全ての始まり
無限に続く宇宙...その広さを知る者は誰1人としていない。そしてそれを探るような、危険な行為をしようとする者も誰1人としていなかった。
しかしそんな宇宙を移動する、一つの巨大な船があった。それは 《Universe Utopia 〜全宇宙の理想郷〜》、惑星並の大きさを持った大きな方舟である。
その存在はありとあらゆる世界で、語り継がれし物語として広まっていた。皆が幸福で、幸せに満ちた理想郷...と。
御伽話として語られたこの存在は今、ある惑星に向かって突き進んでいた。
「もうそろそろ見えてくるはずだ。Alternativeを起動せよ」
彼らが向かうのはどこなのか......それはクリーチャー世界。そして、彼らはそこで“エネルギーの補給”を行おうとしていた。
平和な世界
ここはクリーチャー世界。5つの文明が存在しており、それぞれが独自の文化を築きつつも、互いが支え合って生きていた。たとえ別の文明のクリーチャーであろうと、そこに差などなかったのだ。
アークノアもそのうちの1体であった。彼は文明を持たない特別なドラゴンであったが、あるきっかけをもとに、人型のクリーチャーである クレア?と ロードと共に穏やかに暮らしていたのだ。
最初はどこが馴染めずにいたアークノアだが、彼女達の献身により少しずつ生活にも慣れてゆき、他の文明のクリーチャーとも仲良くなっていった。
「どうやら今日は、クリーチャー世界の界王様が誕生して1万年の記念日らしいぜ」
「どおりで、色んな文明からのクリーチャーが多いわけだ」
「そういえば、アークノアはこの式典に参加するのは初めてだったか」
「そうだな。私自体、ここに来てまだ1年も経っていないわけだ」
「...ふふふ、そうか。まだ1年も経っていないのか、時の流れってのは意外にも遅いものだな」
願い
2人がそんな会話を続けていると、ある話に移った。
ジェミニスはとあるペンダントを取り出した。そこには彼の妻と、娘の写真が載っていた。
「....今のクリーチャー世界は平和だ。...だがそれもいつまで続くか分からない。私は娘が...いや、娘達の世代が幸せな未来を生きていけるようにしたい。そのためにも、君の協力が必要なんだ」
「....つまりどういうことだ?」
「君に騎士団に入ってほしいのだ。君の力があればよりこの世界を強く守っていける」
騎士団への勧誘であった。アークノアは少し考えていた。彼自身は今の平和な日常を望んでいる。なるべく戦いの場には赴きたくないと考えていた。
しかしクレアやロード、そして他の仲間達が幸せに生きていくのは彼自身も望んでいることであった。
「わかった。その誘い、喜んで引き受けよう」
「....ありがとう、アークノア」
するとジェミニスはある物を彼に渡した。それは不思議なお守りといった物であった。
「もうすぐ君とクレアの結婚式があると聞いた。私はそれに出席することはできないが、せめてもの贈り物を受け取ってくれ」
それを渡すと彼はその場から去った。そのお守りは虹色に輝いた見たこともないものであった。強い力を感じるそれを、彼は自分の懐に仕舞った。
悩み
その日は祭りを楽しんだ後、アークノア、クレア、ロードは空を飛んで家まで帰っていた。アークノアの背中になる形で2人はクリーチャー世界の広大な空を眺めていた。
「綺麗な星ね」
「そうですね姉さん。....それにしても不思議だ。あの小さな星、全てが僕達が住んでいるこの星と同じように存在していて、同じくらい大きいものかと思うと...どこか自分のことが小さく感じられます」
「...全くだ」
そんな夜空を眺めながら、アークノアはたった一つの悩みを抱えたままであった。晴れない空のようにどんよりとした不安...のようなものをアークノアは持っていた。
「....どうされました?アークノア様」
クレアはその様子に気がついたようであった。その言葉を聞いたアークノアは一瞬まずいという顔をしたものの、どこか観念した様子で語り出した。
