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湖建設予定地だったクレーターにて。

「…どーするかな、これは」
「あのね、土方。こういう時は、ポジティブに考えるの。湖、ちょっと狭かったからね、広くする手間が省けたから良かったって思えばいいんだよー」
「左様でございますねwww」

二人の眼下には、三倍以上の面積になったクレーターが広がっている。
土方が暇を見てちまちまと加工してきたギミックや湖底や盛り土して作った島が、完全にすりつぶされていた。

「仕方ない。七坂が戻る前に特急仕事で片付けるか。お前も手伝えよ?」

土方の呼びかけに、背後に聳え立つ巨大な顔が目を光らせて答えた。

「うんうん、素直な子だね! やっぱり私に似て性格が良いんだよ」
「むやみやたらなパワーもそっくりだなw」
「才色兼備なんだよ!」

土方とルニャ。二人が立っているのは身長50mを越える巨大ゴーレムの胸部だった。
すみれ色の透き通る素材で構成されたボディは、その巨大さもあいまって何処か神々しさ感じさせる。

この巨神の誕生のきっかけは、些細な疑問からだった。



最初のクレーター誕生の数日前。

「ねぇ真吾。そういえば、ボーリングで消えてる質量は何処に行ってるんでちゅかね?」
「ん? 消えてるんじゃないか、普通に」

午後のおやつの時間。
ネズ美は七坂にもらって以来はまっている、スコーンにクロテッドクリームとイチゴジャムをたっぷり塗ったモノを堪能しながら聞いた。
なにげない、暇つぶしの雑談だ。

「そりゃありえないでちゅよ」
「なんでだ?」
「だって、物体を消失させるのは物凄い魔力をつかうはずでちゅよね?」
「ああ、ディスインテグレート(原子分解)な」
「真吾の魔力は中の上ぐらいでちゅよね? いくら凱装でブーストしていたとしても、虎子を焼いた時のボーリングで失われた質量が分解できたとは思えないでちゅ」
「お前、本当に鋭いのなw」

土方は冷めかけたコーヒーをすすり、答えた。

「あれはな、本当は異空間に切り捨ててるんだよ」
「空間を操ってるって事でちゅか?」
「いや、あくまで操作しているのは地系の物体のほうだ。なんていうかな… 意味の操作、でわかるか?」
「…えっと、それって、存在座標を書き換えてるって意味でちゅか?」
「おう、お前本当に賢いな。最初はボーリングじゃなくて、アースオーガ(土喰い鬼)って名前にしようかと思ってたんだw」
「そんなの、魔術じゃなくて魔法でちゅよ。って、そこまで操作できるならなんで戦闘方面の魔術を作らないんでちゅか? 某子供先生の敵役ぐらいのことはお茶の子さいさいのはずでちゅよね?」
「あんなの何番煎じだよw」
「メタ発言は禁止でちゅw」
「蘇芳みたいに金属を生み出して変化させたりは無理だが、土中にある成分を集めて形を作るぐらいは余裕だな」
「そこで、なんで? でちゅよ。真吾の魔術は戦闘用がまったく無いじゃないでちゅか」
「その話はまた今度なw」

土方が笑いながらコーヒーを飲み干すのを見て、ネズ美はそこに地雷があるのを察知する。
後輩たちに見せる優しい先輩の顔、もっと親しい間柄に見せる年相応の少年の顔。
埋まっていた地雷が、土方の本質をさらけ出すもののような予感がして、ネズ美は強引に話題を変える。

「じゃあ、異空間に放り出した質量は、ボーリングの逆転で呼び出せるって事でちゅか?」
「…おう、その手があったか。せっかくだからゴーレムでも造って見るか?」
「れっつプレイ、でちゅ!www」



数日後。


「…ダメだこりゃ」

忘れていたわけではない。
ボーリングが逆転する以上、吸引と逆の現象が起きる。
ただ、顕現した質量が予想を上回っていたのだ。
ゼロ秒で発生した大質量が押しのけた空気は、衝撃波を伴って周囲一帯をなぎ払い、直径127m、最大深度10mのクレーターを生み出した。

