「俺達の仲間と....」
「聖都市エレジェンドの住民達の仇だッ!!」
ジークの炎の剣とアークノアの光の剣が交差するようにしてアライバル・ゼロの全身を切り裂き、ついに無沌世壊のボスを撃破したのだ。
厄災の復活
アライバル・ゼロをついに打ち倒したアークノア達。しかし奴はまだ生きていた。ギリギリのところで意識を保っていたアライバル・ゼロは、ついに奥の手を使ったのだ。
それはスカルジャックが聖都市から盗んできた秘術であった。それが生み出した被害を見ていたアークノアとマスティア、オルタは血の気の引いたような顔をし、すぐにトドメを刺そうと走り出した。
だがそれも間に合わなかった。
巨大な渦が出現し、あたりにいたクリーチャーを呑み込もうと吸い込みを始めた。真っ先にアライバル・ゼロと倒れていたスカルジャックは吸収され、生き残っていた無沌世壊のクリーチャー達はわけもわからず必死で逃げようとしていた。
技を発動した自分自身すらもこの吸収に巻き込まれたことで、アークノアは一種の自爆技の可能性を最初は疑った。
だがその考えが浮かんだその次に、さらなる絶望的な予想を頭の上を通り過ぎた。
殲滅の魔王はどこにいるのか。
ずっとアークノア達はこの瘴気の怨霊殿自体に封印されているものだと勘違いしていた。しかしだとするならばこの土地に闇の魂のオーラを感じなかったのはおかしかった。少なくとも直感でジークやセイヴァーが自分の分裂した魂だと分かったように、奴がここに封印されているなら、ここにいる気配を感じてもおかしくなかったのだ。
つまり、奴の封印されている場所はこの世界ではない。全く別の次元、それこそ次元を超えた化け物が蔓延る『パンドラスペース』ならおかしくない話であった。
「ジーク!マスティア!!まずい、殲滅の魔王が...完全復活する!!」
「なっ!!」
「そ、そんな!!」
次の瞬間だった。ファイナル・ホールが作り出した巨大な穴が禍々しい黒色に変色した。
風は止み、音が消え去り、辺りの景色は何もかも停止したかのように動きをやめた。
ただ一点のみ、ファイナル・ホールの穴から出てきた謎の手のみが、この停止した世界を荒らすように動いている。
固唾を飲み込み、動けずにいる3人。
今目の前で起きたのは、今まで退治してきたどんな敵よりも恐ろしく、悍ましく、残酷なマナを纏った....殲滅の魔王、 《覚醒の殲滅龍 アナザーバイオレンス》の復活であった。
破壊 殲滅 蘇る地獄
蘇ったアナザーはいきなりこの地に残った全てのクリーチャーを食い尽くそうとしだしたのだ。
アークノア達は 革命ドロン・ゴーの力でなんとか耐えることができたが、生き残っていた無沌世壊のクリーチャー達は全てアナザーによって食べられてしまった。
この強大な存在が自分が倒すべき魔王。
ジークは目標を目にして今まで感じたこともないような緊張感、怒り、そして高揚感を感じていた。
彼は仲間にも、誰にも話したことがなかったがこの殲滅の魔王により故郷を滅ぼされた過去がある。今回と同じように自分以外の全ての家族、友達、住民、を食い殺されたのだ。
命からがら逃げたジークは、長年その恐怖に負けないように特訓を続けて強くなろうとしてきた。
そして今回、なんの巡り合わせか殲滅の魔王を封印するための使命を授かった。、
新しい仲間と共に長年の恐怖を断ち切るチャンス。
彼はこれまで以上に強くその思いを感じていた。
アナザーがまるで生まれたての子鹿のように辺りを見渡している間に、彼ら3人は一気にアナザーに飛びかかった。
1人は自分の力を取り戻すため
もう1人は自分の理想を叶えるため
そして最後の1人は自分の恐怖と仇を討つため
それぞれの想いが重なった一撃をアナザー目掛けて放った。
しかし奴はその攻撃を避けるどころか真正面から受け止めたのだ。
しかもそれだけではなく、真正面から受け止めたその攻撃は奴にかすり傷ひとつつけられなかった。
「ばか...な.....」
3人の表情が一気に絶望に染まる。効いてないどころか、奴はこの攻撃に気がついてすらいない様子だったのだ。
そして次の瞬間、アナザーの目と3人の目が合わさった。
さらに次の瞬間、全員の身体が大きく浮かび上がり急に地面に叩きつけられた。
全く見えない、それどころか殺意すら感じられない一撃。なのにたったこの一回の攻撃で3人は立ち上がれなくなった。
そんな様子を無邪気に笑うアナザー。奴にとってこれはお遊びに違いなかった。
