―翌朝―
「ん、んん…ふわぁ…」
「よっ、眠れた?と言ってもこんな牢屋ん中じゃ満足に寝られないと思うけどさ」
「あっ杉崎さん、おはようございます。意外と慣れると眠れるものですよ」
「いやはや俺は全然だね。体中が痛いったらありゃしない。特に後頭部が」
「それならこちらに来ていただけますか?」
「なんだなんだ、マッサージでもしてくれるのか?」
「さ、こちらへ頭を乗せてください」
「…早苗さん。それはまさか」
「膝枕です。遠慮なさらずにどうぞ」
「…失礼します(うぎゃああああなんじゃこりゃあああああふかふかのふわふわやああああ)」
「どうでしょうか?具合はいかがです?」
「俺は今までにこんな素晴らしい枕に出会ったことはないよ(生きててよかった)」
「そうですか。それはよかったです」
「さてと、そろそろ見張りの奴が飯を持ってくる時間じゃないかな」
「それもそうですね。待っていましょうか」
「へいへいへーい!見張りの人ー!早くカモーン!!GO☆HA☆N!GO☆HA☆N!」
「ええい!うるさいぞ!今から持ってくから黙って待ってろ!」
「おkwwwww把握wwwwwwwwww」
「ったく…これが捕まってる奴の態度か…ほら飯だ」
「…ちょっとあんたよぉ。いくらなんでも餅一つはねぇだろうよ。少ないってーの」
「貴様らにはそれで十分だ。ほらさっさと食え」
「ちぇー。まあいいか。ご馳走様」
「って早いわ貴様!」
「おっ、あんたなかなかツッコミのセンスあるねぇ」
「黙っていろ。俺は少し上に行かねばならん。妙な行動を起こすなよ」
「はーい。了解ですよっと」
「さてと、見張りもいなくなったからご飯にしましょーか」
「ご飯なら今食べましたけど」
「そんなんじゃ足りないでしょ。ちょっとさくらさん手出して」
「え?はいどうぞ」
「ほーらこんなに痩せ細っちゃって。女の子ってのは痩せすぎより少しお肉ついてたほうがいいんだって」
「そうなんですか…?」
「そうそう。あ、でもさくらさんは既に十分に肉ついてる部分があるよね」
「え?…………っ!?」
「わっはっは、そんなに顔赤くしちゃって可愛いねさくらさんは」
「うぅ…杉崎さんは意地悪です…」
「悪いね、俺ってこういう性格だから。さぁご飯つくりますかね」
空中に浮かび上がった魔方陣からフライパン、卵にベーコンを取り出す。
枷はつけられているが、別に魔術が封じられたわけではない。
その気になれば枷を壊すこともできるが、今はその時じゃない。
とりあえず今は腹ごしらえが先だ。
魔術で火を出して調理開始。こういうときこの属性ほんと便利だと思う。
「はいベーコンエッグ完成。召し上がれ」
「ありがとうございます……とってもおいしいです」
「それはよかった。何か飲み物とかご所望かな?」
「えっと…お茶を頂けますか?」
「はいお茶。緑茶でよかったかな?」
「ありがとうございます。あっ」
「どうかした?もしかして美味しくなかったとか…」
「いえ違うんです。とても美味しいです。その、茶柱が立っていたので…」
「ほほう、そりゃ縁起がいいな。今夜に期待だ」
「今夜…ですか?」
「そうさ。今夜、この城からの脱出大作戦を決行するのさ」
―適当に時間が過ぎて、その夜の東雲城付近の森―
「門番が二人に櫓に見張りが四人…か。弓部隊は前へ、同時に仕留めてくれ」
「鍔斬殿、やはりこの作戦は無謀なのでは?」
「可能性が無いわけではない。だからこそやるのだ」
「…わかった。弓兵、放て!」
森の中から数本の矢が飛んでいく。
矢は見事門番と見張りの首元を射抜き、一撃で仕留めた。
森の中からぞろぞろと村人たちが出てきて、門の前に集まる。
全員が鍬や鎌などを持って武装している。
村人たちの中には刀をもった武士もいるようだ。
「それでは今から門をこじ開ける。皆の者、準備はいいか!」
『おぉー!!』
「では行くぞ!開門!!」
数人の男がかりで東雲城の門をこじ開ける。
門はゆっくりと開いていき、やがて全開となった。
