演劇部小説版
――この物語はフィクションです。実在の生徒、教員、施設とは全く関係がありません――
そのアナウンスと共に舞台の袖から一人の女生徒が歩いて来、舞台の中心に立つと静かに礼をした。
演劇部発足者にして部長、弓月琴子。多少人騒がせな面があるものの、普段は取り立てて目立つ生徒ではない。
彼女は少し緊張した様子で大きく息を吸うと、短くこう告げた。
「発表が遅くなりまして申し訳ありません。演劇部の舞台……どうぞ楽しんでいってくださいませ」
その言葉が終わると同時に照明は消され、舞台は暗転した。
一般の生徒が立案し、出演した演劇部。彼らの練習の成果が今、全校生徒の前で発表される。
やがて再び照明がつけられ、幕が上がった。教室を模したセットの中心には、先ほどの女生徒――弓月琴子の姿があった。
■■■
雲が太陽の日差しを心地よく遮る曇天の日のことだった。
弓月琴子は一人、空き教室で悶々としている。彼女には、兼ねてよりやってみたいことがあった。
しかし、自分の飽き性も自覚している。答えの出ないことを思い悩んでは、ただひたすらにため息。
……そんなとき、女生徒がもう一人、空き教室を訪れた。
「琴子ー、なぁに悩んでるのさ。らしくない」
「……あやめ」
真っ黒なロングヘアに、鮮やかな青紫の瞳。弓月にあやめと呼ばれた彼女、名を七屋敷あやめという。
地元では名のある良家の出で、水属性魔術の才能も一流と認められ、外見の良さは見ての通り。
加えて性格にも際立った問題はなしと、およそ欠点のなさそうな人間である。
「やりたいことがあればやればいいのにさ。琴子は昔から少しあれだね、臆病だ」
「……っ、あやめには関係ありませんわ」
「あらら、地雷? まあ、確かに私が言ってどうなることでもないね」
じゃね、と短く挨拶をすると、七屋敷あやめは軽快な足取りで教室を出て行った。
一人取り残された弓月は、また小さくため息をついて沈みかけた夕日を眺める。
七屋敷あやめは、弓月琴子にとって数少ない友人だった。
自分の性格があまり良くないことも、社交性に乏しいことも、弓月は自覚している。
だからこそ、と言うべきか。弓月は人とはあまり深く関わらないようにしてきたし、これからもそうする気でいた。
しかしどういうわけなのか、この七屋敷あやめはことあるごとに自分にちょっかいをかけてくる。
中等部一年で初めて同じクラスになって以来、ずっとそうだ。クラスが分かれても、寮が分かれても、ずっと。
最初こそ鬱陶しく思ったが、中等部を卒業する頃には諦めもついていた。
それでも彼女を見ていると、ときどき嫌な気持ちを抱く。
およそ存在してはならないような、どす黒い気持ちが。否定しても否定しても消えない、生々しい感情が。
(……これは、いつかわたくしを支配するようになる)
そんな、確信にも似た予感があった。
見上げた夕日は大分傾き、赤かった教室はいつしか黒く染められていた。
■■■
最初の事件が起きたのは、それから暫く経ってからだった。
弓月琴子が演劇部を発足した、その祝賀会の最中のことである。
多くの生徒が集まって賑やかな演劇部部室に、突如として一人の男子生徒が息を切らして飛び込んできたのだ。
「はぁっはぁっ……た、大変だ……」
いち早く対応したのは、
魔術学校でも有数の変t……幻獣使いと名高い杉崎衛である。
「なんなんだ、騒々しいなぁ。入ってくるときはもっとゆっくり入れって……」
「学園にドラゴンが現れたんだ! 助けてくれ!」
