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気を取り直して先に進む。
大分奥に進んだためか、酸素濃度が大分薄くなってきた。
うかつに炎魔術を使えば一気に酸素が無くなるかもしれない。
そうなってしまえば一気にお陀仏だ。気をつけなければ。
今も周囲を照らすために炎を使っているが、少し息苦しい。
呼吸困難、とまでは流石にいかないが。
しかし満足に炎が使えないといろいろ困るな。
戦闘時の何割が炎使うと思っているんだ。
ああもう面倒くさい。

「なァオイ」

なんか話掛けてきやがった。
なんなのよもう黙っててくれないかなこいつ。

「行き止まりだぞオイ」

そんなわけがあるか。途中に分かれ道なんて無かったんだぞ。
…正確にはあったけれども、それはまた元に繋がってたし。
とにかく、行き止まりなんてものあるわけが…

「マジかおい」

あった。行き止まりだ。
少しだけ、ほんの少しだけ広い空間になってはいるが何もない。
自分達が入ってきた道以外の道も見当たらない。
360度、どこを見ても壁、壁、壁。あ、背後に入ってきた道ひとつ。
……何もない。マジで行き止まりだ。

「ここまで来てどういうことだよォ?」

「俺に聞くなよ。俺だって今頭ん中整理してるんだから」

とにかくどこかに道がないか適当に壁やらを触ってみる。
しかしどこにも怪しいところはなかった。
半ば諦めかけたとき、アンサーが突然叫び声をあげた。

「うぎゃあ!なんだァ!?」

「おいどうした!死ぬか?死ぬのか!やったぁ!」

「やったァじゃねェよカス!足が地面にめり込んだんだよォ!」

本当だ。アンサーの右足が地面にずっぽりめり込んでいる。
体を引っ張って足を引っこ抜き、その穴をさらに掘って広げてみる。
そこにあったものは――

「なんだこの階段は!」

「隠し階段かよォ。面倒クセェことしやがってェ。まあいい行こォぜェ」

「言われなくても。さっさと任務を終わらせてお前とおさらばしたいわ」

「あァまったくだァ」

適度に距離を置きつつ、俺とアンサーは隠し階段を下りていく。
階段は隠されていたわりには案外広く、左右にも上下にも空間がある。
しかし角度がかなり急で、足を踏み外したらそのまま落ちていってしまいそうだ。
そう思いながら俺はアンサーの背中をぐいっと押してやった。

「うおおっ!!?」

少しバランスを崩しつつも、なんとか耐えやがった。
くそっつまらない。落ちればよかったのに。

「なにすんだテメェコラァ!落ちるところだったじゃねェかァ!」

「ギャーギャー騒ぐな。落ちても死なないから大丈夫」

「死ぬわァボケェ!」

「こんな簡単に人は死なんよ。馬鹿だな阿呆だなもしくはだらだな」

「だらってなんだよォ!?」

「石川、富山で使われているらしい馬鹿や阿呆と同じ意味合いを持つ素敵な言葉だ」

「同じじゃねェか!素敵じゃねェしよォ!殺すぞテメェ!」

うひょー怒ってる怒ってる。
こいつちょっとしたことですぐ怒るな。
沸点低すぎ。ヘリウムかお前は。

「さて。そんなことよりもアンサー、どうやらこの先っぽいぞ」

「アァ…どうみても、だな」

階段を一番下まで下りてくると。目の前には大きな扉があった。
これもどう見ても人工物だ。怪しい、怪しすぎる。
ほぼ間違いない。この先に、この向こうにあるはずだ。
俺たちは重厚な扉に手を触れ、押し開ける。
ここに、魔結晶があることを信じて。




扉の向こうにはとんでもない光景が広がっていた。
神殿、とでも言うのだろうか。
石を並べて作った道の左右には何本もの石柱が並んでいる。
その先にあるのは祭壇だろうか。とにかくなんかある。
そしてそこに、まばゆい光を放つ物質が浮いていた。
おそらく、あれが魔結晶。

「あれかァ。魔結晶ってのはァ」

「魔力濃度が無茶苦茶だな。肉眼で認識できるレベルって」

魔結晶の放つ光の正体は、あまりにも濃密で濃厚な魔力。
宙に浮かぶ魔結晶からオーラのように漂っているのが見える。
あれほどの魔力、上級魔術師ですら持ってないだろう。
俺のフルの魔力なんてあれの1割に及ぶかどうか。
恐るべし、魔結晶。

「さァてと、早速あのナントカってのをブチ壊すとすっか」

アンサーがそう言って足を踏み出そうとした、その時だった。


「きゃはっ☆申し訳ないけどどちら様かなぁ?」

「あはっ★ここは今立入り禁止なんだけどなぁ?」


祭壇へと向かおうとする俺たちの前に、左右の柱の後ろから少年少女が現れた。
見た感じは自分達より幼いようだ。中学生真っ盛りって感じ。
……中学生?厨二病?まあいいや。
それにしてもこの二人、よく似ている。
そっくり、瓜二つ、双子か。

「そぉだよ☆」

「ボクらは双子なのさ★」

合ってた。
それにしても、こいつらの喋り方ちょっとむかつくな。
まるでこちらを舐めきったような、ふざけた口調だ。
ノリノリでその顔面がへこむまでぶん殴ってやりたい。

