『依頼の内容を説明いたします。
ミストラル海域にて大型のシーサペントが暴れているとの情報が入りました。
既に漁船などが襲われ、甚大な被害が出ており、深刻な事態となっております。
シーサペントは確認されているだけでも数体は存在する模様です。
被害拡大を防ぐためにも、ただちにこれらを討伐してください。
なお、この海域は霧が深く、視界が非常に悪いので十分に注意をしてください。
以上で説明を終了します。快い返事をお待ちしています』
そこで、映像は終わった。
ここはCOLORS本部のブリーフィングルーム。
円卓の中央に浮かぶ立体映像には、任務に関係する事項が映っている。
それをCOLORS幹部の5名は、じっくりと眺めている。
「ミストラル海域か……シーサペントなど、あの海域に生息などしてはいないはずだぞ?」
「おそらくどこかから迷い込んだか、誰かが連れてきたんでしょうね。
それにしては複数というのが少し引っ掛かりますけど…」
ノーカラーに続いてヴァイオレットが少し不安そうに口を開く。
彼女は元々心配性のため、仕方の無いことなのだが。
「だーいじょーぶだって。シーサペントごとき俺らの相手じゃないさ。だろ?ラピス」
「ええ、勿論。シーサペント?なにそれドジョウ?って感じ」
「相変わらず余裕デスネ。ラピスサンハ」
楽観的な考えのスカーレットと、自分の力に確実な自信を持っている瑠璃。
この二人には任務に関する悩み事などは微塵もなさそうだ。
そしてそれはインディゴも同じであろう。勿論、リーダーであるノーカラーも。
ぶっちゃけ心配しているのはヴァイオレット一人だけである。
「海上戦ならば軍艦あたりがよさそうだな。ヴァイオレット」
「はい、すぐに確認しますね」
軽く頷いた後にヴァイオレットが空中に手をかざすと、光のリングが現れた。
さらにその内側にモニターのようなものが表示される。
モニターに軽く触れ、キーボードを叩くように指を動かし始めた。
「連絡、確認とれました。すぐに用意するそうです。3隻くらいあればいいですか?」
「問題ない。お前達も、それで問題はないな?」
「オッケーよ」「大丈夫さぁ」「異論無しデス」
「それでは手配しておきますね」
またヴァイオレットが手元のリングをいじる。
作業を終えるとリングを消し、またブリーフィングを再開した。
「んで、ノーカラー。今回の任務は誰が行くんだい?向いているのは空中戦の出来るヴァイオレットあたりだと思うけどさ」
「私も一応海上戦はできるわよ。余裕余裕」
「どうしマス?ノーカラーサン」
「ふむ、正直数はいらないだろうが……妙にきな臭いな…」
「きな臭いとか磯臭いとかどうでもいいわよ。私一人で十分よ」
さっきから瑠璃はぐちぐちたらたら文句ばかり言っている。
それを尻目にノーカラーは顎に指を当てて思案している。
数分間くらい考えていた後、ふと思いついたように顔をあげた。
「よし、面倒だから全員で行くか」
「却下。私の獲物が減るわ」
真っ先に拒否したのは瑠璃だった。
理由はどうにも子どもっぽいが。
兄弟姉妹いるからお小遣いが減るといっている小学生みたいだ。
「マァマァいいじゃないデスカ。ノーカラーサンにも考えがあるんデスヨ」
「要はそういうことだ。明日の明朝出発する。各自準備をしておけよ」
「はいはいりょうかーい」「了解しました」「了解だよ」「了解デス」
「ではブリーフィングはこれで終了とする。解散」
翌日、COLORS幹部の面々はミストラル海域に向けて出航していた。
小型軍艦3隻に乗り込み、部下百数名を引き連れて。
甲板で瑠璃は一人、海風に吹かれながら海を眺めていた。
そこにスカーレットが缶を二本持ってやってきた。
「やぁラピス、こんなところにいたのかい」
「いたら悪いかしら?」
「いやいやそんなことはないよ。これ、飲むかい?」
スカーレットが差し出したのは缶コーヒーだった。
瑠璃はお礼も言わずにそれを無言で受け取り、蓋を開けて飲み始めた。
それを見て肩を竦めながら、もうひとつのトマトジュースの缶を開ける。
「む……このコーヒー美味しいわね。深みがあって、香りもいいし」
「そうなのかい?俺もそっちにすりゃあよかったかな」
「あげないわよ。どうせ間接キスでも狙ってるんでしょ」
「はは、そんな下心あるわけないじゃないか」
実際はあるけれども。
内心そんなことを思いながら笑って話を流す。
トマトジュースを一気に飲み干し、缶を握りつぶす。
潰した缶を振りかぶり、海へと放り投げた。
「あーあ、いいのかしらそんなことしちゃって。ポセイドンが怒るわよ」
「こんなに広い海の神様なんだ。心も太平洋のように広いさきっと」