「な、なんだって! よし、すぐに行こう!」
正義感の強い杉崎のことである。報告を受けた彼は、一番早く屋外訓練場へと向かった。
そこには確かに巨大なドラゴンがいた。
いたのだが。
「ギャオー食べちゃうぞー」
そのドラゴンは、どうにも少し頭が弱そうであった。
しかし、破壊の限りを尽くしているのもまた事実である。
被害状況を見た杉崎は、巨大な魔竜に怯むことなく宣言した。
「な、なんてことを……。お前に好き勝手させてたまるか! お前は俺たちが倒してやる!」
続いて現場に現れたのが、特殊な魔術を扱う美少女として有名な美月である。
「うひゃ~……ドラゴン……。
私の能力じゃ倒せないよ……」
しかし、他人の能力をコピーするという美月の能力はドラゴン相手に分が悪く、いささか気遅れ気味の態度である。
そこに自信満々といった風情で登場したのが、風属性の魔術を得意とする大野風真だった。
「はっはっはっだよな」
「え? あんたもこの部に入ってたの!!?」
美月は大野の登場に少し顔を赤くして驚くが、肝心の大野が美月の様子に気付いた様子はなかった。
「なんだよ……悪いのか」
「別に……!」
二人が毎度おなじみの痴話喧嘩を始めようとしたところで、ドラゴンの吐いた火の息が屋外訓練場を襲う。
その時は杉崎の空間魔術によりことなきを得たが、毎度こう上手く行くとも限らない。
さすがに二人も夫婦漫才をしている場合ではないと気付いたようであった。
「さて、ある意味空気こと俺の出番だぜ!」
大野はそう言って、近くに落ちていた石を上に向かって放り投げる。
それが顔のあたりまで落ちてきたとき、大野は一直線の風を起こした。
風の勢いに乗せられ、石は猛スピードでドラゴンの方向へと吹っ飛んでいく。
猛スピードで石はドラゴンの腹に直撃し、ドラゴンは大きくもんどりうってその場に倒れた。
「すごい……」
美月が思わず呟いた言葉は騒ぎに飲み込まれて、結局大野の耳に入らず終いだった。
二人の関係が進展するのは、まだまだ先の話になりそうである。
さて、退治したはいいがその処理をどうするか。
そんな問題を解決すべくか、それともただの趣味なのか。
巨大な中華鍋を手にして、魔術学校の歩く核弾頭ことルニャルトゥーア・メルティメグメルは料理を開始していた。
「竜肉チャーハン作るよ! 竜肉は火力が大切なんだよ!」
正直なんでもかんでもチャーハンにしてしまうのはいかがなものかと数人が思ったそうだが、片付けるためならば仕方ない。
数人の炎専攻生徒の協力を経て、やがて大量の竜肉チャーハンが出来上がる。
人間が食べ切れなければ魔獣の餌にでもするのだろう。大きな中華鍋を手に、ルニャは得意気な表情をしていた。
味見でもするかと、数人が竜肉チャーハンの周りに集まったその時だった。
「大変だー! またドラゴンが襲ってきたー!」
群集、もとい一般生徒の叫ぶ声と同時に、ドラゴンの野太い声が屋外訓練場に響く。
「よくも俺の弟をー!」
どうやら、先ほどチャーハンにされたドラゴンの兄であるらしい。
それを屋上から眺めていたのが、魔術学校のお姉さまこと七坂美緒。
本人としては不本意なことながら、下級生、それも主に女子生徒から絶大な人気を誇る少女である。
「うわ、超怒ってるっぽい」
七坂が見ている間にも、ドラゴンはどこかで聞いたことのある台詞を吐きつつ訓練場の生徒に向かって攻撃をしていた。
「汚物は消毒だー!」
「やば、このままじゃ火災発生で焼死体だらけに!