「この威力。地上じゃまずいですね。となると、上空で… 真吾は飛べるですか?」
「無理。箒も使えない」

凱装を使ったのが幸いだった。そうでなければ、術式のサポートのため人化していたネズ美ごと吹き飛ばされていたところだ。
さらに、ゴーレムはかろうじて人型になっているものの、土人形同然のありさまで、身動きひとつとることが出来なかった。
それを生み出すための魔力が、シンフォニア形態でさえもまかなえなかったのだ。

「まあ、使い道もないですからしばらくこれは封印ですね」
「もう魔術ですらないもんなぁ…」

土人形の目が、何処か悲しげに瞬いた。

「ごめんな。今のオレじゃ無理だ。だが、いつか何とかしてやるから…」
「時間はかかるかもですけど、約束するですよ」

土方は土人形の存在座標をボーリングで送り込む時のモノとはずらして設定し送還した。

「さて、帰って凱装を聖約に合わせた調整するかぁ」
「そうですねぇ。あ、この穴はどうするですか?」
「流石にこのサイズは面倒で埋めてられんぞ。誰か来るかもしれんし、さっさと移動だ」
「はいです」



ここしばらく、土方はクレーターの整備に掛かりきりだった。
学園としての敷地外ではあるものの、実験を行った場所は学園の所有地のうちだ。
事件の翌日には企画書をでっちあげ、速水を丸め込んで共犯に仕立て上げ、学園側に通した。
意外なほど企画がすんなり通ったのは、理事の一人が強力にプッシュしたかららしい。
難航していた水質問題も、七坂美緒の協力により解決した。
関係省庁への手続きは、何度かアルバイトをした建築会社の現場長に協力をしてもらってクリアした。
あとは、水を引くだけだ。

「そんなに気になるんでちゅか、あのゴーレムのこと」

一通りの加工が終わったある日、ネズ美が問いかけた。

「ん? まあな。失敗したとは言え、意思らしきものを宿したんだ。出来れば、早いうちに完成させたやりたいと思ってな…」
「超獣装もひとまずはデチューン完了でちゅしねぇ」
「ただ、アレでも制御だけで手一杯になりそうなんだよなぁ」
「相変わらずバカチンでちゅねw」
「へ?」

にやにやと楽しそうにネズ美は言葉を続ける。

「手伝ってもらえば良いんでちゅよ。こないだ言ったばっかりじゃないでちゅかwww」
「…そうだなw」
「水を張る前にもう一回あそこでやってみまちゅか?」
「おう。そうと決まれば」
「人選でちゅねw」

二人は魔力と技術を備えた人物をピックアップして行く。

「宮内… は論外だな。向いてないし、あいつとコクピットにこもってもつまらんw」
「うひゃひゃ、ひどい言い様でちゅねw トータルバランスだと真田でちゅかね?」
「魔力も技術もいいレベルだが、特化してるし、キャパシティが残ってなさそうだ。何度か魔術を作り直しているあたりが不安要素だな。変な影響を与えたら申し訳ないし」
「成功すればかなりの出来になりそうなんでちゅけどねぇ。杉崎は私らとタイプが似てるんでちゅけど、その分、相性問題がでそうでちゅね」
「すでにディアボロスでかなり負荷がかかってるみたいだからなぁ。弓月、菅原、矢塩、メディアは最近会わないし…」
「教師陣は責任問題的な意味でダメでちゅよね。そーくんは魔力的に無理でちゅし」
「大野もなんかトラブってるみたいなんだよなぁ…」

「後は、七坂とルニャでちゅねぇ」
「七坂は人形師だし、魔力技術のバランスもいいが、例の人形の製作で、実家へ帰ってるな…」
「ルニャでちゅね」
「ルニャだなぁw」
「なんか、神にも悪魔にもなれるゴーレムになりそうでちゅよwww」
「むしろ、神も悪魔も滅ぼす無垢なる刃でwww」
「うひゃひゃwww」

後日、二人は笑い話になら無かったことを知ることになる。



クリスタル事件の直後、本人に依頼してみると、細かいところは説明しなかったが、ルニャは快く承諾してくれた。
常々思うのだが、何故この子はチャーハンに取り付かれてしまったのだろうかw

