【三日目(火) MATERIA OF TIME】
「ヴァイパーチェインは僕の魔術媒体。声だけじゃ限界もあるしね」
ちゃら、と鎖を鳴らして大きな鈴を見せてくれる。
ヴァイパーチェインと名のついたそれは、真澄先輩の魔力と力量が許す限り
自在に長さと重さの変化するという魔法武器だった。
昨日、あの一撃一撃の重たそうな炎の拳と渡りあえた理由はそれか。
ちなみに南雲先輩は部屋に運んで寝かせておいた。今朝は普通に復帰して登校していたそうだ。
「どうだった、僕の魔術」
「正直、感動しました。すごかったですよ、私音魔術って全然見たことなかったから新鮮で」
昨日の見ごたえのある戦闘の熱が呼び戻されたように、私の唇から出てくる言葉。
それは素直な賞賛と感想であり、私自身、昨日の戦闘を観戦したことは非常によい経験になったと思えている。
「美緒ちゃんに褒められた」
「調子に乗るな。美緒ちゃん、真澄は褒めるとつけあがるから」
「けなしても同じかもしれませんね」
私の言った冗談を受けて、二人が少しだけ驚いた顔をする。
あれ?まずいこと言ったかな?もしかして馴れ馴れしすぎた?
「えへへ」
「わわっ」
と思ったら、花梨先輩が満面の笑みで私の腕に抱きついてくる。
真澄先輩も、流石に抱きつくまではいかないが私の頭に手を乗せて笑っている。
「ど、どうしましたか?」
「美緒ちゃんと仲良くなれてきたかなーって」
「こういうのはどうしても他人行儀になりがちだから。僕も嬉しいよ」
なんとなく、予想はしていたけど。
やっぱり先輩達は、私が早く馴染めるようにここまで親しげに接してくれていたんだな。
一週間しか過ごせないのだから、交流する時間は限られる。親睦を深める機会も。
けれど、だからって一週間を他人行儀で過ごすのは良いとは思えないのだ。多分、お互いに。
「よしよし美緒ちゃん」
「あ、あのー」
・・・単に懐かれているだけのような気もしてきたが。
ところかわって休憩スペース。時々、自販機で飲み物を買う生徒が見える。
だが、休憩スペースの椅子やテーブルを使っている人はほとんどいなかった。
「真澄先輩は音だし、花梨先輩も音なんですか?」
昨日、二人とも補助がメインの魔術だと言っていた。
双子だし両方音でもおかしくない、というかイメージ的にははまっている。
「まさか、真澄とおそろいとかないない絶対ない。わたしは時だよ」
「時」
違った。でも、どっちも比較的珍しい属性を使うんだな。
私の周りでは全然見た事がない。
「見てみる?たとえばー・・・」
間延びした声を上げながら指先を真澄先輩に向ける。
何か魔力の流れのようなものを感じたが、目には見えない。ビームのような感じだろうか?
しかし『おっと』と真澄先輩は避けた。反射神経が凄い。
そして背後に居た通りすがりの生徒が代わりにそのビームらしきものを受ける。
「ちっ、真澄なんで避けた?」
「つい避けちゃった」
「うおっ!?ありし・・・ってなんだおい!」
通りすがりの男子生徒が、歩くために出した左足に体を引き止められた。
何が起こったのか一瞬頭が混乱したが、すぐに気付く。
男子生徒の左足だけが、スロー再生のようにゆっくりと動いているんだ。
「転ぶ転ぶ!うおっとっと」
急激な動作の遅行によって崩されたバランスの上で、なんとか倒れないように持ちこたえる。
「有島!いきなりなんだよ!俺トイレ行きてーんだけど!切実切実!」
「研修生の子にわたしの魔術を見せてあげたの。もうトイレ行っていいよ」
「なんてやつだ・・・とりあえず早く解いてくれよ!」
花梨先輩は、何事もなかったかのようににっこりと笑顔をつくって男子生徒に返事をした。
左手であっちいけ、というジェスチャーをして、右手の指を男子生徒の引きつった笑い顔に向けた。
そして向けた指をさっと払うと、左足の動作はまた元の速さに戻る。
・・・逆にバランスを崩してこけた。不憫な。
「加速と遅行。基本だね」
白い椅子にもたれかかった花梨先輩がアイスココアの缶を一気に傾ける。
