アットウィキロゴ
これはまだ真田が雷の使い手で、まだ多重人格者でも無かった頃の話です
実際に本スレで話してたときと違う事を話してるかも知れませんがその辺りはご了承ください


「じゃあ行ってくるぞ」

7年前、とある街にある真田家
その玄関前で父親の見送る家族の中に誠の姿はあった

「はい、気を付けていってくださいね」

「お土産とかはいいから怪我とかはしないでね、お父さん」

「ああ、わかってるよ。なぁにこんどの仕事は長くはなるがそれほどキツイ仕事じゃない
 ただの要人の護衛だからな」

父に言葉をかける母と姉
だが誠はしょんぼりした様子で

「お父さん、本当に行っちゃうの?やだよ、僕もっとお父さんと遊びたい!」

「誠・・・」

引き留めるように父の足下にくっつきながらそう言う
父親は誠と同じ目線までかがみながら話す

「いいか誠?お父さんもできればお母さんやお姉ちゃんやお前と一緒にいたい
 けどいろんな人がお父さんの力を必要としてくれてる、だからお父さんはそれに応えなくちゃならない
 それはわかってくれるよな?」

誠も子供ながらにそれは理解していた、父の仕事は決してほっぽり出したりできるような物じゃないと
だがまだ9歳なのだ、まだまだ父親に甘えたい年頃だ

「うん、グスッ・・・でも」

「お父さんがいない間はお前がお母さんやお姉ちゃんを守るんだ。
 泣くんじゃないぞ、お前は男だろう?」

「うん、僕泣かないよ
 お父さんに心配かけたくないし・・・
 だからお父さんも早く帰って来てね、約束だよ!」

「ああ、約束だ」

誠と話し終わると同時に立ち上がる父

「それじゃあな、行ってくる!」

「いってらっしゃ~い!」

姿が見えなくなるまで手を振り続けている誠
やがて父親が見えなくなると手を振るのをやめ、家に戻る



それから1週間が経って
誠の街では最近魔物の動きが活発になってきているという現象が観測されていた
そして、当時現役の魔術師であった氷山和彦はそうした魔物から街の防衛を行うガードの事務所へと呼ばれていた

「じゃあ、やはり近いうちに大規模な襲撃が?」

「ああ、それも戦える優秀な魔術師が少ないこの時期にだ
 真田もどうやら1週間ほど前にこの街を発ったらしい」

「しかし、それが本当なら備えなくてはいけません」

「そうだな。だから氷山、君にそれを任せたいというのが今回の依頼だ」

「そう言うことですか、わかりました引き受けましょう」


そして、真田の通っている小学校でもそのことは既に知らされていた

「最近魔物達が活発になってきています、寄り道などせずに早く家に帰るように」

「は~い!」

基本通学路には魔術を使える者が見回り、実際に見付けた場合には排除しているが
やはりそこは遊び盛りの子供なので、通学路から外れたコースを行く場合もあるのだ

「魔物なんか俺がみんな倒してやるから安心して良いぜみんな!」

「こら!本当に魔物は危険なんだ!馬鹿な事はやめなさい!」

「へ~い・・・」

一人の威勢のいい生徒が声を張り上げるが、すぐに教師の注意が飛ぶ
クラス全体が笑いに包まれる中、誠は一人考え事をしていた

(魔物・・・か)

『お父さんがいない間はお前がお母さんやお姉ちゃんを守るんだ』

(僕がしっかりしなくちゃ、お父さんがいない代わりに僕が・・・)

端から見れば「俺がみんなを守ってやる!」という良くあるヒーローのまねごとにしか見えない
だがこの時の誠は小学三年生に似つかわしくない想いを抱いていた
それだけ彼にとっては父親の存在は大きかったのだろう



それからさらに数日が経った
やはり予想していた通りに魔物の襲撃はあり、街はあわただしい空気に包まれていた
魔術を使えない者、または使えるにしても自衛のできない者は指定の避難所へ
そうでないものは安全対策をして家から出ないようにという勧告があった

「詩織、誠、何があっても決して家からでないでね、母さんのお願い」

「お母さんはどうするの?」

「お母さんは魔物と戦ったり、襲われて怪我をした人達を助けてあげなくちゃいけないの
 この家にありったけの防衛結界をかけたから、ここにいれば安心よ」

母は当時優れたヒーラー、及び防衛術士として病院に勤めていた
父との出会いも負傷して運ばれた父を看護したのが始まりらしい
そう言い残して家から出て行く母を見送る詩織と誠

