(投稿者:Cet)


ヴェルガー外務事務次官殺害さる

12月5日、エントリヒ外務事務次官コンラッド・フォン・ヴェルガー(55)が[[フロレンツ]]郊外の[[セントレア教会]]で死亡しているのが発見された。
死因は他殺と見られており、他国の人物による確信犯的犯行と目されているが、いずれの国によるものなのかは、未だ定かではない。
なお、ヴェルガー外務事務次官は対セントレア外交における重要人物として扱われていると共に、セントレア教信仰に厚い人物として知られており――








「よぉくやった」
「ありがとうございます」
 玉座にて二人の男が面談している。
 二人の男の傍らには、更に二人の男が控えている。
 一人は、エントリヒ国の宰相であるところの男であり、一人は、皇室親衛隊長官であるところの男である。
「あの男には、前々から謀反のケがあった、そして、裏も取れていた。
 厄の芽は絶やさねばならん、今ぞ人類存亡の時ならば」
 目元を老いが取り囲んでいるが故に、表情を伺わせない、王たる人物はそう言った。
 対して、その賛辞を受けているところの人物は、仏頂面をして、何を応えるでもない。
「お主は、セントレア教を奉じていたな」
 突然の問いに、対する男の表情がピクリと動く。
「その通りでございます」
 男の答えに、王たる男は暫く唸る。
「同じ志を抱いたもの同士が殺し合うことは、できるだけ避けねばならなかった」
 唸りの後で、そう言う。
「しかし、禍根を生むような志を断たねばならぬのも、また事実。
 お主にも、それは理解できていると思う」
「無論のことでございます」
 相変わらずの仏頂面による返事に対して、王たる男は、老いによって隠された表情を、それでも尚はっきりと分かるように破顔させる。
「ならばよい」
「はっ」
 終始仏頂面の男は、そう言うなり敬礼を一つ行った後で踵を返し、玉間から遠ざかって行った。
 扉の開閉される音が、玉間に響く。
「では、私もコレで失礼させて頂きます、父上」
「うむ」
 残った三人の男の内、二人の男が会釈をして、そして退場していく。
 再び、扉の開閉される音が響いて、ただ一人、王だけが玉間に残された。
 一つ、溜息が聞こえる。
「潮時かな」
 一つ、気配が増える。
「いえ、まだ、まだですわ陛下」
「しかしみっちゃん、あの神父に対する勝算があるとでも?」
 増えたところの気配は、にこりと微笑む。
「あるはずがございませんわ」
「だろうと思ったよ」
 諦観の溜息が、脱力と共に吐き出された。








 玉間から遠ざかる途中の男が三人、廊下を歩いている。
「私は罪を犯しております」
 先程、王たる人間からの賛辞を受けていた人間が言う。
「言ってみろ」
「殺意を抱いております」
 宰相と、そのように応答を交わす。
「人間は誰でも、何かしらの罪を犯しているものだ」
「そうです、人間は自らの苦しみと真の意味で向き合うことがどうしてもできません。
 それこそが罪でしょう、そして私もまた、その罪を殺意に対して転嫁しようとしている!
 私が、武人たる前に一人の人間であるからには、涙を落とすこともあるし、また、私怨から刃を振るうこともありましょう」
「許さんぞ。
 未だ」
 一呼吸置いて吐かれた言葉に、空気が凝縮されていく。
「未だだ、未だ時は来ておらん」
「御意」
 三人の男が廊下を歩いていく。
 皇室親衛隊の長官は、目を瞠らせて、汗を額に浮かべている。


最終更新:2011年02月23日 22:57
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