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八月の中旬、この時期は日増しに暑さが厳しくなってくる。
正直やってらんない。何?俺を熱中症にしたいの?
そう思わざるを得ないほどに熱い毎日。
今、学園は夏休み。実家に帰ってる奴もいれば、残って補習している奴、いろんな奴がいる。
そんな奴等がいる中、この俺、杉崎衛はただいま太平洋を南下中。
理由は単純明快、南の島でバカンスをするためだ。
こんな暑い日は部屋にこもってクーラーガンガンで引きこもるのが一番。
でもそんなことしてたらせっかくの夏休みがもったいないわけで…
いろいろと考えた末に南の島でも行くかという結論に至った。

「しかし海の上は暑いな…遮蔽物とかまったく無いもんな…」

普通だったら豪華客船で行くハワイ何日間の旅とかにするだろう。
しかし唯の学生である俺にそんな金はない。
国内ならまだしも、海外となればやたらと金が掛かる。
普通だったらそこで諦めるが、自分は魔術師だ。
船がないなら飛べばいいじゃない。
というわけで現在は夜光の爪翼《アーク》でびゅんびゅん海を移動している。

「うーみーはひろいなーふんふんふーん♪」

「日本を出発して三十分くらいか、まだ島はどこにも見当たらないな…」

「ま、気長に行くか。旅は長いほうが楽しいし」

「しかし一人旅は暇だ。何かイベントでも起きてくれればいいんだけど…」



結論から言うと起きた。イベントガッツリ起きた。
いつフラグを回収したのかは知らないけど。
それは日本を出発して一時間が経過したころだった。

「さすがにだるくなってきた。一時間ボードに乗りっぱなしとかキツイ」

「360度見渡しても島もないし、休むことは出来ないからなぁ…」

「……ん?何だ?今何か巨大生物が水中から上がってくるような音が…」

やたらとピンポイントすぎる言葉を言っていると、案の定水面下に何か影が見え始めた。
影はどんどん大きくなっていき、やがて水中からその姿を現した。
イカだ、でかいイカ。所謂クラーケンってやつだ。

「うぉでっかいイカ。つかクラーケンかこれ。なんかどっかで見たような…」

「ああそういえば春のイカ祭りの時に獲ってきたっけ。でもアレよりも大きいなこいつ」

「アレが子どもだったから、しいて言えば親?ってそんなわけはないか」

実はそんなわけがあった。
このクラーケンは正真正銘あの子どもクラーケンの親だったりする。
子どもを焼いて食べられた復讐。それを果たす日をこの広い海で待ち続けた。
そして今、とうとうその時がやってきたのだ。

「俺には戦闘の意思とかないんだけど、向こうは殺る気満々っぽいし」

「仕方ない、正当防衛ってことで許しておくれよ」



なんやかんやで始まった海上での戦闘。
クラーケンは十本の足を伸ばしてなんとか捕まえようとしてくる。
それを巧みにかわしながらなんとか攻撃のチャンスを窺う。

「さぁて、弱点はどこかなーっと」

「本来だったら顔とか目が一番の弱点だけど、イマイチ足が邪魔で狙いづらい」

「とりあえずは足を攻撃しておくか。捕まるのも嫌だし」

幻獣兵装“龍哭砲”“火蜥蜴”!」

拳銃を装備してバンバン撃ち始める。
あまり相手を刺激するのもなんだし、襲ってくる足を攻撃する程度にする。
ここでいきなり頭を攻撃するとヤバイことになりそうだ。
多分イカ墨かけられるくらいじゃすまないと思う。毒でも吹きかけられそうだ。
いやそんなもん持ってないだろうけどさ。

「しかしただ撃ってるだけじゃ埒が明かないよな」

「こっちからも攻撃するか、なんとか逃げ切るか…」

「いや!逃げるのは漢じゃねえ!真っ向勝負だコラァ!」

未だに戦闘意欲バリバリなクラーケンに向かって叫ぶ。
もちろんそんなこと言えばクラーケンも黙っちゃいない。
十本の足全てを振り上げて威嚇行動をとってきた。奴さんやる気満々ですぜ。
空中VS水中の戦いの結果はどうなることやら。



「アークピッド展開!3つくらいでいいか」

「よーし、パパいまから全力で戦っちゃうぞー」

「って誰のパパやねーん!」

アホなことを言いつつも戦闘の手は休めない。
無数に襲い来るクラーケンの足を銃で撃ったり、ピッドからのレーザーで迎撃したりする。
何回も迎撃しているはずなのにまったく手数が減らないような気がする。
よく見たら攻撃してボロボロになった足はすぐに再生しているようだ。
どういうこっちゃねん。卑怯だろそれ。

