MONOCHROME-1

(投稿者:めぎつね)

「素体が、姉妹らしいわよ? 私達」

 不意に飛び出したそんな話題に、少しだけ応えあぐねて。
 幾許かの逡巡を経て突き返した台詞は、まぁ面白味のないものだったと思う。

「だとしても、わたし達には血縁の有無など無意味でしょう」
「それはまぁ、そうだけどね」

 にべもなく突っ返してしまったこととその後の何か残念そうにしょげ返った彼女の表情に、多少の罪悪感を胸に奥に感じはしたが、嘘は言っていなかった。素体に血縁があったからといって、自分と彼女が姉妹ではないのは明白だ。共通の記憶も無ければ、共有する過去もなく、各々のコアに何かしらの特別な関連性もない。生まれた場所は同じだったが、それは他にメードの研究施設がない以上必然的にそうなるというだけの話だ。

「まぁ、誰が咎めるわけでもなし。姉妹であっても問題ないとは思いますがね」

 一度否定されたものを急に肯定されて驚いたのか、彼女は目をぱちくりとさせて何度かまばたきした。
 不安なのだろう。それは自分にも分かる。ここに居るメードは自分と彼女の二人だけ、生物兵器とさして変わらない立場にあるこの身に注がれる視線にはろくなものがない。幸いにして自分は割り切ることに成功したが、誰しもが納得できる環境ではないのは明白だった。彼女が縋れるような相手は、当面自分しか居ない。
 尤もそれを口に出すことはせず、彼女への返答は肩を竦めるだけに留めた。言葉にできるほど、自分は大層ではない。

(わたしは、誰かに手を差し伸べてやれるほど器用じゃない)

 そも、起用云々の前に自分のことだけで手一杯だ。きっと彼女の期待には応えられない。それを解っているから、最初から期待させるべきではない。

「それなら、私が姉になるのかしら? 背丈から鑑みて」
「おや、妹の身長が姉より高くてはいけないなどという決まりは御座いませんよ。義理になれば、年上の弟妹すら幾らでも湧いて出るものなのですし」
「あら。それでは貴方がお姉さん?」
「いいええ、長男であれ長女であれ、一番上には何かと色々な責任が付き纏いますからねぇ。わたしは妹で結構」
「そう。分かった」

 そう笑った彼女の顔は、今でもよく憶えている。
 そして結局、彼女と言葉を交わしたのはそれが最後になった。別段珍しくはない。何れそうなるだろうとは思っていたし、覚悟というほど大仰なものではないが諦観の念はあった。少し違ったのは、予測していた未来――自分が死んでそうなるのだろうというもの――にはならなかったという所だけだ。
 そうならなくて良かったというのは紛れもない今までの本音だ。
 そうなればよかったというのは、今この瞬間の本音だ。
 その姿を赤く濁った網膜に映し、自分に出来ることは一つしかない。
 選ぶ余地など、何処にもなかった。
最終更新:2010年11月15日 03:41
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