ラストスマイル

(投稿者:ジンキ[隊長] 様)

「もう駄目だろうな」

 その言葉に対して、Jは不機嫌そうに一言だけ「何がだ?」と問いかけた。

「私が、さ」

 Jは自分の破壊された左腕を切り離す作業を、僅かばかり止めた。そしてイラついたように口に咥えた煙草の端を歯ですり潰す。

「あと30分で、ミルキーカウが来る。それまで保てば――」
「体じゃない、チップだ。電磁波でやられた」

 短い舌打ちは、言葉を遮られたことに対する怒りか、それとも僅かな希望を遮られたことに対する怒りか。
 おそらく後者であろうとDは判断した。こいつは戦うことしか興味が無い馬鹿だが、誰よりも共闘した仲間を大切にしたがる馬鹿でもあったから。

「……我らは帝国陸軍特殊兵器部門――」
「――うるせぇ!」

 今度は言葉を遮ったのはJの方だった。紅い作り物の瞳が怒りに燃えている。

「……お前に受け取って欲しいんだ、私の腕を」

 自分の左腕はすでに切り離したJは、地面に転がる自分の腕に目を落としながらぎりりと歯噛みした。

「共に鉄から生まれ、共に弾幕の中を走り、共に敵兵と闘い続けたお前に、私の存在の証を受け取って欲しいんだ」

 少しだけの微笑みをこぼしながら、Dが乞う。

「我ら――」
「……我ら」

 すでに起き上がることすらままならないDのそばに座り込んだJは、Dの言葉を心底嫌そうな顔で復唱した。
 それを見るDの顔に、先ほどよりもう少したくさんの微笑みがこぼれ落ちる。

「「我らは帝国陸軍特殊兵器部門第二課実戦小隊“アルファベットナンバーズ”、共に生まれ共に走り共に闘いし帝国の等しき子らなり。ゆえにその体闘いの果てに朽ち果てようとも、その魂は――」」

 不意にDの口が止まった。いや、Dそのものの全てが止まった。

「…………。」

 Jは慣れた手つきでDの左腕を外し、それを自分の左肩にあてがう。
 そして強襲型の自分よりも先に壊れたことを含めた全ての不満を、一つの言葉に込めて呟いた。

「……てめぇの腕は重いんだよ」

 涙は流れなかった。
 彼女にそんな機能など搭載されていない。

 ただ、涙を流す感情のみ理解した。
 そんな理解能力など付いていなければ良かったのにと思いつつ。

「――その魂は、傍に立つ子らの一部となりて共に勝利を掴まん」

 その言葉に答えるかのごとく、Jの新しくも古い腕は駆動音と共に目を覚ました。

-Fin.-






最終更新:2008年08月25日 23:37
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