「ああもう!これじゃ先に魔力が切れちまう!」

「何か策を考えないと…とりあえず“紫炎・黒焔鳥”!!」

「これでも…喰らっとけ!!」

闇の炎で作り出した鳥をクラーケンにぶつける。
しかしクラーケンのサイズが大きすぎる。当たっても目に見えるダメージはなさそうだ。
しかもこの攻撃が煽りにでもなってしまったのかクラーケンがさらに怒ってしまった。
これが本当のアオリイカ。なんつって。
そんなバカなことを言っていれば隙もできるわけで、うっかり捕まってしまった。

「うおヤバッ…うぎゃ!」

「しまった、身動きがとれない!」

「とりあえず…戻れ“龍哭砲””アーク”!」

「ってちょ、なにするつも――」

足に捕まって絞められつつも幻獣兵装を魔方陣になんとか戻す。
その直後に絞め上げられ、水面に思い切り叩きつけられた。
俺の意識はそこで途絶えた。



「はっはっは!潮風に吹かれるのは実に気持ちが良い」

「こんな日は何か面白いことが起こりそうだ」

「それにしても釣れんな。本当に魚は泳いでいるのか…」

とある海沿いの岩の上で釣りをしている男がいる。
装いは着物に袴。腰に二本の刀を帯刀している。
その姿を見るとお前いつの時代の人間だよ、とかツッコミを入れたくなってくる。

「しかしまぁ、時間が経ってしまった」

「このままじゃ拙者の昼飯が抜きになってしま」ぐうぅ~

「うぉっ腹の虫が!さっさと釣らねばいかんなぁ」

どうやらこの男は昼飯の調達のために釣りをしているらしい。
普通に考えればもっと他の方法もありそうなものだが、多分無かったからこうなっているんだろう。
極度の貧乏なのか、はたまた別の理由があるのか…。
男が少し諦めかけたその時、突然竿が水中に引っ張られた。

「むむっ!とうとう来たか!この感じ、かなりの大物と見た!」

「流石に重いが、この鍔斬鉄衛門!力比べでは負けん!」

「ぐぬおぉぉぉ!!!釣り上げたどぉぉぉ!!!」

竿を勢い良く引っ張り上げると水中から巨大な魚が現れる。
…いや、よく見ればそれは魚ではなかった。
その男、鍔斬鉄衛門が釣り上げたもの、それは…。

「……これは……人間…?」



鍔斬が釣り上げたのは杉崎だった。
巨大クラーケンとの戦いに負け、海に叩きつけられた杉崎は気絶したまま海を漂い続けていた。
漂いに漂ったその結果、鍔斬に釣り上げられた。どうやらそういうことらしい。

「うーん、イカ怖い。イカ怖い…」

「随分とうなされているな。よほどのことがあったのか」

「しかしイカが怖いとは…逆にタコは好きなんだろうか?」

ここは海から少し離れた鍔斬の家。杉崎はそこで布団に寝かされている。
それにしてもこの家、妙にというか違和感がありすぎる。
分かりやすく言えば時代劇にでも出てきそうな、そんな感じの家だ。
流石に現代の日本にはこんな家に住んでいる人はいないだろう。

「おーい少年。意識があるなら返事をしろー」

「ん、んん…。ちょっとまってくださいよ先輩、まだ心の準備が…」

「おおう、ノク。お前こんなところでそんな…超エキサイティン」

「駄目だ。とても起きそうに無い」

「仕方ない。拙者は出かけてくるとしよう。ゆっくり体を休めるといい」

そういい残していくと、鍔斬は古めかしい引き戸をガタガタやりながら開き、どこかへ行ってしまった。
未だに杉崎は眠ったまま。アホな夢を見続けている。
多分一部、いや多くのアンチはそのまま死ねと思うだろう。



「……やべぇ、ノクもエルも…大胆だぜ…」

「このままだと俺のヴァンガードがオーバーヒートしちゃいそうだ…」

「……え?ちょっと待てイグニス。俺はそんな………アッー!!!!」

「うおっ!?…はぁはぁ…すげぇ変な夢見た…」

「あれ?…えーっと…ここはどこだ?」

俺目覚める。世の中の杉崎アンチの皆様残念でした。
杉崎はゴキブリよりも丈夫なので死にません。何度でも蘇るのさ。
ともかく起きたはいいものの、目に入ってくるのは全然覚えの無い光景。

