少し時間はさかのぼる。
説得に向かおうとした
ヴァンエレンだが、その前にアナタシアの投げた輪によってあっさりと動きを封じることに成功した。
ヴ「あっけねぇなおい」
そのときを狙って蝙蝠男に急接近し説得をこころみる。
ヴ「これで君の動きは封じられたわけだが。
降参して投降する気はないのかね?」
蝙蝠に化けた吸血鬼が拘束された蝙蝠男に話しかける様はとてもシュール。
「そんなこと…するわけがなかろう?」
男はさきほどと同じように無数の蝙蝠に化けて輪を抜けると、大勢でヴァンエレンに襲い掛かってきた!
しかし咄嗟にマントより現れた闇のように黒く大きい犬が蝙蝠の大半を食べてしまった。
犬『ちっ・・・大物は逃がしたか』
黒い犬がくっくっくと笑う。
ギ「やったぁ!格好いい!!」
ヴァンエレンの吸血鬼っぽい所を見て感心するギズモ
大きめの蝙蝠が数匹の蝙蝠を従えて逃げ出していった。
黒い犬は大蜘蛛と戦う皆を見回して、忌々しげに舌うちした後にマントへ消えていった。
ヴ「あれ?」
ヴァンエレンは自分でも気がつかないうちに大蝙蝠を撃退していた。
指示などだしていないのになぜ使い魔が動いたのか混乱する。
いままで勝手に使い魔が攻撃するなどなかったのに…一体なぜなのか?
そして現在。
アナ「お前物騒なペットを飼ってるなー、黒猫って聞いてたが黒犬だったのか?」
黒犬をマントの中にしまったヴァンエレンに、アナスタシアがニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
大蝙蝠を捕まえていた天使の輪は頭上に戻り、右手に持ったアリクイのぬいぐるみをぶらぶらさせている。
ヴ「え・・・黒猫は使い魔にはいないぞ?
でも変だな、普段はこんなに積極的な子がじゃないはずなんだが・・・」
どんなに呼びかけてもマントから現れることのない黒犬。
この困惑具合ではアナスタシアの言葉の意味もあまり理解していないことだろう。
アナ「もしかして、なにか裏で企んでるんじゃないだろーな?
ま、その時には連帯責任でお前のマスター諸共死刑だから、覚悟してるように。以上♪」
ヴ「企む?
なんの話だがわからないけど、私はご主人の言うことを聞いているだけだよ?」
メイドを取り逃がした
リリアーナは、ヴァンエレンと大蝙蝠はどうなったかと上を見た。
リリ(なんか・・・ずいぶん蝙蝠の数が減ってない?私の気のせいかな?)
リリ「ヴァンエレン、大蝙蝠の説得は終わったの? 」
ヴ「ああリリアーナか。
私の説得はあまり役に立てなかったようだ。
攻撃を受けそうになったけど使い魔に助けられたよ」
まさに九死に一生を得たとぽやぽやと話すヴァンエレン。
リリ「――――ああ、ちょっと待って、大蝙蝠さん! 」
配下の蝙蝠は逃げてしまったが、大型の蝙蝠だけはリリアーナの呼びかけを聞いてぴたりと止まる。
「ま、待ってくれ!銀の玉はおまえ達に渡す!
知っている事はなんでも話す! 」
リリ「あ、ありがとう。でも、銀の玉は例のメイドさんが持って逃げちゃったし・・・・・・。
私達の手元には無いんだけど・・・・・・」
「じゃから命だけは助けてくれ!
その御方を我が輩にこれ以上近づけないでくれ!」
リリ「その御方?」
リリアーナはきょろきょろと周りを見た後、やっとヴァンエレンの事だと気づいた。
リリ「・・・・・・ええ?本当にヴァンエレンのことなの?」
大蝙蝠はヴァンエレンに恐怖感を持ったようで、止まった場所から動こうとはしない。
リリ「私たちはムウ大陸に探検に来ただけで、まだ何もしてないよ!いきなり襲うなんてひどいよ。
それに、あのメイドさんが持っていった銀の玉は一体なに?
あの子は元々自分たちの物だって言ってたわ。
本当はどうなの?あなたたちがあの子から盗んで、祭壇に祀ったものなの?!」
「盗んだのではない、我が輩が小さかった昔からその祭壇に祀られていたのじゃ!