「な、なんだお前達は!?村の奴等か!」
「ああそうだ!東雲の首、貰い受ける!!行くぞ!」
『うおぉぉぉ!!!』
「ええい小癪な!返り討ちにしろぉ!」
『おおぉぉぉ!!!』
村人と城の部隊との壮絶な戦いが幕を開いた。
奇襲に成功したのか、今のところは鍔斬たち、村人側のほうが優勢。
鍔斬はというと二本の刀を自在に操り、次々に敵をなぎ倒していく。
その勢いにどうやら兵も押されているようだ。
だが城の内部からも続々と兵が出てきている。
戦況が覆されるのも時間の問題だろう。
この戦い、どちらの勝利で幕が閉じるのか。
それはまだ誰にも分からない。
―東雲城、東雲の部屋―
居るだけで目が痛くなってきそうな、やたらと豪華絢爛な部屋。
これまた豪華な椅子に、やたらと飾られた着物を来た男が座っている。
この男こそが誰でもない東雲城の城主、東雲夜叉である。
東雲の前には一人の女性が跪いている。
「どうやら城に村人共が攻めてきたようじゃな」
「はいそのようで」
「して、今戦況はどのような感じじゃ?」
「現状はこちらが押されております。」
「押されている?押しているの間違いではないのか?」
「いえ押されております。突然の奇襲に動揺しているのではないかと」
「馬鹿げたことを!たかが村人共に何を同様してるのじゃ!」
「それが…その中には鍔斬もいるようでして」
「なに?“無刀”がか?なるほど、それは面白いの」
「いかがなさいましょうか東雲様」
「“鬼達磨”を行かせろ。もてなしてやれい」
「はっ、伝えておきましょう」
「それと“神速”には城内の巡回をさせろ。城内にも虫が忍び込んでいるやもしれん」
「私はどうすればよろしいでしょうか?」
「“不知火”お前はこの部屋の前で待機じゃ。決してこの部屋に賊を進入させるな」
「分かりました。東雲様の仰せのままに」
不知火と呼ばれた女は立ち上がり一礼すると、部屋から出て行った。
部屋の外には既に二人の男が待機していた。
一人は天井にまで届きそうな巨漢。背中には大きな包みを背負っている。
もう一人は黒装束を身に纏い、背中に刀を背負っている。
「話は聞いていましたね。行ってきなさい」
「りょーかいー。いってーくるー」
「ししっ俺っちは城内うろうろするだけかよっ」
「東雲様の言葉は絶対です。早く行きなさい」
「へいっ分かったよっ」
巨漢の男はどっすんどっすんと歩きながら外へと向かった。
黒服男は宙返りをしたかと思うと姿を消した。
そして女は扉の前に立っている。
「来るなら来なさい賊共よ。私たちが葬り去ってあげましょう」
―地下牢―
「ふあぁ…見張りも退屈だ…」
「おい!お前も早く来い!」
「なんだなんだどうした?」
「村の奴等が襲撃してきた。人手が足りないからお前も加勢しろ」
「おお!退屈してたところだ!すぐ行く!」
地下牢の見張りをしていた男が、別の男に連れられてどこかへ行ってしまった。
牢屋から様子を覗いていた杉崎がすかさずガッツポーズ。
「よし、始まったみたいだ。さっそくここから抜け出そう」
「抜け出す…?でも鍵がないのに、この鉄格子をどうやって…」
「俺は魔術師だぜ。この程度の鉄格子、どうにでもできるさ。
幻獣兵装“石葬鞭”!」
「鞭…ですか。でもここを破るのなら槌とかのほうがいいのでは?」
「俺が普通の鞭を出すとでも思った?まぁ見てなって。そいやっ!」
装備した鞭を振り、鉄格子をひっぱたく。
すると鉄格子が十秒も立たないうちに石化してしまった。
どんなもんだい。
「鉄から石に変えちまえばこっちのもんだ。幻獣兵装“獣甲爪”!ぜぇい!!」
今度は爪を装備して石の格子を切り刻む。
流石に斬鉄はできないが、斬石くらいならできる。
ヤバイ今の俺超かっこいい。
「さ、行こう。てっさんが待ってる」
「はいっ!」
牢屋から早苗さんの手を引いて走り出す俺。
どうよこの俺の雄姿。さながら俺勇者様ですぜ。
そして俺はこの早苗姫とハッピーエンドを迎えるのだ。
ふは、ふは、ふははははは!!!!!