「誰だよォテメェら」

「ふふーん☆素直に名乗ると思う?」

「ダメだよいじめちゃ★かわいそうだよ」

「ウゼェ…」

アンサーが大分イライラしてきたようだ。
そろそろ怒りが爆発しかねない。
仕方ないから俺が間に入るとするか。

「あんたらは誰だ?何の目的でここに来た?」

「本当は簡単に名乗りたくないんだけどねー☆」

「君たち必死だし教えてあげるよ★」

双子は仲良さそうに手を繋ぎ、キメポーズをとる。
そして高らかに、こう名乗った。

「ボクはソール★」

「ワタシはルーナ☆」


「「そして、ヴァルハラ師団のメンバーさっ★☆」」


うわぁ……
絶対に嫌だと思ってた展開が来ちゃったよ。
厨二病どころかマジもんの中学生かよ。
こりゃあインド人もびっくりだわ。

「アァ?なんだァそりゃあ?」

そして忘れている奴一名。流石だわ。
もはやこの程度じゃあ驚かなくなってきたよ。

「だめだめぇ☆ワタシたちを知らないなんてナンセンスだよぉ☆」

「まってよルーナ★彼らの今後を考えれば知らないほうが幸せなんじゃないかな★」

「それもそうだねソール☆」

こいつらこんな喋り方しかできないのか。
もういいさっさと話を終わらせてしまおう。

「で、あんたらの目的をまだ聞いてないんだが?」

「目的なんて簡単だよ★」

「ここに来る理由なんてたったひとつ☆」

「「魔結晶の入手、それが目的だよ☆★」」

案の定、か。ヴァルハラ師団の名前を聞いた時点で確信はしていたが。
それにしてもこいつら、結構簡単に情報もらしているんだが。
そんなことしちゃって上の人とかに怒られないのかよ。
任務失敗したりしたらいろいろ怒られたりしないのか。

「情報が漏れたってだいじょーぶ☆」

「その情報を聞いた相手を、『消せば』いいんだからね★」

「んなっ!?」「アァ!?」

双子の言葉に俺とアンサーは驚愕する。
可愛い顔しておいて無茶苦茶なことを抜かしやがる。
消すって要するに殺すってことじゃねーかよ。

「と、いうわけでさっ☆」

「遊んでよ、ふたりともさっ★」

「「殺 し 合 い で ☆★」」

無邪気な悪意が、無差別な殺意が、無愛想な敵意が。
無遠慮に牙を剥く。




「さっ、始めよっか☆」

少女のほう、確かルーナとか名乗ってたか。
そっちが腰につけたポーチに手を入れ、あるものを取り出した。
それは様々な種類の動物のフィギュア。
プラスはおもむろにそれを俺たちのほうへと投げた。

「いっくよー☆“リアライズ”!」

ぼそっとそう呟いたかと思うと、突然俺たちの周りに何頭もの動物が現れた。
この動物達、さっき投げてきたフィギュアと同じ種類のやつだ。
……成る程、あいつの魔術が何なのかわかったぞ。
というかここまで分かりやすい魔術もそうそうないな。

「そっちの女の子、フィギュアを本物にする魔術を使うみたいだな」

「ご名答ー☆入り口のところにケルベロス置いてきたんだけど見たぁ?」

「邪魔だったからぶっ殺したけどなァ」

「…あっそ☆」

成る程、あのケルベロスはあの子のだったというわけか。
それならば死体が消えたのも頷ける。消えたんじゃなくてフィギュアに戻ったんだ。
俺たちがそのフィギュアに気づかなかったというだけで。
納得納得。全ての謎は解けた。真実はいつもひとつ。

「それじゃ、サービスにボクの魔術も見せてあげるよ★“エレメンタルギフト”!」

今度はソールと名乗っていた少年が動いた。
右手を高く掲げると、小さな虹色の正方形の箱が現れた。
それも一つだけじゃない。4,5個くらいある。
右手を振り下ろすと、その箱がこちらに向かって飛んできた。

「さぁ、弾けろっ★」

ソールの掛け声とともに、箱が弾ける。
その中からは炎、水、雷、地、風、闇、光。
あらゆる属性の攻撃が飛んできた。

「チィッ!“ライジングシールド”!」

幻獣兵装“甲凱壁”!」

すぐさま俺達は防御魔術を使用する。
というか攻撃されたというのに防御しないのもおかしい話である。
最初ということで手加減していたのか、容易にすべて防げた。

「…と、まあ★ボクは無以外のあらゆる基本属性を使えるのさ★どうだい?」

「別に。それがどうしたって感じだ」

「そんなんでオレを殺せる理由にはならねェよ」

「…あっそ★」

「さて。それじゃあ今度は俺達から行かせて貰おうか」

「覚悟しろよォテメェらァ。跡形もなく感電死させてやんよォ」

いよいよ俺達の反撃が始まる。
これからが本当の戦いだ。
――そう、そのときは確かにそう思っていた。
だがしかし、それは突然に起こった。
あまりにもいきなりすぎて、その場にいた誰もが状況を理解できなかった。

「………えっ☆……?」

「ル、ルーナァァァ!!!」

いち早く我に返り、状況を理解したのはソールだった。
状況を受け入れられないと、信じられないといった顔をしている。
おびただしいほどの汗を流し、驚愕に満ちた表情をしている。