しばらく触っていれば魔法や特殊能力が使えようになるという以上の事は何も知らん!
何も知らんのじゃから殺さんでくれ!」
怯える大蝙蝠は一刻も早くヴァンエレンから離れたいようだ。
ヴ「私がなにかやったかの?」
なぜこんなにも怖がっているのかよくわからないでいるヴァンエレン。
リリ「いや、あなたが何もしないのなら、私達も何もしないから。安心して」
フリ「なにそれ!?お母さんの大好きな努力とか根性とか全否定じゃない!!」
何の努力もせずとも特殊能力が身につく銀の玉
ギ「そんな物は存在しちゃいけないんだ!!」
とそんなことを言うギズモも魔法薬を飲んだことにより何の努力も無く言葉を喋れるようになったのだが・・・
リリアーナは困り顔で髪をくしゃくしゃかき回した後、
リリ「・・・・・・ヴァンエレン、あなた一体、大蝙蝠にどんな説得をしたのよ~?」とぼやいた。
ヴァンエレンは、とりあえず蝙蝠男から遠ざかって大蜘蛛の戦いを見守ることにしたようだ。
ヴ「ありゃあ私の出る幕はないね。
がんばれーご主人!」
一瞬で判断を下しました。
ヴァンエレンに怯えきっている大蝙蝠は、一刻も早く逃げ出したいらしい。
一通り話を聞いたリリアーナは、なにやら悩んでいるようだ。
リリ「・・・・・・銀の玉の効能は殿下・・・じゃなかった、ミシェル先生のおっしゃっていたとおりでしたね。
彼女は、銀の玉は城への道を開くものだと言っていましたけど・・・・・・。
ああ、そういえば、魔法使いで妖怪のターロンが、私達に先んじてムウ大陸入りしたのはお話ししましたっけ?
あのメイドさんのご主人が誰で、何に使うのかがちょっと気がかりです。
ヴァンエレンにミシェル先生、アナスタシア先生は、今回の件、どのようにお考えですか?」
ヴ「まだ情報不足で私には理解できなーい」
リリ「せめて、ちょっとは考えるふりだけでもしない?」
アナ「ものすごーく単純に考えて、メイドの主人はターロンで、あの玉の力を欲しがってるってのはどうだ?
そうだったら玉は持ち逃げされたし、楽しい事になるぞ~ぷぷぷ♪」
ウキウキした様子のアナスタシアの様子を見てある人物を思い出すヴァンエレン。
ヴ「状況をややこしいことにしそうな雰囲気…。
あの人物も要注意人物だな」
あの手の輩は絶対に厄介事を持ってくるに決まっているので、いまのうちにマークすることに決めたようだ。
リリ「先生、ものすごく嫌な仮説なんですけれど。
っていうか、何でそんなめちゃくちゃ楽しそうなんですか?ついさっきも私、あやうく死にかけたんですけど~」
ミシ「キミはその妖怪が、この球体を持ち去ったメイドと関係していると?」
唐突な彼女の質問に、ミシェルはコメカミを指で叩きながら少し考えてみる。
リリ「かもしれない、と思ったんです」
ミシ「現状では何とも言えませんね。私はターロンとやらのことを知らないので
宜しければ教えて貰えますか?」
アナ「学長か教頭から聞いてないのか? まあいいや、それじゃ変わりに私が教えてやる。
ターロンっていうのはだな、学園に侵入してきた魔法が使える妖怪だ。
何考えてるのかはしらないが、私たちよりかなり前にこのムウ大陸に来てる。
ターロンがムウ大陸で悪い事してるようなら止める、ってのも私の仕事だ。
さっきのメイドは城に呼び出されたと言ってたから、ターロンの奴はもう城に着いてるのかもな」
リリ「もうひとつ聞かせて。 メイドさんの言っていたお城って建物に、何か心当たりが無い?
それと、あの大蜘蛛の巣がどこにあるかも教えて。
あなたはここに住み着いて長いみたいだし、どのルートで行くと一番安全で近道かは知ってるよね?」
「城なら我が輩の爺さんが、この道の先、扉の向こうの地上にあると言っておった」
大蝙蝠はメイドが逃げていった道を羽で示した。
「蜘蛛どもの巣ならあっちの道じゃ、途中罠もないからすぐいけるじゃろう」
今度は大蝙蝠はレベッカと蜘蛛が来た道を示した。
「先には縦穴があるが、下に行ってはならんぞ!