「調子こいてんじゃないわよ」
「いたたっ!痛いよラピスやめてくれよ!」
キッとスカーレットを睨みつけ、耳を強く引っ張る。
引っ張るというより、むしろ引きちぎってしまいそうな勢いだ。
気が済むまで引っ張ると指を離し、また海へと顔を向けた。
「はぁ……憂鬱だわ…衛くんに会いたい…」
「先日嫌というほど会ってきたんじゃないのかい」
「衛くんと一緒に居て、嫌と思うことなんてないわよ」
「まったく、ラピスからそんなに思われてるなんて羨ましい限りだよ」
「そりゃあもう。衛くんは特別な存在だから。ヴェルタースオリジナルよ」
「分かり辛いネタ使うねキミは」
そうやって話していると、突然緊急アラームが鳴り響いた。
すぐさま二人は反応し、耳を傾ける。
『報告!前方に霧を確認!ミストラル海域だと思われます!』
「ほほーう、なるほどね、見えてきた」
「あれがそうなのね。ミストラル海域」
艦の前方へと目を向けると、真っ白で巨大な霧の塊が見える。
あの霧に包まれた海域こそが、ミストラル海域だ。
基本的に危険な生物はあまり生息していない。
しかしあまりにも深い霧のせいで遭難者が絶えないとか。
それに加えてシーサペントが出没したとなると、大問題だ。
だがしかし、この二人にとっては全く問題ではなさそうだ。
「あぁ楽しみ、ゾクゾクしちゃうわぁ…」
「まったく、血が騒ぐよ。手ごたえのある相手だといいけどね」
「ラピス先輩、スカーレット先輩!」
霧を眺めている二人の下へヴァイオレットが走ってきた。
急いで走ってきたのか、息を切らしている。
呼吸を整えてから再度口を開いた。
「もうすぐミストラル海域に入るので、任務内容の確認を再度行います。
今すぐに臨時ブリーフィングルームへ来ていただけますか?できるだけ急いで」
「はいはい了解よ。ちゃっちゃと済ませちゃいましょ」
「距離的にあと20分もあれば海域に突入するだろうね。
あんまり時間もないし、早めにやろう。うんそうしよう」
そうして三人はノーカラーとインディゴの待つ臨時のブリーフィングルームへと向かった。
そしてブリーフィングが終了する頃、艦はミストラル海域へと突入した。
「“次元斬・黄刻”!!」
「“輝く翼《ライトウィング》”!」
ミストラル海域に突入してまもなく戦いは始まった。
報告の通りシーサペントが海中から姿を現した。
真っ先にノーカラーと瑠璃が同時に先手を打つ。
最初から全力全開。手加減も躊躇も何もない。
シーサペントは登場と同時に海の藻屑となった。
「まったく、身の程を知りなさいな。不躾に姿を現すんじゃないわよ。ウザい」
「おー早かったねぇ。これなら案外、すぐにでも済んじゃうかな?」
キメ台詞を言っている瑠璃をスカーレットが拍手しながら賞賛する。
スカーレットの言うとおり、これならば本当にすぐに任務は終了してしまうかもしれない。
そんなことを思っていると、また海中からシーサペントが姿を現した。
今度は3体同時に現れた。サイズは先程のと大差ない。
「今度はボクがっ!」
瑠璃とノーカラーに続き、今度はヴァイオレットが前に出た。
両手を胸の前で合わせ、離す。すると光の輪が三つ、生成された。
すかさずそれをシーサペントへと向けて放つ。
ヴァイオレットの手を離れると、光の輪は数倍のサイズへと肥大化した。
光の輪は不規則な軌道を描きながらシーサペントの頭部を切り落とす。
続けて何体も何体も、首やら胴体やらが真っ二つに切られる。
「ヒュー!ヴァイオレットもやるねぇ!」
「あ、ありがとうございます」
またスカーレットが手を叩いてヴァイオレットを褒め称えた。
少し気恥ずかしそうにしながら、軽く頭をさげる。
「スカーレットサン。貴方も何かシマショウヨ」
「俺の能力って使うと疲れるんだよね。ちょっと貧血気味にもなるし」
「働け。でないと給料を減らすぞ」
「うげっ!……わかったよ、やるよやればいいんだろう」
インディゴのツッコミに反論するスカーレットに、ノーカラーが説教する。
嫌々ながらも、スカーレットもシーサペント討伐に加わった。
インディゴもノリノリでそれに続く。
「あーもう、面倒だから血祭りにあげてあげるよ!」
「あまり、美味しくなさそうデスネ。貴方がたの魂ハ」
高く掲げられたスカーレットの右腕から血液が噴出す。
血液はまるで生き物のようにうねり、動き、形を成していく。
やがてそれは、ひとつの大きな槍となった。
「全てを穿て!“レッドジャベリン”!!」
海面から首を伸ばす何体ものシーサペントへと血の槍が投げられた。
投げられたそれは空中ではじけ、無数の血の針へと変化した。