そして俺たちもようやく、状況を整理し、理解することができた。


ルーナの胸元から、一本の刃が突き出ているのだ。
だがルーナの背後には誰も居ない。
それどころか背中には傷すら一切見当たらない。
ただ胸元から、鋭い透明な刃が突き出ているだけだ。

「え…なんで……?どこから……一体…?」

ルーナも状況を理解したようで自分の胸元に手を当てる。
ベチャ、という音とともに手の平にべったりと血が付く。
そうこうしている間にも、傷口からは血が少しずつ溢れている。

「…アンサー、お前やったか?」

「突然背後から突き刺すなんて出来るかァ。俺じゃねェよ」

「なら一体誰が……」

『知りたいか?愚かしい未熟な魔術師共よ』

「っ!?な、なんだ声が…!どこだ、どこに居るんだ!?」

「チイッ!また変な奴かよォ!」

その声は俺たちとも、あいつらとも違う、男の声だった。
はっきりと声は聞こえるが、どこにも姿は見えない。

「オイィ!出て来いコノヤロォ!ビビってんのかァ!?」

『まぁ焦らすのも詰まらんからな。良いだろう。その目に焼き付けろ、俺という存在をな』

そう声が聞こえたとき、ルーナの背後の空間にヒビが入った。
つか空間にヒビってなんだ。自分で言っておいて。
でもそう形容するしかない。本当に、何もない空間にヒビが入っているのだ。
徐々にそのヒビは広がり、やがて黒い穴のようなものが現れた。
そこからは一本のガラスでできた太刀が伸びており、ルーナの体を貫いている。
さらにその穴の奥から、白髪の男が出てきた。



「御機嫌よう諸君。今日はいい殺戮日和だな」




(なんだ……!?なんなんだこいつ………!?)

某サッカー漫画の【あの人】ばりに衝撃的な登場をしやがったこの男。
人間のものとは思えない殺気を放っている。
だが猛獣のように獰猛なものでもない。
冷酷かつ冷淡な、恐ろしいほどに穏やかな殺気だ。

「さて、と。ついつい邪魔だったから刺してしまったがこの小娘、どうしてくれようか」

「貴様あぁ!!よくも、よくもルーナを!!」

「慌てるな、まだ殺していないだろう。太刀が腹に突き刺さった程度で人は死なんよ」

激しく怒鳴り散らすソールを飽くまで冷静に制止する。
確かにあの男の言い分は正しいが。行動はまったく正しくない。
というかまだってなんだ。まさかこいつ…。

「ほら、この女は返してやろう。勝手に連れて行け」

そう思っていたら以外にもあっさりと、ルーナの体から剣を引き抜いた。
そして無造作にソールのほうへ蹴り飛ばした。慌てて受け取る。
出血が酷いのか、だいぶぐったりしているが意識はあるようだ。

「ソー……ル………?痛い…痛いよ……」

「ルーナ!ルーナ!……っ!! 貴様ぁ!何者だ!名乗れ!今すぐに!」

「そうやかましくするな。洞窟内だから反響するだろうが。耳に響く。やかましいぞ」

「この状況で…よくもそんなことをっ…!!」

「それにどうした?取り乱しすぎて口調が変わっているぞ?ほら☆や★をつけて喋ったらどうだ」

…あの男、完全にあいつらをおちょくっている。
いや、どっちかと言えば人を完全に見下している。
明らかに人を下に見た目線で会話をしている。
何なんだ。あの男は一体全体何なんだ。

「……ああそうか、名乗りがまだだったな。いかんな、この癖は直さねば」

男は頭を抱えてやれやれといった風にすると、持っていたガラス製の太刀を地面に突き刺した。
普通ガラスなんかで剣を作ればすぐに割れてしまいそうなものだが、あれはまったく刃こぼれをしていない。
それどころか逆に美しいと、そう思わせられる。どうやらあの剣、普通の剣じゃなさそうだ。

「名乗るほどの名もないのだがな、ここは『異形の刃《イレギュラーブレイド》』とでも名乗っておこうか」

異形の刃《イレギュラーブレイド》?なんだそりゃ通り名か?
正直、まったく聞いたことがない名前だ。どこで流行っているんだそれ。
案の定アンサーもぽかーんとしてるな。まあ当たり前か。
そう思いながらソールルーナの月日コンビに目をやったとき、意外な光景が目に入ってきた。

「そ、そんな……なんで、なんでそんな奴がここにっ☆…!?」

「聞いてないぞ…聞いてないぞボクらはっ★……!!」

二人は顔全体に汗をかき、信じられないといった驚愕の表情を浮かべていた。
驚愕だけじゃない。その表情からは畏怖や恐怖といった感情も感じ取れた。
なんだ?その通り名に聞き覚えがあるってか?それにしてもビビリすぎだろう。
まあ確かに、先ほどからあの男には言い知れぬ何かを感じるが。
ところで口調戻ったなあいつら。

「ほぅ、やはり知っていたか。それもそうか、ヴァルハラ師団のメンバーともなれば当然のことだ」

「っ!? ワタシたちを知ってるの☆ !?」

「ああ勘違いされたら困るから言っておくが。お前達が自分で言っていたのを聞いていただけだからな?
 お前達が有名人だなどということはないから安心するがいい」

「……ノーカラー★キミさぁ、何でこんなところにいるんだい?」

「ハッ、ここに来る理由など一つだろう? 魔結晶を奪いに来たんだよ」

成る程。やっぱりこの男(ノーカラーとか呼ばれてたな)も魔結晶狙いか。
そうすると最初にルーナを刺したのは邪魔だったからだろうか。
しかしどうも他の理由があるような気がしてならない。
俺の気のせいで終わってくれればいいんだが。

