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【夢幻の聖約】

「時は満ちた…」

闇の中、歩み寄る影に土方は驚愕する。
青を基調とした、鎧。
獅子の胸、狼の両肩、豹の膝、鷹の翼。

「凱装、だと?」

「余は、空の獣王。神獣王の座につくのは余だ。よって、貴様の力を徴収する」

敵意に反応し、光が集う。
黒を基調とした、鎧。
鳥類のヘッド、熊の胸、虎の両肩、石の翼。

戦闘は激烈を極める。
鷹の翼から襲い掛かる真空波を、ソニックフェザーが切り裂く。
映像をコマ落とししたかのごとく一瞬で接近、繰り出した剣菱が、数歩下がっただけで見切られる。

「甘いわ…」

「いや、そこがいい。その位置がとてもいい」

土方は、敵が自身と同等以上の力の持ち主であることに気づいていた。
ゆえに、全力。
一切の容赦なし。
左足を軽く上げ、拳を振りかぶる。
しゃん、と澄んだ音を立ててソニックフェザーがハイマット形態に。
さらに、その翼端に詠唱翼が展開する。

「喰らえ、ソニック・トルネード!」

野球のピッチャーのように足を振り下ろして、拳を突き出す。
その瞬間、土方の全身が一瞬で音速を突破。
発生した衝撃波と拳にこめられた魔力により、周辺ごと爆砕される。
対超大型魔獣用の必殺技である。
いささかやり過ぎの気もしないでもないが、同じ凱装持ちだ。
死ぬことはあるまい。
ソニックフェザーが過酷な行使に砕け散る。この技のいくつかある欠点の一つだ。
しかし…

「なるほど、良い技だ。地の獣王でありながら音速を超えるとは、見事の一言に尽きる」

「なん…だと…」

突き出した拳を、無傷の青い凱装の人物が片手で受け止めている。
わずか数メートルからの超音速攻撃を、自身も同じ速度で後方へ飛ぶことでエネルギーの大半を相殺したのだ。
使用した魔力はほぼ同じ。
だが、二人の間には致命的な差がある。

「飛べぬ翼は砕けたか。だが、容赦はせぬぞ」

目にも止まらぬ怒涛のラッシュが土方を襲う。
大地に足場を依存しない立体的な攻撃は、土方の格闘能力でも捌ききることが出来ない。
さらには、時折交えられる風属性の攻撃も厄介だ。
あっというまに土方はぼろぼろになって大地に転がった。

「さて、中々に楽しませてもらったせめてもの礼。余の最大の奥義でトドメをさしてやろう」

中に浮かぶ空の獣王の手に、風の魔力が集まっていく。

「待つですよ、空の獣王。真吾を殺したら、私たちは絶対にあんたには従わないですよ?」

人の姿を取った神獣たちが闇の中から現れる。

「ふむ。ならば、交換条件ということかな?」

「私たち、聖約者たる十七柱と…」

朦朧とした意識の中で、土方は別れを告げられた。

「すまなかったな、真吾。わしらのために…」


こうして土方は超獣装と、十七柱の聖約者を奪われた。
その意味さえも理解できないままに。



【病室のベッドにて】

「あなた、ほんっと~~~~~~~~~~~に、弱いんですのねぇ」
「尻尾さんはどうしてそんなに弱いのかしら?」
「お姉さま、そんな…」

包帯まみれになった土方を八乙女三姉妹が取り囲んでいた。

「あはは、真吾ちゃんは弱くないよ。負けやすいけどね」

リンゴの皮をくるくると剥きながら、天河もくすくすと笑う。
魔術学園のでは、重傷を負うことも珍しくはない。
天河のような例外を除いて、殆どは治癒魔術で回復してしまうからだ。
見舞いという名の雑談を終え、四人は早々に立ち去った。

「なぁ、土方」

ずっと壁際で腕組みしていた速水が、ようやく口を開く。

「お前、いつから力でごり押しできるようなキャラになった?」

「キャラとか言うな、独神。言いたいことは分かってるし、反省は終わりだ」

土方はベッドの上で包帯やら何やらを適当に引っぺがす。
その表情には、いつの間にか楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「何処へ行けばいいのか、わかってるのか?」