「お父さんもいないし、お母さんも行っちゃったし、大変ね、優秀ってことは」

姉が腕組みをしながらそう言う
確かに力があればその分人から頼りにされるだろう

「でも仕方ないよ、お父さんもお母さんも仕事なんだから」

「そうね~、私は将来あんな風に振り回される仕事は嫌かな~
 じっくりマイペースにできるのがいい」

「避難勧告が無くなるまで何しようかな~」と呟きながら二階に上がっていく
 姉を見送った後、頬に手をつき外の様子を見る誠

「大丈夫かな・・・?」

そんなことを呟いててもまぁ何も起きないわけがないわけで

「ま、魔物だー!」

何処からか聞こえる悲鳴

「ん、今のは!?」

それを聞くがはやいか立ち上がり、勢いよく玄関から家を飛び出す。



家を飛び出し、悲鳴の元を探すこれでも感覚には自信があった

「やっぱりもう魔物が入り込んでるんだ・・・」

十字路を曲がり、悲鳴の主を捜して走り続ける
するとワイバーンに襲われている人達を発見した
既にその周囲には何人もの人が倒れている

「え・・・あれが・・・魔物?」

自信はあった、小さい頃からいつも魔法を練習してきた
もちろん実際に実力もついていた、けれどこの9歳の少年は
まだ本当魔物の怖さを知らなかった

「見たことない・・・あんなの」

呆然と立ちつくす誠、だがワイバーンが目の前で人を襲おうとしているのを見て
慌てて攻撃を仕掛けようとする

「ええぃ!」

雷を腕に纏わせ、殴りつけようとするが
邪魔をするなとばかりに死角から飛んできた尻尾の一撃にはね飛ばされる
予想もしなかった一撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる

「う、う・・・ぁ・・・」

もろに衝撃を受けて折れた左腕を押さえ、もう一度ワイバーンを見る
邪魔はいなくなったとばかりに逃げ遅れたと思われる一人の男性に向き直る

「こ・・・腰が、来るな・・・来るなぁ!」

足で踏みつけられ、動きを封じられる男性
ワイバーンの口が開き、まさにその体を食いちぎろうとした時

「やめろ・・・」

ワイバーンの後頭部に雷撃が直撃、ワイバーンには蚊に刺された程度にしか
感じなかったものの、意識を逸らすには充分な一撃だった

「それ以上罪もない人を・・・傷つけるなー!」

ワイバーンは排除したはずの目の前の力無き少年を攻撃しようと口を開ける
そこから咆吼と共に火炎弾がはき出される・・・だが

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

一方誠からは叫びと共に強大な雷が放たれた!



放たれた雷は火炎弾をかき消し、ワイバーンの体をも灼く
続いて誠の体からは四方八方にさきほどと同じ雷が飛び散っていく

そのころ街の防衛戦で奮闘しているガード達にもその雷は目に入った

「くそっ!既に街にも入り込まれてるぞ!」

「まだ避難が終わったない人もいるんだ、このままでは!」

一体一体の力は強くないものの、相当な数の魔物が攻めてきており
既に特に手薄な空からは魔物が侵入してしまっている

そんななか、目の前のオークを倒した和彦は不意に街で出現した力を感じ取り振り返る

「待て?何だあれは!?」

「いかずち?こっちに向かってくるぞ!」

誠の放った雷はガードも魔物も関係なく襲いかかる
ガード達はそれぞれが障壁で防ぐが反応できなかった魔物達は雷を受け、倒れていく

「そんな・・・これは一体・・・」

呆然と立ちつくす和彦、そのころ負傷者を運んでいる避難所でも

「何者かが放った雷が飛んでくるぞ!全員、障壁を最大展開!」

特に防御などに優れた魔術師の集まっているため、なんとか難をやりすごしたものの
手当を行っていた母は今の雷を見て愕然とうなだれる

「今のは・・・誠の雷、おそらく暴走したんだわ・・・」

その他にも雷は街中を襲い、その雷を受けた者は次々と倒れていく
やがて雷は止み、全ての魔物が雷に撃たれ消え去った後

「う・・・」

雷を放った張本人も意識を失い倒れた

第一章終わり




雷が止んでから
街を覆った雷によって魔物は一匹残らず消滅していた
同時に人間の中にも雷を受けた者がいたが不思議な事に魔物のように消える事はなかったという
しかし、当然無傷というわけでもなくあるものは背中に大きな火傷を、あるものは全身に痺れ走っていた