―城の外―
未だに村人・武士と城の兵たちとの戦いは続いている。
戦況は村人・武士が優勢。これも鍔斬のおかげだろう。
その圧倒的な強さで立ちはだかる兵をなぎ倒していく。
まさに一騎当千。
「来るならこい兵士どもよ!拙者が相手いたそう!」
「くっ…これでは我々がやられてしまう…」
「何か手はないのか…」
「それならーおらにーまかせろー」
「こ、この声は!!“鬼達磨”殿!!」
「なにっ!?お、“鬼達磨”だと!?村の人たちは下がるのだ!」
鍔斬の出した指示を聞き、村人たちは後方へと下がった。
その直後に城の扉が開き、中から大男が出てきた。
どう見ても人のサイズではない。大きすぎる。
ゆっくりと歩いてきた男は鍔斬の目の前で立ち止まり、鍔斬を見下ろした。
「ひーさしぶりだなー。つばぎりー。いやー“無刀”とよぶべきかー」
「…ああ。お主こそな“鬼達磨”」
「鍔斬殿?奴と面識が?」
「ああ、一応であるが…」
「いちおうとはーはくじょうだなー」
「貴様らとのことなど忘れた。今はただの村人だ」
「そうかー。ならえんりょせずにーおらはおまえをころすー」
大男、“鬼達磨”は背中に背負った包みをゆっくりと地面に降ろした。
そして包んでいた布を取り払い、中から「それ」を取り出した。
周囲にけたたましく鳴り響くエンジン音、高速で回転する刃。
大男はそれをしっかと握りしめ、構えた。
「鍔斬殿、やつの持っているアレはいったい…?」
「あれこそが奴の武器。外界渡来の「ちぇーんそー」だ!!」
何故そんなものが渡来しているのか。
それにはあまり突っ込まないでいただきたい。
―城内、地下牢から上ってくる階段―
「オラオラオラ!邪魔だNPCども!!」
「ぐわ!」「ぎゃあ!」「おぎゃん!」「ぶるあああ!!」
「お、お強いんですね杉崎さん…」
「早苗さんよ。男ってのは美しい女性の前だと数倍強くなれるのさ」
「はぁ…」
「おい貴様!この先は行かせ「邪魔だコラァァァァ!!!!」
目の前に立ちはだかる兵達に攻撃を叩き込んでいく。
左手はしっかりと早苗さんと繋ぎ、右手で持ったヴァンガードでばったばったとなぎ倒していく。
今の気分は三国志の呂布とでも言ったところか。まさに無双。天下無欠の豪傑よ。
とりあえず階段を駆け上り、扉を勢い良く開ける。
するとやたらと広い部屋に出た。辺りを見渡してみる。
どうやらここは城の玄関に当たる場所、扉を開ければすぐにでも外に出られそうだ。
「よっしゃ!このまま城の外まで行こう!」
「はい杉崎さん!」
「しししっそうはさせないぜっ」
「!? だ、誰だ!!」
突然杉崎たちの前に煙が上がった。その煙の中に誰か人影が見える。
黒装束を着た、忍者っぽい奴だ。もしかしてハットリくんか。
「ししっどこに行く気だったんだっ?まさか逃げるつもりだったんじゃないだろうなっ?」
「いやいや、これから二人で愛の逃避行をだね?」
「屁理屈言ってんじゃねえよっ。さっさと女を置いてどっかに行きなっ」
「…あれ?ここって普通「生かして逃がしはしねぇぞっ」とか言わないか?」
「俺っちたちが用事あるのはそっちの女なんでねっ。正直お前とかどうでもいいっ」
「あー悪いけど、俺も彼女に用事があるんでね。渡せはしないんだなこれが」
「なるほどっ。なら、ころしてでもうばいとるっ」
「いいぜ来いよ。早苗さん、離れててちょんまげ」
「杉崎さん。無茶、しないでくださいね?」
「任せといて。俺っていい感じに最強だからさ」
「俺は“神速”って言うんだぜっ。小僧、名前はなんだっ?」
「杉崎衛。お前を倒す男の名前だよ。しっかり覚えとけ忍者野郎」
どうやらハットリくんじゃなかったようだ。残念。
―城の外―
「そらー。そらそらー。よけないとしぬぞー」
「くっ……」
「どーしたつばぎりー。おまえのちからはーそんなものじゃないだろー」
「悪いが、まだ力を温存する必要があるのでな。本気はだせんのだ」
「おらにたいしてーほんきをださないとはー。しょうきかつばぎりー」
「正気もなにも、そもそもお主相手に本気など出す必要もないからな」
「なめるなー。おまえがのんきにくらしているあいだにもーおらはつよくなってるぞー」
「ああ、そのようだ」
いくら鍔斬といえど、チェーンソーを持った大男相手では分が悪いようだ。
