作業台に転がされたその残骸を、私と後輩で覗き込む。
無数の罅が走り、内部から爆発した様に半ばから消失している。
飛行用機殻箒マレフィカルムマリウス。
魔技研の試作案が節操無くぶち込まれたワンオフ箒だ。
基本フレームからして試作航次元脱出艇を縮小して再設計されており、異色さが窺い知れた。
いくらスポンサーのお蔭で予算が増額されハイになっていたとは言え色々ダメ過ぎる。
奇人怪人の巣窟たる魔技研で数少ない常識人筆頭たる私としては頭が痛い限りだ。
なんだ後輩。その同じ穴の貉乙、な目は。
まあ、いい。今はこの箒だ。
モニターを操作し、岩峰大地との競技時に撮影された映像を表示する。
推進部は良い。素晴らしい。既存技術の十世代は先を行っているかもしれん。
まあ突っ走り過ぎて他の部品と協調性も置き去りにしているが。
本体の剛性を高める為にフレキシブル・ブロック・システムを導入したのも解る。
だが魔力伝達は一万分の一。そもそも乗り手に問題があるとはいえ、これは酷い。
噂に聞く馬鹿魔力に耐えるとなると使用できる材料が制限されるのは仕方ないかもしれん。
しかし慣性制御術式はこの装甲材のせいで無いよりマシ程度にしか機能していない。
柄に砲口が仕込まれているので重心が偏り旋回性も劣悪極まりない。
ただでさえ過剰積載気味で操縦性に難のあるのに、バランスが狂って飛ばすことさえ苦労するな。
この砲も射程が短く弾速が遅く攻撃後に失速し隙になる、と火力の引き換えに失うものが多すぎる。
唯一救いがあるのは緊急停止にも応用が利く事だが、これも機能不全を誘発する恐れあり。
結論から言えば、空前絶後の欠陥箒だ。
……ああ。私だって解っているさ。
ぶっちゃけ一から作りなおした方が早い事くらいな。
だが仕方ないだろう、クライアントの要請がリファインだ。
面倒な仕事を押しつけられてしまったが仕方ない。
とりあえず今出た問題点もまとめて報告して――
なんだ後輩。こんな箒の乗手はどんな人ですかって?
確かに作り手から見ても、乗り手から見ても欠陥品しか思えない箒だな。
とてもではないがこれで空を飛ぶ、なんて冗談という言葉すら超えていると思う。
魔術師にだって、出来る事と出来ない事が確かにある。ああその通りだ。
つまりこんな物でも空を飛ぶ事が出来る非常識なやつって事だ。
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それでは、『マレフィカルムマリウス』改修計画の第一次中間報告をさせて頂きます。
クライアントとのチャンネル役の理事を前にし、後輩が緊張した面持ちでポインターを握っている。
モニターも操作する後輩に一つ頷くと、真っ白な箒が映し出される。
まず、こちらが素体となります。
スノウラビットシリーズの実動データを流用しているのでやや細身ですが……
エーテル衝突型分離加速器を使った魔導機関を採用し慣性制御術式の常時展開が可能です。
機体色が白色なのは耐魔力コーティングの関係ですが上から塗装しても問題はありません。
部材の再構成によって改修前より軽量化、約25%の出力強化により総合的な機動性を向上しました。
推進部パーツはマレフィカルムマリウスの物をそのまま使います。
はい、比較的損傷が少なく非常に高性能でしたので。
……辛うじて使える部分が推進部だった、とも言う。
それもリミッターをかけまくり大幅に性能を落して、だ。
しかしそんな事実を私はおくびにも出さず説明を続ける。
CGモデルの箒にスラスターが装着。
人によっては兎の耳の様にも見えるかもしれない。
偶然だが、枕兎を飼育する乗手には受けが良いかもしれない。
マナ粒子生成放射型テールスタビライザー・ウィングを装着します。
箒ドライヴの中核を担うパーツですので安定性を強化し100%性能を引き出せるよう現在調整中です。
これによりマレフィカルムマリウスの最大の特徴であった加速性に加え、繊細な姿勢制御力を獲得。
また各部にかける負担を低くなるよう工夫することで機動性・加速性は極めて良好。
センサーには新式の強化樹脂を採用。高機動型の箒にとってはレーダー、センサー性能が重要です。
万一、高速機動中にこれらが破損すると自滅する恐れが非情に高まりますので。
ただ……高機動性と出力効率の見直しを優先した結果、武器機能は削減しました。
現時点では一切搭載せずに、まずは箒の基本性能向上に努めたいところです。
武器を搭載すると、どうしても他の機能を圧迫します。
高機動型の箒にとって、ともすればデッドウェイトになる事は致命的なのです。
特にこの箒の乗り手は莫大な魔力の持ち主ですから、剛性を重視する必要もありますし……
今の形状に拘らなければ、問題は解決するのですが。
え、形状に拘らない場合はどうなるか、デスカ?