頭へ、首へ、胴体へ、あらゆる場所へと針が突き刺さっていく。
そしてその針が刺さったシーサペントたちは例外なく体色が真紅に染まる。
身体は徐々に硬質化していき、自由が利かなくなり、何も動かせなくなる。
力なく海面へと身体を打ち付ける頃には、シーサペントらは絶命していた。
「私もお仕事シマショウカネ」
スッと持っていたステッキをシーサペントへと向ける。
すると何の前触れも無くシーサペントが苦しみ始めた。
ボコボコと体表面が不自然に膨らんだりしている。
そして―――血飛沫や肉片を撒き散らしながら弾け飛んだ。
「うっわー酷いことするわね。何したのよあんた」
「魂に直接細工をシマシタ。簡単に言えば爆弾に変換シマシタ」
「鬼畜なことするわねー」
「最高の褒め言葉デス。アリガトウゴザイマス」
シルクハットをとり、恭しく頭を下げてみせる。
その単純な行動には妙な不気味さを感じさせられる。
仮面の上からでは分からないが、ニタリと笑っているようにも思えたのだ。
「さて、あらかた片付いたか。ヴァイオレット、どうだ?」
「おそらくこれで全部かと。総数24体でした」
「……多いな、異常すぎる。こんなことがありえるのか……?」
腕組みをしつつ、ノーカラーが顔をしかめる。
これだけの数が、しかも元々生息などしていない海域に存在するなど異例中の異例だ。
誰かが持ち込んだのだろうと最初は予測していたが、それもなさそうだ。
普通に考えて、こんなことをする理由も見当たらない。悪戯にしては度が過ぎている。
「誰が、何の目的で……」
「いいじゃないのノーカラー。任務は完遂、万々歳じゃない」
「そうさ。もっと気楽にいこうじゃないか。難しく考えたらハゲるよ」
「あまり楽観視するな馬鹿共めが。まったく……」
相変わらず余裕ぶっこいている瑠璃とスカーレット。
そんな二人を見て舌打ちをして、呆れる。
くるりと体を翻し、ヴァイオレットへ視線を移す。
「ヴァイオレット、依頼人に任務完了の報告をしておいてくれ」
「もうしておきました。5分ほど前に」
「早いな、流石だ。そこの馬鹿コンビとはワケが違う」
「なんですって」「なんだって」
すぐさま瑠璃とスカーレットが反応した。
しかしノーカラーはそれを見てニヤリと不敵に笑ってみせる。
「そこで反応するということは、自分達が馬鹿だと自覚している証拠だな」
「はっ」「うぐっ!」
「図星か、だからお前達は馬鹿なんだよ馬鹿共が」
「いい度胸じゃないノーカラー……喰うわよ?」
「今、ここで、キミを血祭りにあげたって構わないんだよ?」
「やめておけ、お前ら二人を相手にするのは俺でも骨が折れる。俺は面倒が嫌いなんだ」
戦闘態勢に入る二人を手でしっしっと追い払うようにする。
この二人なんだかんだで仲良いな、とかそんなことを思いながら。
「第一、さっき戦闘したばかりだろう。疲れも溜まっているだろう。今は休め」
「ふん、いいわよもう。私は休憩室で休ませて貰うわ」
「俺は食事でもとるかな。ちょっと貧血気味だから、レバーを食べたいね」
それだけ言い残して、二人は艦内へと歩いていってしまった。
無理矢理手を繋ごうとしたスカーレットが瑠璃に蹴り飛ばされる。
そんな日常の光景を眺めていると、今度はインディゴがやってきた。
「まったく…馬鹿共の次はお前か。多忙だな、俺は」
「馬鹿馬鹿言っては駄目デスヨ。それよりも、お伝えしたいことがアリマス」
「なんだ、手短に頼むぞ」
「嫌な風が吹いてイマス。早めにこの海域から離脱することをオススメシマス」
「風、だと?」
シルクハットを右手で押さえながら、空を見上げるインディゴ。
それにつられてノーカラーも首を上に向ける。霧が深くて太陽も満足に見えない。
第一、今現在この海域はほぼ無風状態にある。風など感じない。
コイツは何を言っているんだ。そんなことを思っていたときだった。
艦の遥か後方から、突如爆発音が響き渡った。
「っ!?なんだ、どうした!?」
ノーカラーを含め、艦に乗っていた全員が後方へ顔を向ける。
そこにあったのは、煙と炎をあげながら水没していく艦の姿だった。
「ヴァイオレット!艦全体に防護結界を展開しろ!ラピス!霧の中を探知しろ!」
「了解しました!」「はいはーい了解よ」
近くに立っていたヴァイオレットと、爆音を聞きつけて甲板へとやってきていた瑠璃にすかさず指示を出す。
ヴァイオレットが上方へと手を突き出すと、艦を包むように巨大なリングがいくつも形成された。
この艦だけでなく、残ったもう一方にも同じように、光のリングが展開される。
これにより、とりあえずの安全は確保された。
「“動殺力《シースルーパス》”!」