うっかりすれば刀を折られてしまう可能性すらある。
今は手を抜いているのではなく、相手の様子を窺っているのだ。
「それならーこっちにもかんがえがあるどー。おいーやつをつれてこいー」
「はっ鬼達磨殿。おい、早く来い!」
「つ、鍔斬殿…すまん、捕まってしまった…」
「お主は隣村の…。貴様…!人質とは卑怯な!」
「つばぎりー。ほんきをださないならーこいつのくびをおとしてやるどー」
「おらはーほんきのおまえとたたかいたいんだー。さっさとほんきをだせー」
「…そうか。ならば仕方ないな」
鍔斬はなぜか刀を二本とも鞘にしまってしまった。
つまり今は手ぶらの状態。
その状態で鍔斬はゆっくりと右手を前に持ち上げた。
「…無刀流。とくと味わうがいい」
その瞬間鬼達磨の右腕が斬り落とされた。
何が起こったのか大男にはすぐには理解できなかった。
腕が斬られたと理解できた時には、体を袈裟懸けに斬られていた。
一瞬の出来事に驚く暇もなく、鬼達磨は力なく地面に膝をついた。
「ぐ、ぐふぅー…つばぎりー、おまえ、なにをしたー…?」
「お主には拙者の力を見せるのは初めてだったな。
音速の居合によって、まるで刀を持たずに斬ったかのように見えるのだ。
――故に“無刀”。お主の負けだ、鬼達磨」
鍔斬が最後の言葉を言い終わると同時に、鬼達磨の全身から血飛沫があがった。
―城内―
「ちっ、なんだお前っ。妙な術を使いやがるっ」
「妙とは失礼だな。お前だってこそこそ隠れながら手裏剣やらなんやら投げてきやがって」
「ししっ俺は忍者なんでね。隠密行動が好きなのさっ」
「堂々と俺の目の前に出てきておいて、隠密行動もクソもねえだろ」
「あぁそうだなっ。なら戦い方を変えてやるよっ。高速分身の術っ!」
黒装束の男が突然増えた。めっちゃ増えた。十人くらいに。
こいつハットリくんじゃなくてナルトだったのかよ。
「な、なんだ?分身の術か?」
「高速で移動することによってっ、俺は分身することができるんだっ」
「それ術じゃねーし!もっと螺○玉とか、火遁豪○球の術とか使えよ!」
「何の話かわからねーがっ、これでお前もお終いだっ!!」
「くそっ、幻獣兵装“龍哭砲&火蜥蜴”!!」
二丁の拳銃を装備し、襲い掛かってくる分身たちを攻撃する。
しかし銃弾は命中せず、ただすり抜けるばかりだ。
「ししっ残念だったなっ。これだけ高速で動いてるんだから当たるかよっ。
けどなっ、俺からの攻撃だったらどうなると思うっ?」
「ちょっと待て。お前まさか…!」
「秘術!手裏剣乱舞っ!!」
分身たちから投げられた無数の手裏剣が四方八方から飛んでくる。
奴は高速移動をしながら別々の場所から手裏剣を投げまくっているようだ。
なんともご苦労な技だ。
「全方位から攻撃とか…ま、防げるんですけどね。“甲凱壁”!」
三枚の盾が杉崎の周囲をぐるぐる回り、手裏剣を次々に防御していく。
結局杉崎には一枚の手裏剣も届くことはなかった。
「何っ!?防いだだとっ!?」
「お生憎様♪さてどうするよ?」
「…ししっお前なにか忘れてないかっ?女が無防備だぜっ!!」
「えっ?きゃあっ!」
「早苗さん!大丈夫か!?」
「なんとか…大丈夫です。頬を掠っただけですから…」
「…おい、神速とか言ったか。お前は今一番やっちゃあいけないことをした。
女性を傷つける。その行動は七つの大罪よりも重い罪なんだよ」
「ほほうっ。ならどうするんだっ?」
「俺を相手にしたことを後悔させてやる。全力でな」
「早苗さん。壁に張り付いて一歩も動かないで。絶対に」
「ししっそんなの絶好の的だぜっ?殺されたがってるようなも…」
「黙ってろアホ忍者。八つ裂きにしてやるからおとなしく待ってろよ」
「うるせぇクソガキ!いい気になりやがって!!ブチ殺してやる!!!豪速分身の術!!!」
神速がまた高速で分身し始めた。
しかもさっきよりも多い。数十人はいる。
つーかこいつ普通に喋れたんじゃねーか。
「しししししっ!!どれが本物か見破れねえだろ!今度こそお前の負けだ!」
「見破る必要なんてない。全部吹っ飛ばせばいいんだからな!“烈火”!」
高温の熱風を発生させ、分身体を一気に攻撃する。
分身は次々に消えていき、とうとう一人だけ残った。
「お前が本体だ!“黒焔鳥”!!」
