白い夏

(投稿者:Cet)



 少年は丘の上から入道雲を望んでいた
 あれは苦悩の城だ、と彼は思う
 そして、自らに欠けているものは苦悩なのだ、と続けて思う
 あの城塞に入ることができたら、と彼は思う

 丘の上を白い夏に向けて走る
 勾配に差しかかって、彼は跳んだ








 車が燃えていた
 ごうごうと音を立てていた
 煙があちこちで上がっていた
 道路の脇の縁石に、大人が座り込んでいる
 何があったのですか? と少年は聞いた
 お前はニュースを聞いていないのか、と色の浅黒く、白髪を短く切り揃えた男性は言った
 少年は頷く
 この町は閉鎖されたんだ、と男性は言う
 閉鎖
 ライフライン、インフラが断たれたんだ、と男性は言う
 つまり停滞しているということですか
 そういうことかもしれない、ラジオしか聞けないから詳しいことが分からない
 少年は頷いた

 夏というものは、二つの概念から成る複合概念なのだ、と少年は納得する
 つまり、停滞と旅立ちという相反する要素が結び付くことによって、夏は存在するのだと彼は思った
 さて、どこに行こうか、そう少年は考える
 とにかく、この町を出られればいいさ、そう考えた

 道路を歩く足が止まる
 そういえば、とても大切な人がいたような気がしていた
 その人は停滞と旅立ちの、双方の動機になっていた気がした

 町の方角を振り返る

 涙が一つ零れる
 青緑色の涙が一つ

 それも一瞬だけだ

 再び歩き出す


最終更新:2011年05月05日 00:43
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