魔術を発動させ、艦前方へと視線を移す瑠璃。
じいっと見つめる先には真っ白で不快なまでに深い霧。
だが、今の瑠璃にはそんなものは無いに等しい。無意味だ。
あらゆる隠蔽や偽装から全てを見抜くこの魔術を使用している限りは。
「……ノーカラー。この状況、かなーりマズいんだけれど、言っても大丈夫かしら?」
「問題ない。報告しろ。俺にはそれを聞き届け、戦略を練り、新たに指示を出す義務がある」
周囲一帯をぐるりと見回した瑠璃の表情には、僅かながら焦りが見られた。
一滴の汗がたらりと額から流れ、頬を伝い、顎から垂れた。
だがノーカラーは動じない。狼狽するわけにはいかないのだ。
COLORSを統べる総統括であるからこそ、無様な姿は晒せない。
「……囲まれてるわ。360度ぐるっとまるっとね。かなりの数の軍艦、それもかなり大きいやつにね」
「そうか、報告ご苦労。インディゴ、今の爆発での総被害はどの程度だ?」
「ハイ、先ほどの攻撃で沈んだ艦には50名ほど搭乗してマシタガ、約半数が命を落とした模様デス」
「それ以外はどうした?」
「各々、魔術や能力でなんとか無事のようデス。今救出に向かわせマシタ」
「わかった。さて、どうするか……」
指を顎に当て、思案し、頭の中で状況を整理する。
脳細胞をフル活動させて次の指示を考える。
そうしていたときだった。
「あははっ★困ってる困ってる★」
「奇襲作戦大成功ー☆きゃははっ☆」
「「「「「!?」」」」」
その場にいた全員が声をしたほうへと眼を向ける。
そこにいたのは妙な姿をした鳥。その上には二人の少年少女が乗っていた。
年齢は13、4かそこらだろうか。かなり若い。
それに二人の顔は瓜二つ。おそらく双子と思われる。
二人は無邪気な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
この二人を、ノーカラーと瑠璃は、よくではないが知っていた。
「ヴァルハラ師団の…ソールとルーナか……」
「ご名答ー★流石は異形の刃《イレギュラーブレイド》こと、COLORS総統括のノーカラーだね★」
「あなた達、こんなところで何をしているのかしら?」
「べっつにー☆強いて言うならお仕事かな☆」
「何…?」
ルーナの言葉に疑惑の表情を浮かべ、耳を傾ける。
ソールが手を前に突き出すと虹色の箱のようなものが形成された。
箱を遥か上空へと投げると、激しい光を放ちながら破裂した。
それが合図だったのだろうか。あたりの霧がだんだん薄くなってくる。
すべての霧が消え去ると、瑠璃の言ったとおり、艦の周囲には何隻ものの軍艦が在った。
「あの依頼はウソっこー偽物の依頼でしたー☆まんまと騙されてくれてありがとね☆」
「ボクらの仕事は宣戦布告★キミらCOLORSは今日で終わり、ってことさ★」
異形の鳥の上で、二人は声高らかに宣言する。
まるで罠に掛かった獲物を嘲笑するかのように。
勝利を確信した笑みを浮かべながら、宣言する。
「「さぁ、滅びてもらうよ☆★我々ヴァルハラ師団の手によって!!!」」
「………滅びてもらうよ……か」
ぼそっと、小さな声ではあったが、その言葉はしっかりと聞こえた。
勿論ソールとルーナの二人の耳にも例外でなく、ちゃんと届いていた。
「んー?どしたのノーカラー☆もしかして絶望とかしちゃってるぅ?」
「あはははっ★そりゃあ面白いや、最高のエンターテイメントだよ★」
二人はその言葉を笑って流した。
言葉の意味を、理解することもなく。
この油断が命取りになるとも知らずに。
「お前達に、一つ問いたいことがある。一つだけだ、構わんな?」
「命乞いの方法?だったら教えてあげてもいいよぉ☆」
「はっ、戯言を。あの軍艦はすべてヴァルハラ師団のものだな?」
「イエスイエース★その通りだよん」
「そうか、安心した。それならば―――――――遠慮なく潰せる」
突如ノーカラーの頭上の空間が割れ、次元の裂け目が現れる。
そこから2メートルはあろうかという長大な太刀が出てきて、ノーカラーの真横に突き刺さった。
刃は透き通ったガラスで出来ており、柄には豪奢な装飾が施されている。
ノーカラーはそれを掴み、振りかぶった。
「ソ、ソール!」
「大丈夫だよっ★いくらノーカラーといえど、360度すべてを囲む艦隊を潰すことはできないよ!」
「ああ、流石の俺様でもそれは無理だ。だから、300度くらいで我慢するとしようか」
ぐるりと身体を捻り、ソールとルーナに背を向けた。
そのまま回転させた勢いを乗せ、太刀を振るう。
ひゅおんっ。風を斬る音がした。
そしてそれと同時にヴァルハラ師団の艦隊が大爆発を起こした。