「…知らない、天井だ…」

「おぉ起きたか少年!気分はどうだ?」

「…えっと、どちら様?」

「申し遅れたな。拙者の名前は鍔斬鉄衛門という。お主の名は?」

「えーっと…杉崎衛っす」

「そうか杉崎か。腹減ってないか?魚食うか?」

「あ、どうも…」

未だに頭が妙にガンガンする。頭だけじゃない、全身が今すっげぇ痛い。
そもそもこのおっさんは誰なんだ。いや、無精髭は酷いがよく見れば結構若いか。
とりあえず鍔斬…だっけ?の差し出した焼き魚を食べることにする。話はそれからだ。



「ありがとう、ご馳走様」

「なぁに気にするなって。困ったときはお互い様というだろう」

「いや、どう考えても一方的だよ。命まで救ってもらったんだし」

「いやいや、杉崎が偶然針に掛かったのを釣り上げただけだ」

「そりゃ随分と間抜けだな俺。笑えるんだか、泣けるんだか…」

食事をし終わってからいろいろと話を始める。
こっちも、多分向こうも聞きたいことは山ほどあるはずだ。
とりあえず先手必勝。助けてもらったところ悪いが、質問攻めにさせてもらう。

「まずはいろいろと聞きたいことがあるんだが。ここはいったいどこなんだ?」

「ここは古刻島。古の時を刻む島と書く。島にはいくつかの集落と、でっかい城がひとつある。
それ以外には森や川も、山もある。住みやすい島だぞ」

「なるほど。で、次はあんたの服装とかこの家とかが妙に気になるんだが…」

「何ぃ?これが普通だろうが」

「…え?(やべぇ。これってまさかのあれ?漫画でよくあるタイムスリップってやつかよ)
 ちょっと聞きたいことが…。今は何年だ?」

「今は2010年の夏に決まっているだろう」

「あーやっぱりかぁ。俺タイムスリップしちゃ、って2010年かよっ!!」

ついついノリツッコミしてしまった。タイムスリップの類じゃないらしい。
とりあえず分かることは、この島の文化レベルは江戸時代くらいだということだけだ。
まったく、現代にそんなことがありえるのか。いや、ありえちゃったわけだけど。



続いてはお互いのことについて色々と話をすることにした。
一応自分が巨大イカ(クラーケン)に襲われたことは説明したが、船に乗っていたら襲われたということにした。
魔術師だと名乗ってなんか面倒なことになっても困るし。
鍔斬はどうやら武士らしい。そりゃそうだ、腰に刀差してるもんな。
刀差してて武士じゃないのはそうそういないだろう。

「よかったらその刀見せてくれないか?俺そういうの好きなんだ」

「おぉお目が高いな。自慢の刀だ、じっくりと見てくれ」

鍔斬が差し出した二本の刀を受け取る。
鞘から刀を抜き、一本ずつじっくりと眺める。

「ふんふん…ところでこの刀の名前は?」

「天断《あまだち》と地崩《ちくずし》だ。かっこいいだろう?」

「うんうん、かっこいい。それにしても良い刀だな。手入れも行き届いているし」

「当たり前だ。刀は武士の命。手入れの度合いで実力も測れるというものだ」

「ほほーう、ならてっさんは結構強いってことか」

「もちろん。ところで杉崎、てっさんとは誰のことだ?」

「鉄衛門って名前なんだろ?長いからてっさんな」

「なるほど。ところでそろそろ刀を返してくれないか?」

「え?ああゴメンゴメン。返すよ」

刀を鍔斬に返そうとしたときだった。
外がなにやら騒がしいことに気づく。
なにやら嫌な予感を感じ、外の気配を探ってみる。

「…なんか変な感じだ。てっさん、行こう!」

「ちょどこに行くのだ杉崎!」



「待て杉崎!どこに行くんだ!」

「外だよ外!なんか変な気配を感じる!マズイ感じだ!」

「なるほどそうか!しかしその前に服を着ろ!」

「……あ」

忘れてた。俺の服はびっちょびちょだったから脱いで乾かしてたんだった。
今の俺はパンツ一丁。こんなんで外に出るわけにはいかない。
よかった文章だけの表現で。漫画とかアニメだったら苦情殺到しているところだ。
俺のサービスシーンとか誰得だよ。イグニス得か。