「お前達を生かしておく理由も無いな。せめて、安らかに逝くといい」

「っ!? ソール!」

「分かってるよ★“エレメンタルギフト”!」

ノーカラーが地面に突き刺した剣を掴もうとするのを遮るように虹色の箱が投擲される。
箱は途中で破裂し、様々な属性の攻撃を放った。
攻撃によって爆発が起こり、砂煙があがる。
視界は完全に遮られ、ノーカラーの姿が見えなくなった。

「や、やったか?やったよね?そうだよねきっと☆」

「勿論だよ!ボクの魔術にかかればあのノーカラーだって倒せるのさ★」

「そうか。それはよかったな。最期にいい夢が見れただろう」

「!? なっ……」

砂煙が晴れると、そこには例のガラスの剣を持ったノーカラーが無傷で立っていた。
防御をした様子は一切ない。だからといって避けたというわけでもなさそうだ。
ただ攻撃が「当たらなかった」ようにしか見えない。

「せめてもの手向けだ。二人仲良く同時に殺してやろう」

ノーカラーの振るう凶刃が空を斬った。




空を斬った、というのは文字通り何もない空間で剣を振ったということだ。
勿論それでは離れた場所にいる月日コンビを斬ることはおろか、触れることすら不可能だ。
それだけ聞けば「何を馬鹿なことをしているんだそいつは」などと思うことだろう。
だからこそ。その場でその光景を目の当たりにした俺たちには、それがどういうことなのかまったく分からなかった。

「弱者は、大人しく強者に食われることだ。そうすれば楽になれる」

「うぐっ……☆」

「があっ……★」

二人は身体を横に真っ二つに斬られ、そのまま力なく地面に倒れた。
傷口からはおびただしいほどの血があふれ出し、地面に血溜まりをつくっている。
このままではあの二人は確実に出血死するだろう。放っておいても、止めを刺しても。
だがそう思っていたとき、二人の体が虹色の光に包まれた。
そしてその体がだんだんと小さくなっていき、フィギュアへと変化した。

「チッ、ダミーだったか……今更追いかけても追いつけんな。この俺がまさか獲物を逃すとはな」

舌打ちをし、酷く残念そうに悔しそうにそう呟いた。その表情には憤りが窺える。
ちなみに俺たちはその戦いの様子を、できるかぎり離れた柱の後ろで見ていた。
あの三人の戦いが始まる直前くらいに危なそうだから隠れたのだ。
ヘタレ?ビビリ?なんとでも言え。戦いの様子を伺うのも戦略の内だ。

「なんだァあいつ。今、何しやがった?」

「分からん。斬撃を飛ばしたわけじゃなさそうだが…」

そう。斬撃を飛ばしたのなら周囲にも被害が及ぶはずだ。
だが洞窟内にいくつも立っている石柱にはまったく傷がない。
基本的にああいう攻撃は性質上の関係で必然的に範囲攻撃になる。
よく訓練場とかで剣使ってる奴が勢い余って的以外もぶった切ってたりするし。
誰とは言わない。
とにかく、あいつが今何をしたかを把握しないことには…。

「おい、お前たち。そこのだ、そこの眼鏡と馬鹿」

「うわっ見つかった」

「おいテメェ!俺が馬鹿ってどういうことだァ!」

「なんとなくだ。口調や行動から馬鹿っぽさが滲み出しているからな」

「んだっとコラァ!!」

なるほど、滲み出してる。
それどころか馬鹿丸出しだ。ばかまるだしっ。

「まあお前が馬鹿なのはどうでもいいことだ。重要なのは強いか、否かだ。
 お前達は俺を楽しませてくれるか?俺を退屈させないでくれるか?」

「ケッ、退屈どころか度肝抜いてやんよォ。俺に痺れんなよォ?」

「(キメ台詞ダサいなおい)悪いけど、タダじゃ死ねないんでね。あんた倒して魔結晶は俺たちが破壊する」

「殊勝な心がけだな。いいだろう、持てる力の限りを尽くして掛かってくるがいい。
 瞬きする時すら惜しめ。その一瞬が、お前達の生死を分かつのだからな」

両手を広げ、俺たちを迎え撃つかのような姿勢をとった。
余裕を見せているような、そんな感じだ。

「さあこの技は先程見ただろう?上手く避けてみせろよ」

先ほど月日コンビに使ったように、ガラスの剣を構える。
あれがあいつ自身の能力なのか、剣自体の能力なのか、それは分からない。
だけれどあれの対処法をとりあえずは考案できた。

「そうら行くぞ、避けないと真っ二つだ」

「アンサー伏せろっ」

「うがあっ!?」

ガラスの剣が振られる前に、俺はアンサーの頭部を掴み、地面に叩きつける。
当たり前だがアンサーは地面に平伏すように顔面から倒れた。
俺はそれと同時に“夜駆”を使用し、数メートル上へと移動する。
この間なんとわずか1秒にも満たない。速いな俺。
俺たちが先んじて回避をし終わった直後に、ノーカラーが剣を振った。
先程まで俺たちが立っていた場所の背後にあった柱が真っ二つに斬られて倒れた。