さらにおまけで、ここいら一帯を包んでいた霧も一瞬にして消え去った。
水平線の向こう側まではっきりと見える。
「「な、なななななああっ!?」」
「ハッ、随分見晴らしがよくなったじゃあないか?」
目測だけでも30隻近くはあったであろう艦隊は、一瞬のうちに数を減らされた。
残るはソールとルーナたちの後方にある数隻程度だけである。
二人は驚愕に開いた口が塞がらないようであった。
「ヒュー♪派手にやるねぇノーカラーも」
「地味よりはいいんじゃないかしらね。でも全部一気に潰せばよかったのに」
「俺の一撃だけで終わったらつまらんだろう。戦いは、もっと刺激的に、楽しむものでなければな」
「全面的に同意デス」
ノーカラーは先ほど振るった長大な太刀を再び次元の裂け目へと収納した。
そんな姿を見ながら、幹部たちはノーカラーを賞賛する。驚いてなどは一切ないようだ。
今しがた起こった無茶苦茶な出来事を、当たり前だと言わんばかりに普通に受け入れている。
「ふ、ふざけるなぁ!こうなったら、ワタシたちが直接相手をしてあげる☆!」
「そうだ!キミら相手でも多少の抵抗は……」
「残念だけれど、それは叶わないわ。ご愁傷様」
「「っ!?」」
一体全体何が起こっているのか、ソールとルーナが乗っている怪鳥の上に瑠璃も立っている。
気づけなかった。反応できなかった。それどころか、いつからいたのかさえ分からない。
瑠璃が声を出すまで、一切気づけなかったのだ。
「い、いつの間に☆!?」
「“秘め事情《ハイドアンドシークレット》”。説明は面倒だからwiki見てね」
「く、くそっ★!“エレメンタル……」
「“触剣乱用《オールセイバー》”」
魔術を行使しようとソールが手を突き出した。
しかしそれより一瞬速く、瑠璃が魔術を発動させる。
瑠璃の左手が、軽く右手に触れた。
右手が瞬時に振り下ろされる。
「う、うわあっ!?手が、ボクの手がぁっ!!」
肘の辺りから先が、無かったのだ。
腕からはおびただしい量の血があふれ出している。
切り口は鋭利な刃物で切られたように見える。
だが瑠璃の手にはそんなものは見当たらない。
「あらあら、大変ね。早く止血しないと死んじゃうわよ」
「よくもっ!よくもソールをっ!」
「他人の心配するより、自分の心配したほうがいいわよ?」
「えっ……?」
その刹那、ルーナの首から血が噴出した。
無意識に首元の傷口へと手を持っていく。
手にべっとりと生暖かい血がつく。
ぐるり、と世界が暗転する。
そのままルーナは怪鳥から落ちていった。
ドボン、と海へ落ちる音が周囲に響いた。。
「ルー……ナ……」
「あーそういえば忘れてたわね。大丈夫、すぐに後を追うといいわ。さようなら」
そう言って、瑠璃は懐から一丁の拳銃を取り出した。
デザートイーグル.50AE。世界最高の威力を持つ拳銃である。
まあ、魔術の類が関係しない拳銃であれば、だが。
その場にうずくまっているソールの後頭部へと銃口を突きつける。
そして何のためらいもなく、引き金を引く。
鮮血が飛び散り、辺りを真紅に染め上げる。
「終わったわ、ノーカラー」
「ご苦労ラピス。手間を掛けさせるな」
主を失った怪鳥の頭を拳銃でぶち抜き、飛び降りる。
甲板へと着地する瑠璃へとノーカラーが労いの言葉を掛ける。
瑠璃は軍服についた埃を払い、頬に付着した血液を手で拭う。
「殺しちゃったけど、問題は無いわよね?」
「ふむ、一応他にも聞きたいことがあったのだが、まあよしとしよう。見せしめには十分だ」
「見せしめ、ですか?」
ノーカラーの言葉にヴァイオレットが疑問そうに首をかしげる。
それを見たスカーレットが前に出て、自慢げに話そうとする。
「ああそうさヴァイオレット。ああやって……」
「偵察および宣戦布告にきた二人を殺せば、他のメンバーを呼び出せるだろう。という魂胆なのデスヨ」
「ちょっと!それ俺のが言おうとしてた台詞!」
が、それは割り込んできたインディゴによって奪われた。
哀れスカーレット。かわいそうな男である。
「そう騒ぐなスカーレット。誰が言おうと内容が変わるわけじゃないだろう」
「いや、いやいや!!そうしないと俺の魅せ場が減るじゃないか!ただでさえ少ないってのに!」
「案ずるな。これから、お前の見せ場は嫌というほどにある。楽しみにしていろよ」
「え?マジで?」
「ああ。これより作戦を通達する。全員、聞き逃すなよ」
その言葉に全員の表情が変わる。
甲板に、艦全体に緊張が走る。
「まずは幹部以外のメンバー。お前達は艦の防衛だ。
怪我人がいるなら最優先で治療をしてやれ。
これ以上COLORSに被害を出すな」
「「「了解しましたノーカラー様!!」」」
