(投稿者:Cet)
少年は丘の上から入道雲を望んでいた
あれは苦悩の城だ、と彼は思う
そして、自らに欠けているものは苦悩なのだ、と続けて思う
あの城塞に入ることができたら、と彼は思う
丘の上を白い夏に向けて走る
勾配に差しかかって、彼は跳んだ
◇
車が燃えていた
ごうごうと音を立てていた
煙があちこちで上がっていた
道路の脇の縁石に、大人が座り込んでいる
何があったのですか? と少年は聞いた
お前はニュースを聞いていないのか、と色の浅黒く、白髪を短く切り揃えた男性は言った
少年は頷く
この町は閉鎖されたんだ、と男性は言う
閉鎖
ライフライン、インフラが断たれたんだ、と男性は言う
つまり停滞しているということですか
そういうことかもしれない、ラジオしか聞けないから詳しいことが分からない
少年は頷いた
夏というものは、二つの概念から成る複合概念なのだ、と少年は納得する
つまり、停滞と旅立ちという相反する要素が結び付くことによって、夏は存在するのだと彼は思った
さて、どこに行こうか、そう少年は考える
とにかく、この町を出られればいいさ、そう考えた
道路を歩く足が止まる
そういえば、とても大切な人がいたような気がしていた
その人は停滞と旅立ちの、双方の動機になっていた気がした
町の方角を振り返る
涙が一つ零れる
青緑色の涙が一つ
それも一瞬だけだ
再び歩き出す
最終更新:2011年05月05日 00:43