「よく避けたな。やはり先程の奴等とは違う。どうやら、楽しめそうだ」

「そいつはどうも!幻獣兵装“龍哭砲、火蜥蜴”!!」

空中で二丁の拳銃を装備し、落ちながらノーカラーに向けて撃つ。
あとついでにぶっ倒れたままのアンサーの顔のすぐ横にもぶっ放す。
アンサーの顔の真横の地面が爆発した。

「うごぉ!危ねェじゃねェかよォ!」

「いつまで寝てるんだよ。さっさと起きろ」

地面にそのまま着地するとさすがに足が痛いので、黒翼を使って空を飛ぶ。
落ちていくスピードを徐々に緩め、地面まで残り数センチのあたりで止める。
そしてアンサーに龍哭砲の銃口を向ける。

「わーったよォ!起きりゃあいいんだろォ!?」

それを見たアンサーが焦って飛び起きた。
よしよし物分りが早くて助かる。
ところで、さっき適当に撃っただけで放置してたが、ノーカラーはどうなった?
先程ノーカラーの立っていた場所へ目を向ける。
結果は、まあ予想通りだった。

「温いな。風呂のほうがまだ熱いくらいだ。お前の炎はこんなものなのか?」

案の定無傷。結構撃ったつもりだったんだが。
まあさっきのソールの攻撃喰らって無傷だったんだ。
この程度でダメージ与えられるとは思っていない。

「まだまだ、こんなものは全然とろ火だよ。熱くなるにはまだ早いぜ?」

「ハッ、言うじゃないか。やってみるがいいさ、足掻いてみせろ、せいぜい死なぬようにな」




「アンサー、できるだけ動き回れ。止まるな。止まればあの剣の餌食になる」

「テメェ誰に指図してんだァ?んなこたァ千も承知だァ」

「どんだけ承知してんだよ。いいからさっさと突っ込め、援護する。融合形態“炎龍の咆哮《ファランクス》」

両手の拳銃を融合させ、真紅と漆黒の大型対物ライフルに変化させる。
それと同時、ほぼ同じタイミングでアンサーが走り出した。
その手には雷を纏った大鎌が握られている。
っておいまさか近接戦闘を挑むわけじゃないだろうな。

「だらっしゃアアアアアアアアアアア!!!」

「むっ」

まさかのそれだった。
馬鹿正直に真正面から真っ向勝負を挑みやがった。
鎌を構えたまま、ノーカラーまで走り、一歩手前で跳んだ。
それを見たノーカラーは冷静に、剣を構える。
あの動き、間違いない。また「アレ」だ。

「所詮お前も、この世に多々いる雑魚の一部に過ぎなかったか…。残念だ」

再びガラスの剣が振られようとする。
それを見逃さず、狙いを定め、引き金を引いた。

ガギィィィイン!!

「何っ!?」

激しい音とともにガラスの剣がノーカラーの手を離れて宙に舞う。
あいつが攻撃しようとしたところを狙って剣を狙撃してやったのだ。
魔力の込め具合にもよるが、基本的にファランクスの威力は龍哭砲と火蜥蜴の数倍以上はある。
人体にノーガードでぶち込めば、それこそ致命傷になるくらいの威力だ。
たとえどんなにしっかり剣を握っていようとも、それだけの衝撃が剣に加わればとても握ってはいられない。
狙い通り、奴から武器を奪い、それと同時に隙を作り出すことができたというわけだ。

「おいしいところは譲ってやるよアンサー。これで、『チェックメイト』だ」

「ヘッ、ならありがたく頂くぜェ!“ボルトサイズ”!!」

電撃を纏った大鎌がノーカラーへと振り下ろされる。
肩の辺りから一気に、一思いに、一撃で。
だが、何かがおかしい。

「っ…!?手ごたえが…ねェだと…!?」

「ククク……なかなかよかったが、それでは俺には届かん」

先程からあいつに感じていた違和感はこれだったのか。
アンサーの振り下ろした鎌はノーカラーの体を『すり抜けていた』。
まるでそこに何もいないかのように。そこに存在していないかのように。


「お前達の脆弱な魔術では俺には勝てんよ。俺の『次元魔術』にはな」


――次元魔術。どうしよう。さっぱり聞いたことがない。
勿論授業でも聞いたことはないし、図書室の文献でも一度も見たことがない。
なんだ?最近考案された新たな魔術とかそんなんか?
因みにアンサーはというとチンプンカンプンさっぱり分からないぜ。って顔をしている。

「まあ知らないだろうな。この魔術は今から500年ほど昔に考案された魔術でな。
 今では禁術として封印され、人々の歴史から完全に抹消されてしまった魔術だ」

「ちょい待て。その禁術とやらをなんであんたが使えるんだ?」

「それには様々な経緯があるんだが、お前達に語るべきことではない。
 さて、折角だから今まで俺が使った魔術を解説してやろう。気になっているだろう?」

ちょっとこの人自分から自分の魔術の解説してくれるとか言い出したんだけど。
自分の能力語りだすとかなんなの?鰤なの?OSRなの?
…まあいいや、解説してもらうとしよう。


