(投稿者:Cet)
薄暗い小屋はしっとりと濡れていた。どこかからさざ波の音が聞こえてくる。俺は暗闇の中に突っ立って、自らの行為を反省していた。どうしようもない、幾ら俺が神父の遺体を隠蔽しようが、変わりない。小さな村で起きた不穏な事件を嗅ぎつけて、当局の連中がささやかにやってくる。そして、少女は結局村からいなくなってしまう。それが毎回の帰結だった。あるいは少女は壊れてしまう。それも散見されるところの帰結だった。
やれやれどうしようもないな、と俺は小屋の木造りの天井を見上げながらに思う。どうしようもない。ならばどうすればいいのか、と考える。どうしようもない、答えはすぐに返ってくる。
少女に直接話しかけることもあった。少女にしか俺の姿が見えないようにはからって、色々な話をした。話をする度に思うのだが、少女は並一通りに凡庸であった。普通の少女であったということだ。
俺の意図を介さないことも何度かあった。でも、結局は同じだ。夕焼けのどこかに連れだしても、彼女に害を為す者を密かに葬ったとしても、結局は同じだった。少女は救われなかった。俺にはもう彼女を救うということが何なのか、よく分からなくなっていた。
救う。
大層な話だ。傲慢な話でもあるかもしれない。
しかし、それが俺の全てだった。
それを取り去れば、俺という人間は一気にその厚みを失うことになる。俺は薄っぺらな影そのものと化してしまう。それこそが俺の存在の理由だった。
だから俺は彼女を救い出すしかないのだ。
本当に? 声が聞こえる。
誤謬ではないはずだった。いや、どうだろう。
思い出せない。
◇
ベッドの上がしっとりと濡れている。
毎回腕を振り下ろす度に思うのだ、こいつは俺だと。きっとこれは俺の本質なのだろうと思う、俺も、この人間も、本質的には恐らく変わりないし、あるいはこれは単に俺の本質の表われに過ぎないのかもしれないと思う。
こいつは俺なのだ。
◇
何もかも変わっていくのだ。
運命の相手は代替可能なのだ。
君が一番分かってるはずなんだけどな。
時には自分自身すらメタファーに過ぎないんだぜ。
変わらないものなんて何もないんだ。
最終更新:2011年08月29日 18:24