あれだけ特訓したのに、全く歯が立たなかったこの現状にジークは血が出るほど、自分の唇を噛んでいた。だがそのとき、彼らと奴の間に立ち塞がったのは同じくボロボロの英雄軍であった。
英雄軍も恐怖に震えながらも倒れてしまった彼らを守るため必死に壁となっていた。しかしそれもアナザーにとっては大した障壁でもなく、簡単に粉々に打ち砕かれていく。
そんな様子を前に英雄軍の副リーダーかつジークの親友である 《英雄鳥ジーク・ルピア》はある覚悟を決めた。
壁となって立ちはだかる英雄軍から無数のオーラーが集まっていく。
やがてそのオーラは一つの巨大な玉となった。その行動を見た瞬間、ジークは彼らを必死に止めようとしだしたのだ。
これは彼らの命を犠牲に放つ最後の奥義 《不屈の魂世に還る》である。
これを使えば使った側もタダでは済まない。
「やめろ....ルピア.....お前達がここで.....死ぬ必要はない....」
「リーダー達が一番死ぬわけにはいかないっピ!...この攻撃であいつを倒せるかどうかは分からないけど、ここで足止めしなきゃ間違いなくリーダー達が殺されるんだっピ!」
だったとしても!と言いそうになったジークだが、彼らの覚悟を決めた表情を見て何も言うことができなかった。
彼らもまた英雄の1人であり、世界を守ろうと本気で思っている。そのためなら自分が犠牲になっても構わないという心を宿していた。
「リーダー...必ず僕らがこいつを足止めしてみせるっピ。だから...それでも.....もしこいつが生きてたら、絶対いつか.....もっと強くなって....僕たちの仇を取って欲しいっピ....」
その瞬間、英雄軍の集めたエネルギーの結晶がアナザー目掛けて放たれた。ジークの叫びが聞こえなくなるほどの大きな爆裂音を立てて、その球はアナザーの姿を飲み込んだ。
伝説の復活
放たれた最後の攻撃はアナザーに直撃した。
その攻撃を受けたアナザーは 《不完全龍素 アナザー》となりギリギリで一命を取り留めていた。
しかし先ほどと比べてかなりパワーが落ちた印象。
ジークは倒れた仲間達、動かなくなった仲間達の姿を見て、すぐさまトドメを刺そうと立ち上がった。
だがそれと同時にこの瘴気の怨霊殿が大きな音を立てて振動を起こし始めたのだ。すると地面から次々と捕食禍龍が姿を現し、まるでアナザーを守るようにしてアークノア達の前に立ち塞がったのだ。
何かしようとしている様子であることは確かだったため、ジークは奴らを退け急いでトドメを刺そうとアナザーの方まで駆け抜けていく。
その様子は英雄と呼べるような高尚なものではなかった。仲間を失った叫び、怒りそれを誤魔化すかのように無茶苦茶に敵を切り裂き進んでいく、あまりに醜い姿であった。
それほどまでに彼は激しい感情に揺さぶられていた。絶対にあいつを殺してやるという意思があった。
しかしあと少し、ほんのあと数歩で奴に届くというところで、とアナザーは脈動を再び起こしたのだ。
そして次の瞬間、再度凶悪なオーラを放って、無慈悲にも奴は復活してしまった。
それを見たアークノアは急いで暴走し暴れるジークを止めて、マスティア、オルタと共に両脇に抱えてこの瘴気の怨霊殿を抜けて行った。
アナザーの無邪気で恐ろしい笑い声がいつまでも響き続ける。
ジークは初めて感じていた。
恐怖でも怒りではない。正真正銘、自分に対する敗北感と無力感。どうしようとない悔しい感情を心の奥底に感じながら、彼は2度目の敗走をしてしまうこととなった。
新たなる戦いの幕開け
その後何時間にも及ぶ逃走から、アークノア達はとある森まで辿り着いた。なんとか逃げ切ったもののその表情は暗かった。各々自分が初めてぶつかった大きな壁に絶望するしかなかったのだ。
しかし同時期、とある場所で大きな動きがあった。
それは碧雷の帝王率いるヴォルカ帝国でのことだった。
帝下暗黒四天王の1人、アライバル・ゼロの死亡。そして殲滅の魔王の完全復活。
配下からその知らせを受けた碧雷の帝王はニヤリと邪悪に笑った。
「いいだろう。これを期に我々も本格的に始動しよう。...このクリーチャー界全てを我が帝国の完全な支配下に置き、“全宇宙の理想郷”を手に入れる計画を...な」
絶望に打ちひしがれているアークノア達はまだ知らない。
これより始まるのはここ数百年のクリーチャー大戦の歴史を大きく変える大規模な戦い。
超獣世界最大戦争であることを....
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