消火活動消火活動……フラッドプレッシャー!」
そう叫ぶや否や、七坂は屋上からドラゴンに向けて大量の水を浴びせる。
七坂の消火活動により、火災は防がれた。確かに防がれたが、犠牲もまた大きかった。
周りの生徒も、七坂の魔術の巻き添えになっていたのである。
「あ」
七坂がそれに気付いたときには、既に遅かった。
追い討ちをかけるように現れたのが、百戦錬磨の雷使い菅原彩。
七坂ほどではないが、その言動から男子生徒女子生徒問わず人気の高い生徒であった。
「ドラゴンとは穏やかじゃないわね。
野良かしら? 野良ね。誰かの
召喚獣には見えないわ。
となると一刻も牙とか爪とか戦利品――ゲフンゴフン
被害が大きくなる前に倒さないといけないわ!
百雷!」
菅原の放った強力な電撃が直撃し、ドラゴンは断末魔を上げる間もなく絶命した。
穏やかでないのはこれからである。
菅原の放った電撃は七坂の放った水を伝って、周りの生徒にまで及んでいた。
「あ」
菅原がそれに気付いたときにも、既に遅かった。
責任を追求される前にと各生徒が撤退した後には、ボロ雑巾のようになった一般生徒の残骸だけが残っていた……。
■■■
「あ、危なかったですわー……」
様子を見に部室棟から出ていた弓月は、七坂の魔術の巻き添えになって水浸しになり、更に菅原の声を聞いて部室棟に戻ったところだった。
勿論、彼女の性格と状況からして、危険を感じてのことである。
途中、道に倒れていた生徒を一人蹴飛ばしてしまったことは、さほど気にしないことにした。
状況が状況、不可抗力なのである。
……と、弓月がそんなことを思っていると、部室棟の外から多数の悲鳴が聞こえてきた。
無論、竜があんな声を出すわけはなく、人間のものと思われる。
全くご愁傷様ですわねえ、と人事のように思いながら、弓月はさっさと部室に戻った。
弓月がルニャの竜肉チャーハンを頂いて一息ついていると、ふと男子生徒が通りかかる。
さほど言葉を交わしたことはないが、たしかに弓月のクラスメイトだった。
彼は弓月の顔をちらっと見、そして驚いたように振り返る。
「あれ、弓月? お前さっき野外訓練場にいただろ、よく無事だったな」
「何を言っていますの? わたくし、演劇部の設立のためにずっと部室棟近辺にいましたけれど」
弓月がそう答えると、彼はおかしいなあと首をひねりながら去っていった。
■■■
それから、一週間が経った。弓月にとっては、最低の一週間である。
ゴーレムが暴走した、サラマンダーが火事を起こした、キメラが大量発生して生徒を襲った、……
魔術学校では毎日毎日、これでもかと言うほどにモンスターの襲来や人為的と思われる事故が相次いでいた。
それはまだ良い。弓月にとって問題なのは……毎回その現場で、弓月の姿が目撃されているということである。
今や弓月はすっかり犯人扱いである。ことあるごとに早く自首しろ、今回はやりすぎだ、等と言われる始末。
これでは弓月の趣味である、本人曰く"ほんの些細な可愛い悪戯"すらできる状況ではなかった。
弓月を知る者は皆、間違いなく現場にいたのは弓月であったと証言したし、知らない者も弓月の顔を見ればこの人がいたと証言をする。
目を皿のようにして弓月が何かをした証拠を探している中で悪戯をできるほど、弓月は無謀でも勇敢な性格でもなかった。
誰が言い出すともなしに弓月の周囲に人はいなくなり、結果として、弓月は一人で過ごす時間が増えていた。
時おりA組から七屋敷あやめが様子を見に来たが、すぐに他の生徒に連れられて離されていく。
弓月自身、一人は嫌いではなかった。ただ、針のむしろに座っているような居心地の悪さが気に食わずにいる。
弓月が窓に向かってため息をついたちょうどその時、窓の向こうで、大きな爆発が起こった。
■■■
「大変だー! 爆弾魔が侵入したぞー!」
な、なんだってー! というような反応を見せる生徒たちをよそに、爆弾魔は校庭で次々に爆弾に火をつけては投げつけていた。
「爆発は芸術だー!!」
そんなよく分からない主張を続けながら、彼は爆弾を投げ続ける。
当然、その騒ぎは七坂美緒の耳にも入った。
「ば、爆弾魔!? なんでそんなのが侵入してるの! 警備の人は!?」
