アットウィキロゴ
~今までのあらすじ~

杉崎と蘇芳がなんかいい関係になっていることを知り、嫉妬した瑠璃。
何を思ったか突然学園を二人の魔術師を連れて訪れる。
杉崎はボコボコにされ、怪しい魔術を体内に施されてしまう。
蘇芳は拘束され、瑠璃たちに捕まってしまった。
学園の生徒が駆けつけるも、死霊魔術師インディゴが何故か戦いを挑んでくる。
インディゴとの戦いが終わったとき、すでに瑠璃たちは蘇芳をつれてどこかへ消えてしまった。

あらすじ終わり



―空港―

「ただいま帰りマシタ」

「お帰りインディゴ。ご苦労様」

「このくらい御安い御用デス。久しぶりに楽しい殺し合いもデキマシタシ」

「あんたはそれだけでいいのね。ま、魔術師同士丁度よかったんじゃないかしら」

「ラピス先輩。何故妹さんを攫ったんですか?」

「ああそれはね、ちょっと楽しいところに連れて行ってあげようと思って…ね、銀?」

蘇芳は既に光の輪を外され、拘束を解かれている。
それにも関わらず、蘇芳は不満そうな表情で瑠璃を見つめていた。

「銀、言っておくけど逃げるのは無理よ」

「わかってるよ瑠璃姉。逃げるなんて考えない。でもなんでこんなことしたかの説明くらいはしてよ」

「はいはい、それは飛行機に乗ってからゆっくりと説明したげるわ」

「日本からあの島までは半日ほど掛かりマス。十分に時間はアリマスネ」

「飛行機の用意が出来たそうです。ボクたちもそろそろ行きましょう」



『ラピス様、インディゴ様、ヴァイオレット様!お疲れ様です!!』

「お迎えご苦労様。出発の準備は出来てるかしら?」

「滞りなく整っております、飛べと言われれば今すぐにでも」

「じゃ飛びなさい」

「冗談ですよ。まだ貴方様方が乗っておられませんではありませんか。ささ、お乗りください」

黒服を着た男5人ほどが小型の飛行機の前で瑠璃たちを出迎える。
男達は瑠璃たちを軽く労い、飛行機に乗るように促した。

「もしかしてさぁ、瑠璃姉ってすっごい偉い感じ?」

「まぁそうね。えっへん」

「…まぁいいや。ところでお腹空いたんだけど」

「それデシタラ、コチラをお食べにナリマス?先ほど空港で買ったジャンクフードデスガ」

少し大きめの紙袋を蘇芳に見せる。
誰もが知る、有名ハンバーガーチェーン店の袋だ。
もちろん中にはハンバーガーが入っていることだろう。
蘇芳は少し躊躇したが、やはり空腹には逆らえず、紙袋を受け取る。

「あ、えっと、ありがとうございます」

「イエイエ、お礼は結構デスヨ」

(なんか怪しいんだよなぁこの人。学園で先輩たちと戦ったって聞いたし、真っ先に七坂先輩に手を出したらしいし)

「何してるのよ銀、インディゴ。あとはあんたたちだけよ。早く乗りなさい」

「ハイハイ。ささ、お手ヲ」

「自分で乗れるんで、大丈夫です」

インディゴの差し出した手を無視し、さっさと飛行機に乗り込んでしまう。
だが蘇芳の手には先ほど貰った紙袋がしっかりと握られている。
乗って席につくなり、袋のハンバーガーをむしゃむしゃと食べ始めた。
それは空腹を満たすためだけでなく、会話を拒絶しているようにも見える。
それを見てインディゴは軽くため息をついた。

「ヤレヤレ、随分とお姉サン似な妹サンデスネ」



「それにしてもさ。なんなのここ」

「何って、飛行機の中だけど」

「いやそうじゃなくて。これってほとんど部屋じゃん。どういうことなの」

蘇芳の言うとおり、機内はまるでちょっとした部屋のようだった。
広いスペースには大理石のテーブルとふかふかのソファーが置かれている。
旅客機でいうなればファーストクラスレベルの設備が備え付けられていた。

