気付くと、私達は深く暗い井戸に沈んでた。
私達は、誰だ。
何も思い出せない。
何を思い出そうとするのかも思い出せない。
私は、ここで、止まっていた。
私は、ここで、終わっていた。
ここで、全て。
喜びも悲しみも未来も現在も過去も。
暗澹たる水溜りに浸り、全てが消えていく。
これが死だと理解し、私達はうっすらと笑って。
嗚呼、退屈だと仄かにつぶやく。
もう諦めていた。諦めていた。
そうして、私達の中にあった無数の私達が完全に混じり合った頃。
暗闇が、ほんの一瞬晴れた。
我々は光が信じられず。
しかし深く暗い井戸は光に照らされる。
其処にひかりが在った。
ひかり、だ。
ひかりは暖かく優しくて。
その温もりに真実、はじめて理解した。
嗚呼、ひかりとはなんと美しいことか。
壊れた心に、ひかりの輝きは眩過ぎる。
けれど、それすらも愛しい。
どうしたら良いのだろう。
壊れた我々では、わからない。
そう呟けば、ひかりにぎゅ、っと。
抱きしめられて、我々は静かにはらはらと泣いた。
この温もりから抜け出すのが嫌で。
嗚呼、ひかりのもとにいよう。
我々を認めてくれた、ひかりのそばに、あろうと。
ひかりは、我々に新たな器を与えてくれた。
ひかりは、我々を命なき生きた鎧と呼んだ。
ひかりは、我々に命を下す。戦えと。
命を与えられる事が我々は嬉しかった。
ひかりだけが、我々を見つけてくれたのだから。
その光の役に立てる。更に――
我々の苦しみを、少しでも我々以外に味あわせてやる事が出来るから。
我々は無数に存在した個が混じり合い溶けあい生まれた存在。
我々の中でひかりの次に最も強い我々は、悪意だ。
――ウファアァッッ――
我々の中の無数の我々が、笑った。
――キハハハハハッ――
我々の中の無数の我々が、笑い続けた。
――ヒヒヒヒヒ、ウケェェェエェケ、キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ――
さあいこう。
ひかりのために。
ワレワレハカエッテキタゾ
青墨色の髪をサイドテールにした少女が固まっていた。
今までのものは仮にも(冠に「本当は残酷な」がつくにしても)童話と呼べた。
これは、何と言うか、色々ダメだ。童話じゃない。ホラーでもない。狂人の手記?
「どうでしょうか。今回は冒険要素を取り入りれて――申し訳ありません、手違いがあったようです」
と、ここでビーニャが気付く。渡した原稿が間違っていた事に。
「ああ、間違いだったんだ、よかった……となるなと、コレは?」
没にした筈の物が紛れ込み渡してしまったと聞かされ、ふと浮かんだ疑問をぶつける。
「リビングアーマーから読み取った記録などを文章化し纏めた資料です」
後の世で蒼の賢者と呼ばれる少女は、友人のお供が実は物騒な存在だったと知った。
最終更新:2012年03月02日 01:19