「まず最初に使った魔術、あれは俺の持つ次元斬の中の緋断(ヒダン)という魔術だ。
 あれは俺の視界を二次元的に認識し、その上で指定したものを一刀両断する。
 二次元的に認識しているのだから距離など関係ない。それ自体の硬度もな。
 だがお前達がやってみせたように予備動作さえ見ていれば避けることは容易だ。
 まあ大体こんなところか」

「説明どうも。これ読んでる人たちに伝わったかは分からないけどな。あとそこの馬鹿にも」

「???? ワケわかんねェんだけどよォ…?」

アンサーはノーカラーの説明に頭を抱えて唸っていた。
まあぶっちゃけ理論とかそういうのすっ飛ばしてるようなもんだからなこの魔術。
斬撃を飛ばしてるんじゃなくて直接ぶった切っていたというわけか。
それならいろいろと説明がつく。無茶苦茶ではあるが。

「で、もうひとつお前達が不思議がっていた回避の魔術。あれは次元透過という。
 俺の存在自体を別次元へと一時的に移動させることであらゆるものを透過している。
 なんだったら壁もすり抜けられるぞ?試してみるか?」

「いやいい、さっきの攻撃とかで十分分かったから。それと、その次元透過には弱点があるよな?」

「………ほう。言ってみろ」

「そんだけ便利な魔術なんだ、どうせ戦闘中は大体使っているんだろ?
 何度も何度も攻撃を透過していたみたいだからな。全部すり抜けてたし。
 だけれど、一回だけ攻撃が当たったときがあったよな?
 そうだ。俺があんたの剣を狙撃したあのときだよ」

先程の戦闘時に疑問に思ったことや、手に入れた情報を頭の中で整理していく。
その上で様々な可能性を仮定し、仮想し、想定する。
その幾つかの考えの中から、あるひとつの答えを導き出す。

「次元透過中にはあんたはあらゆるものを透過する。透過するからこそ自分からの攻撃もできない。
 つまりだ、その魔術は攻撃しようとしているときには使用できない。そうだろう?」

脳内ミニマム俺を総動員させて導き出した答えだ。多分あっているはずだ。
そうして俺が突きつけた答えを聞いたノーカラーは不敵に笑ってみせた。

「ご名答だ。お前、なかなかに面白い男だな。この短時間でその洞察力。感服の極みだ」

「お褒めに頂き光栄の至り、ってところかな?」

「???????? ワケわかんねェ……」

俺がカッコよく考察してみせている間も、アンサーはずっと頭を抱えていた。
あまりに頭を使いすぎてショートするんじゃなかろうか、あいつ。




「さて。この心優しいノーカラー様による特別授業もこれにて閉校だ。少しはためになったか?」

「ああためになったよありがとうございます。ところで、それで全部ってわけじゃないだろう?」

「ハッ、俺ほどの魔術師がたった二つしか使えないわけがないだろう?」

それもそうだ。というか手の内全部明かす馬鹿がいるわけがない。
いくら自分の能力を説明する某死神漫画でも奥の手だけは言わないしな。
待てよ。ということはさっきの二つよりも厄介なのが残ってるってわけか。
おそらくあれですら奴にとっては基本中の基本の魔術なんだろう。
まったく。冗談はほどほどにしてほしいものだ。


「さて、と。では始めるとするか。第二幕、開幕だ」

いつ、どこから出したのか、奴の左右の手には太刀が一本ずつ握られていた。
しかも普通の持ち方ではなく、逆手持ちで構えている。
勿論これもまた刃がガラス製。どんだけガラス好きなんだ。

「面倒だからさっさといくぜェ!邪魔すんじゃねェぞ杉崎ィ!」

「へいへい。幻獣兵装“屍竜の騎士《ディアボロス》!」

大鎌を構えてアンサーがノーカラーへと走っていった。
蛇腹剣と砲を装備して、俺もそれに続く。

「さあこれは初見のはずだ。どう対処する?“次元斬・黄刻”!」

二本の太刀を振ると十字型の斬撃が放たれ、俺たちに向かって飛んできた。
それに対処するべく、砲を構え、魔力砲を放った。
だが斬撃は魔力砲に相殺されることなく、むしろ一方的に魔力砲を切り裂いた。
勢いを全く失わないまま、勢いを衰えさせぬまま、斬撃は飛んでくる。

「チィッ!なら俺が…」

「やめろアンサー避けろ!」

あの斬撃はおそらく普通の斬撃ではない。
そのことを察した俺は咄嗟にアンサーに指示を飛ばした。
俺は魔力砲を地面に撃ってジャンプし、アンサーは単純に脚力のみでジャンプした。
ギリギリ、間一髪で斬撃を避けることができた。

「その対処法、正解だ。褒めてやる喜べ」

「「っ!?」」

いつの間にかノーカラーは俺たちとの距離を限界まで詰めていた。
まだ俺たちは空中にいて、まだ地面に足をつけてはいない。
つまりは無防備。攻撃を避けることすらままならない。
そのチャンスを逃すことなく、ノーカラーは太刀を振るった。

「うわっ!!」

「チイィィッ!!」

剣を体の前で構え、剣撃を防ぐ。その一撃は重く、鋭く、洗練されていた。
空中にいたことにより踏ん張ることもできなかった俺たちは、遥か後方へと吹っ飛ばされた。
そのまま、何本も並ぶ柱のうちの一本へと体を強く叩き付けた。