「次にインディゴとヴァイオレット。お前達も艦の防衛に当たれ。
ヴァイオレットはこの艦、インディゴは残ったもうひとつの艦だ。
これ以上奴等にいい顔をさせるな。分かったな?」
「了解シマシタ」「了解です」
「次にラピス。お前は俺と共に残った敵艦隊に総攻撃を仕掛ける。
敵兵は殺しても生かしても構わん。方法は問わん。恐怖を植えつけてやれ」
「オッケー」
「最後にスカーレット。お前には敵艦隊の総指揮を執っている司令官を捕らえて貰う。
俺とラピスは要するに囮というわけだ。その間に『海中から』艦隊の裏に回りこめ」
「成る程ね。美味しい仕事だ。任されたよ」
「お前がこの作戦の全ての要だ。しくじるなよ」
「了解。なんとかやってみせるよ」
これで作戦の全内容を説明し終えた。
誰も異論はない。完璧、とはいえないが悪いというわけでもない。
問題なく全てを完遂させることができるであろう。
「それではその前にこれを。皆さんこちらに来てください」
ヴァイオレットが右手を見せると、5本の指の間に4つの光のリングがある。
ピッと手を動かすとリングは飛んでいき、各人の右耳にイヤリングのように付いた。
リングは常に明滅しており、暖かな光を放っている。
「それは通信機の代わりだと思ってください。念じれば任意の相手と会話が出来ます。
それと私だけに限りますが、そちらの状況も映像として確認できますので」
「便利なものね。ありがと」
「通信機要らずってわけかい。こりゃ助かるよ」
「ありがとうゴザイマス。それでは、任務を始めマショウカ?」
「ああ、反撃開始だ。諸君、派手に行こう」
全員が意気込み、気合を入れる。
戦闘の準備は万端。
その時だった。
「殊勝なものじゃのう。じゃがそれも無意味。不幸じゃの、お主ら」
「「「「「っ!?」」」」」
いつの間にか、艦前方に一人の男が『浮いていた』。
禿頭に狐のように細い目。むしろ閉じているようにも見える。
口調の割にはずっと若いようだ。30代といったところか。
服装は真っ黒な着物。闇のような黒さが異様な不気味さを感じさせる。
「初見となるのう。ヴァルハラ師団師団長、フロイツェン・グラビウスじゃ」
男は宙に浮いたまま、まったく動こうとしない。
だが、それだけで圧倒的な威圧感を感じる。
――違う。こいつは明らかに違う。
先ほどの二人とは魔力の質も、感じる力も、全てが別格だ。
「フロイツェン……覚えがあるぞ、その名…」
「ほほう、COLORSの総統括殿に覚えていただけているとは、儂も有名になったもんじゃ」
「とぼけるなよ『天帝のフロイツェン』。ようく知っているぞ、お前の名はな。
まったく、海老で鯛を釣るどころか、鯨が掛かるとは思ってもみなかったぞ」
「…やれやれ。儂も不幸じゃな」
髪の無い頭を右手で撫でながら、深いため息をつく。
そんなフロイツェンを、ノーカラーは睨み続けている。
ノーカラーの様子が気になった瑠璃はヴァイオレットに声を掛ける。
「えっと、誰かしら?あいつ」
「天帝のフロイツェン、5年ほど前にとある大犯罪を犯した、重罪人です。
ボクも名前は知っていましたが……まさかヴァルハラ師団の師団長だとは思っていませんでした」
説明をするヴァイオレットの額から一筋の汗が垂れる。
それほどまでにヤバい奴なのだろうか。
疑問に感じた瑠璃は質問を続ける。
「大犯罪って、何をしたのよ」
「大量虐殺です。とある都市に住む民間人、約2万7千人を一人残らず……」
「……成る程ね。随分キレたやつってわけ」
COLORSのメンバーも確かに殺しの経験はある。
だがそれは相手が軍人や犯罪者だった場合にのみ限る。
もしくは自分達に敵意を向けてきた相手だけだ。
流石に無抵抗な民間人を殺したりなどはしない。
「勘違いされては困るのう。
あれは虐殺などではなく、救済じゃ。
儂が彼らを不幸から救ってやったのじゃ。
むしろ儂は賞賛されるべきだと思うのじゃがのう」
「不幸……だと……?」
「左様。あの都市の長は、それはそれは酷いやつでのう。
誰彼構わず、理不尽な税収を行っておったのじゃ。
不幸だとは思わんか?そんな都市に住む連中のことが。
だから儂が解放してやったのじゃよ。その不幸からのう」
「ハッ、戯言を。もっと別の解決法くらいあるだろう。
もっと穏便に、被害が少なくできる方法を探そうとは思わなかったのか」
「たとえ多数が犠牲になろうと、そこが平和になるのならば、儂はそちらをとるというだけじゃよ。
今回は市民を残らず殺すことが不幸からの救いになる、それが答えだっただけじゃ」
「狂ってるな、お前。馬鹿げた考えだよ」
「分かってもらうなどとは思っとらんよノーカラー。
