1917

(投稿者:Cet)





 ――ああ
 どうもお待たせ致しました。

 いえ、どうぞ掛けてお待ち下さい。

 ああ。
 お初にお目にかかります。
 私が今回の件を担当する、V・Fです。

 さて、早速ですが本題に参りましょう。誰かに聞かれない内にね。
 改めまして自己紹介を。
 今回の依頼を斡旋するV・Fです。私の存在は空気のようなものと――あるいは一種の媒介のようなものと考えて下さい。
 ――いえ。
 貴方の存在は、我々のような情報機関の人間にとっては誰もが知り得ています。勿論、貴方の存在は秘匿されておりますし。こうして、お顔を拝見することも、本来ならば有り得ないことであると承知しています。
 足を運んで頂きありがとうございます、”D”。
 恐らくはこの案件は貴方でなければ解決することはできない。情報本部はそう判断しています。貴方に対するEARTH、SSS、そしてNSIAから注がれる信頼は絶大のものとなっています。
 さて。
 今回の依頼は、アルトメリアとグリーデル王国の共同の依頼となっています。作戦予定地点はバストン大陸、任務の目標は現在バストン大陸で交渉に当たっている特殊渉外官一名の回収です。
 知っておられる通り、バストン大陸は未開の地です。これまで何度となく開拓を目的とした人員が送り込まれたにも関わらず、その全貌は杳として知れない未知の大陸です。
 航空機、船員輸送、取り得る限りの一切の手段が、バストンにおいては否定されてきました。しかし、今回エントリヒが独自に動いています。曰く、特殊渉外官を現地に派遣することに成功したというのです。
 はい。
 一名きりです。
 ご存知の通り、バストン大陸における大気組成は他の大陸におけるそれとは異なっています。そう、通常であれば、バストン大陸において人間が生存することは不可能な筈です。少なくとも、それがこれまでの定説となっていました。
 しかし、エントリヒはこれまで手段として完全に否定されてきた船員輸送によって、一人の渉外官を現地へと派遣することに成功したというのです。これは、本来なら有り得ないことです。何故なら、あらゆる手段において行われたバストン大陸への人員の輸送において、これまで生存者はゼロだからです。これは、我々情報機関の人間でなくても関係者であれば正に周知の事実となっていること――。いえ、失礼しました。
 今回エントリヒが派遣した渉外官――そう、先程から申し上げているこの「渉外官」という言葉こそ、我々がこれから行おうとしている任務における最大のポイントなのです。
 我々が確認した限りで、エントリヒはその「渉外官」を通じ、バストン大陸に潜伏する何らかの勢力との折衝、交渉を行っています。これは確かな情報です。
 重ねて、バストン大陸は完全に未開の地であり、その全貌は杳として知れません。しかし、エントリヒはその全貌の一端について掴んでいます。それは、SSSも、NSIAも、そしてEARTHも――ありとあらゆる情報機関がこれまで掴むことのできなかった――是が非でも必要としている情報なのです。それを、彼らは独占し、更には彼らの利益へと繋げようとしています。
 我々が必要としている情報が彼の地にはあります。
 改めて依頼を申し上げます。
 “D”。貴方にはバストン大陸に潜入して頂き、その渉外官と接触を取り、彼女を――そう、それは女性です。もっとも、少女と言うべき年嵩の女性です――その彼女を回収し、そして、彼女の知り得る一切の情報を取得して下さい。
 これは危険な任務です。
 我々が知り得る限り、もっとも危険な任務と言っていいでしょう。
 そこには、何の保証もありません。
 生存の保証に関しては、全くもって確かなものはありません。
 ですが、貴方であれば――貴方の目的としているものを鑑みれば、貴方はきっと依頼を受諾するであろうと、私はそう確信し、こうしてコンタクトを仕掛けているのです。”D”。



最終更新:2020年02月02日 03:59
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