「だってこのくらいじゃないとゆっくりできないじゃない?移動の間くらいはリラックスしたいもの」

「…といったラピスサンの我が儘の結果がこれデス」

「ボクは好きですよ。ふかふかのソファーは気持ちいいです」

「でしょ?さすがヴァイオレットはわかってるわね」

「…ところでさ、まだお話してもらってないんだけどさ。瑠璃姉」

先ほどまでハンバーガーを食べていた銀が、急に話を切り出す。
空っぽになった紙袋をくしゃくしゃに丸め、瑠璃に投げつける。
瑠璃は飛んできた紙袋の玉をひょいと避けた。
後ろに立っていた男がそれを拾い、ゴミ箱に捨てた。

「あーそうだったわね、お話しないとね。なんでこんなことをしたのか、だったかしら?」

「そだよ、早く話してくんないと私怒るよ?」

「最近あなたたち腑抜けているだろうから鍛えてあげようと思って。ありがたく思いなさいよ」

「なんという親切の押し付け。てゆーかなんで誘拐なんてするの」

「織姫と彦星の話は知ってるわよね。結婚したらニート化したバカップルのことなんだけど」

「大体あってるけどものすごく間違ってる気もする」

「要するに、別々に修行したほうがいいってわけよ。どぅーゆーあんだすたん?」

「おーいぇーす」

「先輩と妹さんの英語の発音、酷すぎです」



「で、今この飛行機はどこに向かってるの?変なところだったわ私帰るからね」

「そういえばまだ目的地について説明をしてなかったわね。
現在この飛行機は、食の楽園『グルメ島』に向かっているわ」

「ぐ、グルメ島?なんか変な名前…」

「最近私達の組織が見つけた島でね、独自の進化を遂げた動植物が生息しているの。
強靭で凶暴で強烈な生物がたくさん生息しているんだけど、その半数以上がすっごい美味しいのよ。
これは銀の修行にはうってつけだと思って。
どうかしら?」

「うーん、まだ信じられないかなぁ…そんなの聞いたことないし」

「ま、とりあえずは論より証拠よね。アレ、持ってきてくれるかしら」

「かしこまりましたラピス様」

近くで待機していた黒服の男が一度奥の部屋へと引っ込んだ。
しばらくすると手に何かを持って戻ってきた。
持っているのはドームカバーが乗せられた皿だ。
男はそれをテーブルに置くとカバーを取った。

「…ハンバーガー?これがどうしたの?」

「いいから、食べてみなさい」

「じゃあいただきます。あむっ……!?こ、これはっ!!」

「さっき食べてたマ○クのハンバーガーより美味しいでしょう?」

「肉汁の溢れ出すパティにみずみずしいレタスにトマト、そしてふわふわのバンズ…んまいっ!」

「それらの食材はすべてグルメ島で入手したものよ。どう?行く気になったかしら?」

「喜んで行かせていただきますお姉様」

「それじゃこれで話は終わりね。少しおやつにしましょうか」

再び奥の部屋から男が2、3人出てくる。
テーブルには見たこともないような果物が並べられていく。
随分とたくさんの種類があるが、これだけの量がよく飛行機に乗っていたものだと思う。

「グルメ島にのみ自生する、数々の果物よ。しばらくはこれでも食べてましょ」

「美味しいんデスよね、ここの果物ハ。私大好物デス」

「ボクも大好きです。ジューシーで甘くって」

「さ、まだ時間も掛かるし楽しく談笑でもしてましょ」

「むぐむぐむぐ……おいしっ♪」



あれから数時間が経過した。現在の時間帯は真夜中。
たくさん用意された果物をすべて食べつくし、蘇芳はぐっすりと眠りについていた。
短時間にあまりに様々なことが起きすぎて疲れが溜まっていたのだろう。
瑠璃がその穏やかな寝顔をぼうっと見つめていると、機内にアナウンスが流れた。

