(投稿者:Cet)
" 神経質な僕の、頭の中が "
◇
「……?」
ここはどこだろう、と彼はまず考える。
ここは、多分どこでもない場所だった。
今は、いつだろう、と彼は次に考える。
今は、いつでもない時間だろう。
そこは明るかった。荒野だった。
思うに、自分がその荒野から抜け出したことはなかった。
日差しは、夕暮れなのか、夜明けなのか、どちらなのか分からない。
しかし、いつでもそんな時刻を歩いていたのだと、彼は思った。
だから、彼にとって、その場所と時間は意味を為さなかった。
いつだって同じだったから、この場所も、時間も、どこでもないし、特定の時間では無かったのだ。
でも歩き続けなければならない。
彼はそう感じる。
どこに行けばいいのか分からないけど、とにかく歩き続けなければならないのだ。
それはどこかで聞いた神話の内容を思い出させた。
山の上に大きな岩を持ち上げる罰だ。
山の頂上に岩を持ち上げたと思うのも束の間、岩は、頂上から転げ落ちていく。
またそれを頂上に持ちあげなければならず、繰り返す。
そんな話を思い出していた。
しかし、だからどうしたのか、と彼は考える。
いずれにしても同じことだろう。
いつだって日差しは夕暮れで、そして、夜明けだった。
いつだって世界は荒野で、どこまでだって続いていた。
本当のことはただ一つで、それは歩き続けるということだった。
歩き続ける、歩き続ける、歩き続ける。
◇
" いつの日にかきっと、全ての人と分かり合える
そんな夢を見ていた少年
あれは
僕じゃないのか? "
◇
世界は気付けば真っ暗になっていた。
しかし彼は歩き続ける。
それだけが変わらないのだから。
光は無かった。
でも歩き続けることはできた。
だから歩き続ける。
◇
" もう今じゃ誰一人
僕をまともに呼ばない "
◇
脚は停まってしまった。
僕は心の中で一歩を踏み出す。
もう足が動かないのなら、心の中でのみ、一歩を踏み出すことができるのだ。
◇
" 僕が出て行ったあと "
◇
心の中で確かに吹いていた風が止んだ。
もう何も見えない。
でも、消えてしまうことだけはできなかった。
そう、それはできなかったのだ。
不可能だった。
" 随分長い間楽しかった
夢を見てた "
闇の中に、一人の少年が立っている。
" もう帰らない―― "
――君の名前は?
少年の呼びかけに、もう動くはずのない唇が、微かに震え――
最終更新:2011年02月25日 14:31