なんと思われようと、儂は世界を不幸から解放してやるだけじゃよ」
先ほどまでだらりとしていただけの左腕をノーカラーへと向けた。
すぐさま反応しノーカラーが横へ跳ぶ。
――しかし遅かった。
「こ、これは!?」
ふわり、と不自然にノーカラーの身体が宙に浮く。
何度ももがいて抵抗するがそれも無駄。
あっという間に空高く浮かされ、フロイツェンの目の前で止まった。
どうすることもできないノーカラーを見てフロイツェンは不敵に笑う。
「お前、何をした……!」
「怯えるでない。すぐに殺しはせん。ただ、ちいと付き合ってもらうだけじゃ」
「ノーカラー先輩!今助けに……」
「おっと、下がっていてくれるかのお嬢ちゃん。他の奴等もじゃ。おすわりでもしとれ」
今度は右腕を甲板に立つCOLORSの面々へと向ける。
すると何が起こったというのか。全員の体が床へと叩きつけられた。
そのまま伏せるような体勢で、誰一人として身動きができなくなる。
「くっ!?なによこれ……」「動……けないぞ……」
「せん……ぱい……」「ノーカラー……サン……」
「悪いが、こやつは連れて行くぞ。普通は攫われるのは姫様やヒロインの役割じゃがな。
一番強い男が敵の頭に攫われる。それもまた一興。かっかっか。
ではの、機会があればまた会おう。あれば、じゃがな」
パン、と何がが弾けるような音と共に、笑いながらフロイツェンは飛び去った。
未だ宙に浮いたままのノーカラーを連れたままで。
二人の姿が霧の中へと完全に消えた頃、残された者は自由の身となった。
「……さてと、ノーカラーがヒロインよろしく連れ去られちゃったわけだけれど」
「どうしマス?お助けにでも参りマスカ?」
「その必要はないんじゃないかな。むしろ余計なお世話だと思うよ」
「ですよね。でも心配です」
と、いった感じで、ノーカラーが連れ去られたということはあまり気にしていないようだ。
別に非情なわけでも、どうでもいいというわけでもない。
彼らは彼の実力をよく知っている。その圧倒的なまでの強さを。
「あんな奴に彼が負けるはずがない」という絶対的信頼があるのだ。
「でも指示を出すはずの先輩がいないというのは致命的…ですよね」
「うーん。ぶっちゃけ好き勝手暴れていいっぽいし、そんな困らないけれどね」
「そうデスネ」
「っていうか、そう言うんならキミが指示出せばいいんじゃないかな。ヴァイオレット」
「えっ、ぼ、ボクですか?」
驚いたようにヴァイオレットが眼を見開く。
だが他のメンバーはいたって平然としている。
「ええそれがいいわね。ヴァイオレットほどの適任はいないと思うわ」
「うんうん、ピッタリだよ。間違いない」
「というわけでお願いシマスネ」
「……わかりました!一時的にですが、ボクがCOLORSをまとめさせていただきます。よろしいですか?」
「「「異論なし!」」」
全員が納得し、頷く。
それを見たヴァイオレットはにっこりと笑う。
それから両手を左右にかざし、いくつものリングを出す。
リングは映像を投影しているものや、キーボードのようになっているものなど、様々な種類がある。
「それではインディゴ先輩は早速向こうの残った艦へと向かってください。そろそろ第二波がくるはずです」
「承知シマシタ」
会釈をし、インディゴの姿が消える。
それを見たヴァイオレットは続けて指示を出していく。
「この艦の防衛はボクが一人でやります。
ラピス先輩は言われた通りに敵艦隊を襲撃してください。
スカーレット先輩はラピス先輩と共に襲撃を。
敵の指揮を執っていたであろう天帝の相手は、今ノーカラー先輩がしていますので」
「りょーかい」「おっけーい」
「説明は以上です。それでは任務を開始してください。
……って、あれ?」
そう言ったにも関わらず、瑠璃とスカーレットはその場から動こうとしなかった。
じいっと黙ったままヴァイオレットを見ている。
「えっと……行かないん…ですか?」
「だってぇ、そっけないんだもの。もうちょっと気の利いた言葉くらいかけてくれないかしら?」
「そうさ、一言「先輩好きです頑張ってー♪」って言ってくれれば気合入るんだけどねぇ」
冗談混じりに、笑いながら瑠璃とスカーレットはそう言った。
ヴァイオレットは一瞬驚いたような顔をしてから、一度下を向いた。
そして再度顔を上げ、改めて二人の顔を見た。
「……私にはノーカラー先輩のように気の利いた言葉なんてとても言えません。
ですから、これだけ言わせてください。
――――生きて、無事に帰ってきてください」
「ん!委細承知、任せなさいな」
「その言葉だけで百人力さ!じゃあ、行ってくるよ」