「爆風で結構なダメージを受けてるって! 今先生たちが爆弾魔を止めに向かってる!」
七坂は廊下で少し生徒と会話をしたあと、生徒と別れて屋上へ走っていく。
「状況把握と市街戦の基本は高い所にくること!」
手すりに手をかけ、校庭の様子を伺う七坂。
依然校庭のあちこちでは爆発が起こり、居合わせた生徒達が逃げ惑っている。
幸い、まだ重傷者は出ていないようだった。
「また水を落としたら生徒が巻き添えになっちゃうし……いったいどうすれば……」
屋上で途方に暮れている七坂をあざ笑うかのように、やけに肉体派な爆弾魔は爆破を続けている。
駆けつけた教師が魔法で抗戦するが、これと言った成果はあげられなかった。
爆弾魔は鋼の肉体を駆使して俊敏に動き、また繰り出される魔法を受け止め得意げに笑う。
「魔術なんかで俺の爆弾を止められるか! 時代は爆弾なんだよ! 爆発は芸術だー!」
よく分からない主張ながらも、爆弾魔の実力だけは確かなようであった。
混乱のためか、爆弾魔を止めようとする教師陣の動きも連携が取れていない。
校庭から煙が昇る。爆破の影響で火事が起きはじめていた。
このままでは、負傷した生徒たちの避難もままならなくなるだろう。
火事だ、という叫び声で、七坂は我に帰る。
「大変だ! 校舎で火事が起きはじめてる!
こんな時こそ専攻人数の少ない水属性がフル稼働しなくちゃ!」
そう言うと、七坂は消火活動に向かう。今度こそは犠牲を出さないようにと、七坂は混乱する校内を走っていった。
時を同じくして、屋上にはもう一つ……いや、二つの影があった。
杉崎衛と、彼の使役する幻獣のイグニスである。
「……主よ、働かなくていいのか?」
その問いかけに、杉崎は肩をすくめた。
「俺が爆弾魔なんかと戦ったら被害が増えるだろ?
だったら俺は傍観者を極めるさぁ」
「……だな」
炎と闇を得意属性とする杉崎と、今回の事件は相性が悪い。
杉崎は被害の及ばない屋上から事件を眺めることにした。手を出す気はさらさら無く、ただ眺めるのみである。
そんな杉崎の目の前で、一人の生徒が爆風をかわし、爆弾魔の懐へと走っていった。
「絶対に許さない。絶対にだ!」
目には目を、爆弾には爆弾を。そう言わんとするように、彼の全身には爆弾がとりつけられている。
「なッ、何をするだァーッ!!」
爆弾魔の叫びも空しく、勇敢な生徒は爆弾魔を伴って爆発する。
そして、大きな爆発が起こった。
――度重なる爆発により、ぼろぼろになった校庭。
校庭が静かになった時、そこに爆弾魔の――そして、彼の姿はなかった。
「ゆ、勇敢な生徒ぉぉぉぉぉ!!!」
傍観に徹していた杉崎も、思わず叫んだ。
「勇敢な生徒は犠牲になったのだ……」
「無茶…しやがって…!」
名前も知らない、勇敢な生徒。彼の活躍によって、学校は救われた。
■■■
爆弾魔騒ぎが終わった後、緊急で朝会が開かれた。
星になったとある男子生徒――後にとある教師により蘇生されたらしい――の功績を褒め称えると共に、行方不明の生徒の情報を求める目的であった。
弓月琴子が学園から消えた。爆弾魔事件の前後から姿が見えず、寮にも戻っていないという。
学園内で頻繁に起こる事件とも何らかの関わりがあるとして捜索が続けられているが、その成果は芳しくないそうだ。
諸々の話の後、くれぐれも危険なことはしないように――そう注意を促して、朝会は終了した。
「さすが先生たちだ、後遺症も何ともないぜ」
蘇生された生徒は明らかに人間ではなくなっていたが、本人は全く何も気にしていない様子である。
その姿は周囲の生徒から大変に浮いているのだが、どうやら彼は気付いていないらしい。あるいは、気にしていないのか。
勇敢な生徒は、鋼鉄の皮膚を持つ超人として蘇った。
彼がヒーローショーで引っ張りだこになるのは、また別のお話である。
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朝会が終わった後、杉崎衛は一人、失踪したという弓月のことを考えていた。
ただ失踪したのでも問題なのに、このタイミングでは最低である。
「……どういうことなんだ……。弓月先輩が行方不明だって……!?