「おう。ご丁寧にも、挑戦状が残ってたからな。どういう了見か知らんが、目に物見せてやるぜ」

そして半日ほどの準備をして、土方は再びあの場所を訪れることになった。


【十二支の宮、再び】

「行くのか、強敵(とも)よ…」

鼠の宮の外。今回も律儀に待っていた蟹が声をかけてきた。

「おう、行くとも」

「何のために。お前が戦う義理など無いだろう」

「まったく持ってその通りだ」

「アレ? そこは、愛のためにとか自分のせいで捕らえられた仲間のためにとかじゃないのか?」

「いつまでも付き合いきれるか、クソッタレ。オレはな、三行半を突きつけに行くんだよ!」

何か言いかけた蟹をひっくり返して土方は走り出す。

「まずいな。どうしてこうなった…」

空を仰いだまま、蟹はcvアナゴくんでつぶやいた。



【ネズ美の宮】

ネズ美は今、生涯最大の危機を迎えていた。
空の獣王により彼女達は十二支の宮の新たな主たちに分配されて管理されている。
ネズ美を管理するのは、よりによってワシの神獣だった。

なんか前の方で鷹とか書いてあったが、ワシの間違いである。

彼は暇つぶしと称して、スナネズミの姿になったネズ美を追い立てる残虐な遊びに興じるドSであったのだ。

ネズ美の小さな体は、何度も空へ持ち上げられ、大地に叩きつけられ、その凶悪なカギ爪に切り裂かれていた。
それでも、弱音もこぼさず必死で逃げる。
これば、罰なのだ。
真吾に何も説明することが出来なかった、自分への罰。
わずかな思索が、致命的な隙となった。
舞い降りてきたワシの鋭い爪が襲い掛かる。
柔らかい腹部をかばう暇も無く、自分は致命傷を負うだろう。

「真吾、ゴメンでちゅ…」

目を閉じたその瞬間、襲い掛かったのは爪の痛みではなかった。
まぶたを閉じた瞳、その闇を切り裂く真紅のナイフ。
雷鳴のような轟音が。
怒りに燃えるマズルファイアが。
打ち出された超音速の弾頭が、衝撃波でネズ美ごとワシを打ち据えた。

ぐるぐると回る視界を、頭を振って回復させる。
大地に立つ人間。
彼の右手に輝く白銀の巨銃。
その名は、狂王の鉄槌。

「おう、スマン。衝撃波届いたかwww」

「真吾!」

ワシは完全に目を回して墜落している。
土方はそのくちばしをハンカチで縛り上げ、翼を荒縄でくくって背負う。

「なんで、なんできたんですか?」

ぐしぐしとこぼれる涙やら鼻水やらをぬぐいながら、ネズ美が問いかける。

「縁切りにw」

「はい?」

「いつまでもこんなことに付き合ってられるか。オレはオレのルールで生きていくんだからな。だから、奴にお返しをしたら一切合財縁を切る」

「ええええ!?」

ポカーンとした表情で固まったネズ美を置き去りに、ワシを背負った土方は走り出した。
残された時間は十分である。



【エロタウロスの宮】

「スーパー!」

「アレ、ちょっと?」

「土方!」

「いや、ワシだよ、ワシワシ。敵じゃないよ?」

「キィィィィイイイイイイイイック!!!!」

【通りすがりの稲妻キックでエロタウロスは倒された】



【双子の宮】

「ふ、来たな負け犬」
「だが、我ら狼の双子、この宮は一歩も…」
「お舘さま! 逃げてくだされ、拙者たちのことはー」

「猫にまたたび、犬にイヌマーンwwwww」

【土方のぶん投げたミミズの煮汁で、イヌ科の神獣たちは大フィーバーだったそうな】

ごろごろとミミズに体をこすり付けて喜ぶ狼と犬子たちを放置して土方は走る!
べ、別に面倒になったわけじゃないんだからねっ!?


【蟹の宮】

「殿、お許しください。この兎子は忍の定めにー」

「おう、分かった。じゃ、さよなら」

「あ、あれ? 殿? そこは何がしかの葛藤をー」

「付き合いきれん」

【兎子は一撃で叩き伏せられ、華麗な亀甲縛りで吊るされたそうな】


【獅子の宮】

に、入る直前。
土方は、ウェポンラックから新しい銃を取り出した。
力のステンノー。
単発式ではあるものの、その威力はチャージした魔力によって上昇していく。
さらには、グレネードランチャーとしても使うことができる優れものだ。
セットした自作の弾頭を、獅子の宮に叩き込む。
しばらくして中に入ってみると…