「....もうすぐ私たちは結婚する。だが、私と君は種族がまるで違う。君達は人形の種族であるが、私はドラゴン種...そこにはやはり...あまりに大きな壁がある」
アークノアの悩み。それは彼女との種族間の壁であった。身分違い以上に大きな壁。無論彼はクレアを愛しており、クレアもアークノアを愛していた。だがそれ故に種族違いの結婚による見えない未来を憂いていた。
自分に彼女を幸せにできるのか。それが彼の大きな悩みだった。しかし
「....アークノア様も随分と小さなことで悩むのですね。今から行く未来が見えないと言うなら、私達が示せばいいのです」
「....?どういうことだ?」
「きっと、この世界には私達と同じように種族違いで愛し合ってるクリーチャー達がたくさんいます。そして、アークノア様と同じように不安に思ってる方々もいるでしょう」
「....それはそうだ」
「だからこそです」
そう言うとクレアはアークノアの翼を優しく撫でる。愛おしさ、親しみ深さ、慈愛の心...あらゆる感情をその動作ひとつひとつに感じられた。
「私達が先導してそんなクリーチャー達を導くのです。幸せな未来をあなた達も生きていけるって....そう教えればいいのです。私達のこれからの姿を見せて」
「....!!」
彼はクレアの言いたいことを理解した。そして彼女の言葉の奥底に眠る思いも強く感じ取った。
「心配なさらないでください。あなただけに私の幸せの全てを押し付けたりなどしません。私の幸せの半分をあなたに、そしてあなたの幸せの半分を私にください。.....それが私の本当の想いです」
「クレア.....」
夜空の星々は今でも輝き続けている。暗い夜空を横切るアークノア達を照らし、その姿を届けてくれる彼らだけであった。しかし彼らはその姿だけを見せつけた。
羽ばたく音もアークノアの口から溢れた言葉も、遠くから見ている者にはいっさい届かない。しかしアークノア達にとって、それはとても重要で、そしてかけがえのない物だったのだ。
「約束する。私は...君と私の未来も...そしてこのクリーチャー世界の未来も.....必ず作り出してみせる。だから、君の幸せの半分を、私の幸せと交換してくれ」
侵略者光臨
「明日はアークノア達の結婚式....か」
「すごい大きな式になるわね、きっと」
月明かりの照らす夜の下で、バルメシアとアークノアの友の一人である ジェシーがいた。
クリーチャー世界での結婚式は想像の何百倍も壮大であり、なおかつ騎士団就任の議も含めているため、稀に見る大きな式となる予定であった。
「なかなか楽しみだな」
「アークノア達の幸せな未来...ちゃんと見届けようね」
そう明日に想いを馳せていると、暗い夜空に突然一つの光が差し込んだ。クリーチャー世界ではよくある現象...彼らは最初はそう捉えていたのだが、その光の中から現れたものに彼らは戦慄した。
そこから現れたのはあまりに巨大な物体....いや、口であった。
また全てを飲み込めるほどの巨大な穴が空から出現したのだ。そして、その開かれた大きな口からは得体の知れない生命体が現れた。
それは機械、ロボットのような見た目をしていた。まるで無機質な存在。しかしなぜか生きているとわかるほど、強い生命力を感じる。そしてその未確認生命体は、突如として目の前にあった村を一瞬にして消滅させたのだ。
それを見たバルメシアとジェシーは絶句した様子でその光景を見た。そしてすぐに次に移すべき行動を理解した。
「ジェシー!今すぐ騎士団に連絡しろ!これは非常事態だ!!」
「わ、わかった!!」
明らかな異常事態、クリーチャー世界に未曾有の危機が迫りつつあった。しかしジェシーがすぐさまその場を去ろうとしたその時である。
「.....*Scan*....enemy....[対象]....2体......。Alternative....コレヨリ、殲滅ヲ開始シマス」
絶望の戦い
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