(投稿者:マーク)
「うう…」
藍羅が目を覚ます、そこは見慣れた基地の医療施設であった
もっともメード嫌いの司令官のせいで医療メードもいない粗末なところであったが
「ここは……」
身体中の痛みにたえながらゆっくりと起き上がる、見れば片腕、肋骨も二、三本折れているようだ わき腹には砲弾の破片が突き刺さったわき腹にはしっかりと包帯がまかれ出血も収まっている
「助かった……のは…私だけか」
そうして隣を見る自分の隣にはもうひとつベッドが置かれており、傍らには鉄扇と枕元には色鉛筆、
そして藍羅の似顔絵(あいらさんがげんきになりますようにと書かれた)が置かれていた、使い古されたそれは間違いなく星夜のものだ
「まだ生きている…?」
ベッドは空だが、これは間違いな星夜の絵、
間違いない 彼女は生きている
「あああ よかった…」
孤独、それは藍羅がなによりも恐れていることだった。
理由は彼女にもまだわからない。恐らくは素体の記憶なのだろうがあいにく藍羅は断片的な記憶さえも持っていない
「星夜……星夜…」
藍羅はきしむ身体に鞭打って部屋を出て刀を杖代わりに歩く、うわごとのように名前をつぶやきながら星夜を探す、あの屈託のない笑顔が、からかうとほほを膨らませ必死に言い返す顔、いつものように自分に抱きついてきて欲しい
無意識にコアの共鳴反応をたどってゆく
ただ会いたいそれだけだった
藍羅の心と精神はギリギリで保たれていた。仲間を全て失った今、星夜の存在が“彼女”を保っていた
「星…夜……?」
だから想像してみて欲しい
「ぁ…ぃ……ら…さ」
その少女が兵士達の慰みものにされ死に掛けていたのを目の当たりにしたときを
全身の傷がひらき血まみれになったその姿を
「星夜ぁ!!!」
駆け寄ろうとした藍羅を男達はけり倒す
「んだよ、邪魔すんじゃねえよ 今お楽しみ中なんでな」
一人が笑いながら藍羅の腹をガンと踏みつける
「がぁ…」
大怪我を負いコアの活動が妨げられている今、藍羅に彼らを制圧する方法はない
「メードなんて所詮道具なんだよ、この人間様のな」
司令官は藍羅を見下すように笑いながら言い放つ
「これがその証拠だ なんのことはねえ 間違えて、砲弾を打ち込んだだけであっけなく死んじまいやがった!!」
男たちが大笑いを始める
「貴様ら…やはりあれはわざと……!!! グハッ」
憎悪のこもった目をむけるが再び腹を踏みつけられる、わき腹から再び出血する
「しゃべんじゃねぇよ」
そして星夜に近づくとどこからかナイフを取り出す
「さて……生意気なメードが人間様に逆らったらどうなるか教えてやる」
司令官がナイフを振りかざす
「!!や、やめろ!!」
藍羅は必死にもがくが抑えつけられ動くことが出来ない
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ナイフが深々と星夜の腹に突き刺さった
男達が大笑いを始める、星夜は目を見開き、痙攣し、
藍羅の中でなにかが崩れる、同時に聞こえるのは妖魔の声
“憤怒を…解放なさい……私を……解放して…”
「……」
呆然とそれを眺める、何かが彼女の心を染め上げる。
だが絶望ではない、得たいの知れないナニか。
「さて今度はこっちだなぁ」
ニヤニヤと藍羅に近づいてゆく。
「…ろ……て………る」
「あ?」
司令官は知る由もないだろう、自分が最悪の化け物が生まれたきっかけを作ったなど。
“殺してやる”
耳にその声が届くか届かないで指揮官の身体に突如発生した複数の赤い剣が突き刺さった。
「ぐげぁあぁぁぁぁっぁぁぁあああああっぁ」
仰向けに倒れのた打ち回る、が顔面に赤い剣が突き刺さり痙攣して動かなくなった。
剣は死んだのを確認したかのようにガラスが割れるような音をたてて砕け散った。
「Gaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
藍羅は黒い涙を流し、叫ぶ。その声はもはや藍羅のものではなくなっていた。
その周りには赤い、でも水晶のように透き通った剣が円陣を組み藍羅の周囲を回り、流れ出た血が逆流し傷もみるみるふさがってゆく。
「ひっ…」
逃げ出そうとした一人は一瞬で目の前に現れた藍羅の刀で真っ二つに切り裂かれる、隣にいた男に血がべっとりとかかる。
「Guooooaaaa!!!!」
一気に二人の首をはねる。
「Raaaaaaaaaa!!!」
両腕を斬り飛ばされ悲鳴をあげようとするのをのどをかききって阻止する。
「に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!!!!!!」
こいつは危険だ、こいつはやばい男達は本能のままに逃げ出した。
星夜を犯していたものも裸のまま無様に逃げだす。
「地獄に…オチロ……!!」
星夜を抱きかかえつぶやいた、途端に彼らの頭上から雨あられと多種多様な形の剣が降り注ぐ。
絶叫が響き、やがてその声は聞こえなくなり、命が砕けた音のように死体に突き刺さった剣は砕け散る。
藍羅は星夜に撒かれた鎖を握力のみで引きちぎり、腹に突き刺さったナイフを慎重に抜き着物の袖を破いてしっかりと傷口に撒く。
そして死体の中から上着を引っ張り出し星夜に着せる。
「な、なんだ今の声は」
「おい!!貴様なにして…」
叫び声を聞いて倉庫に集まってきた者たちは悲鳴をあげるまもなく両断される。
やがて基地中に悲鳴と銃声が響き、途絶え、夜の砂漠に静寂が訪れた。
そして惨劇の夜が明けたとき、基地に藍羅と星夜の姿はなく、残されていたのは人間と判別するのも難しい、肉塊だけだった。
最終更新:2009年03月31日 12:52