幸いというのか、死者は一人も出ていないが
雷の他に魔物に襲われ動けない者や、意識を失った者を運ぶため
さらに倒壊した家屋の後始末などで街には様々な人間が右往左往していた

『大丈夫か…?避難所はあっちだ、手を貸そう』

『これはまた派手に壊れてるな~…あの雷のせいかぁ?』

そんな中、魔物の消滅とともに救助に当たった者の中に氷山和彦の姿もあった
雷によって攻めてくる魔物が全滅したのを確認すると同時に街の内部に入り込んだ魔物を
掃討しようと考えて戻ったものの、外同様魔物の影は見あたらなかったく
そこで一足早く救助活動を行う事に決め、行動を開始したのだった

「しかし。あの雷は何だったんだ…
 魔術師の放った物のようだが、あれだけの魔力をもつような奴が街の中にいたという事か?
 だけどそんな奴がいたとして俺が把握してないはずはないんだがなぁ?」

少ない戦力で街の守りを整える際にガードの戦力は当然把握している
そして戦力増強のためたまたま街に来ていた外の魔術師にさえ声をかけたのだ
だがそうした者は加わることなく巻き込まれまいと早々街を去っていった者ばかりで
とてもあのようなことが出来る人間がいるとは思えなかった

「いや、考えていても仕方がない。
 今は今やるべき事に集中しよう…ん?」

要救助者を探してあたりを見て回ると、一人の倒れている少年を発見する

「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」

すぐに近くに駆け寄り助け起こす
まるで少女と見違うような顔を持つ少年は(男だと解ったのは服装が明らかな男物だから)
苦しげな症状ではぁはぁと息をしている、どうやら外傷はないようだ
しかし、だとしたら何故倒れているのだろうか?

「転んで頭を打って気絶したか、もっと他の要因か…
 なんにしてもここじゃわからない、運ぶか」

首元と膝の裏当たりを持ち、いわゆるお姫様だっこの形で抱きかかえ
ひとまず避難所へと向かう



「なんかすごいかみなりが来て、怪物がみんな消えちゃって…
 人がいっぱいいるからもう大丈夫ってことなのかな?」

怪我をした人間に肩を貸して歩く人間
ただ単に野次馬として歩く人間
壊れた家屋を直すべく魔法の詠唱を唱えてる人間

それらのような人間達とすれ違いながら歩く少女
緑の瞳に母親譲りの青みがかったショートヘア
街の防衛に参加した氷山和彦の一人娘、氷山葵である

「お父さんはどこだろ?
 危ないから家から出ちゃだめって言ってたけど
 やっぱり気になるし…」

父の姿を探しながら歩き、街を縦断する川に掛けられた橋を渡る
先程から周りには壊れた家や焼け落ちた木などが見える
今しがた通った公園はブランコが熱によって溶け落ちていた物まであった

「うわ…すご…溶けちゃってるよ…
 これも怪物のせいなのかな…?」

「ん…?あ、あれは葵!?何であんなところに…
 まぁいいか、丁度良いからこの子を運ばせるとするか
 お~い、葵~!」

溶けたブランコを触っていると突然声がかかりそちらを向く
そこには先程から探していた父の姿があった

「あ!お父さん、やっと見つけた~!」

和彦の元へ駆け寄る、すると父が抱きかかえている見知らぬ子供が目に入った

「あれ…誰、その子?」

「ああ…ちょっとな、丁度良かったんだ
 葵、この男の子を避難所まで運んでくれるか?
 まだ他にもやることがあってな、このぐらいなら葵でもできるだろ?」

「うん、べつにいいけど
 それよりお父さん、さっきのあのかみなりってなに?
 怪物は?どうなっちゃったの?」

先程から気になっていた疑問を父にぶつけてみる
自分は知らなくても大人なら知っているだろうという子供ながらの心であったが

返ってきた答えは

「う~ん…お父さんにもよくわからないんだ
 とりあえず魔物達はもういないみたいだから心配しなくても大丈夫だ
 じゃあ…頼んだぞ?」

そう言うが早いか少年を置いて走り去ってしまう父



「う~ん…」

とりあえず仰向けにしてみる
体つきは華奢で体は葵より少し大きいぐらいか
顔を見てみると女の子と見紛うような可愛い顔立ちをしている
だが父が男の子と言ったからには男の子なのだろう

「こんな子もいるんだね、変なの
 けどちょっと好みかな~?」

『念のため言っておくとそういう趣味ではありません
 葵はおとなしそうな外見の子がタイプなのです。by中の人』

「ま、いっか
 とりあえず運びやすいようにしちゃお
 えい!氷のベッド!」

自分より体の大きい者を運ぶのは大変なので
運びやすくするために氷のベット(病院のやつのような足にローラーがついた奴)を作りそこに乗せる
触れてる部分は冷たいかも知れないけど気にしない!