よりによってこのタイミングで……どういうことなんだ……
まさか、弓月先輩が……?
いや、そんなはずはない。確かにあの人は事件好きだけど、ここまでするような人じゃない……
どう考えても度が過ぎてる! ……とりあえずは弓月先輩を探さないと!
……畜生……いったい何が起こってるんだよ!!」
多少混乱気味な彼であったが、行動は早い。
杉崎は中庭に向かうと、幻獣たちを呼び出した。
人海戦術を用いての情報収集が目的である。
各自情報を集め、規定の時刻にまた中庭に来るように。
そう伝えると、彼らは頷いてそれぞれに姿を消した。
■■■
夜に行動を開始したのは七坂美緒である。
彼女は吸血鬼のルナリアと自室で会話をしていた。
「蘇生された生徒……なんともないぜとか言ってたけど
どう見てもなんともあったよ……!」
「ルナも体育館の天井から見てたけど……
人間にしては皮膚がかたそうだったネ」
暫く蘇生された生徒について語っていたが、ふと弓月のことに話が至る。
「……そういえば、弓月先輩、どうしたんだろ」
「さあ?お散歩じゃないノー?」
「君じゃないんだから……先輩ならありえなくもないかもしれないけど」
そう答えた後、ふと七坂の心中に不安がよぎる。
(……もしかして本当に先輩は事件と……)
数秒うつむいたあと、七坂は不吉な考えを振り払うように首を振った。
(そんなわけない、きっとなにか……)
そうは思うが、その『何か』が何なのかは、分からないままだ。
「ん? どうしたノ?」
不思議そうに首を傾げるルナリアに向かい、七坂はきっぱりと言う。
「校舎に出る」
「えー、もう夜だヨ、出歩いたら危ないってルナ聞いたヨ」
「危ないかもしれないけど……今何かしなきゃ、後悔するような気がするんだ」
「あ、待ってってば、美緒ー」
そんな会話をしながら、七坂はルナリアと共に部屋を出た。
■■■
「何か長期依頼に出ている間に変なことになってるけど……ズゴックらしきものも見かけたし……何があったんだろ?
とりあえず先生に話を聞きに行こう……」
長期の依頼から帰還した真田誠(と、その副人格の唯、優)は、教員や生徒から話を聞いてようやく状況を飲み込むことができた。
「先輩が行方不明……か、何処にいっちゃったんだろう?」
疑問を持ったのは、主人格の誠。
「何かこれまでの事件の犯人だって決めつけられてたらしいよ? それで悲観して逃げちゃったとか?」
悲観的な意見を出したのは、少女人格の唯。
「弓月さんはそんな人じゃないと思うよ?」
結論をつけたのは、少年人格の優だった。
更に詳しく教員や生徒に話を聞いた後、真田の内側で話し合いが行われる。
「ともかく、先生は無茶をするなって言ってるらしいけど、先輩は放っておけないし……」
「それじゃあ?」
「うん、先輩を捜す、面白そうだし」
そうと決まると、真田は光の翼を生やし飛び立つ。
一般の生徒が周りにいたので、騒ぎになったのは言うまでもないことだった。
■■■
「にしても弓月先輩…ほんとにどうしたんだろ」
大野と美月がいつも通り会話しているその横で。
「あと誰かいたような気がするけど…気のせいか」
「 」
すっかり空気と化している男がいることを、誰もが忘れていた。
そして、各々がとりあえず弓月捜索を開始する。
手当たり次第に当たってみたが見つからないようだ。
「うーん…どうしてこうなった」
考え込む大野に、通りかかった美月が声をかける。
「あら、あんた何やっt」
「弓月先輩がいないのは知ってんだろ?探してんだ」
「奇遇ね、みんな探してるみたいよ」
二人はお互いが持っている情報を交換すると、そのまま別れて再び捜索を開始した。
■■■
「すごく水陸両用!