「ひ、ひはまふるひぞ・・・」
「だーりん、またたびはらめぇ~」

【またたび弾でグデングデンになった獅子の神獣と虎子が転がっていた】



【処女の宮】

「可愛いお子さんですね~」
「いやいや、それほどでもありますよ」
「あらあら、うふふ」
「ぱっぱー! じゅーちゅおいし~よ」
「たーたんっ おかし、おいしぃの~」
「お世話をかけたようで、こりゃまた申し訳ない」
「いえいえ~」

【ものすごく人のいいお嬢さんが、やっちゃんとあーちゃんを返してくれたそうな】



【天秤宮、天蠍宮を通り過ぎ、人馬宮にて】

「真吾さん…」

「馬子、その辺で勘弁してやれ…」

【不埒な行いをしようとして返り討ち、ズタボロになって転がるケンタウロスがいた】
【流石腐ってもスレイプニルである】


【磨羯宮にて】

「羊子、このヤギからカシミア取れると思うか?」

「無理だと思いますよ。お手入れ不十分ですし」

「雄だし、乳も搾れねぇもんなぁ。使えねぇ」

【草食動物じゃ勝てるはずもない】




「さぁて、体もあったまったし、リベンジするかw」

肩をぐるぐる回しながら、最後の宮を通り抜ける。
だだっぴろい草原、その真ん中で、腕組みした青い凱装、空の獣王が待ち受けていた。

「せっかく拾った命を、捨てに来たか…」

「いいや、勝つのはオレだ、ぜ!」

左手に握った魔銃、彷徨えるエウリュアレーを天に向けて撃つ。
直進した光弾は、一定高度ではじけるように六分裂。
敵に向かって一気に襲い掛かる。

「こんなもので、余を狩れるものか!」

ワシの翼を体に巻きつけ、一気に広げることで風属性の魔力を放ち、弾頭を迎撃する。
しかし、そのわずかな隙に、土方はステンノーのチャージを完了。
幾重もの多重魔方陣を展開した銃口から、砲弾が打ち出される。
その威力は、戦車の装甲さえもたやすく貫通するほどだ。

「おのれっ」

大気を炸裂させて、敵は一気に急上昇。砲弾をかろうじて回避。

「ライジングっ ストォォォォォォォムッ!!」

飛ばせて落とすのは格闘(ゲーム)の基本である。
巻き上がる魔力を帯びた砂の嵐が、空の獣王をもみくちゃにして地面に叩き落した。

「まあ、このあいだの借りはこんなもんかw」

両手の魔銃を収納する。この二丁は、魔力を消費するため使い続けるのは難しい。

「ふ、ふふ… よくぞ生身で余を地に落とした。そこは賞賛しようではないか」

空の獣王が、よろよろと起き上がる。

「だが、この程度が余の全力と思うなよ!」

「へぇ、だったらどうするって言うんだ?」

「こうだ!」

瞬速。
ひねりもない、ただ早くて重いだけの突き出された拳を土方は回し受けでさばく。
体を半分だけひねり、開いたわき腹に肘で一撃。
凱装が無いとしても、刷り込まれた武術を、獣の肉体が忠実に再現する。
動きが止まったところに、急角度の後ろ回し蹴り。
空の獣王は、大地に一度バウンドしてそのまま転がっていく。



「うん、やっぱりあんた格闘は素人だな。前は速さと立体的な攻撃にやられたが」

土方は腰の後ろのウェポンラックを両手で左右からトン、と叩く。
ケースがそのまま左右に分割されて片翼1mほどまで伸張、内部にはずらりと岩魚と呼ばれる石剣がぶら下がっていた。

「行け、岩魚たち」

ロックが外れ、石剣たちがばらばらと落下。大地に触れると、まるで水に潜るかのように次々と潜行していく。

「おのれぇっ! 余が神獣王となるのだ! こんな所で躓いてたまるか!」

「珍獣王だか中華王だかしらんが、勝手になってろ。オレを巻き込むんじゃない!!」

ワシの羽根が魔力を帯びて無数に襲い掛かる。
しかし、土方は冷静に土壁で対処する。突き刺さった羽根が爆裂、土壁を消し飛ばすが、その影にはすでに土方は居ない。

「つーか、オレはそもそも神獣王とか獣王とか始めて聞いたんだけど、なんだそれ?」

「黙れ、愚民が!」

振りかざした手刀から放たれる巨大なカマイタチを、最小限の再度ステップで避ける。
小さな隙に、土筍を一本だけあわせてやる。
カウンター気味の、金的打ち。

「ひゃうっ!?」

ぴょんとはねた空の神獣王は股間を押さえて後ずさった。

「あれ?」

「お、お、お、オノレ、余を愚弄しおって、エロ犬がァー」

ワシの翼が解け、十重二十重に空の獣王を取り囲んで回転し始める。
幾重にも重なって回転するリングはそれぞれ魔力をほとばしらせながら、周囲に魔方陣を展開。
巨大な術式を起動する。