「残念だったなあ!そっちも分身だ!!」
「まさか…上だとっ!?」
「これで終わりだ死ね!!」
杉崎の手から放たれた炎の鳥は神速の体をすり抜けた。
最後の一人も分身体であり、本体は杉崎の頭上に居たのだ。
神速は忍者刀を抜き放ち、杉崎を肩から斬りつけ、さらに心臓を突き刺した。
「す、杉崎さんっ!!」
「しししししししっ!!!これで俺の勝ちだ!!!」
「あーらら。楽しそうだねー。なんかいいことでもあった?」
「何っ!?テメェ何故生きてやがる!?」
勝利を確信し、高笑いをする神速のとなりに杉崎が立っている。
まぁなんとなく分かってるだろうけど、絶影を使用して攻撃を回避していたのだ。
「残念だったな。ありゃ残像だ。幻獣兵装“ベヘモス”」
「へっ今更鎧なんか着てどうするってんだっ!?」
「こうするのさ」
杉崎が鎧を装備し、神速の腕を掴んだ。
すると掴んだ部分が石に変化した。
腕から胴体、足、みるみるうちに体が石に変化していく。
「な、なんだこりゃあ!!?てめぇ…こ…ろ……」
「煽り耐性低すぎるんだよ。VIPでも行って出直して来い」
忍者男は完全に石に変化してしまい、まるで精巧な石像のようになってしまった。
とりあえずそれは放置しておく。もう動けないだろうし。
「早苗さん、もう動いていいよ」
「杉崎さんっ!」
壁から走ってきた早苗さんが抱きついてきた。
ちょっと待って俺まだ心の準備が。
でもここで拒むのは紳士じゃない。とりあえず手を回し…。
「たのもー!!!」
「うおっ!?」
「ひゃっ!?」
誰かの大声とともに扉が開け放たれる。入ってきたのは鍔斬だった。
突然のことに驚き、早苗さんが離れてしまう。
くそっ!役得だったのに!胸とか当たって気持ちよかったのに!!
別の奴だったら殺してるところだった。
「兄上!!」
「早苗!よかった、無事だったのだな」
「はい、怖かったです兄上…」
「早苗…」
「あーもしもし?感動の再会を邪魔して悪いんだけどさ。こわーいお姉さんがこっち見てるんだよ」
「…よく気づきましたね。気配は消していたはずなのに」
大きな柱の後ろから一人の女性が出てきた。
なんか巫女服っぽいのを着ている。
うわめっちゃ美人だ。早苗さんとどっこいどっこいかもしれん。
ここはアピールしておくしかない。
「たとえ気配が消せても、俺への熱い視線は隠せなかったということさ!!」
「…………。」
「…なんかごめんなさい」
「兄上…私は…」
「早苗はどこかに隠れているのだ。戦いが始まる」
「久しいですね鍔斬。まだ生きていたのですか」
「生憎、あの程度のことでくたばるような拙者ではないのでな」
「私に殺されかけ、またここへ戻ってくるとは。私の想像以上の愚か者のようですね」
「黙れ。東雲などに使える貴様らのほうがよほど愚か者だ」
「あのーてっさん?なんか話が見えないんだけどさ?てゆーか今北産業?」
「…拙者は昔、この城で東雲に仕えていたのだ」
「マジでか」
「五年ほど前まで、拙者は東雲に仕えていた。あそこの女、“不知火”たちと共にな」
「たち、ということはあの忍者もそうか」
「ああ。しかし東雲の傍若無人な振る舞いに嫌気が差し、奴の暗殺を目論んだのだ」
「ですがそれは失敗し、私に殺されかけて村まで逃げた…ということです」
「追加説明どうも、綺麗で怖いお姉さん。殺気がこっちまで漂ってますよ?」
「東雲様に牙を剥こうとする輩を抹殺することが私に与えられた使命。あなた方にはここで果てていただきます」
「そうかいそうかい。でもこっちには人質の忍者がいるんだぜ?今は石になってるけど砕ければ即死だ」
「成る程、それは良いことを聞きました」
不知火と呼ばれていた女性の姿が突然消えた。
いや、消えたんじゃない。一瞬で俺達の隣まで移動してきたのだ。
さっき戦った神速も高速移動できたが、それとは違う感じだ。
そう、まるであそこからここまで瞬間移動してきたかのような…。
「“弾けなさい”」
不知火が軽く忍者石像に触れると、弾けるように砕け散った。
ここでさっきの俺の言葉を思い出してもらいたい。
石となった人間は砕ければ――死ぬ。
「おい!あんたなにやってるんだよ!俺の言葉聞いてたのかよ!!」
「聞いていました。だからこそ破壊したのですよ」