そして、土方と頭脳派の神獣たちの昼夜を問わぬ術式の洗練作業が続く。

「細かいところはソニックフェザー(凱装の翼)で並列処理でちゅかね? 鳥子、何処まで行けまちゅか?」
「19… 専用の、フェザーを、増やす、べき」
「よし。予備込みで24枚それ用に増やすか。自動化して問題ないところは術式を分割して、マクロを組もう」
「主様、ならば2枚づつ組ませてハイマット形態のさらに先端に配置して、ゴーレムと直接接続してやれば、制御も楽なはずじゃ」
「分かった。凱装の変更をしておくよ。コクピット用の術式のほうは頼む」
「うむ、わらわに任せるがよい」
「だーりん、慣性制御用の術式なんだけどぉ~」
「虎子が頭脳派だったのにはビックリでちゅねwww」
「体の赴くままに振舞っても、いいのよぉ?」
「ゴメンでちゅ」

頭脳派に限らず、神獣たちの様々なアイディアが導入された術式は、実に巨大で壮麗なモノへと進化していった。



そして、運命の日。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

土方はルニャの箒に摑まって、垂直方向に物凄い勢いで上昇していた。
顕現させた際の衝撃波を防ぐため、空中で術式を行うのだ。

「このぐらいでいいかなー♪ どう、土方? あれ、もう降りてるね。気が早いなぁ!」

振り落とされただけである。

「まさか、超獣装で振り落とされるとは思わなかったなぁw ソニックフェザー全展開、ハイマット形態っと」

黒曜石と月長石の羽根が揚力制御のための形態に組み変わり、墜落状態から滑空状態に移行した。
片翼に黒の大きなバインダーが三枚、小ぶりの白いバインダーが三枚の、左右合わせて十二枚の石の翼が、小刻みにひねる様に可変しながら空気の流れを制御する。

「高度は十分。着地までに顕現させて、障壁を張る… キャストバインダー召喚、接続、術式の凍結を解除…」

さらに二十四枚の羽根がバインダーに連結し、羽根の発振する音がバインダーに共鳴して発光を開始、光り輝く十二枚の翼へと変化。

「よし、励起は完全だな。ラ・フォリア ヴィルトゥオーソ、詠唱開始…」

土方の詠唱に答え、詠唱翼(キャストバインダー)が術式を起動。多重かつ立体展開された光の魔法陣が形成される。

「…我が名において、汝を鍛造す。大地の化身、無垢なる力、我が呼び声に、答えよ機神!」

100m近い積層型立体魔法陣が土方の眼前に発現、巨大な土人形をその内部に召喚する。
押しのけられた大気が、大爆発にも似た衝撃波と轟音を発生して土方を激しく揺さぶる。

「くそ、気流を制御し切れんかっ!」

吹き飛ばされる土方を、高空から箒で真逆様に落ちてきたルニャがキャッチ。
慣性と人間一人分の重量をやすやすと片手で受け止める辺りが恐ろしい。

「すまん、助かる!」
「いいよー でも、あれなの?」
「言いたいことは分かるw 今から鍛え直すんだよ。呪文、覚えてきたか?」
「ばっちりだよ! 土方、本当は私のことバカだと思ってない?」
「そんなことは思ってないぞ。欠片も。でも、面倒くさがり屋だろ? 前にも…」
「土方、過去にこだわっちゃだめ。人の目が背中についてないのは、前を見て歩いていくためなんだよ!」
「左様でございますかw」



安定を取り戻し、再度滑空して自由落下中のゴーレムに取り付く。
その目が不安そうに光った。

「任せろ。今、生まれ変わらせてやる…」
「超絶美少女天使、ルニャちゃんにおまかせ、だよっ!」

追いついて着地し、謎のポーズを決めるルニャの台詞に、ゴーレムの目が光る。
涙の光かもしれない。恐怖の。

「よし、やるか。ルニャ、例の呪文たのむ」
「わかった。まかせといてー」

と、いいつつ何処からとも無くカンペを取り出す。
土方は凱装の仮面の下で苦笑いを浮かべながらも、合わせて詠唱を開始。
搭乗術式が起動すると、ゴーレムの胸元が発光して二人をその体内に取り込んだ。

「まっくらだね。幽霊とかでそうー」
「出ん出んw 魔術回路を繋ぐぞ」
「そうかなー 土方のボーリングが埋まっていた死体を取り込んでて、せっかく眠ってたのにーってでてくるかも?」
「術式的に無いよ。化石になってりゃ分からんがなぁw」

役割分担は土方が制御系を、ルニャが操作系と魔力炉の代用だ。
土方の背中の翼が発光を開始。その光に石の玄室のような空間が照らし出される。
翼から伸びた光が壁に突き刺さり、玄室に魔術紋様が張り巡らされていく。