「受けよ、神鳴る力っ!!」

「ボーリング、深度30めーとるv」

天を突き刺した人差し指が振り下ろされるよりも早く、空の獣王の足元の大地が消失した。
ぽっかりと口をあけた穴に吸い込まれながらも、掲げられたままの指先に、天から極太の雷を導く。
しかし、発動者本人が落下しているため、雷もまた穴に飛び込み大地にアースされ拡散してしまう。

そして、まもなく。
穴の底から、ぐしゃっと切ない音が聞こえた…



ざくざくと壁面に爪をつきこみながら、空の神獣王が地上に顔を出した。
穴はわずか直径1mに過ぎず、羽を広げられないため飛べなかったようだ。
凱装のあちこちから、ぽたぽたと血が滴っている。

「おう、おかえり。まだやるかい?」

「やらいでか!」

その瞬間、穴の周囲の大地がさざめく。
地に潜った岩魚が、逃げるすべもない空の獣王を包囲した。

「そいつは、高周波ブレードに加えて、魔術的に強化されてる。ここからは、命のやり取りってことでいいか?」

「……余の、負けだ」

土方が手を伸ばしてやると、空の獣王は凱装を解除して、その手を掴んだ。
仮面の下のその顔は、処女宮で双子の面倒を見ていた少女だった。

「オレは、面倒くさいから細かいことは知らないで置こうと思うんだ。だから、あんたは好きな役職につけばいい」

ぐいっと意外に軽いその体を引き上げてやる。
多少の擦り傷切り傷は残っているが、ひどい怪我はなさそうだ。

「うん、ひどい怪我も無いな。でも、その気のない連中はそっとして置いてやってくれ。オレの所に居た連中も帰らせるからさ」

「……そなたは」

何処か、ポーっとした表情で少女が土方を見つめる。

「うん?」

土方がウェポンラックを展開すると、地中から岩魚たちが定位置に次々と戻ってくる。
左右16本、全32本の擬似生命体だ。

「どうして生身で余に勝てたのだ? 一度目の戦いからは想像もつかん」

「こういう言葉をしっているか?」

人と戦うときには、敵を超えようなどとは思わないことだ――
それでは自分よりも強い敵に出会ったときにひとたまりもない。
それよりも、敵の弱点を見つけるのだよ
弱点を見つけたら、後は実行を恐れないことだ。
それがなんであれ、たったひとつでも弱点があるのならば、打つ手は無限にある――

「弱点、か…」

「丸々受け売りだけどな。最初のときは、力でお前を超えようと思った。だから、負けた。相性もあるんだろうけどな」

「ナルホドな…」

そうつぶやいて頷く少女の顔は、何処か晴れ晴れとしていた。

「よし、決めたぞ。そなた、余の番いになれ」

「は?」

「圧倒的な不利を跳ね返す発想力、観察力、さらにはボーリングといったか、あの魔術の腕。余の亭主としてふさわしい」

土方はまたか、と思いつつも、こっそりとその場を後にしようとする。
しかし、タイミングの悪いことに、張り倒した連中が回復したようで、下からやって来てしまう。

「姫、ご無事ですか!?」

「うむ、やられた。見事にこの心を奪われたぞ。余は、こやつを亭主にして、この神獣界をー」

「無茶苦茶言うな!? 獅子男、お前なんとか言ってやれ!」

「うむ、確かに奇策とは言え宮を最短時間で踏破したのもまた事実か…」

「姫様、お怪我は?」

「大事無い、もう殆ど治っておる」

「ワシ男、止めろ! 理知的な顔のお前ならー」

「なるほど、姫に怪我をさせるとは、是が非にでも責任を取らせねばー」
「鬼畜メガネか、テメェ!!」
【ドSでした】

「付き合ってられるか! オレは帰る!!」
「そうはいかん! 者ども、ひっとらえよ!」

土方はすぐそばで隠れていた双子を抱えて全力ダッシュ。
かろうじて魔術学園に逃げ帰ることが出来たそうな。


【おしまい】



【地下封印牢にて】

「真吾… グスッ」
【来て早々大暴れしたため、捕らえられ、壁際で体育座りで鼻水をすする熊子さんの姿がありました】

【とっぴんぱらりのぷぅ】
最終更新:2012年03月02日 01:36