【一日目(日) LUNCH】
「到着ー!七坂さんとこと比べてどう?ここの食堂」
食券の券売機へ歩み寄りながら、私にそう尋ねてくる。
さきほどから花梨先輩が話題を振ってくれるおかげで話は絶えず、こちらも気が楽だった。
「内装はあんまり変わりませんけど・・・半分くらいです、広さは」
食堂を見渡してみる。券売機のタイプも一緒だし、メニューも大差ない。
カツ丼。サンドイッチ。定食。Cまである。うどん。麺ものもいいな。
「へぇー、やっぱりそっちの方が大きいんだね。生徒数多いからかぁ・・・あ、わたし親子丼」
「僕はカレーにする。中辛でよろしく」
「自分で押せ。ていうか真澄さっきA定食って言ってたじゃん」
ぴっぴとボタンを押し、食券を買う。私は第一印象的なものに逆らわずうどんにした。
「ここ座ろうか」
真澄先輩がテーブルにカレーの皿を置いたのを印として、私達の席が決まる。
食堂内は混雑というほどでもないが、人はそこそこ居た。
私と同様に二年生であることを示す色のタイをした生徒達が、通りがかりに時々こちらを見てくる。
「早速だけど美緒ちゃんって呼んでいい?一週間一緒に居るわけだしさっ」
親子丼のたまねぎを箸でつまみながら、花梨先輩がそう提案してきた。
フレンドリーさがマッハだ。美緒ちゃんと呼ばれることはあまりないので戸惑うが、特に問題もないので承諾する。
「あ、全然いいですよ。好きに呼んでもらって」
「なら僕も美緒ちゃんと呼ぶ」
「馴れ馴れしいから真澄は呼ぶな。犯罪者っぽい」
真澄先輩にもにこやかに『いいですよ』と言おうとするが、『い』の当たりで花梨先輩から鋭い言葉が飛んでくる。
非常につっこみ所だらけだ。なんだ犯罪者って。もしや仲が悪いのか?この兄妹。
「猫被りを放棄するのが随分と早いな。まだ一日目だぞ」
「被ってない。犯罪者っていうか変態?飴を餌に誘拐とかしそう」
キツい言葉と共に、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる花梨先輩。鳥肉をつまむ。
飴って、私は小学生か。
「あの花梨先輩、私なら構いませんし、喧嘩は・・・」
「おっと止めてくれるな美緒ちゃん」
花梨先輩を諌めようとするが、何故か真澄先輩から制止がかかる。
「そうそう。これ日常茶飯事だから気にしないで。うどん食べながら見てていーよ」
ひらひらと手を振っていい笑顔で食事を勧められた。
兄妹二人はお互いに不敵な笑みを浮かべ、合間に食事を挟んでまた睨み合う。
・・・なんじゃこりゃー。
「この際真澄が美緒ちゃんって呼ぶのは別にいいとして、絶対変なことしないでよね」
「僕を誰だと思ってるんだ?三年C組屈指の紳士を舐めるなよ」
「胡散臭い。手出したら屋上から吊るすから」
「望むところだ、縛り方は工夫しろよ。ただの簀巻きとかだったら怒るからな」
さっきからずっとこの調子だ。
非常に食べづらい。しかし二人の食事はこの口喧嘩の合間に順調に減ってゆく。
しかも、二人ともしっかり飲み込んでから言葉を返すので注意もできない。
「カレー冷めるよ。気持ち悪い発言ばっかりしてないでさっさと食べたら?」
「そっちこそ早く子供を親の元に送ってやれよ。もう肉が残って無いぞ」
うどんをずるずるー、とすする。
この二人、もしかして楽しんでやっているのではないだろうか?
日常茶飯事だと言っていたし、これが有島兄妹なりのコミュニケーションなのかもしれない。
「あのー」
「どうした美緒ちゃん」
「真澄は喋るな。どーかした?」
おずおずと声をかけるといい笑顔で同時に振り向かれた。
やばい、つい声をかけてしまったが特に用はない。
「仲良いんですね」
とっさにそんな言葉がでてくる。
まあ喧嘩するほど仲がいいとも言うし、お互い気の置ける存在なのだろう。兄妹だから当たり前か。
「ありがとう。僕と花梨は今世紀最大と言ってもいい仲良し兄妹だ」
「寝言は寝て言え。美緒ちゃんに嘘つくな」
いや、結構な仲良し兄妹だろう。だって二人ともなんだかんだで楽しそうだし。
それは十分にコミュニケーションとして成立しており、どこぞの猫とネズミを思い出させる。
この場合は、どちらも頭の回るネズミのようだが。
「でもまー今日の所は勘弁してあげる。ご飯食べたら学校案内するんだから、真澄ごときに時間潰してらんないし」
「僕としてはまだ言われ足りないんだけど。仕方が無いな」
二人とも3分の1ほど残った昼食を黙って食べ始めた。
・・・しかし、読めない。何もかも読めない。
私はもしかして、相当に奇抜な人材に当たってしまったのではないだろうか?
「あ、そうそう」
銀色のスプーンで残り僅かなカレーをすくい、小用でも伝えるように真澄先輩が口を開いた。
「一週間案内役としてつくけど、もし僕が何か失敗したら遠慮なく叩いてくれていいし、
ひどく罵ってくれてもいいから。僕はそういうのが好きなんだ」
カレーを食べる合間に衝撃のカミングアウトをされた。
たかだか一時間前に会ったばかりの私に、昼食ついでに自身の性癖を打ち明けるとは。
口が開いた。ポカーンという漫画のような効果音が幻聴として私の耳の横を歩く。
「・・・え、あの」
「真澄は痛いって感覚がない馬鹿な欠陥人間みたいだから、本当に何してもいいよ」
なるほど納得の罵り具合。
花梨先輩もわかっててやっているのだ。なんて捻じ曲がった仲良しっぷりなのだろう。
「僕にだって痛覚くらいあるさ。気持ちよさで上書きされてるだけだ」
「気持ち悪い」
一蹴し、最後の一口。
真澄先輩も同時に最後の一口を口へ運ぶ。
似通った表情から感じる兄妹らしさと共に、双子らしさも垣間見た。
「あ」
そこで、手元の食器がまだほとんど白い麺と茶色のつゆで満たされている事に気付く。
二人の怒涛の口喧嘩に気をとられて、途中から手をつけていなかった。
「・・・ごめんなさい、もうちょっとだけ待ってください・・・あはは」
苦笑いしながら急いで食べ始めると、二人はよく似た表情でこちらを見て、笑った。
【NEXT:SOUND OF ECSTASY】
To BE CONTINUED→
最終更新:2012年03月02日 01:34