猫柳茶子のたくらみと、エレナの呆れ具合。

(投稿者:麻婆伯爵)

「わかるかい。チミ、エレナは救助活動用だよ。何でそんなもので武装させようとしてんのさ」

背が小さい女性――どうやらメード技師が教育担当官に苦言をもらしていた
どうやら情報の伝達に間違いがあったようで、エレナと呼ばれるメードはちゃきちゃきの突撃兵としての武装をさせられそうになっていた。
大方違うメードの書類を見ていたのだろう。貼り付けられた写真にまで気がつかないところを見るに、余程疲れていたのだろう。
担当官はそれを受けて少しあわてたようにしながらエレナの武装を違うものに変え、予定されていたSMG一丁だけを手渡した。

彼女――猫柳茶子は変わり者のメード技師としてその名が知られていた。
腕はよく、技術者であり科学者でもあるような彼女は所謂インテリと呼ばれる人間である。しかし、どこかその辺りにいるインテリの人とは違っていた。
その違っている部分の一つが、やたら精神論や根性論で何かをどうこうしようとすることだ。あからさまに頭が悪い行動なのだが、それを形にするのだから周りは何もいえない。
彼女が開発したメード、エレナでさえ一部精神論で完成している。救助活動用、ということで一度に多くの戦闘不能メードの運搬を目的とされた彼女は
文字通り腕が足りなかったのだ。それを解決させたのが彼女のもつ隠し腕。この隠し腕の存在こそが猫柳茶子という技師の使う精神論の産物である。
「腕が足りないし力も足りないなら腕を足せばいいじゃない」という強引で単純な理論は頭がよければよい人物ほど簡単にでる結論ではない。
それを彼女はいとも簡単に、さも当然のように結論づけたのだ。……そのせいか、「実は何も考えてないのではないだろうか」とすら思われている節があるが、それは別の話。

夜。猫柳茶子は己が開発したメードをこっそりと呼び出した。
「何か……」
どこか焦点の定まらぬ目でエレナは彼女の部屋へとやってきた。エレナがどこか抜けているような調子なのは平常運行なので彼女はさりとて気にとめた様子もない。
「んっふっふっ。かわゆい愛娘を呼び出すのに必要があるかね」
「何もないならかえる。デウスの歌聴いていたほうが楽しい。早くして、茶子先生」
目をこすりながら言ったエレナの発言に、彼女はひどく気に入らないという様子で手をばたつかせはじめる。
背が小さい彼女がそんな行動をすると、まるきり子供そのものであるが……それは狙ってやっているらしい。
「せん、せい? だめだよそんなよびかたはぁ~。私のことはネコって呼びなさい~」
「じゃあ、猫先生」
「……う。まぁいいけどさ……あとぉ~私の前でぇ~でうすだかぜうすだか、他のメードの話するのもきんし~」
「横暴……」
「わたしはわたしが作ったいがいのめーどの話なんかきいててもつまらないのだ! 歌が上手い? かわいい? へっ、くやしいだけだって!」
「くやしいって……」
口をとんがらせてふざけたように言いつつ「それはさておき」と前ふりをおいてから
手作りらしい猫の手型手袋でエレナの肩をぽんぽん、と叩く。律儀にも、その手袋には肉球が再現されていた。
当のエレナは、面倒くさそうにそれを眺めていたが、やがて興味を失い視線は再び虚空を彷徨う。
「かえる」
「ま、まてにゃ!」
おもむろに帰ろうとしたエレナの肩を彼女は少しばかり強く掴んで寄せた。が、その自慢の肉球でメードの彼女をあまり抑えられていない。
そもそも、身長172cmのエレナの肩に165cmの彼女の手が置かれている時点で少しバランスが悪いというのに、無理に引きとめようとしたせいで
思いっきり転倒することになった。普通のメードならこういうとき、彼女を起こすなり手を貸すなりするが……。
「まてまてみすてるにゃ!」
エレナは問答無用で立ち去ろうとしていたのである。さすがに、二度目の静止でちゃんと止まったが……。
それでもまだ不服そうにしている。ここまで創造主に反抗的なのは恐らくエレナぐらいなものであろう。
しかし別段それを不快に思っている様子もなく彼女はご機嫌を取り戻し、エレナにえらそうに語り始める。
「今回呼び出したのはほかでもない。その隠し腕とかについてだよ」
「私の腕?」
「そうとも。実はその隠し腕を使ってできることをまだまだ説明してなかったにゃ」
「……使ってできること」
エレナが聞く姿勢をもちはじめたことに気をよくした彼女はご機嫌で軽く身体を跳ねさせる。
最早「猫」なんかではなく「子供」なのだが彼女はかたくなに自らを「ネコ」と称している。
「ふっふっ。実はすごいことができるにゃん。それはにゃんとぉ……」
「……なんと?」
一寸の間。彼女は深い深呼吸を一つして、いかにも重要そうにシリアスな目線でエレナを一瞥。
その後、視線は天を泳ぎ、いきつ、もどりつしながら再びエレナの瞳を捕らえ、その口を開く。
「身体のマッサージにゃ! その隠し腕はメードだけに発揮されるものにあらず! 日々疲れている技術者や軍人さんたちにそれこそサービスしてやるにゃ!
 勿論ソウいう’サービス’になったならば金品を要求しその儲け分は私と半分こ! そうすれば私のネコグッズが潤いを……にゃ!」

自信満々で彼女がそれを一息で言い切る頃には、エレナは呆れて部屋から出ていた。
最終更新:2009年05月08日 23:34
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