『まもなくグルメ島へ到着いたします。そろそろ準備をよろしくお願いいたします』

「もうそんな時間デスカ。意外と早かったデスネ」

「到着するのはいいんだけれど、この子どうしようかしら」

「置いていくわけにも行かないデショウ。おぶって差し上げたらいかがデス?」

「嫌よ、重いもの」

「妹を思いやるって気持ちがないね瑠璃姉は…ふわぁ…」

先ほどまでソファーで寝ていた蘇芳がいつの間にか起きていた。
おそらく先ほどのアナウンスで目が覚めたのだろう。
未だに眠たそうに目をこすっている。

「あら丁度よかった。そろそろ着くから準備しなさい」

「ふわぁーい」

準備、といっても無理矢理連れてこられたので何も持ってきてはいない。
とりあえず少し乱れた服装を正す。あまり寝相は悪くないつもりではあるが、乱れるものは乱れる。
少し髪の毛に寝癖がついてしまった。自慢の髪の毛なのに。
無理矢理手ぐしで寝癖を直していると飛行機が大きく揺れた。
飛行機が着陸したようだ。というか着陸時にシートベルトとかしなくていいのか。

「うっわー…」

飛行機を降りて一番に目に入ってきたのは巨大な扉。
大きいなんてものじゃない。何百メートルもあろうかというほどの超巨大な扉だ。
その両側は同じように高い壁が続いており、しかもかなり長い。
その壁がどこまで続いているのかは、残念ながら肉眼では確認できなかったが。
扉の手前にはなにか建物があるが、扉と対比してしまいやたらと小さく見えてしまう。
それでも5階建てのビルほどの大きさはある。窓がほとんどない、やたらと簡素な建物。
まるで工場か何かのようにも思える。

「さ、まずは準備が必要ね。あそこのホテルに行って着替えをしましょう」

「あの地味な建物ホテルなの!?ってゆーか着替えって、私何も持ってないんだけど」

「こんなこともあろうかと、銀の部屋からこっそり持ってきてたのよ。着替え」

「不法侵入だぁーーーーー!!!」



「ここがシャワー室。使い方分かるわよね」

「大丈夫だよ。そのくらいは」

着替えをするまえにシャワーを浴びたいと言ったら了承してくれた。
よく考えたら昨日から全然お風呂に入っていない。
乙女の身だしなみとしてお風呂は大事。
ちょっと汗臭い気もするし、出来れば今のうちにさっぱりしておきたい。
瑠璃が部屋から盗(ry 持ってきてくれた下着と着替えを受け取ってシャワー室に入る。
ちゃちゃっと服を脱ぎ、中に入る。

「ここシャワー室じゃなくて銭湯じゃん!!」

ずらっと並んだシャワーと蛇口の前には木製の桶と椅子が置かれている。
その向こうには広い浴槽が見える。かなり広い。
タイル張りの壁には大きな富士が描かれている。
どう見ても銭湯です、ありがとうございました。
とりあえず体を洗うために椅子に座る。

「うわ、シャンプーとかまで置いてある。設備完璧すぎでしょ」

「銀さんはお風呂に入ったときはどこから洗います?」

「えっとね、私はまず腕かrってうえぇっ!!?」

いつの間にか隣にヴァイオレットが座っていた。
ヴァイオレットは手にスポンジを持ち、体を洗っている。
幼い、というわけではないがその身体にあまり起伏は見られない。
全体的に線が細く、とても傭兵として戦っているとは思えない。

「ボクここのお風呂好きなんですよ。広いお風呂って新鮮だから」

「そうなんだ。確かにここは日本式の銭湯だけどさ」

何故瑠璃がこの部屋をシャワー室と呼んでいたのか疑問で仕方ない。
普通に銭湯とか大浴場とか呼べばいいのにと思う。
頭と身体を洗い終わり、さっそく湯船に浸かる。
少し熱めだがそれが逆に心地よい。