「さぁて、レッツゴー!」

橋の部分を掴み、一気に走って押して運ぶ
当然摩擦熱で足が溶けていくが適度に修復しつつ道を駆ける

『うわっと!危ね!』

「ごめんなさいー!急いでるんですー!」

反対側から歩いてくる人間と接触しそうになるが
勢いがついてるため急には曲がれず、相手側が避けるような形で進んでいく
一応、謝りつつ可愛く笑いかけておく

「そろそろ…あ、あそこだ!」

そんなこんなで途中に何度か危うく事故りそうになるものの
なんとか避難所へと到着した



『避難所内』

運んできた少年をベッドごと運びながら避難所内を見渡す葵
避難所として使われている建物は通常は公共の体育館として使われている場所だった

「わ~…たくさん人がいる…けど」

集まっている人々の中には怪我している者も多く、治療のために人がいったりきたりしていた

(みんな苦しそうな顔をしてる…みんなかいぶつがこわいのかな)

そんなことを考えながら少年を運んでいると

「そこにいるのは…誠!?」

怪我をした人を治療していたと思われる一人の女性が近くに駆け寄ってきた
優しそうな顔をしている女性は誠と呼ばれた少年を見ながら

「もしかしたらって思ったけど…やっぱり…」

「あ…あの…」

女性はハッとなりながら、葵の方を向く

「ああ、ごめんなさいね。あなたが運んでくれたのかしら?」

「うん、お父さんにこの子をここまで運べって言われて」

「そうだったの、ありがとう。あなた名前は?」

「私は葵です、氷山葵っていう名前です」

「氷山…?そう…私は真田知里よ、ありがとう葵ちゃん」

「どういたしまして!そういえば…この男の子の名前はなんていうんですか?」

ふとなんとなく気になってしまい少年の名前を尋ねる
すると知里というらしい女性はあらあらという風に顔に手を当てながら

「この子は誠、私の息子よ。でもどうしてそんなことを聞くのかしら?」

「え…?えっと…なんとなく…ですけど」

本当になんとなく聞こうと思っただけ、それ以外の理由があるのだろうか?
名前を聞き、そのままそこから立ち去る葵
避難所を出て、家へと戻ろうとする途中

「真田…まことくんか…」

なぜだかあの少年が気になった、理由はわからないけど



「さ…てと」

問題の息子に向き直り、体に手を当てて集中する知里

(どうやら魔力の過剰消費のせいで倒れたようね…なら)

光が腕、手と伝って誠の体に流れ込んでいく

「…!?あれ…?」

光が全身に行き渡ると同時に起き上がる誠
何があったのかわからないという風に周囲を見渡している

「気が付いたかしら?」

「おかあさん…?ここは…どこ?」

「ここはみんなが避難している所よ、傷は…無いみたいね」

服に付いている砂を払い落としながら腕や足を確かめる

「え…?あれ…腕…痛かったのに」

不思議という風に左腕を確かめる誠
だが骨折どころか外傷もなく、血一つ流れていない

「誰かが治してくれたのかもね、それよりも誠に聞きたい事があるの」

「え~?なに?おかあさん」

「お母さんは誠には家にいるように言ったわよね?どうしてあなたがここに運ばれてくるのかしら?」

「う……」

言葉に詰まったような様子だ、当然だろう

「ごめんなさい、家の中にいたら人の悲鳴が聞こえて…」

「助けに行こうとしたのね?」

コクリと頷く誠
ハー…っとため息をつきながら尋問を続ける知里

「それから、どうしたの?」

「えっと…ドラゴンが人を襲ってて…戦おうとしたんだけど全然かなわなくて…それで」

「それで?」



話すようにうながすも無言のままの誠

「それで…それで…」

どうしたんだろう…思い出せない…ドラゴンが男の人を襲おうとしてそれから…

「わかんない…気が付いたらここにいたんだ」

「……」

誠の言葉を聞き、スッと押し黙る知里

(どういうこと?あの雷は間違いなく誠の放ったもの…
 となると…記憶が抜け落ちているというのかしら?)

