(投稿者:マーク)
1943/7/23 アルトメリア西部地方
男はほろ酔い気分で路地を歩いていた。取引も成功しあとはこのアタッシュケースに入ったものを手土産に海外に逃げるだけ
浮かれた気分に千鳥足もあいまってふらふら歩いていると、前方に人影が見えた
それは一人の女、
吸い込まれるような紫の瞳。
夜の闇に映えるルビーレッドの髪。
自己主張の激しい肢体にそれを包むスリットの入った
ドレス
唇が何処までも蠱惑的な孤を描き、男をゆっくりと見た
「どうかしたのかしら?」
その声色は毒のように甘い 男はその女に見入ってしまった自分を、その時初めて自覚した
「・・・・あんたは?」
「ジュリア」
声を聞くだけで脳裏がくらりと目眩を起こす。
酒のせいかとも思ったが、違う。
酷く、
魅惑的な声音のせいだ。
甘く、毒のようで麻薬のようなその声は一度聞いてしまったら、耳について離れない。
そして声音を聞きたくて、つい声をかけてしまう。毒のように身体を蝕んでゆく、そんな危険を感じるのに、どうしても聞きたくなる
「一杯、どうだい?」
思わずそう問うと、いいえ、と彼女は首を振る、どうすればいいのだろうか。
どうすれば、彼女の声を聞けるのだろう。酔った頭で巡らせていると、くっ、と彼女が喉を鳴らした。
「残念そうね」
「・・・・まぁな」
嘲笑されたというのに、何故か不快に感じなかった、そんな男を彼女は興味深そうに見やると、そうね、と呟く。
「お酒はいらない、でも・・・・、」
つ、と細い指が頬をなぞる、全身の毛という毛が総立ち、身動きできなくなる
次の言葉を魅入るようにして待った男に、ジュリアは官能的な動きで身体を押しつける、しなだれかかるその肉体を間近に感じ、男はやっとの事で腕を動かす
だがそれは彼女の身体の動きにそうすることを誘われた感じだった。まるで催眠術にかけられたかのように。
「ベッドの中でなら、あなたと話をしても良い気分」
直截な言葉に男はかくん、と頷く。
彼女の腰を抱いたまま、彼女の導くままに宿へと向かう。そうすることが当然であるかのように
部屋にはいるなり男はいきなりジュリアを抱きしめ口付ける
「シャワー、お先に・・・・・」
それをするりと抜け出てジュリアは浴室へとはいり、やがて水の音が部屋に響き始めた
男は異常な高揚感に包まれていた、あの美しい女を自分が抱くのだ、ある種の征服欲といったものも芽生えていた
キィ・・・と浴室のドアが開く音がする、男が振り向く、そこに立っていたのは女神だった、
鎌の代わりに装飾銃を構え冷たい目をした死の女神が
「さよなら」
底冷えする声でそうつぶやくと驚愕の表情を浮かべた男の眉間を正確に撃ちぬく
男はその表情のまま床に仰向けに倒れる、ジュリアはそれを無感動に見つめるとおもむろに口をぬぐい、つばをはき捨てる
そして机に置かれた男のアタッシュケースを開ける、そこにはエターナルコアが三つ、部屋の光に反射し七色に鈍く光った
「よかった・・・・・」
ジュリアはそこで初めて心からの笑みを見せた、愛しげにコアをなで再びアタッシュケースを閉じる
それを持って部屋を出る直前、ジュリアは男の死体を振り返り
「いい夢見れたでしょう? 私の“毒”は」
そう言って部屋に手榴弾をほうり投げ、窓から飛び降りる
部屋は一瞬で爆発に包まれ、宿は一瞬で火に飲まれた
最終更新:2009年03月01日 15:55