「破壊したって…あんた仲間じゃないのか…仲間を殺すかよ普通!?」
「弱い仲間など必要ありません。弱者には、死あるのみ」
「不知火よ、まさかお主がここまで堕ちていたとはな…!」
「なんとでも言いなさい。私は東雲様からの命令を果たすだけ。障害になり得るものは…」
「抹殺する、ってことか。せっかく美人なのに物騒なこと言うなぁ」
「杉崎、不知火は強い。二人掛りで倒すぞ」
「――いや、てっさんは先に東雲のところへ。あの人の相手は俺がするよ」
「な、何を言っている杉崎!言っただろう、奴は拙者よりも強い。二人でいかねば倒せはしないのだ!」
「俺はまだ本気を出してないんだぜ?それによてっさん、表ではまだ戦いが続いている。
この戦いを終わらせるにはどちらかが全滅するか、東雲の首を取るしかない。
前者だけは避けたい。だとしたらてっさんがいち早く東雲を討ち取るんだ」
「…承知した。だが気をつけろ杉崎、不知火は不思議な力を使う。例えばお主の魔術のようなものだ」
「魔術のような力?でもあの人から魔力は感じない。ということはもっと別の…。
よしてっさん。かくかくしかじか」
「かくかくうまうま…なるほどな」
「作戦会議は終わりましたか?」
「あぁ、終わったさ。そぉいっ“烈火”!!」
話を終えると同時に熱風を不知火に向かって放つ。
温度は高め、肌に直接浴びれば火傷する程度のだ。
分かりやすく言えば炊飯器から出てくる蒸気レベル。
顔とか浴びればめっちゃ熱いので、不知火はすかさず顔を覆い隠す。
「くっ…熱い…」
「ところでおねーさんさ。ちゃんと見てなくて大丈夫なん?」
「何のことで――鍔斬がいないっ!?」
「俺の攻撃はあんたの視界を一時的に封じるためにやったのさ。てっさんはもう東雲のところへ向かってる」
「一刻も早く東雲様の元へ戻らなければ…」
「はいはいちょっとストップ。まさか俺を無視して行っちゃうわけじゃないよな?」
「いいでしょう、東雲様の為にも一秒でも早く殺してさしあげます。名乗りなさい、少年」
「杉崎衛だよ。綺麗なお姉さん」
「そうですか。杉崎、ここが貴方の人生の終着点です。“爆ぜなさい”」
「っ!?やべえっ!!」
不知火が杉崎に向かって指パッチンをする。
その行動に嫌なものを感じとり、後ろに跳ぶ。
突然、さっきまで杉崎が立っていた場所が爆発した。
いやちょっと待て、爆発ってなんだ。そこには何もなかったはずだ。
さっきから彼女の行動には妙なものを感じる。
瞬間移動に謎の爆発、彼女が魔術師だったら納得するが…。
「…そうか。分かったぞあんたがなんなのか」
「あんたは超能力者だ。そうだろ、不知火さんよ」
「で、その結論はどうやって出たのですか?」
「瞬間移動は間違いなくテレポート。そしてあの爆発。
火薬とかの爆発物によるものとはまったく違う。何もないところが突然爆発した。
そう考えればまぁパイロキネシスによるものと考えるのが妥当かなって」
「テレ…やパイロ…とかいうのは何かは分かりませんが正解です。
私は瞬間移動と発火能力を持つ超能力者です。あなたと同じですよ」
「俺のは超能力じゃないんだな。それに、俺も扱えるのは炎だけじゃない」
「石にする能力も貴方のものですか。厄介ですね」
「いやいや、俺からすればあんたのほうがよっぽど厄介だよ」
「そうですか。…さて、大分時間が経ってしまいました。そろそろ始めましょう」
刹那、不知火の姿が消える。またテレポートだ。
次に予測される攻撃を想定し、瞬時にしゃがみこむ。
案の定、不知火は背後に移動して死角から攻撃を放ってきた。
手にしているのは炎の剣、それも二本だ。
「そっちが剣ならこっちは狼牙棒でも使うか。行くぜヴァイスリット」
すかさず腰のホルダーからヴァイスリットを取り出し、狼牙棒に変形させる。
不知火の攻撃を避け、防ぎ、狼牙棒を振り下ろす。
しかしテレポートで避けられる。既に不知火は頭上にいる。
(これで終わりですよ)
「今度は…上かッ!」
「くっ!(そんなっ気づかれた!?)」
見ることもせず、頭上の不知火に狼牙棒での突きを放つ。
防御されたものの、直撃したからダメージは入っているはずだ。
「私の移動する場所を察知できるのですか?」
「俺も似たようなことが出来るからね。どこに移動するかは大体予測できる。
