black sheep より

(投稿者:Cet)





" 神経質な僕の、頭の中が "








「……?」
 ここはどこだろう、と彼はまず考える。
 ここは、多分どこでもない場所だった。
 今は、いつだろう、と彼は次に考える。
 今は、いつでもない時間だろう。
 そこは明るかった。荒野だった。
 思うに、自分がその荒野から抜け出したことはなかった。
 日差しは、夕暮れなのか、夜明けなのか、どちらなのか分からない。
 しかし、いつでもそんな時刻を歩いていたのだと、彼は思った。
 だから、彼にとって、その場所と時間は意味を為さなかった。
 いつだって同じだったから、この場所も、時間も、どこでもないし、特定の時間では無かったのだ。
 でも歩き続けなければならない。
 彼はそう感じる。
 どこに行けばいいのか分からないけど、とにかく歩き続けなければならないのだ。
 それはどこかで聞いた神話の内容を思い出させた。
 山の上に大きな岩を持ち上げる罰だ。
 山の頂上に岩を持ち上げたと思うのも束の間、岩は、頂上から転げ落ちていく。
 またそれを頂上に持ちあげなければならず、繰り返す。
 そんな話を思い出していた。
 しかし、だからどうしたのか、と彼は考える。
 いずれにしても同じことだろう。
 いつだって日差しは夕暮れで、そして、夜明けだった。
 いつだって世界は荒野で、どこまでだって続いていた。
 本当のことはただ一つで、それは歩き続けるということだった。
 歩き続ける、歩き続ける、歩き続ける。








" いつの日にかきっと、全ての人と分かり合える
 そんな夢を見ていた少年
 あれは
 僕じゃないのか? "








 世界は気付けば真っ暗になっていた。
 しかし彼は歩き続ける。
 それだけが変わらないのだから。
 光は無かった。
 でも歩き続けることはできた。
 だから歩き続ける。








" もう今じゃ誰一人
 僕をまともに呼ばない "








 脚は停まってしまった。
 僕は心の中で一歩を踏み出す。
 もう足が動かないのなら、心の中でのみ、一歩を踏み出すことができるのだ。








" 僕が出て行ったあと "








 心の中で確かに吹いていた風が止んだ。
 もう何も見えない。
 でも、消えてしまうことだけはできなかった。
 そう、それはできなかったのだ。
 不可能だった。




" 随分長い間楽しかった
 夢を見てた "




 闇の中に、一人の少年が立っている。




" もう帰らない―― "




 ――君の名前は?
 少年の呼びかけに、もう動くはずのない唇が、微かに震え――


最終更新:2011年02月25日 14:31
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