最下層には近づく者を殺す死の呪いがかかっておるからな!
ではさらばじゃ!」
蝙蝠は、大急ぎでメイドが入っていった通路に逃げ去った。
ギ「ヴァンエレンさんなら大丈夫じゃない?アンデットってもう死んでるんでしょ?」
ヴ「え、また私が無茶しないといけないのかい?
私は確かに死んでいるが…絶対安全というわけにはいかないと思うぞ?」
てめぇなら大丈夫だろ。
殺したって死なないんだから。
アナ「そろそろ蜘蛛も片付きそうだな、メイレンはどうでもいいけどアイシャや他の生徒が心配だぞ。
死なれでもしたら私の責任になるかもしれないしな。
そーゆーわけで、私は先に行ってるからな~」
アナスタシアはそう言うと、レベッカたちが来た通路に飛んでいった。
リリアーナはメイドが逃げた道と、アナスタシアが向かった通路を交互に眺めた。
リリ「・・・・・・・ミシェル先生、さっきのターロンの話ですけど・・・・・・実は私達、昨日彼にあったんです。
彼はムウ大陸へ行くために、善良な来賓の方を騙して学園内に侵入しました。
たまたまその場に居合わせた私達は、ムウ大陸探索を手伝えとも言われました」
ミシ「そうですか………」
そういうことか。
ならば学内にあった妙な残り香、慌ただしかった学内、学長が彼を引率に指名した訳。全て納得がいく。
引率はどうも、学祭をサボった懲罰だけでは無さそうだ。
しかし学長も、学内の侵入者ならば生徒ではなく教員を導入してとっ捕まえれば良さそうなものだ。
リリ「ミシェル先生、お疲れなのは重々承知しています。
でもどうか、先生のお力で、メイドさんを何とかしていただけないでしょうか?
だって、もしメイドさんのマスターがターロンだったら・・・・・・・」
言葉に詰まったリリアーナは、気を落ち着けようとひとつ深呼吸した。
リリ「ターロンの目的は、ムウ大陸の魔力を用いて世界を魔法使いの支配する世に変えること、なんです。
本当は今すぐにでもメイドさんを捕まえるべきなのかもしれません。
でも、まずはメイレン様達やレベッカさんを何とかしないと・・・・・」
メイレンもレベッカも中つ国では重要人物だ。
彼女達が学園で消息を絶ったとなれば国際問題、下手をすると妖怪と魔法使いの戦争に発展しかねない。
だがそれ以前に、
リリ「レベッカさんもアイシャさんも友達だし、メイレン様は友達のお母さんなんです」
ミシ「うーん………それは問題ですねぇ」
学園の客人の救出に向かうアナスタシアをちらりと確認し
何か自分を追い詰めている気さえあるリリアーナの気分を落ち着かせるため、ワザと間延びした返事をする。
ミシ「じゃあ、様子を見てきますかねぇ。しかし、私がいなくても大丈夫ですか?」そう顔を覗き込んで、ミシェルはリリアーナの中にある芯の強さを思い知る。
ミシ「………いえ、愚問でしたね。あなた達は学園の生徒ですから。信頼していますよ」
リリ「はい先生。私、がんばります!」
ミシェルはリリアーナに優しく言い聞かせた後、先刻彼女が罠にハマって戻ってきた道を進む。
前に。
ミシ「マオ・ミゼット!有事の際には皆を纏めて逃げるように!!
理性的な判断と迅速な指示、献身的な立ち回りを期待する」
暫定リーダーを決めておく。ミシェルが丁寧語でなく命令の形で指示を出すことは
学園に来てからは元より教会在籍時にも珍しかった。
だからどう。という訳ではない。こういう時は勇ましい言葉の方が締まる。というだけだ。
ただ、マオには少なからず期待している。彼女がエリートだと自負しているならば
エリートなりの義務や責任と言うものがついて回る。その事に対する自覚を期待しているのだ。
(188で〆) -
最終更新:2009年07月18日 00:13