「絵本が大好評につき三作目でアラオザル書房より出版される運びとなりました」
「ぅえええええー!?」
青墨色の髪をサイドテールにした少女が椅子から飛びあがった。
少女の前には頭に花を文字通り咲かせた友人が向かい合う形で座っている。
「児童書の編集を勤める学園OBが偶然、前二作を目にしまして。
物語だけでなくあきら監修の配色も好評価でしたよ。特に血の色合いが」
「そこ褒められても素直に喜べない!」
「という訳でデビュー作として描いたものが此方です」
ある町のほとりに美しい湖があった。
この湖は愛し合う男女が引き裂かれた際に、神が流した涙からできたという伝説があった。
その伝説と同じように、愛した少女と離れ離れとなった少年が町には住んでいた。
少年はもう一度少女に会いたいと強く願いつづけ――時は流れる。
少年は礼節を重んじ、武芸に秀で騎士の中の騎士と呼ばれるようになった。
容姿も端麗で周りの女性はその姿にいつも目を奪われていたが、少女への想いが変わる事は無い。
ある日、騎士は湖のほとりで月の光に照らされた、美しく成長した少女と再会する。
二人は離れていた時を取り戻すかのように語り合い、結婚することを誓う。
若い二人が祝福を受けながら結婚しようとしていた。
結婚式の途中で、騎士の妹が小さく光るナニカを見つける。
ソレは騎士の妹に囁いた。
「兄をキミだけのモノにしないかい?君だけを愛するべきじゃないかい?」
許されざる想いを秘めていた妹の心の隙に、ソレ甘く囁きかけた。
どうして、どうして、どうして。
私は兄に選ばれなかったのでしょうか。愛されなかったのでしょうか。
どうして、どうして、どうして。
兄は貴女を選んだのですか。愛したのですか。
私は兄の全てが愛おしかったのです。
顔も、体も、心も、魂も、全て。望むなら、兄の足に接吻することすら厭いません。
私は兄に全てを捧げられます。
顔も、体も、心も、魂も、全て。望むなら、兄の玩具であってもいい。
私は貴女の全てが憎らしいのです。
顔も、体も、心も、魂も、、全て。許されるなら、貴女を手にかけることすら厭いません。
私は貴女に嫉妬しています。
顔も、体も、心も、魂も、全て。許されるなら、貴女の代わりであってもいい。
兄が望むとは考えません。私が許されるとも思えません。
だけど。 本当に、どうしようもないのです。
どうしようなく、どうしようもなく私は兄を愛してる
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる
愛してる愛しテル愛シてル愛シテる愛シテル愛シテル
大好き大好き愛してる大好キ愛シテる愛してる大好き
大好キ愛しテル愛してる愛してる大好キ大好キ大好キ
愛シテル大好キ愛愛Aaaaダい好きkkkkii愛シテルルluルルルルuuuuu
生温かさ包まれて、騎士の妹は我に帰る。
正気に戻った彼女の手には血で染まった斧が握られ、床には兄の女の牧師の参列者の首が転がっていた。
惨劇の中で妹の顔は穏やかな笑みを浮かべる。
「コレデオニイサマハワタシダケノモノ」
時が過ぎた今でも、男の首を持った女の亡霊が湖のほとり徘徊しているという。
「……途中までは、途中までは……」
「妹への配慮が足りなかった兄の失敗談が綴られた資料を参考にしました」
「参考にする資料を絶対間違えてる」
「なお、囁きかけている声は妹の本音と言う裏設定です」
「そんな裏設定聞きたくなかった!」
ツッコミながら少女は考える。
こんな内容でもそのまま出版されそうで怖い、と。
何せあの前二作に好感触を覚えるような編集者なのだ。
自分が頑張るしかない、後の世で蒼の賢者と呼ばれる少女は覚悟を決めた。
最終更新:2012年03月02日 01:17