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傭兵と言えど人間、風邪だってひく
そしてそれは林檎とて例外ではなく…

「ハックション! ええいくそビャックショイ!」
狭いテントの中に、林檎のしゃがれた声が響いた。
「少しは静かに出来ないの? せっかく薬作ってるのに…」
その声にいらついたのか、多少棘のある言い方をするベル。
周りには大量のキノコ、山菜、薬草が山と積まれ、ベルの目の前には調合道具と
「図解 ゴブリンでも分かる薬の作り方 毒薬から惚れ薬まで」と書かれた本が広げて置いてあった。
その本を読みつつ、調合を進めていたようだ。
「お前なんぞいなくとも…ゴホン! 一人でどうにか…ゲフン!」
強がっているが、実際林檎の様子はかなり危険である。
つい30分ほど前、体温を測ったところによるとなんと39度5分。
それを聞いたベルは林檎をテントに叩き込み、看病をすると言い出した。
当然林檎は反対した。 素人のやることなどたかが知れている、放っておいてくれ、と。
だがベルはあくまで自分でやると言った。 実力不足ではあるが、一応自分のマスターである。
ならば自分が看病できなくてどうするか、と。
それを聞いた林檎は、半ば呆れたように言った。「好きにしろ」
というわけで現在に至る。



「ええと、この薬草を入れて、ここで煮込んで…」
「あっ、これも入れなくちゃ!」
ベルが慌ただしく動いている。 さすがに作り慣れない物を作るのは難しいらしい。
数分後、ほっとした声でベルが呟いた。
「ふう…やっと出来たわ。 さすが私、パーフェクトね!」
そこには白色のドロドロした液体がビンに詰め込まれていた。
えへん、と無い胸を張るベル。 
「さて、後はこれを林檎に飲ませるだけね」
とてとてとて、と小走りで林檎の寝ている布団へと向かう。
「ほら林檎、起きて。 薬が出来たんだから飲まなくちゃ」
そう言って林檎の額を軽く小突くが、林檎は軽く呻くだけで起きない。
「ちょっと起きてったら。 ほら、飲まなくちゃ!」
ぺしぺしと二、三回頬を叩いてみるが、どうにも起きない。
「…しょうがない、無理矢理飲ませるしかないわね」
「…でも、どうやって寝てる人に飲ませるのかしら?」
そう言って先程調合に使った本を引っ張り出し、目次から目的のページを探し始めた。
「ええと、意識の無い人に飲ませるやりかた…」
「…あった! えーと、まず飲ませる人が口に含みます。次に飲む人に口移しで移します。以上!」
フッと笑い、はっきりと宣言した。
「……どうやらこれで良いようね…!」



ちなみにベルは戦術、武器、兵器、戦闘用魔術の扱いには長けているが、それ以外の知識はほぼ
ゼロである。 なんでかって? 製作者の趣味さ!

「んっ、んっ…」
ビンの中身を口に含む音が聞こえる。中身を口に含んだままベルは林檎の所まで歩いていき、
馬乗りの体勢でゆっくりと顔を近づけた。
(なんだか少し恥ずかしい…でも悪化されても困るし、とっとと片づけましょ)
そう思いつつ、さらに顔を近づけていくベル。
もう少しで唇と唇が触れ合うその瞬間、林檎の目が覚めた。
目と目が合う二人。気まずい空気。過ぎる時間。
先に行動を起こしたのはベルだった。
素早く両手で林檎の頭を掴み、がっちりと固定してから唇を重ね合わせ、舌を入れ
「んっ…んちゅ、んむ、ん…」
入れた舌の上から薬を流し込んでゆく。
そんなベルの行動に対して林檎は、ほとんど抵抗する事が出来なかった。
「んーっ!ん、ん…!」
なんとかベルを引き離そうとするが、所詮は人間。 身体能力に大きな違いがある。
ただ黙ってベルの舌から流れてくる液体を飲み込むしかなかった。
「んむ、ちゅぷ、ん…んふ…」
そんな林檎を尻目に、ベルはさらに唇を押しつけ、舌を中へと入れてゆく。
そんなやり取りがテントの中でしばらく繰り広げられた。



しばらくして、ベルが唇を離した。
「ん、ふぅ…こんなものかしらね。 さて林檎、気分はどうかしら?」
フフッと笑い、唇からつつーっと唾液が零れていき、
それがまた見た目に合わない色気を醸し出している。
そんなベルを見て、林檎はしばらく呆けた表情で見つめていたが、
やがて頭をブンブンと振ると、冷静に言った。
「…最悪だ、とっとと退け」
「あらつれない。 ありがとうの一言も無いの?」
「病人にいきなりキスして何がありがとうだ、恥を知れ恥を!」
「…はいはい、分かったわよ。 とっとと出て行くわ、それでいいでしょ?」
少し不機嫌な顔になりつつ、ベルはテントから出て行った。
その後ろ姿を見ながら、林檎はこう呟いた。
「口移しの風邪薬を作るとはな…別の本買ってくるか、まったく」

次の日、林檎の風邪は治った。 
最終更新:2012年03月02日 01:37