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どれくらいだろうか、自分がここにいるのは。
自分と言っても名前は忘れた。 過去の事もよく覚えていない。
大切な人を守る為に何かしていたはずだが、思い出せない。
人が数人来た。だが立ち上がる気力も無い。
自分の心はもう無いのだから。
立ち上がったところで、何も出来ないし、するつもりも無い。
気がつけば、段々と脇腹の感覚が無くなってきた。どうやら出血しているようだ。

「おい、ここに生きてるやつがいるぞ!」
「大丈夫か? 今ヒーリングを唱えるからな!」
数人が自分を取り囲んで何か喋っている。
聞いているうちに脇腹の痛みが消えた、何かをしたようだ。

「自分の名前と所属は分かるか? それと階級は?」
数人の内、一人が話しかけてきた。 が、話す気力も無い。
そのまま喋らないでいると、別の一人が話し始めた。
「こいつは駄目だ、精神が壊されてる。 他に一人生存者がいたが、そいつも同じだ。」
どうやら自分に関する事のようだ。 だが話している内容は分からない。
理解する気が自分に無いからだ。
「精神破壊魔法か…噂に聞いていたがここまでとはな…」
「あっちの方はまだ自我があるが、こいつは駄目だな、目が虚ろだ。」
「待て、まだ希望を捨てるには早い。 とりあえず医療班に見せよう、話はそれからだ。」
話を聞いているうちに、段々と意識が遠くなってきた。
薄れゆく意識の中で、この次目覚める事はあるのだろうかと思いながら
ゆっくりと意識が薄れてゆくのを感じた…



……意識が戻ってきた。 どうやら自分はベッドの上に寝ているようだ。
誰かの話す声が聞こえる。
「あの子については何か分かったか?」
「持っていた認識票から沢村という名字であることは分かりましたが、それ以外は分かりません」
「認識票が砕けていたからな…分かっただけマシというものか」
「この子の方は? 何か個人を特定できるものは…」
「ああ、さっき服から落とした認識票がある。 これも砕けているが、「林檎」と書いてあるな」

「林檎」、どうやらそれが自分の名前らしい。
だからと言って何かする気になる、というわけではなかった。

…再び意識が薄れかけてきたその時、話し声と足音が聞こえた。
「…では、この子たちの精神を治すには記憶を消す必要がある、と言いたいのですね?」
「ああ、その通りだ。 幸い俺は治療系の下級悪魔と契約しているからな、
比較的安い代償で治せる」

「……ですが、記憶を消すと言ってもどの程度消えるので?」
「そうだな…今まで生きてきた中で大切な人に関する記憶、つまり友人や家族だな」
「どうせこいつの家族や友人はくたばっただろうし、あっちの方にいる奴も同じだろう、問題無い」
「カバーストーリーは任せる。 精々泣ける話を作ってくれよ?」
「…了解しました。」



…結果から言えば、林檎と沢村の精神治療は成功した。 家族と友人の記憶と引き換えに。
失った記憶の代わりに、沢村と林檎は幼い時からの友人であるという記憶を埋め込まれた。
それで良かったのかどうかは分からない。 だが結果として二人は無事に元に戻った。
グッドではないがベターではあった。 

…この後、二人はしばらくの間紛争地帯をさまよい、その間に傭兵団「サンドラット」に
所属することとなるが、それはまた別の話である。
最終更新:2012年03月02日 01:37