「げふっげふっ! ぐおぉ痛ってぇ……」

ぶつかったときにうっかり口の中のどこかを噛んだようだ。血の味がする。
別に俺は吸血鬼じゃないから、それで元気になったりはしないけれど。
口元から垂れる血を袖で拭う。
そして、足に力を込めて、立ち上がる。

「……よォ。立つのが遅ェじゃねェかよォ」

「うるさい。俺はお前と違って丈夫じゃないんだ。デリケートなんだよ」

「ケッ。いつもの威勢はどォしたよ?」

「うるせーばかやろー」

アンサーは叩きつけられる直前に受身を取り、なんとかダメージを減らしていたようだ。
あの一瞬での咄嗟の判断。やっぱりこいつ戦闘だと強いな。
恐ろしく馬鹿だけれど、戦闘に関するセンスは俺以上かもしれん。

「オラ行くぞ!杉崎ィ遅れんなよォ!“ショットガンスパーク”!!」

「言われなくても!」

アンサーが無数の雷の弾丸をノーカラーへと放った。
それの後ろに続くように俺とアンサーは走る。
飛んでくる弾丸を、ノーカラーは避けようともしない。
弾丸が着弾したかと思うと、ノーカラーの体をすり抜けた。
またあの次元透過とかいうやつだ。

「そのような攻撃は一切効かんと何度も言ったはずだが?」

「うるせェ!黙ってろォ!」

アンサーがノーカラーへと飛び掛り、鎌を振り下ろす。
ノーカラーは二本の太刀を交差させるように構えてそれを受け止めた。
その状態でアンサーのがら空きになった腹へと蹴りを叩き込んだ。

「ぐふっ…!」

「まさか、その程度じゃないだろう?もっと俺を愉しませてくれよ」

「悪いけど、あんたを愉しませてる余裕なんてないんでね!」

「お前っ…いつの間に!?」

アンサーに気を取られている間に、ほぼ零距離まで俺は近づいていた。
普通ならここで次元透過で回避されるが、今なら問題ない。
アンサーに攻撃したばかりの、このタイミングなら次元透過は使えないはず。
残り一メートルにも満たない距離で砲を向け、魔力砲を放つ。

確実に命中した。そう確信した。




今では後悔してる。あんなフラグを立てたことを。
いや絶対に当たったと思ったんだよ。確かに。間違いなく。
次元透過も使われなかったし、完璧だったはずだ。
だが、駄目だった。

「残念だったな。お前のその攻撃は、俺の命には届かんよ」

「ぐうっ……!」

俺とノーカラーの間には何本もの大剣が突き刺さっていた。
ほんの僅かなそのタイミングで剣を召喚し、盾として利用したのだ。
俺の魔力砲は大剣に遮られ、ノーカラーまで届かなかった。

「なかなか動きは良かった。だがまだ足りんな。俺を倒すにはまだ足りん。実力も、経験もだ」

「オイィ!杉崎ィ!テメェ攻撃外してんじゃねェぞ!」

さっき蹴られたアンサーが腹を押さえながら叫んだ。
ええいやかましい。お前も攻撃当てられなかっただろ。
しかし本当に強い。化物レベルだよこの人。

「アンサー!もう全力で行くぞ!そうしないと勝ち目が無い!」

「上等!ブッ殺す気でやっていいんだよなァ!」

「……ふぅ。もっとクールになれよお前達。頭に血が上っては冷静な判断が出来ないぞ?」

額に手をあて、やれやれといったポーズをとるノーカラー。
だがそんなのはもはやどうでもいい。
今の俺たちは必死なんだ。お前を倒すのに。

「第二開放“竜騎士装甲(メイルドラグーン)!」

剣と砲を合わせると体が光に包まれる。
全身を黒く重厚な戦闘服が覆う。
右腕に装着されたパイルバンカーが唸りをあげる。
この装備によって俺の身体能力は限界まで高められた。

「見せてやんぜェ!俺の最強最高最大の魔術をよオォォォオ!!」

アンサーの体から膨大な魔力があふれ出す。
それと同時に上方からアンサーへと雷が落ちてくる。
別にこれは自分を攻撃したわけじゃない。
自分へと高出力の雷を落とすことで、雷の如き力を得る魔術。
以前授業で、俺相手に使ったのを見たことがある。
あまりの威力に、先生に使うのを控えるように言われていた魔術だ。

「―――“神成り”。杉崎ブッ殺用魔術だったんだがよォ。仕方ねェ」

「……成る程。面白そうだ」

俺とアンサーの姿を見て、愉快そうにノーカラーは笑う。
まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように。
待ってろ。今その笑顔を歪ませてやる。

「行くぜェ。感電死させてやらァ」

「こっからが、本当の戦いだ」

「いいだろう。来い」

誰よりも早く、一番真っ先に俺が動いた。
地面を抉るほどに強く蹴り、ノーカラーへと駆ける。
今の状態ならば瞬時に距離を詰めることなど容易い。
右腕のパイルバンカーを構え、突き出す。

「おらあああああああああっ!!!」

ノーカラーは二本の太刀を構え、受け止めた。
だがそんなものはこいつの前では豆腐並に脆い。
一本も二本も、たとえ十本でも変わらない。
ガラスが割れる音が響き、太刀が砕ける。
このままなら―――届く。


