「ミルク。ちょっとこっちに来てもらおうか」
寮に入ってすぐ、白百合騎士団の皆様に呼び止められた。
なんだなんだ、また高利貸しのお説教ですか?
別にいいじゃん、相手も納得して借金してるんだし。
ミル「あー、じゃああたしちょっと行ってくるから。
お休み
リリアーナ、また明日」
ルス「お休みなさいですわ~」
リリ「うん、お休み皆。また明日ね!」
リリアーナは部屋に戻っていった。
リリアーナにお別れを言ってから、ミルクは白百合騎士団の後について歩いていく。
「それで何の用?こっちも忙しいから金利の件なら後に…」
「君は神聖な女子寮に、エスコート相手の男を2度も連れ込んだそうだな」
アッー!!!
ミル「え、あ、いや、それはあのなんというか不可抗力というか…それに2度って…」
しどろもどろに弁解するあたしの両腕を、がっしり2人の白百合騎士団が抱え込む。
に、逃げられない!?
「こちらも忙しいので何度も時間を取れなくてな。
この件については、ゆっくり詰め所で話をしようじゃないか。
カツ丼くらいなら奢ってやる。嬉しいだろう?」
ミル「嬉しくない嬉しくない!いやあたしも明日は早いからさ、それについては今度じっくり…
って、人の話を聞けってば!誰かたぁすけてぇ~!!」
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ミル「なーんでそんな大事な話を先にしなかったかなーっ!?」
ユリ「しょーがないじゃん!私も忙しかったんだからーっ!!」
あれから、白百合騎士団詰め所でありがたいお説教を聞いてたあたしは、ユリが迎えに来たのでやっと解放された。
それはいいんだけど、問題は後から聞いた
招き猫広場での事件の方。
ターロンとかいう魔法至上主義者がムウ大陸に行った?
今は治ってるけど、リチャードさんとマリオさんが鉄の固まりにされてた?
聞いてないっつーの。
助けてくれた事には感謝するけど、何かあったら連絡しろって言っておいただろうが!
そんなやりとりをしばらく繰り返しながら、ようやく部屋に帰ってきてドアを開ける。
朝は早いから少しでも速く寝ないと…
院長「2人ともおかえり。紅茶を入れておいたから飲む?」
室内に一歩入って声と紅茶の香りに迎えられ、あたしは足を止めた。
聞き覚えのある、けれどこの場にはいないはずの人の声。
「ミルクの知り合い?」なんて言うユリの声が、なぜか近くなのに遠く感じる。
あたしを育ててくれた孤児院の院長、シスター・ハマルティア。
なんで院長先生がこの島に?
ユリ「やー、噂のミルクを育てた院長先生にインタビュー出きるなんて嬉しいなー!
学園祭は楽しめましたか!?」
院長「と~っても楽しかったわ。
焼き鳥や焼きそばの屋台も美味しかったし、お化け屋敷も迫力満点。
あ、縦巻きロールの女の子をいっぱい造ってた所も楽しかったしねー。それから…」
ミル「あの…盛り上がってる所悪いんですけど、ヤな予感がするのでちょっと確認を…
院長先生、何をしにフィジル島に来たんですか?」
簡単な自己紹介の後、盛り上がりかける2人の会話に強引に割り込む。
孤児院の所在地はここからは遠い。
院長先生はいろいろ仕事で忙しい。
…最悪、何かあってあたしを孤児院に連れ戻しに、なんて事も覚悟しておかないと…
院長「ガーくんにアナスタシアを引き合わせようと思ってね、そのついでにちょちょいと学園祭見学を」
ミル「ガーくんって…確か学園長でしたっけ?」
あたしの疑問にそうそうと頷く院長。
院長「せっかく久しぶりに旧友が会いに来たのに、ガーくんお留守だったのよねー、がっかり」
ユリ「おー!先生は学園長の旧友なんだ!
もしかして、見た目通りの年齢じゃないの!?今何歳!?」
院長「14。女の子は14から年をとらないの♪」
ミル「院長先生、ユリが本気にするからウソを教えないでください。
…あれ、今もしかしてアナスタシアって言いました?
……アホ姉も来てるんですか!?」
院長「もー、アホなんて言ったらアナスタシアが怒るわよ?」
嘘じゃないもんと言って不満げにしていた院長は、軽く笑いながらあたしのベッドのシーツをめくる。
…誰もいない。
院長「あれ?さっきは確かにここで寝てたのに…あ、いたいた。
ほらここ、ベッドの下に潜り込んでるよ」
言われるままにあたしとユリが覗き込むベッドの下では、どうみても年齢一桁のお子様が眠っている。
頭上の天使の輪に照らされ、アリクイのぬいぐるみに頭をのせて眠る姿の愛らしさ。
事情を知らないユリが「かわいいー!天使みたいだね!」なんて言っちゃうのも仕方がないだろう。
アホ姉がおきて動いてしゃべりだせばそんな印象も吹っ飛ぶだろうが。
院長「実はね、ガーくんにアナスタシアを預けようと思って連れてきたの。
連絡してみたら『教育実習生なら受け入れられる』って言ってくれたから」
ミル「教育実習生って…、アホ…じゃなくてアナスタシア姉何を教えられるんですか。
体は子供頭脳も子供なんですよ?」
院長「ま、ま、あくまで名目なんだから細かいことは気にしない気にしない、ね?
それより、2人ともそろそろ寝ないと体に悪いよ、明日の朝は早いんでしょ?」
ミル「それはそうですが、せっかく来てくれた院長のおもてなしもしないで寝るのはちょっと」
ユリ「はいはーい!私は寝なくても体力的に大丈夫でーす!
だから今晩はじっくりインタビューなんかを!」
あたしとユリの返事を聞いて、院長は笑う。
院長「だーめ。明日はきっと大変な一日になるって、私にはわかるの。
だから、言うことを聞けない子には実力行使しちゃうよ?」
話す院長の声が遠くなる。
急激に暗くなる視界の中で、院長先生の目だけが光っている。
ユリのいた辺りで、がちゃんとコップを落としたような音が聞こえた。
ミル「なに…を……?」
それが院長先生の使った眠りの魔法だと気づいたときには、あたしの意識も眠りの世界に飛んでいた。
最終更新:2009年06月09日 12:17