目には目を、瞬間移動には空間転移ってね」
「実力はなかなかにあるようですね。私の異能の力への対応力も」
「そいつはどうも」
「認めましょう、貴方の実力を。本気を出させてもらいます」
「“噛みなさい”」
「“黒焔鳥”!」
不知火が炎で狼を作り出して放つ。
それに対抗してこちらも闇の炎の鳥を放つ。
互いの炎の獣はぶつかり合い、相殺された。
その隙に不知火がテレポートで距離を詰めてくる。
「“貫きなさい”」
「もういっちょ!“黒焔鳥”!!」
炎の槍を作り出し、突きを放ってくる。
すかさず闇の炎の鳥をぶつけ、カウンターを狙う。
鳥は槍の攻撃を食らい、爆発した。
煙が晴れると杉崎の姿が消えていた。
「消えた…?どこへ行ったのですか…」
「必殺、シャドーアッパー!!」
「下っ!?あうっ!!」
不知火の足元の影から飛び出しアッパーを叩き込む。
奇襲攻撃が成功したため、見事決まった
「仮面ライダードクロ(シャドーフォーム)参上っ!」
「変なスーツを着て…それで強くなったつもりなんですか」
「今の俺は正義のヒーロー。悪の手先に屈したりはしない」
「悪、いいえ違います。東雲様こそが正義なのです」
「村人から無理矢理税を徴収し、出来ないなら捕らえて無理矢理働かせる。それのどこが正義だ!」
「理解できないのならそれまで。私達と貴方達は到底分かり合えないのでしょう」
「理解する気も、分かり合う気も俺には無い。俺にあるのは正義の心だけだ」
「オサレポイント稼ぎに今の俺の能力を教えてやるよ。
今の俺は影に潜ることができる。それだけじゃない、操ることもできるのさ」
「自らの手の内を明かすとは、そろそろ負ける気になったのですか?」
「知ってるかいあんた?とある人気漫画じゃあ自分の能力を説明すればするほど強くなるんだぜ」
「戯言を、“咆えなさい”」
杉崎に向かって炎の塊が数発放たれる。
それを杉崎は影に潜って回避した。
先ほどのアッパーのこともあり、不知火は足元を再び警戒する。
しばらくして、足元の影から手が出てきた。
「見えましたよ、なら瞬間移動で回避するまでです」
「残念、捕まえたーっと」
タイミングを計り、瞬間移動で杉崎の攻撃を避けた。
いや、確かに避けたはずだった。
気づいたときには杉崎に羽交い絞めにされていたのだ。
「っ!?そんなバカなっ確かに見切って避けたはず…!」
「影ってのは己であり、己の分身でもある。
どこまで逃げようとしても逃げられないよ」
「しかし捕まったところで私には瞬間移動が…そんなっ動けない!?」
「“影踏”。あんたの影を固定させてもらったよ。これで俺から離れることはできない」
「ならば炎で…」
「こんな近距離で使えば、いくら自分の炎だろうとあんたも無事じゃすまないぞ」
「私が犠牲になろうと、貴方を倒せれば私は…」
「あんたが犠牲になって誰が喜ぶんだ?」
「それは東雲様が…」
「犠牲になって、相打ちになって。それで本当に主が喜ぶとでも思っているのか?」
「うっ…それは…」
「とりあえず、今は眠っててくれ。全てが終わるまで…ライダーキック!!!」
なんとなくかっこいい台詞を言いながら不知火を蹴り飛ばした。
すさまじい蹴りによって不知火は気絶、戦闘不能となった。
きたないなさすが杉崎きたない。
「俺はどこぞのコックとは違って、女を蹴らない主義じゃないんだ。悪いね」
―東雲の間―
「この部屋だ…東雲!」
「ん?なんじゃお主?」
「拙者の顔を忘れたか東雲。“無刀”鍔斬鉄衛門だ」
「おぉ、待っておったぞ。して、何の用事じゃ?」
「用事など、拙者が言うまでもないだろう。察せ」
「なるほど、我が精鋭三名によって主らは壊滅状態。命乞いをするためにここに来たじゃな?」
「壊滅…ふははは!憶測で物を言うのはあまり褒められたことじゃないぞ東雲よ。
壊滅状態なのは貴様らのほうだ。鬼達磨、神速は既に倒された」
「そ、そんなバカな!そんなわけがないでおじゃろう!それにまだ不知火が…」
「不知火ってのは、もしかしてこの人のことですかい?」
「なっ…!?き、貴様はいったい誰でおじゃる!」
「杉崎!」
部屋の入り口に杉崎と早苗が立っている。
杉崎は気絶した不知火を抱きかかえている。
不知火は手足を縛られ、猿轡もされている。