「でも乾くまでには時間掛かるし…どうするよ俺!」

「まぁ待て慌てるな。拙者の古い着物が余っているから貸してやる」

「ありがとうてっさん!恩にきるよ!」

てっさんが押入れから出してきた着物を受け取って着る。
おお、ナイスフィット感。動きやすいし、なんとなく軽い気もする。
着物最高。日本最高。でもジャージも好き。早く乾け。
とりあえずてっさんが出してくれたお茶を飲んでほっと一息つく。
ああ、美味しいなこのお茶。どこのお茶だろう。
渋くはあるものの、なかなかに深みのある味わい。
このお茶といっしょに饅頭でも食べたら美味しいだろうなぁ。
お茶貰って帰ってノクに淹れてもらって、トリシャがつくったお菓子でも食べたいわ。
まあ、呼び出せばいいんですけどね。魔方陣から。
でも偶然流れ着いただけだから、いきなりファミリー出てくりゃてっさんめっちゃ驚くよな。
うんうん、ところで俺なんか忘れてないか?
えーっと、とりあえず1レス分くらい戻ってみて…

「ってそうだったよ!早く行かねぇと!」

「そうだ杉崎!何を落ち着いているのだ!」

とりあえず急いで家を飛び出し、気配を感じるほうへ走り出す。



しばらく走り続けると小さな村が見えてきた。
とりあえず物陰に隠れて様子を見ることにする。
なんか複数の男たちが村人達を襲っているようだ。
女性まで襲うとはうらやま…けしからん。退治してやろうかこいつら。

「てっさん、どうする…?」

「いやどうすると言われてもな…。おい、あれを見ろ」

「なになにどーした?」


「男は捕まえて働かせろ!女は…ぐへへ。子どもは適当に捕まえて牢につっこめ!」

「やめてください!どうしてこんな…」

「うるせぇ!東雲様の命令は絶対なんだよ!おらこい女!」

「きゃあっ!!」

「…てっさん。あいつらぶっ飛ばしていいか。うっかり殺すかもしれないけどさ」

「落ち着け杉崎、今出て行っては格好の的だ。好機を窺え」

「好機っつてもなぁ、あいつらが村を離れるところでも狙うか?」

「うむ、それがいいだろう。人数が少しでも減ったところを狙おう」

「てっさんよぉ。俺できれば女性を救いまくって英雄になりたいんだけど」

「そんなのんきなことを言っている場合か…。む、奴等馬に乗ったぞ」

「村の人たちを乗せた馬車が動く前に、なんとか止めるか」

てっさんに合図をし、物陰から飛び出す。
いい感じに何人かがこちらに気づいた。よくぞ空気を読んでくれた。
向こうがなんか声を上げて「何者だ!」とか言う前にこっちから名乗ってやる。

「拙者の名は鍔斬鉄衛門!お主らを成敗する!」

「俺の名前は杉崎衛!とりあえず女性に手を出した奴、手を上げろ。ぶっ飛ばすから」

さぁ、お前らの罪を数を数えろ。
なんちゃって。



「お前ら、たった二人で何をしようってんだ?」

「成敗できるもんならやってみやがれ!」

「時に杉崎。お主強いのか?」

「自慢じゃねーが、結構強いぜ」

「それは十分自慢じゃないのか」

「てめーら何をごちゃごちゃ…げふぅ!」

「お、おい!ぐはぁ!」

男たちが飛び掛ってきたので応戦する。
俺に飛び掛ってきていいのはファミリーと美少女、美女だけだ。
ヴァイスリットをバールのようなものに変形させて顔をぶん殴る。
てっさんは刀を抜き放ち、次々に斬っていく。
二刀流かっけえ。素敵すぎる。

「ぎゃふん!」

「やーらーれーたー!」

このままてっさんとフルボッコを開始する。
掛かってくる男共の顔を集中的に殴る。殴って殴る。顔歪んでしまえ。
女を襲う野蛮な男共は一人残らず成敗してやる。ついでにイケメンは死滅しろ。
残念ながらこの男たちの中にイケメンは居ないようだ。
原型とどめなくなるまで殴ってやりたかったのに。
それにしても楽しい。斬るより殴ったほうが楽しいかもしれない。