そして、先輩から見てちょうど左斜め前に位置する、缶専用のゴミ箱。
それを見て、にやりと口の端をゆがめた。
「カンシュート!」
無造作に放られたアイスココアの缶は、空中で速度を上げて急速にゴミ箱へ吸い込まれていく。
切り離されたモノの時間だけが独立して動き、私たちの時間軸からの見え方が変わる。
感覚が理屈を形作る属性だと、誰かは言っていた。
「ナイスシュート、花梨」
アイスココアの缶と、他の何かの缶がぶつかりあった音がした。
「ちなみに、わたしが得意なのは過去の記憶と未来の可能性を使う魔術。こう言うとかっこいい」
私のオレンジジュースと真澄先輩のお茶の缶だけが残った白いテーブルに、花梨先輩が手を置いた。
『ロストテクノロジー』と小さな呟きが聞こえる。
一瞬だけ目を細めた花梨先輩から、感じる魔力が濃くなった。
テーブルからせり上がるように魔力が箱のような形を形成し、時間が経つごとに徐々に細かい所まで現れていく。
「・・・電子レンジ?」
何処からどう見ても電子レンジ。
テーブルから、魔力を帯びた電子レンジがせり上がってきた。
文章だけ見ると非常にユーモラスで非常に意味不明だ。
「わたしの記憶の中の電子レンジ。時魔術はこういう事も出来る」
花梨先輩が電子レンジを開ける。音のない、手ごたえのなさそうな開き方だった。
しかしどう見ても電子レンジ。すごいな時魔術。
過去の記憶から物質のイメージを・・・と難しそうな考えを心の中で書き連ねようとしたが諦めた。
「これ、本当に物とか暖められるんですか?」
「残念ながら出来ない。わたしは電子レンジの内部構造まで把握してないから」
逆に出来たら凄すぎる。
電子機器の内部構造を完璧に暗記できる人材、何処かに需要があるのではないだろうか?
「つまり形だけの硬くて重い箱だから、小物入れか真澄を殴るくらいにしか使えない」
「気絶したら痛みが感じられないから、気絶しない程度に殴って欲しい。
あと、痛すぎても痛くなさ過ぎてもよくない。ほどよい痛さで殴ってくれ」
「注文多すぎ。論外」
確かに論外だ。
「未来の可能性っていうのは、将来創られうる全て。わかりやすく言えば、わたしの想像・・・」
中々機嫌のよくなってきた花梨先輩が、途中で言葉を切った。
顎に手をあて、ふむ、と声を漏らす。何かを思いついたような仕草に見える。
「つまり、わたしが想像すればこういうものもお茶の子さいさいなのだよ美緒ちゃん。オーバーテクノロジー」
いつの間にやら花梨先輩の手に、人っぽい何かが握られている。人形、フィギュアだろうか?
「6分の1美緒ちゃんフィギュア」
オレンジジュースを噴出しそうになった。
「ちょ、か、花梨先輩、っ」
「ほらほらそっくりでしょ?お手本が目の前にいるからね」
得意げに6分の1の私を見せてくる。恥ずかしい。毎朝鏡で見る自分が、小さくなってそこに居た。
シンプルで薄い台座に、棒立ちの小さな私が乗っている。ああ机に置かないで!
「へ、変なものつくらないで下さい!消して消して!」
「えー」
「えー」
「なんで真澄先輩まで不服!?」
そっくりな眉根の寄せ方で不服をあらわにされる。
いやいやいや!不服なのは明らかに私の方だ!
「僕にも一つ作ってくれよ」
「キモい。駄目。断る」
「そうですよ!」
こんなのが二つも出来て先輩方それぞれに所持されるとか羞恥の極みだ。勘弁してもらいたい。
「これはわたしが部屋に飾る。そして毎日眺めて美緒ちゃんが帰っちゃった後の寂しさを紛らわす」
「だから僕にも作ってくれ。きっと寂しくなる」
「メールとかで紛らわしてください!」
普通そーする。誰だってそーする。私だってそーする。
自分でもわかるくらい顔が熱い。主に頬のあたりに熱が集い、私の落ち着きを奪っていく。
「そして私が想像すれば、このミニサイズ美緒ちゃんにバニーガールやナースなんかさせちゃうこともやぶさかでは」
「やめてええええええ!!」
【NEXT:HIDE AND SEEK】
TO BE CONTINUED→
最終更新:2012年03月02日 01:34