「甘いな」


右腕のパイルバンカーがノーカラーの体をすり抜けた。
勢い余ってそのまま数メートルくらいすっ飛んでしまった。
何とか地面を無理矢理掴むことで止まることはできたが。

「俺に次元透過があることを忘れるなよ。回避など、いくらでもでき…っ!?」

ノーカラーがぺちゃくちゃ喋っている最中に上から雷が降って来た。
否、雷ではなく“神成り”だ。雷と共に振ってきたのはアンサーだ。
激しい雷撃が地面で爆発を起こし、煙をあげる。
ところで俺これ下手したら巻き添えだったんじゃないか。
しかも当てるべき本人には次元透過使用中だったから当たってないし。

「チイィッ!外したかァ!」

「お前タイミング考えろよタイミングをさぁ!」

「……お前達、チームワークとかないのか」

「「無いッ!!」」

力を合わせる気は無い。協力する気もない。共闘する気もない。
ただ目の前の敵が同じってだけだ。偶然な、偶然。

「……ふぅ、いい加減、お前達にも飽きたな。いいだろう、ここいらで『次元の違い』を見せてやる」

ノーカラーが何も無い空間を手刀で切り裂いた。
空間が裂けて孔が空き、真っ暗な空間が見える。
あれが次元の裂け目とやらなのだろう。
そこに腕を入れ、何かを取り出そうとしている。
おそらくまたガラス製の刃物だろう。



――――と思っていたが違った。




次元の裂け目から取り出されたものは、今までに見たことのないものだった。
「それ」は、真っ白で無機質な普通の板のように見える。
板には穴が開いており、そこから全体にヒビが広がっている。
ノーカラーはその穴に手を通しているだけで板自体は持っていない。
だが「それ」は重力などないかのように宙に浮いている。


「不思議か?この剣が。この『次元剣ネームレス』が」


奴は「それ」のことを剣と呼んだ。
だが絶対に違う。あれは剣じゃない。
刀剣と呼ぶには異形すぎる。
武器と呼ぶには異例すぎる。
物質と呼ぶには異質すぎる。
あんなもの、この世界に存在するものじゃない。

「お前達の反応も頷ける。この剣は、俺たちの世界とは別次元に存在する剣だからな」

「別次元の…剣…?」

「そうだ。俺の次元魔術を使用し、別の次元から取り寄せた剣だ。唯一無二のな」

「っつーかんな剣があるかよォ。そいつのどこが剣だってんだァ」

「ならば試してみるか?お前達のその体で」

異形の剣ネームレスを構えるノーカラー。
その構えには一部の隙も、油断も、慢心もない。
完璧に完全に完成された構えだ。
そしてその構えから、ネームレスを軽く一薙ぎした。

「うおおぉぉぉぉぉおっ!?」

「な、なんだァ!?」

突如、俺たちに向かって衝撃波が発生した。
威力はたいしたことはない。せいぜい強風に吹かれた程度のものだ。
だが、衝撃波と共に今まで感じたことの無い威圧感を感じた。
恐怖とはまた違う、何か嫌なものだ。
体中全身をくまなく悪寒が走る。
全身から嫌な汗がスプリンクラーのように吹き出る。
心臓の鼓動が早くなる。息切れもしてきた。
なんだ。なんなんだアレは。

「どうした、もう怯えたのか?この程度には耐えてくれんとつまらんぞ」

この程度?冗談を言わないでくれ。
あの一撃が「この程度」などで終わるような一撃なのか。
もしあれを本気で振るったら、どうなってしまうのだろうか。

―――怖い。

今の俺にはあの剣が、とてつもなく怖ろしいものにしか見えない。
そんな剣を普通の剣と大差ないように扱っているノーカラー。
あいつも化物にしか見えない。
…そうだ、アンサー。あいつはあれをどう感じたんだろう。
俺はふと視線を横へとずらし、隣にいるはずのアンサーへと目を向けた。
そこには、地面に突っ伏して倒れているアンサーの姿があった。
すでに“神成り”は解けてしまっている。

「アッ、アンサー!?」

「やれやれ。どうやらそっちの奴は先ほどので気絶してしまったようだ。なんとも呆気ない」

奴の言うとおり、体を揺さぶってもアンサーから反応はなかった。
正直今は後悔している。自分も気絶しておくべきだったのではないかと。
そうすればこの恐怖からも逃れられたかもしれない。
こうして逃れることができたら、どんなに楽だったろう。

「少年。今、逃げたいと思わなかったか?」

「っ!?」

「なに、恥じることは無い。畏怖の対象から目を背けたい、背を向けたくなるのは人の道理。当たり前のことだ。
 逃げたいなら今すぐ俺に背を向け逃げるがいい。俺はその無様な姿を斬り捨てるまでだ」

「う……お、俺は………」

「さあ逃げろ。怯えろ。恐怖しろ。嘆け。喚け。絶望しろ。そうすれば、今すぐに楽にしてやろう」

ノーカラーは何度も何度も俺に言葉を投げかけてくる。
その言葉を聞くたびに耳を塞ぎたくなる。やめろ。やめてくれ。
誰か、誰でもいい。助けてくれ。


「衛くん。そいつの言うことなんて気にする必要ないわよ」


そのとき、誰かの声が俺の後ろから聞こえてきた。
その声はよく聞き覚えのある声だった。
最終更新:2012年03月02日 01:24