「ルニャ、そこの魔法陣に立ってくれ」
「ここー?」
「違う、五芒星の奴」
「おっけー」
「よし、そっちも繋ぐぞ」
「んっ?」

ルニャが術式に接続された瞬間、玄室内の魔法陣がまるで太陽と見まがうような強烈な発光をした。
その小さな体の内に秘められた、出鱈目なまでの巨大な魔力が、魔術回路を焼き尽くさんばかりの勢いで流れ始める。
土方は暴れ馬にも似たその魔力を、必死で術式を補正しつつゴーレムの全身に流し込み、再構成していく。

ただの土くれに、魔術回路を焼きこむ。
最初に、制御系。
そして、伝達系。
運動系、感覚器、思考系、千を超える術式を、素早く、的確に。
同時に構成物質の再構成。

「土方、コクピットできたよ! 外の景色も見える。魔術ロボなのにけっこうメカメカしいねー」

振り向いたルニャは壁面に半ば取り込まれるようにして、必死に術式を行使している土方に気づく。

「うーん、一生けんめいだね。私も着地にそなえて集中してよー」

膨大な魔力を吸われながらも、ルニャは涼しい顔で映し出される外部映像を眺める。
大地までの距離は一万メートルを切ったようだ。

「だめだったら魔力障壁で土方ごと包めば平気かな? かな? 凱装着てるし平気だよね!」

術式は大詰めを迎える。
成分分析、分子レベルで選別し大理石とアイオライトを結合する。

土の人形に過ぎなかったその体は、素材の再構成により不要分を排除しながら、半透明の、青みを帯びたすみれ色に染まった強固なものへと生まれ変わる。
表面に呪紋が浮かび上がり、十重二十重に魔力障壁が展開されていく。
土の瞳が透き通り、レンズ状の器官としての瞳になり、まぶたが二、三度またたく。
その目は強い意志を持ち、眼下に迫る大地を見据えた。

「いよっしゃあーっ! ルニャ、障壁展開、対ショック防御!」
「おっけー!」

着地。
超重量の機体の生み出した衝撃が、大地をめくり上がらせながら吹き飛ばす。
その巨体を隠していた土煙が、風にあおられて、ゆっくりと薄れていく。



膝をついていたすみれ色の巨神が立ち上がる。
鋭い鋭角のラインで構成されたそのボディは、太陽の光に僅かに透き通り美しいきらめきを放っていた。
そして、仁王立ちをして腕を組み…

「ねぇ、土方。こういう時はロボットの名前を絶叫するのがこの国の風習だって聞いたんだけどー」

ポーズを決めたルニャが問いかける。
機体制御はモーショントレース方式で、ルニャの動きを忠実に再現していた。

「決めてない、まだw」
「そっかー まあ何はともあれ、お誕生日おめでとう、ロボ!」

楽しそうに笑うルニャに、巨神は瞳を光らせて答える。
中からは見えないけれど。

「そうだ! この子って中の人ー」
「ディーヴァ、だよ」
「歌姫? パイロットじゃないの?」
「魔術で動くからなw ここもコクピットじゃなくて奏室って呼ぶ。呪文を唱えるさまを、歌になぞらえて蛇子が命名したんだw」
「ふぅん、こだわりだねー で、中の人の魔術を使えるんだよね?」
「おう、かなりの増幅をしてくれるぞ」

土方の言葉に、ルニャは天使のようににっこり微笑んだ。
そういう趣味の無い土方でも思わず見とれるほどのいい笑顔だった。

「よぉし。それじゃお誕生日のお祝いに、チャーハン作るよ!!」
「へ?」
「いくよロボ! フライパンしょうかーん!」

高々と差し伸べられた巨神の左手に、黒々と輝く中華なべが握られる。
はっきり言って、かなりシュールな光景である。

「ちょwwwおまwww」
「チャーハンは火力がいのちだよ! ロボ、お願い!」

巨神がそれに答えて右手を掲げ、忠実にルニャの術式を実行した。
三十六軍団を率いる序列六十四番の地獄の大公爵フラウロスの、召喚者の敵を全て焼き尽くす力を数倍に増幅して。





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【おしまい】
最終更新:2012年03月02日 01:36