「はは、ははは。はははははは!!!」

「…本当に強いな杉崎の奴。猟奇的な何かを感じるが…」

数十分後、村を襲った男たちは全員成敗された。
半分以上が顔ボッコボコで気絶している。かわいそうに。
村の人たちは全員無事だった。これで一件落着。



「本当にありがとうございました」

「なに、拙者たちは悪を成敗したまでだ」

「悪は見捨てておけないもんな。特に女性を襲う輩は」

「とにかくありがとうございました。何かお礼を…」

「お礼か、それなら教えて欲しいんだけど、さっき奴らが言ってた「東雲」って誰?」

「それなら拙者が説明しよう。東雲のことなら拙者のほうが詳しい」

「なるほど、頼むよてっさん」

「ここからでも見えるだろう?あの大きな城が」

「見える見える。てっさんの家からでも見えたよな」

「ああ、東雲とはあの城の城主の名だ」

「ふんふんなるほど」

「東雲はそれは酷い奴でな。村人から無茶な税を取り立てたりするのだ」

「そうか…っておいてっさん危ないっ!」

倒したはずの男が一人起き上がっていた。気絶した振りだったのか。
男は刀を振り上げ、てっさんの背後から斬りかかろうとしている。
今から刀を抜いていては間に合わない。

「死ね!鍔斬ぃ!!」

「くそっ!“火焔”!」

「ぬおぉ!………む?斬られない……?」

「あちちっ!あちっ!なんだいきなり炎が!!」

「ふぅ、間に合ったか……あ」

「杉崎、お前なんだその力は…?」



仕方なしに説明。まあ見られたものは仕方ない。
とりあえず俺が魔術師だってことを適当に説明。炎やら闇やら出してみせる。
論より証拠。意外とすぐに納得したようだ。順応性高いなてっさん。

「…とまあこんな感じだ」

「なるほどな。他にも何か使えるのか?」

「属性は炎と闇だけな。他にもあるけどこれは秘密だ」

「とっておき、というわけだな」

「そんなところだ。多分見せることは無いと思うけど」

「…いや、できればその力を拙者に貸して欲しい」

「え?いやちょっと突然なにさ土下座なんかしちゃって。頭上げてくれよ」

「頼む!拙者の妹を助けるのを手伝って欲しい!」

「―――妹、だと?」

「ああ、訳あってあの城に捕らえられている。なんとかして助け出したいのだ」

「―――その妹はかわいいのか。美人なのか」

「自慢の妹だ。ここらの村でも一番だ」

「―――…ね…は」

「なんだ?よく聞こえなかったが」

「胸は大きいのかと聞いているんだッ!!」

「そうだな…だいたいこのくらいか…」

「てっさんの手のひらに余る…だと…!?」

「無茶な頼みだとは知っている。頼む、この通りだ!!」

「―――てっさん。その頼み、承った」

「ほ、本当か!?」

「任せておけ。あんたの妹、俺が必ず助け出してみせる」

俺はキメ顔でそう言った。
鼻血が出ていなければ完璧だったがな。



てっさんの妹さんの名前は早苗と言うらしい。可憐だ。
性格はおとなしく、心の優しい人だそうだ。
料理は上手で、家事全般はなんでもできる。
さらに巨乳。ここすっごく重要。
好み直球ストレート。しかも俺と同い年とまできた。
これを運命って呼ぶんだと、俺はそう確信した。

そんな早苗さんが何故東雲に捕まっているのか。
話を詳しく聞いてみると、これまた酷い話だった。
てっさんと早苗さんは兄妹二人でこの家で暮らしていたらしい。
親は数年前に他界しており、なんとか二人で今まで暮らしてきたそうな。
ところが半月ほど前、てっさんが病にかかってしまったのだ。
そこで早苗さんが薬草を採ってきてきて飲ませたところ、翌日には無事病は治った。
それから数日後、東雲の使いがやってきてこう言ったらしい。
「あそこに生えていた薬草は東雲様のものだ。勝手に採ることは重罪だ」と。
しかしその薬草はどこの草むらにも生えている、なんてことはないものだそうだ。
別にそんなものいくら採っても罪にはならないだろうが、問答無用で連れて行かれてしまったらしい。

