再始動・無影灯

(投稿者:Cet)



 目覚め。
 無影灯。
 冷たい寝台、白衣の男たち。
 一人、白衣ではなく前髪の禿げ上がった男。
 口元だけを歪めた笑み。
 俺の体は、縛り付けられている。
 その上、俺の体はそもそも何かの作用によって、力を発揮することができない状態にあった。体中の筋肉が弛緩しており、動かせるのは視線だけといった状態であった。
 前髪の禿げ上がった男は、俺の頭の傍らに立っていた。そして、俺の表情を見下ろしていた。俺と目があっても、その表情は変わらなかったし、その目の色は一切変化しなかった。
 俺は彼の目を見つめていた。
『久しぶりだな』
 男はそう言った。
 しかし、俺にはこの男に対する面識というものはなかった。
 俺は何といっても今生まれてきたばかりなのだ。
 それにしても、語彙だけは豊富であったが。
『なるほど、私と話した記憶は失われているというわけか』
 男はそう言う。僅かな機会から多くの情報を得ることに優れた男であるようだった。
『ならば、自分の名前くらいは思いだせるか』
 男の声に、俺は思案に耽る。
 俺の名前? なんだったかそれは。
 しかし、俺は程なく自分の名前を思い出すことに成功した。そんな中俺は一体どんな表情をしていたのだろうか、男の口元の笑みが一層深くなった。男は些か俯き加減になり、瞳を閉じる。
『よろしい、ならば、次はお前の負っているところの使命を思い出すのだ。
 オービエ、お前がやるべきこと、それはたった一つなのだぞ』
 その男は口だけを歪める奇妙な表情で笑っていた。
 そして、俺はその男の名前を思い出す。

 それから数時間後、少年のような姿を俺は鏡の前で目撃することになる。


最終更新:2011年12月03日 14:59
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