なんかいけないプレイに見える。
「万事休す、ってやつかな?アンタはもうおしまいだ東雲さんよ」
「い、いやだ…まだ……まだ死にたくないでおじゃるうぅぅぅぅ!!!」
「観念しろ東雲、貴様はここで終わりだ」
「や、やめるでおじゃる…やめr」
東雲の胸に鍔斬が刀を突き立てた。
刀を刺したまま刀を上に斬り上げる。
そして止めに首を切り落とした。
「てっさん、早く表へ行こう。この戦いを終わらせるんだ」
「あぁ…!こんな戦い、終わりにしてやろう」
すぐさま城の外に出て、未だ戦いを続ける兵たちに向かって叫んだ。
「東雲は拙者が討ち取った!この戦いはもう終わりだ!」
東雲は討ち取られ、兵たちは全員戦意を喪失した。
武士たちは喚起し、村人たちは泣いてよろこんだ。
今まで村を苦しめていた元凶が居なくなったのだ。喜ぶのも無理は無い。
村に帰ってからは宴会が開かれ、翌日の昼間まで騒ぎは続いた。
東雲が早苗さんを捕まえた理由だが。
なんのことはない、実に至極単純なことだった。
「美しい娘がいると聞いたから妻に迎えようと思った」
なんとも自己中心的な考え方だろう。
早苗さんがあんなクソ狸野郎と夫婦になるか。
殺して正解だった。
東雲城は改修し、鍔斬兄妹が住むことになった。
これは村の人たちの提案で、あの二人がこの島を治めるなら納得なんだそうだ。
これには俺も賛成。きっと東雲のようなことにはならないだろう。
残された兵たちは改めて鍔斬の元へ仕えることにしたそうだ。
正直、兵の半数以上が東雲のやり方に不満を抱いていたらしい。
それこそ不知火のような、東雲に絶対忠誠を誓った妄信的な兵は少なかったらしい。
所詮東雲は人の上に立てる存在じゃなかったということか。
ところで捕まえていた不知火はというと、気づいたら消えていた。
縄で縛ってはいたが、瞬間移動や発火能力があれば抜け出すのは容易だろう。
東雲を失ったことを知った彼女が死んだのか、それとどこかで生きているかは定かではない。
しかしあの忠誠っぷりなら後を追って死んだ可能性が高いかもしれない。
彼女が何故あそこまで東雲に忠誠を誓っていたのかは鍔斬でも知らないそうだ。
おおかた、昔拾われたからとかそんなじゃないかと言っていた。
そして、肝心の俺はというと…。
「やはり行ってしまうのか杉崎」
「ここで私たちと暮らすことはできないのですか?」
「てっさんに早苗さん。申し訳ないけど俺にそれはできない。俺にも帰る場所があるんだ」
「そうか…。お主には随分と助けられた。それこそ一生では借りが返せないほどだ」
「いいって、俺は命の恩人に恩返しをしたまでなんだからさ」
「…また、いつか会えますよね?」
「会えるさ、きっと。そういうのを運命の出会いって言うんだから。…じゃ、俺行くよ」
「さらばだ杉崎。拙者はお主のことを一生忘れないぞ」
「私も…杉崎さんのことは…忘れ…まぜん…ううっ…」
「…ああ、さようなら。きっと、いつかここにまた来るよ」
―後日談―
島から帰る途中で嵐にあった。いくら兵装を使っていても嵐には敵わない。
いい感じに巻き込まれ、意識が戻ったときには俺は日本にいた。
結局、あの島への道のりは分からずじまいになってしまった。
「はぁ…」
「どったのさ衛。そんな暗い顔しちゃって」
「慰めてあげましょうか衛くん?性的に」
「……早苗さんに会いたい」
「「早苗さん?」」
「えっと衛、早苗さんって誰なのかな?かな?」
「五文字以上、三文字以内で説明しなさい」
「銀、怖いから鉈を下ろして。そして瑠璃さん、それは無茶です」
「胴体が永遠の別れを告げるまえに喋ったらどう?」
「童貞と永遠の別れを告げる前に喋ったらどう?」
「うわーイントネーション似てるのに意味が全然違う」
「よし、遺言はそれだけだね衛」
「…さようなら衛くん」
「え、ちょっと待ってって。冗談だから冗談。やめて殺さないで!
てっさんでも早苗さんでもいい!誰か助けてくれえぇぇぇぇ!!!!」
…正直、島での暮らしのほうが平和だった気がした。
もしかして帰ってこなかったほうが正解だったのでは…。
薄れゆく意識の中、そんなことを思った俺であったのだった。
~めでたしに限りなく近いなにか~
最終更新:2012年03月02日 01:24