「どう考えても言いがかりだな。よくもまぁそんなことを言ったもんだ」

「ここでは東雲の言ったことは絶対だ。たとえ黒でも奴が言えば白になる」

「ふざけた奴だ。反乱、一揆なんかは起こったりしなかったのか?」

「一揆が起きたことは過去に何度もあった。しかし返り討ちに遭うだけだった」

「返り討ち?そりゃまた何でだよ。てっさん以外にも武士はいるんじゃないのか?」

「いるにはいるんだが歯が立たないのだ。奴には恐ろしく強い側近がいる」

「なるほどねぇ。……よし分かった」

「分かったとは…何のことだ?」

「早苗さんを助け出す、秘策を思いついたのさ」



【次の日】

一人の役人が馬に乗って村へと向かっている。
やたらとにやけている。何か楽しいことでもあったのか。
いや、多分これからあるんだろう。

「ふっふっふ、今日も村人共から税を搾り取ってやるぞ…」

「ややっ、なんだか村が騒がしいぞ?」

「なんだなんだお前ら!何があった!?」

「おお、これはこれはお役人様。村で盗みが起きたんですだ」

「盗みだと?して、犯人は捕まえたのか」

「へぇ、こちらに縛って捕らえております」

「見ない顔だな…貴様、名はなんという?」

「オッス!オラ杉崎衛!よろしくな!」

「ふぬ、まあいい。こやつは何を盗んだのだ」

「それがいろいろでして、金に食料、着物やらなんでも…」

「ふざけた奴だ。おいお前、なぜこんなことをした」

「うるさい。黙っとけよおっさん。偉そうにしやがって」

「なんだその口の聞き方は!許さん、城の牢に閉じ込めてやる!!」

「おらさっさと立つのだ!それとも城まで引きずられたいか!」

「へいへい立ちますよっと。あーめんどくせ」

「まったく、税の徴収はまた後日とする!用意しておくのだぞ!」

こうして杉崎は東雲城に連れて行かれてしまった。
昨日は村人たちを助けていたのに、なぜ盗みなどしたのか。
その理由は後ほど分かる。多分もう分かってるだろうけど。



―鍔斬の家―

鍔斬を中心に、十人ほどの男たちが囲炉裏を囲んで座っている。
老人から若い男まで、様々な人物がいる。
その中の一人の男が口を開いた。

「鉄衛門殿、言うとおり各村の代表を連れてきましたぞ」

「ご苦労だった。恩に着る」

「で、話とはなんだ?わしらに出来ることなら協力するが…」

「明日の夜、東雲城を襲撃する」

「!?」

「ΩΩΩ<ナ ナンダッテー!?」

「し、しかし東雲にはあの三人が…」

「そのための策はきちんと練ってある。案ずるな」

「その策は大丈夫なのか?信用していいのか?」

「ああ問題ない。きっと成功するだろう」

「しかし…」

「城を落とし、東雲を討つ機会なのだ。協力してはくれまいか?」

「……わかった協力しよう」

「ありがとう、恩に着る」

「で、俺たちは何をすればいい?」

「とにかく戦える者を集めてくれ。できるだけたくさんだ」

「わかった。村に帰ったらすぐに知らせよう」

「頼んだぞ。この作戦は我々の活躍にかかっているのだ」

村長たちは自分達の村へと急ぎ戻っていった。
鍔斬は刀を取り出し、手入れをし始めた。
無論、明日の襲撃のためである。



―東雲城 地下牢―

「ほらさっさと入れ」

「へいへい。入りますからあんまり押さないでくれよ。通勤ラッシュじゃあるまいし」

「いいから入れと言っているっ!」

「おわっ!蹴らなくてもいいじゃんかよー!!」

「黙れ!静かにしていなければ飯抜きにするぞ!」

「飯抜きとかマジ勘弁www」

「ったく…他の奴と仲良くしているんだな。といっても他には一人しかいないがな」


「いつつ…思い切り蹴りやがって…。しかも手枷はめるとか」

「あの…お怪我は…?」

「あー大丈夫大丈夫。これでも意外と丈夫だから」

牢の奥から一人の少女が声をかけてきた。
端整な顔立ちであるものの、どこか子どものような幼さも感じる。
よく手入れされた黒髪は薄暗さの中でも輝いて見える。
透き通るような肌は触ることをつい躊躇ってしまうほどだ。
そして何よりも…着物に隠せ切れていないほどの素晴らしい胸。
なるほど、てっさんから聞いた通りだ。

「もしかして早苗さんか?」

「えっ、なぜ私の名前を?」

「ビンゴ、しかも同じ牢とは運がいいね俺。神様の加護でもあるんかな」

「あなたはいったい誰なんですか?」

「なぁに、ただのしがない救世主でさぁ」

「言っていることがよく…」

「明日になれば自然とわかるさ。それまでゆっくりお話でもしてようか」

薄暗い牢の中から談笑をする声が聞こえてくる。杉崎と早苗の声だ。
こんな牢の中じゃ何もないため話すしかないが時間つぶしにはなる。
気を紛らわせるにも丁度いい。二人は日が沈んでも話を続けていた。
夜はゆっくりと更けていく。
最終更新:2012年03月02日 01:24