「ふわーきもちいいー…」

「本当ですねぇ…」

「そういえばまだ名前聞いてなかったよね。私は…」

「蘇芳銀さん、ですよね。ボクのことはヴァイオレットとでも呼んで下さい」

「うん、よろしくねヴァイオレットさん」



「私も失礼するわね」

「るっ瑠璃姉!?」

「いいでしょ、この元シャワー室」

「やっぱり元なんだ!っていうかなんで瑠璃姉まで!」

「何よ、昔はよく一緒に入ってたじゃない。衛くんとも、ね。今は一緒に入ってたりしないの?」

「するわけないじゃん!昔は昔、今は今!」

「やることやったのに?」

「うぐぐ…」

ちゃっちゃと頭と身体を洗い、瑠璃も湯船に入って来る。
しかし広い湯船だというのに妙に近い。
確かに離れて入るというのも寂しい話ではあるが、それでも近すぎる。
この密着感に蘇芳は“ある違和感”を感じたが既に遅かった。
瑠璃は蘇芳の背後からゆっくりと胸元へと手を伸ばす。
そして…。

「ぐわし」

「にゃあっ!!!?」

「活性化…ずるいわね。なんなのよこれは。たゆんたゆんじゃないの」

「やーめーてー!も、揉むなぁー!!」

※ここで詳しい描写を書くといろいろマズイので自重します。
―――そして数分後。

「はぁ…はぁ…瑠璃姉ぇ~…」

「ふふ、ごちそうさま」

「なにをやってるんですかラピス先輩…」

「姉妹のスキンシップよ。あなたにもやってあげましょうか?」

「結構です。揉むほどもないですし」

「…そうよね。普通は揉むほどもないわよね。なのにこの子ときたら…」

「な、なにさ…」

「いーわよ。どーせ私たちは負け組ですよー」

「……。」

なんとも大人気ない姉だ。
改めてそう思った蘇芳なのだった。



「瑠璃姉、この服って」

「お察しの通り、私たちが使ってるスーツよ」

瑠璃に渡された着替えは例の黒いスーツだった。
ゆっくりと袖に手を通してみる。着心地は悪くはない。
いくつか難はあるが、許容範囲内ではある。

「どうかしら。サイズはきつくない?」

「うーん、他は問題ないんだけど………胸が」

「あらきついのね。じゃあ今すぐにでも千切ってあげましょうか?」

「ごめんなさいお姉様!!お許しください!」

「…仕方ないわね。許してあげるわよ。他には何かないかしら」

「えっとー。あ、そうだ。これ身体動かし辛いんだけど」

「それは仕方ないわね。ある素材を編みこんであるから動かし辛いのはしょうがないわ」

「ある素材?」

「この島に生息する《鋼鉄蚕》ってのがいてね。それの繭からとった糸が編みこまれてるのよ。
すごい丈夫なんだけど、その代わりに伸縮性とかは全然ないから動き辛くなるんだけどね」

「へぇ、そんなのもいるんだ。食べられるのだけじゃないんだね」

「独自の進化を遂げた生物の宝庫だもの、新種の生物だらけよここは。今も世界各国の研究員達が毎日ここに来るわ」

「ということは、今もあの壁の向こう側には誰かいるの?」

「多分ね。生きてるかは知らないけど」

「……え、ちょなにそれ」

「奥地に行けば行くほど凶暴な生物が多くてね。9割くらい帰ってこないわ」

「それじゃ私絶対死ぬじゃん」

「大丈夫よ。多分」

「あのさぁ瑠璃姉。私学園に帰っていいかな?」

「駄目、却下、断る」

先ほどまでは美味しいものが食べられると思っていた。
まさかのどんでん返し。自分が美味しく食べられてしまう。
希望が絶望に一瞬で塗り替えられてしまった。
果たして無事に帰ってこれるだろうか…。