何気ない疑問に、私は勢いよく後輩に振り返える。
資料βに切り替えろ!
ネタじゃなかったのかだと?
当たり前だ私はいつでも本気だ!
ほら、早くしろ準備しろ!
スクリーンが切り替わり、1つのシルエットが現れた。
柄の先端に位置する円盤状の器官から蔦が絡み、無数の球状器官を連ねる。
球体は血管系らしき組織が脈動を繰り返し、胞子嚢の様にも腐敗した肉腫の様にも見えた。
先端以外には節足動物を思わせる無数の脚部を備え、光沢を放つ粘液に塗れつつ忙しなく蠢く。
所々に見える気孔にも似た器官が息衝き内部を覗かせ、生命活動をしているかの様に思わせる。
全体的にセンサー等の機械部分は申し訳程度にしか見受けられず、とても生物的である。
――巨大な寄生植物に取り付かれた昆虫。明らかに邪悪で醜悪で神秘的なこの外観こそ!
お待たせしましたシーニャ理事!
私はこれこそが真のマレフィカルムマリウスであると自信を持って答えましょう!
その名もマレフィカルムマリウス・ストリガ!!!
前案は言うならばデザイン性を優先した妥協の産物でありましたが!
機能美のストリガであれば如何なる武器機能やオプションの換装にも対応!
また連結式生体補助脳を搭載することで千の魔術の蓄積と平行運用を実現!
メインスラスター上部にはサブスラスターを増設し、移動する際のレスポンスも改善しています!
これらを連動して稼動させる事で高い機動力とアクロバテックな変幻自在の運動性を同時に実現!
乗り手との物理接続により箒を自在に制御する、精神同調型システムを試験的に搭載!
生体補助脳や制御系と同調する事で、反応や直感を箒に反映させる真の人騎一体を可能とします!
各部位のバイオセンサーと併用すれば、多次元標的の複数同時ロックオンすら容易!
負荷分散関節機構の導入により追従性及び運動性も向上しており、独特の粘りと撓りを獲得!
他にも脚部と連動したバランサーシステムを導入、姿勢制御機能により安定性と信頼性を増しています!
この脚部AMBACシステムにより高い運動性と攻撃時の安定性を維持しつつ、高速での飛行が可能なのです!
これらのシステムは生体補助脳が制御するので乗り手が操作する事無く常に最適な状態を保ってくれます!
極めて良好な運動性、機動性、火力を発揮し、更に強力な自己再生機能で乗り手すら再――
え、没?
……しかし前案より遙かに高性能で安定性にも優れておりまして。
没ですか、はい。はい、すみません、すみません。
はい、はい。次の報告までには更に煮詰めます、はい。
……ふう、駄目だったか。
やはりコスト3000倍というのがネックだったかな。
まあそれが原因で魔技研の予算が削られて会長が悲しむ事は私も望む所では――
なんだ後輩。問題は其処じゃないって?
【終われ】
最終更新:2012年03月02日 01:19