獣の死・2

(投稿者:Cet)



 少女は目を閉じた。
 そして、その流れに身を任せることに決めた。風の流れを身体に感じる、埃っぽい風が身体を撫でる、目を閉じて感じる風には、どこかしら親密さのようなものが含まれているようにも思う。
 その時、悲鳴が聞こえた。
 長い長い悲鳴だった。甲高い悲鳴は、彼女の身体をなぶるようにして、後方へと通り過ぎて行く。彼女は尚も目を閉じていた。
 何も起こらない。
 ゆっくりと、目を開けると、そこにはさっぱりとしたグレート・ウォール山脈が覗えた。彼女は先程と同じように宙を飛んでいる。そして、そのすぐ後方に、誰か人の気配があった。首を向けると、そこには背の低い少女がいた。その少女は目を見張って、先程まで蜘蛛がいたはずの場所を見ていた。視線を再び正面へとやって背の低い少女に習うと、暫くの間メードによって作られた包囲網全体を主体とした大きな沈黙が訪れた。
 やがて複数の通信メードが、自らの目の前で起きた現象を報告していくようになって、沈黙はようやく途切れ途切れになり始める。そして、その頃を見計らうようにして、少女は再び、自分の後ろに佇む背の低い少女へと視線を遣る。背の低い少女は些か緊張した面持ちをもって彼女の視線を迎えた。
「何が起きたの?」
「いえ、私にも皆目……」
 背の低い少女が答えるのに合わせて、少女は再び視線を前へと向ける。そこには先程まで存在していたはずの蜘蛛の分だけ、大きな空白ができている。それだけが変化だった。


最終更新:2011年08月29日 18:26
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