明け方の女子寮。
薄明るくなってきた自室で、一人の少女がせっせと荷物の準備をしていた。
彼女の名は
リリアーナという。
リリアーナは伝説のムウ大陸へ向かうため、せっせと荷物を纏めている最中だった。
さて、リリアーナは二等過程の生徒には珍しく相部屋だ。
だが、現在室内にルームメイトの姿は見当たらなかった。
(彼女のルームメイトは、今日に限らず起床時間が早いのだ。
何度も生あくびをかみ殺しているリリアーナとは大違いである)
そしてリリアーナのベッドの上には、一本の槍が横たわっていた。
「出来たっと!じゃあ、そろそろ行こうか、レベッカさん」
制服を着用したリリアーナは、古びた槍に向かって親しげに微笑みかけた。
リリアーナが今担いだ槍の名は、レベッカという。
中つ国から来た留学生の名と同じ名前なのだが・・・・・・・実は本人である。
運悪く昨日命を落とした彼女の魂は、蘇生魔法によって自らの身体でなく近くにあった槍に宿ってしまったのだ。
リリアーナがこうして朝早くから出かけることになったのも、彼女の身に起こった異変と深く関わっているのである。
リリ「とりあえず私は、今から
招き猫広場に向かうわ。
ニャンコ先生や友達と合流して、ムウ大陸へいかないと!
レベッカさんはどうする?お部屋に戻るのなら今のうちよ?
他にもしどこか行きたいところがあるなら、今のうちに言ってね。
男子寮以外の場所なら、時間が許す限りどこへでも連れて行くからね」
レヘ「…いや、特にねーなぁ。」
レベッカは、槍の身で一体部屋に何が必要だってんだ、と内心つぶやきながらそう言った。
レヘ「それよりもよ。メイレンは一体どうなったんだ?
俺は自分のことばかり気になってそれどころじゃなかったんだ。
昨日はブルースといちゃつくことばかり…」
そこまで言った後、レベッカは言葉を濁した。
リリ「ああ、うん。残念だけど、それは私にもわからないの。
でも、あの場に残ってた皆なら何か知ってるかも」
リリアーナは、レベッカの浮かない顔には気づかないふりで返事をした。
そう、昨日のブルースとのやり取りを思い出したくなかったのだ。
実は昨日、レベッカは
ブルースの部屋を出たきりすぐに女子寮の自室に向ったのだが、
生憎と鍵を持っていなかったために部屋に入れなかったのだ。
そこをリリアーナに回収され、今に至るのである。
レベッカは昨晩のブルースとの交流を“正確に”リリアーナに話した。
それはつまり、自身が妖怪であるとばれたことと、
ブルースがそれでも構わないと言ったことである。
これらは決して嘘ではない。
だから、この幸せそのもののシナリオを聞いたリリアーナが、
レベッカの気持ちが浮かない理由を理解するのは難しいだろう。
なにしろ、そうなるとリリアーナに“気”を体感するところから始めてもらわなければならないのだから。
一方のリリアーナは、レベッカの話は嘘だと思っていた。
なぜなら、リリアーナは昨夜、レベッカと約束した時間より前から待ち合わせ場所にいたのだ。
なのに彼女は、レベッカに会えなかった。
ということはつまり、レベッカはリリアーナが来るずっと前に、ブルースと別れて女子寮に戻った事になる。
幸せな時間を過ごしたのだとしたら、約束の時間よりずっと前にさっさと帰ってしまうものだろうか?
まして、次はいつ(元の姿で)逢えるかどうかも分からない相手なのに、である。
レヘ「あーあ、早く人間になりてーなぁ。」
レベッカは、気持ちが浮かない理由が、自分がまだ槍であることだと思われるように、そう嘆いた。
レベッカの「人間」という言葉に、リリアーナはぴんときた。
(やっぱりレベッカさん、昨日、ブルースさんから何か言われたんだわ!!)
着替えのためレベッカに背を向けていたリリアーナは、一人静かに怒りを募らせていた。
レヘ「この際、ブルースはどうでもいいんだ。早くメイレンを見つけておけよ。
じゃないと、メイレン様の優雅な朝食を見た俺達が、朝食なんか食える気分じゃなくなっちまうぜ?」
リリ「え?優雅な朝食って・・・・・・。
えーと・・・・・・・!!うわあああ!!ま、まさか!!」
リリアーナは頭を抱えて絶叫した。
ファン・メイレン・スイション…
レベッカの母であり大妖怪でもある彼女の好物は人間。それも若い男。
つまり、この魔法学園なら選り取りみどりである。
リリ「大変!早くメイレン様を見つけないと・・・・・!!
あ、そうだレベッカさん!
メイレン様、人間以外で何が好物なの?あるなら、それ持っていかないと!!」
リリアーナは簡易キッチンに駆け込むなり、携帯用麺食品など買い置きの食べ物を手当たり次第に袋に詰め始めた。
最終更新:2009年06月07日 09:57