あれ全身骨格矯正ギプスじゃないんだよね?
さすが特撮天国ニッポン、発想が違った!」
寝坊により朝会を欠席していたルニャだったが、例の蘇生された男子生徒を見て日本文化に驚きを隠せない様子だった。
そして、後で配られたプリントによって弓月の失踪を知ることとなる。
「事件の臭いがする…じっちゃんの名にかけて解決するよ!
日本では捜査の基本は足って言うんだよね。よし、がんばろう」
怪しいと思ったら見境無く蹴りを放つ美少女迷探偵、爆誕の瞬間であった。
――数時間後、どこかの港の倉庫にルニャの姿があった。
「ここかなー?
それともここかなー?」
言いながら、倉庫に置かれた荷物を片っ端から開けて回るルニャ。
「なんだおまヒデブッ!!」
「んー、弓月いないなー
こ、これは…?」
うっかりと倉庫の中に居た怪しい人影達を蹴り飛ばしたルニャ。
そこで彼女はアタッシュケースに詰まったある物を発見する。
「七坂と菅原の体操服…何でそんなのがここにー?」
ルニャは図らずもカルト教団AOO(ああっお姉さまお慕い申しております)の裏取引を摘発した。
……勿論、本筋とは何の関係もない事件である。
■■■
数時間後、中庭にて。
大きな樹の影の中から、ライダー姿の杉崎が現れる。
「全員……集合!」
杉崎がそう叫ぶと、杉崎の周囲に複数体の幻獣が現れた。
そのうちのドラゴン、黒いペガサス、キマイラが人の姿になる。
「……さて、状況報告だ。弓月先輩に関する情報だったら何でもいい! 教えてくれ!」
杉崎の言葉に対し、幻獣であった彼らは一様に首を横に振る。
「こちらは不作だ。姿どころか情報すら得られなかった……」
「私は事件当日は見かけていないという情報しか……」
「俺もノクターンと同じだ。やっぱり見た人はいないってよ」
ため息をつくと、杉崎は先ほどまでドラゴンであった少女に声をかける。
「やっぱりか……エルはどうだ?」
「私も空から探したが無理だった。人を探すのがこうも難しいとは……」
「そうか……ええい、迷っていても仕方がない!引き続き捜索、情報収集だ!解散!」
解散の言葉と同時に幻獣たちが四方八方へと散っていく。
「さて……俺も捜索を続けないと…ん?なんだ、誰かに見られている気が……
まあいい、今はそんなことに構っている暇はないからな!」
そう言うと杉崎は再び影に潜り、弓月の捜索を開始した。
人海戦術を駆使する杉崎も、思うような成果は得られずにいた。
ふと感じた何者かの視線を追うも、中庭に面した廊下が静かに佇んでいるばかり。
とりあえず適当に当たってみると、キマイラ魔術学研究会の生徒がこんなことを漏らした。
「弓月先輩、弓月先輩ねえ……そういえばキメラ暴走事件の直前かな?