「グルメ島に入る前に、捕獲レベルについて説明しておかないといけないわね」

「捕獲レベル?」

「この島に生息する生物にはほぼすべてに捕獲レベルが指定されているの。
名前の通り、レベルが高いほどその生物は捕まえにくいと判断できるわ。
ただ単純に強いもの、特殊な能力を持つものなどレベルの判断基準はいろいろね。
ま、いろいろと基準はあるけれど、普通に強さの指標として考えてくれて構わないわ
基準としては、レベル1は猟銃を持ったハンター10人がかりで捕獲できるくらいね。
詳しくは週間少年ジャンプで絶賛連載中の『トリコ』でググってみなさい」

「さりげなく宣伝乙。でもレベルの高いのを捕まえればそれだけ美味しいんでしょ?」

「いいえ、高くても別に美味しくないものや、低くてもとびきり美味しいのもいるわよ」

「なるほど。この島には大体どのくらいのが生息してるの?」

「基本的には一桁が多いけど、たまに二桁もいるわ。設定されてるので一番高いのは…たしか捕獲レベル30くらいだったかしら」

「その捕獲レベル30っていうのは大体どのくらいの強さなの?」

「私が苦戦するレベル」

「すごくわかりやすい説明ありがとう。絶対に出会わないことを願うよ。
ところでさ、私はこの島の生物のこととかまったく知らないんだけど。
いきなりその捕獲レベル30とかに出会っちゃってもわからないよね?」

「その辺りは気にしないで。ちゃんと先生を呼んであるから。入ってきて、先生」

その合図とともに、部屋の扉が開く。
扉から覗いた顔はヴァイオレットだった。
ヴァイオレットは少し恥ずかしそうにしながら瑠璃たちのところまで来た。

「あの先輩…ボクは先生でもなんでもないんですが…」

「いいじゃないの。このグルメ島については彼女が一番詳しいわ。いろいろ聞いてちょうだい」

「よろしくおねがいします先生♪」

「そんな、先生なんて…ヴァイオレットでいいですよ」

「はい、ヴァイオレット先生♪」

「……うぅ」



「そういえば、このホテル(?)のすぐ近くにあったおっきな扉、あれが島への入り口なの?」

「はいそうです。あの扉は分厚い鋼鉄で出来ていて、さらに何重にも重なっているんです」

「へぇーすごいね。っていうかそんなに向こう側って危険なの?」

「かなり危険ですね。ラピス先輩並に危険です」

「そんな言い方。まるで私が化物みたいじゃない」

「せ、先輩っ!?ってあうっ!!」

瑠璃がヴァイオレットの肩を思い切り掴む。
手には徐々に力が込められ、ギリギリと指が肩に食い込んでいく。
かなり痛いのか、ヴァイオレットは苦痛にその可愛らしい顔を歪ませる。

「うっ…い、痛いです先輩……」

「なんだかその言葉素敵ね。もっと聞かせてくれないかしら…」

「そこまでデス。やめてあげてクダサイ。嫌がっているデショウ」

「なによインディゴ私に指図す…」

「やめてあげてクダサイ―――ネ?」

「…ふん。いいわよ」

ヴァイオレットの肩から瑠璃が手を離す。
蘇芳にとってはにわかには信じがたい光景だ。
『瑠璃が他人の指示を大人しく聞いた』
こんなことは今まで一度も見たことがなかった。
そんな姉の姿を見て、蘇芳は呆然としてしまった。