黙っている知里を怪訝そうに見てくる誠
息子を不安にさせぬように笑いかける

「そう…答えてくれてありがとう誠、もう疲れたでしょう?
 お母さんは今日は家に戻れないし、今日はここに泊まっていきなさい」

「うんわかったよ、おかあさん」

息子を氷のベッドから降ろし、床に寝かせる
そのまま他の負傷者の治療へと向かう
それを見送りながら真田は床に横になり

(本当に…僕は何をしてたんだろ?)

そんなことを考えてたら突然睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちた



魔物の襲撃があってから数日が経って…
和彦は再びガードの事務所を訪れていた
防衛の際の報告書の提出と報酬を受け取るためだ

「それでは負傷者は出たものの死者は0…ということだな?」

「はい…民間人はおろか、ガードの中にも死者はいませんでした」

「驚いたな…私の予想ではどんなに少なく見積もっても50人は出るかと思っていたのだが…」

提出された報告書を見ながらそう呟くガード事務所の所長

「実際…防衛戦は突破されかかってました、ですが…」

「うむ…私もあの雷は見た…避難する人々を先導していたときにな
 何人かあの雷に撃たれる者がいたものの、どの者も致命傷は免れていたよ」

「あれを受けて生きていたのですか!?」

「そう…だが…どうしたのかね?」

「いえ…そうですか…」

どういうことだ?魔物はあれを受けて跡形もなく消し飛んでいた…
魔物よりも遙かに弱く非力な人間など、それこそ一瞬で吹き飛ぶかと思えるほどに

「それにしても不思議な雷だったな……何者が放ったか和彦君、君は知っているかね?」

「いえ、少なくともガードの中にあれほどの魔力を持った者は…」

「ふむ…ますます不思議だな…この街を襲う災厄に神が裁きを与えたとでもいうのか…」

そう言いつつ回転椅子を回し、窓から景色を見つめる所長
「失礼します」と一言言い、退出する和彦


神…か、少なくとも自分にはそんな風には感じなかった
まるで子供の感情のような…純粋なものがあの雷から感じられた…
そして…もっと底の知れないなにかが…

「気になるな…」



「う…ん…」

深い眠りから覚め、目に飛び込んできたのは
いつもの見慣れた自室の天井だった

「ここは…ぼくの部屋?」

ムクりとベッドから起きあがり、目を擦る
割と寝起きが悪い方なのだが、ぐっすり眠ったせいか、不思議と頭はハッキリしている

「そうだ…たしかあれから眠っちゃったんだっけ?」

立ち上がり、いつものように着替える
そして、洗面所で顔を洗い、一階へと下りる
いつもと変わらない朝、つい先日魔物の襲撃があったなんて嘘みたいだ

「おはよー、お母さん、ってあれ?」

一階にいるはずの母に声をかけようとするが返事がない

「いないのかな?」

一通り見て回ってみるが誰もいない、どうやら出かけているようだ
ふと壁にかけてあるデジタル時計に目がいく

(そういえばきょうは土曜日…え?土曜日!?

確か魔物が街に来たのは水曜日、ということは…

(ぼく、二日も寝ちゃってたの!?
 でもそうすると今日は学校は休みだっけ…どうしよう?)

時間は朝の10時、何かするのなら充分に時間はある

「んー…さんぽにでも行ってみようかな…」



朝食を済まし、玄関から外に出る
眩しいぐらいの日光が差している、天気は快晴のようだ

「とりあえず歩き回ってみようっと」

そう呟き、道を歩き出す
そして10分ぐらい歩いたときのこと

「ここは…」

着いた場所はこの間の魔物の襲撃の時に人が襲われているのを見付けたところ
そして、何故だか記憶が途切れている場所だ

(本当にぼくは…なにをしてたんだっけ?ここで…
 あのあと魔物はどうしたんだろう?)

少しだけ思い出そうとするが、まったく頭には浮かんでこない
諦めて今の場所を見渡してみる、すると何かの物体が目に入った

「なにこれ?」

謎の物体は鋭く、弧を描くようなものだった
そう、例えるなら爪。しかもつい最近見たことのある動物の
しばらく観察していると何か違和感のような物を感じた

(なんだろう…この感じ?なんかへんな…。ッ!?)

唐突に頭に痛みが走り、手で押さえる
その時、意識の内側に白い光のようなものが流れてくる

「うっ…ぐ…ぁ」

頭の痛みはどんどん強くなっていく
同時に白い光のようなものも大きくなっていく

「う…あぁぁぁぁ!!」

そして光のようなものが臨界に達したとき
真田自身の意識がその光のような物に呑まれた


――おわり
最終更新:2012年03月02日 01:20