瑠璃が艦前方へと、敵艦隊へと向かって一歩足を踏み出す。
それと同時に、大きな魔方陣が展開された。
「“飛来身《ショッキングピアス》・脚部限定”!」
瑠璃が足に雷を纏った。
その状態でスカーレットに手を差し伸べる。
「手、ちゃんと握ってなさいよ。落ちても知らないわよ?」
「オーケイ、大丈夫さ。たとえ腕だけになったとしても、キミの手だけは離さないよ」
「はいはい。んじゃ、レッツゴー」
スカーレットの手を握ったまま、瑠璃が全速力で走り出す。
瑠璃の体は瞬時に雷速へとたどり着く。
勢いを全く衰えさせないままで助走を続ける。
そして、数百メートル離れた敵艦へと、跳んだ。
無茶苦茶な滞空時間の果てに、瑠璃は敵艦へと着地した。
着地と同時にスカーレットを投げ捨てる。
着地失敗、顔面強打。
「うごごごっ!痛い痛いじゃないかラピス!血が出るだろう!?」
「どうせ今から出しまくるんだからいいじゃないの。それよりも、見てみなさいよあれ」
「……ひゅーう…………こいつはまた、ご丁寧な歓迎じゃないか」
甲板にはざっと見ただけで300を超える兵がいた。
銃を持ったもの、剣を持ったもの、手ぶらのもの。
おそらく全員おしなべて魔術師だろう。
もれなく全員から魔力を感じる。
「来たなァ業泥棒(スキルジョーカー)に僅かな致命傷(デスグレイズ)!!」
「貴様らに人権は存在しない!ワンモーションでも見せれば死ぬと思え!!」
「頭ねじ切っておもちゃにしてやるぜ!!!」
「ヒャッハー!新鮮な肉だァー!!」
というかテンションが恐ろしく高い。
何人か薬品投与でもされてるんじゃないかというくらいに狂っているのもいる。
そういうキャラなのか、設定なのか、それともマジなのか。
まあそんなことはどうでもいい。
「おーおー豪気なこったね。どうしようかラピス?」
「そうねぇ、あっちが殺す気なら、こっちは殺さない気で行きましょうか」
「成る程、面白そうだ。ちょっとしたゲーム、ってやつかな?」
相変わらずこの二人は余裕である。
自分達の150倍もの数のいる敵を前にして呑気にゲームなどと言っている。
相手からすれば怒るどころか呆れ果ててしまうような状況だ。
「ふざけたことを……総員、かかれぇ!!」
おそらく隊長格であろう、ちょっと偉そうな奴が古い決まり文句を叫ぶ。
指示を受けた部下達が一斉に、ではなく前のほうの10人だけが攻撃を仕掛ける。
牽制のつもりなのか、遠距離からの攻撃のみだ。
「まったく、私たちも舐められたものね。
舐めるのはB地区とアソコだけにしなさいな。
いくわよ“煌く翼《ライトウィング》”」
最低のキメ台詞を吐きながら魔術を発動させる。
瑠璃の右肩から雄雄しい光の翼が生える。
翼は優しく包み込むように、瑠璃とスカーレットを覆った。
敵からの攻撃は全て翼に遮られ、無効化された。
「クソッやはり通じんか!ならばもっとだ!もっと畳み掛けろォ!!」
「「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」」
「んじゃ、こっちもゲームスタートと行こうじゃないの」
「ハハハッ、面白そうだ、血が騒ぐ!“ガーネットクロウ”!!」
スカーレットが右腕に力を込めると、腕のいたるところから血が噴きだす。
明らかにリッター超えている量の血液は右腕に纏わり付き、形を変える。
やがてそれは、竜のように強靭な爪へと変貌した。
地面を蹴り、駆ける。敵の真っ只中に突っ込み、右腕を振るう。
何人、何十人ものの兵たちが真っ赤な爪の餌食となる。
爪で少しでも傷をつけられた兵たちは、地面に倒れ、痙攣したまま動けなくなる。
「が、あっ……」「ぐうっ…動けん…」「つ、強い…尋常じゃないぞ……」
「今回は殺すのが目的じゃないからさ。麻痺程度だから安心してくれよ」
「くそっ!死ねェ!!」「喰らえェ!」「オラァ!」
「おっと危ないわよー」
「「「ギャアアアアアア!!!!」」」
スカーレットの背後から数名の兵たちが襲いかかった。
だがその間に瑠璃の“煌く翼”が割り込み、大きく羽ばたく。
兵たちはもれなく吹っ飛ばされ、海に落ちるものもいた。
「あららー死んじゃったかしら。結構ここの波荒いんだけれど」
「彼らも魔術師の端くれさ、多分大丈夫だよ。それよりも助かったぜラピス」
「あんたを死なせたらヴァイオレットの命令に違反することになるもの。
あの子を悲しませることだけは絶対にしたくないの」
「ははっ、素直じゃないなぁラピスは。さぁ、次が来る。気合入れていこうか」
「あんたに言われなくても。さっさと終わらせて次の艦を制圧するわよ」
最終更新:2012年03月02日 01:26