「…銀さん?どうかしましたか?」

「え、ああうんだいじょぶ。ヴァイオレットさんだって肩大丈夫?」

「ボクは大丈夫です。慣れているので」

「それ慣れちゃいけないんじゃないかなー…」

「ところで銀ちょっといいかしら。返事は聞かないけど」

二人の会話に瑠璃が割り込んでくる。
先ほどのインディゴとのやりとりは終わったようだ。

「銀、一度島の中へ入ってみたいと思わない?」

「思う思う!すっごく思う!」

「それなら準備なさい。お試しとしてあの門を開けてあげるわ」

「本当!?やったやった!」

「ラピス先輩、まだ彼女にアレを施してないですよ。このままの実力じゃ…」

「大丈夫、そうしたほうがきっとあの子のためになるわ(私が楽しみたいだけだけどね)」

「そうでしょうか…(絶対嘘だ…)」



―巨大な扉の前―

「うわぁーやっぱりおっきいねー」

「間近でみると凄いでしょ。いちいちこの扉開いてもらうの面倒なのよねぇ」

「面倒って…だったらもっと小さな扉に…するわけにもいかないのか」

「実際はそこまでする必要もないんだけどね。まぁいろいろ都合ってのがあるのよ」

「都合ってつまりどういうこと?」

「この扉は生物から襲われるのを防ぐ役目もあるのだけれど、内部へうかつに入らないようにする意味もあるのよ」

「ってことはそれだけ危険ってことなんだ」

「まぁ最初のほうはそこまでじゃないんだけどね。『選定の湖』以降は次元がまったく違うわ」

「選定の湖?」

「名前の通りよ。そこで脱落するような人物はグルメ島には相応しくない。さよならバイバーイってことよ」

「へぇー。ま、でも私の実力なら大丈夫だよねっ♪」

「そこまで言うなら、自身の目で確かめてくるといいわ」

瑠璃が右手を大きく挙げる。
その手はおそらく、扉を開閉する係の人物へのサインか何かだったのだろう。
巨大な扉が重い音を響かせながらゆっくりと左右に開いていく。
その扉の向こう側にはまた扉がある。
数分かけてすべての扉が開かれた。

「行って来なさい。銀、あとヴァイオレットも」

「やっぱりボクも行くんですね…」

「案内役だもの。それと銀、もし無理だと悟ったらヴァイオレットに助けを求めなさい」

「大丈夫だって!その、なんとかっていう湖も余裕でクリアしちゃうよ!」

「はいはい。わかったからさっさといってらっしゃい」

「いってきまーす♪」

「行って参ります、ラピス先輩」

こうして意気揚々と蘇芳とヴァイオレットはグルメ島の内部へと進んでいったのだった。
しかし銀はここでグルメ島の本当の恐ろしさを味わうこととなるのだった…。



銀とヴァイオレットが島の内部に入ってから一時間が経過した頃のことだった。
瑠璃とインディゴは扉の外で待機していた。

「選定の湖まではどんなに遅くても大体20分。泣いて帰ってくるならそろそろね」

「妹サンを信用していないんデスネ…。もっと彼女の実力を信じてあげたらどうデス」

「良く知った上での判断よ。今のあの子の実力じゃあの湖を越えることはまず不可能よ」

「そうデショウカ。少なくとも私は……オヤ…?」

辺りに重い、何かが動くような音が響く。
音の正体はあの巨大な扉が開く音だった。
次々と扉が横にスライドして開いていく。
最後の扉が開いたとき、銀を抱えたヴァイオレットが現れた。
銀は全身に傷を負っており、とても動けないような状態だ。

「銀さん、大丈夫ですか?」

「うぅ…体中すっごい痛い…」

「言ったとおりだったわね。自慢の活性力での回復も打ち止めってとこかしら?」

「お、お腹空いたぁ……」

「食べ物なら島内にたくさんあった、というかたくさんいたでしょ。倒せばよかったじゃない」

「したよ、倒そうとした。でも…」

「ふぅん…。ヴァイオレット、銀が倒せたのは最高で捕獲レベルいくつだったのかしら?」

「最高は《ウシノシシ:捕獲レベル8》でした」

「選定の湖の手前までは行けたってことね。ま、初心者なら上出来だったんじゃないかしら」

「る、瑠璃姉……なんなのさ…あの湖………生物が…強…すぎ……」

「そりゃそうよ。選定の湖以降、生物の捕獲レベルは二桁になるわ」

「ふっ二桁…!?あの牛っぽい猪を倒すのにも相当苦労したのに…」

「あそこに生息する生物は《ヤマタノウナギ:捕獲レベル13》《ライフルフィッシュ:捕獲レベル11》
《百本蟹:捕獲レベル15》《ノコギリアロワナ:捕獲レベル14》…とかだったかしら」