窓掃除中に似たような人を見たよ。あれは……窓ガラスに映ってたんだと思う。
一応先生に報告したんで、本人は呼ばれたりしたみたいだけど、関係あるかなー」
その後も粘り強く幻獣たちと捜査を続ける。
すると、ゴーレム暴走事件の直前にも事件現場の廊下を通り過ぎるのを鏡越しに見たという証言。
それに、サラマンダー事件消火中に水に一瞬それっぽい人が映ったという生徒などの証言を得た。
「…ふむ、多くの生徒の証言から考えるに犯人は弓月先輩によく似た人物か…
しかし、そうだとすれば何故弓月先輩は居なくなったんだ…
まてよ…もしかしたら先輩が犯人に捕まった可能性も無くは無い…
なあ、銀。人探しに便利なアクセサリーは無いのか?」
そう話題をふられたのは、杉崎の幼馴染であり、鋼の胃袋を持つ蘇芳銀。
彼女が作るアクセサリー類はマジックシルバーと呼ばれ、質が良いことで評判である。
「うーむ、私も必要だと思って用意はしたんだけど……
なぜか全然反応が無いんだよね……」
が、今回ばかりは彼女ご自慢のアクセサリーも通用しなかったようだ。
「まあ、そんなもので見つかっていれば苦労はしないか……
いったいどうすれば……」
途方に暮れる二人の前に、突如として四つの人影が姿を見せる。
「おいおい、困ってるようじゃねえか杉崎よぉ」
まずそのうちの一人、金髪の不良っぽい男子生徒――通称剛雷のアンサー――が、杉崎たちに声をかけた。
「お、お前らは!四天王!」
そこにいたのは、学校内で"
フェミニスト四天王"と呼ばれ、女生徒に蛇蝎の如く嫌われている四人組であった。
「ふん、琴子様が行方不明と聞いてな。俺たちも捜索をしていたところだ」
四角い眼鏡の男子生徒――通称知水のブライト――の言葉に、黄緑色の髪の男子生徒――通称美風のキャメロット――が続ける。
「普段は俺たちと君らは敵同士だ。でも今は違う、そうだろう?」
「……どういうこと?」
首を傾げた銀を嘗め回すように見つめながら、巨体の男子生徒――通称萌神のデーブ――が口を開く。
「か、簡単に言えば、僕たちと手を組まないかって言っているんだよ……
この学園の秘密スポットは知り尽くしてるからね……」
「俺としては不本意なんだがな。琴子様のためだ、仕方ねえ」
アンサーがそう言うと、杉崎は静かに頷いた。
「…そうか、すまないな。助かる」
と、四人は一斉に頭を下げた。
「その代わりにノクターン様を嫁にください!」
「それは断る!」
即答だった。
仲間になった四天王は、杉崎の手に入れた情報を聞くと、少しの間考えていた。
「なあ、よく考えてみろ」
不意に、アンサーが声を上げる。
「琴子様を見たって言う奴は沢山いるが、直接見た奴はいないじゃないか」
「そういえば、みんな鏡だの水だのに映った姿だな」
各々が感想を述べる中で、キャメロットがぽつりと言葉を漏らした。
「……鏡の悪魔の噂……いや、関係ないか……?」
聞き覚えのない言葉に、杉崎が質問をする。
「鏡の悪魔? なんだそれ?」
「い、いやなんでもないよ!知らない知らない!」
「ねぇ?教えてくれるよね?」
慌てて否定するキャメロットだったが、銀が話をふるとあっさりと答えた。
「もちろんだとも!最近うわさになっている話だよ。
僕も詳しくは知らないんだけどね」
「俺も聞いたことはある。しかしそんなもの迷信だろう」
「なんだっていい!琴子様を攫った犯人がそいつならぶっとばしてやる!」
「い、いや。まだ攫われたと決まってはいないよぉ」
四天王は口々にそう言うが、さほど詳しいことを知っている様子はなかった。
頃合を見計らって、杉崎が号令をかける。
「……よし、今からはその「鏡の悪魔」とやらの噂についての情報を集めるか。
じゃあとりあえず解散な!」
そして、六人はそれぞれ別の方向へと散らばっていった。
最終更新:2012年03月02日 01:37