「名前聞いただけで怖いよ…勝てる気がしない…」

「とりあえずは体を癒しなさい。話はそれからよ」

「はぁい…」



「ごちそーさまでしたっ!」

「お粗末様。おいしかったかしら?」

「うんっ!おかげで超元気!特に変な焼き魚が美味しかったかなー?あの口の長い、変なの」

「あれがライフルフィッシュよ。長い口から高水圧の水鉄砲を撃ってくるのよ」

「うっわなにそれ怖い。でも美味しかった」

「あそこの湖の生物は絶品よ。湖を越えた先に生息する生物もね」

「そっか…それじゃ強くならないといけないね」

「良い心がけデスネお嬢サン。そんな貴方に素敵なプレゼントヲ」

「プレゼント?なにくれるの?」

「とても…素敵なモノデス」

手に持ったステッキを蘇芳に向けた。
ステッキの先端から何かが放たれ、蘇芳の体内に撃ち込まれた。
蘇芳の全身に身体が焼かれるような激痛が走る。
だがその痛みは数秒のうちに治まった。

「痛っ!うぅ…なにをしたの……?」

「言ったトオリ、プレゼントデスヨ」

「銀、右手の甲見てみなさい」

「へ?……うわっなにこれ」

右手の甲には髑髏のような模様が浮き出ている。
模様は怪しげな光を放っているようだ。
蘇芳はそれを不思議そうにしげしげと見つめる。

「それハ魔術回路を新たに作り変える魔術式デス。再構築中は魔術がつかえマセンガ」

「え?ちょ、ちょっとマジで?それじゃ試しに“アームズメイカー”」

魔術名を唱えるが何も起こらない。
いつもであれば何か武器が作られるのだが、その気配すら見られない。
そう、知っている人は知っている、杉崎に施されたものとまったく同じ魔術である。
知らない人は「へーそうなんだー」くらいに思っててください。



「ちょ、ちょっと待ってよ。いつになったら戻るのさこれ。てゆーか魔術使わないでどうやって戦えと」

「期間には個人差がありますガ、基本的には一週間前後デス」

「魔術回路が再構築されるまでは島内部には入らせないから大丈夫よ」

「それなら安心した…てゆーか作り変える意味とかあるの?」

「人間の脳は数%しか使われていない、という話を聞いたことがアリマスカ?
魔術回路においても、それと同様のことがあると言われてイマス。
つまり魔術回路にも一部分デスガ使われていない部分が存在するのデス。
その使われていない部分のパイプを改めてつなげることで…」

このままインディゴによる、魔術回路についての臨時授業が30分ほど続いた。
学園での授業時間にくらべれば少ないが、なにしろ内容が濃い。
たった30分で丸一日分にも及ぶ内容を聞かされた。
蘇芳の頭はもはやパンク寸前だった。

「以上デス。何か質問ハ?」

「あ、ありましぇえん……頭痛い…」

「さてト、私の仕事はこれで終わりデス。あとはお任せシマスネ、ヴァイオレットサン」

「はい、ボクにお任せを」

「えっと…ヴァイオレットさんも何か授業するの…っていうか同い年だよね」

「もう学園は卒業してますけどね。飛び級して」

「なにそれ。でもうちの学園じゃないよね?」

「そうですね、北欧に位置する、名門の魔術学園です」

「……なんかヴァイオレットさんがすごい存在に見えてきたよ」

「そんなボクなんて…。とにかく、ボクはこれから銀さんにつきっきりで授業をしていきます。
内容としては魔術に関することと、グルメ島についてのことを中心に説明していきたいと思います。
インディゴ先輩のような短くて、内容の濃いものではありませんがどうぞよろしく」

「私としてはそっちのほうがありがたいよ。ゆっくり、マイペースに、わかりやすくお願いね」

「善処させていただきます」

「…これから大変だなぁ」

こうして銀の短期集中型レッスンが始まったのだった…。


~To Be Continued~
最終更新:2012年03月02日 01:21