少女の記憶:破壊する者

少女は、地中から出現した新手に恐怖していた。
そう、Gとは本来、何らかの蟲を模しているような姿であるはずだ。
しかし、この個体は…2対の鎌や頑丈そうな顎を持ち、
竜を連想させるような尾を持ちながらも、蟷螂のような足を持っていた。
つまりはこの個体はどの蟲とも違う姿をしていたのだ。

「な、なんなのよこいつ…」

蟲でありながら独特の重圧を持つこの個体は、如何にある種の恐怖に対する感覚が麻痺しているメードであっても、
畏怖せざるをえなかった。
しかし、少女は立ち向かおうと短銃を構え、その正体不明の敵に発砲した。
狙いは頭部。距離は十メートルあまり。
少女の弾がその個体に突き刺さる………かと思われた。

「えっ?」

しかし少女の弾は、火花を散らせながら何かに弾かれた。
そう、頭部の前に金色の火花を散らせながら薄い膜のようなものが現れた。
それは嘗て少女も眼にした事があった、エターナルコア特有の光だった。

スポーン
それは何らかの形でエターナルコアを取り込んだ結果、変異したGの総称。
取り込んだ個体は何らかの変化を起こすが、大抵は変異による環境の変化や外殻の脆弱化や内部構造の破壊によって死に至る。
しかし、ときたまに悪夢を具現化したような存在が生まれる。
過去このような個体との戦闘において、対G戦力としてその地位を確立させているメードが捕食されてしまうなどと言った憂目も見られている。
そう、そのような個体が少女の目の前に存在していた。
しかし、スポーンとは一般に知られているはずも無く、
ただコアが摘出されるまでは新型Gだと認識されるだけである。

少女は知らなかった。
眼の前に存在している存在が危険な存在である事を。
少女は知らなかった。
恐怖と言う感覚を。
少女は知らなかった。
既に、この”破壊者”から逃げられない事を。

そこからはただ一方的な少女の防戦だった。
巨躯が突進すれば動きをそらし、鎌を振り上げられれば身を逸らして間一髪で避ける。
反撃を試みても、膜のような壁が現れて防がれる。
既に少女に出来る事は、どれほどまで延命できるかどうか。
それだけでしかなかった。
救いが有るとすれば、少女が斃れようとも犠牲は少女だけで済む。
それだけだった。

少女は気付いてはいなかった。いや、気付けなかった。
その防戦も長くは持たない事も、防戦が一瞬たりとも続いている事自体が奇跡である事も。
そしてその奇跡の終わりは訪れる事を。

「ああああっ?!」

少女の右足に、巨大な鎌が突き刺さる。
痛みに顔を歪ませ、痛みに抗うかのように叫ぶ。
右足を抉りながら、左足も鎌で刈り取り、最後の反撃と言わんばかり少女の武器が蟲へと突き出された。

しかし、少女は有ろう事か腕ごと武器を持っていかれる事までは考えられなかった。
突き出した得物は虚空を裂き、先まで目標に届かない。
それどころか、またもや膜のような壁で弾かれてしまった。
そこへ二つの鎌が、腕と武器を裂く。
斃れる少女、勝ち誇ったかのように咆哮する化け物。
そう、奇跡の終わりが訪れたのだ。

そして四肢を無くし、意識も飛びかねない”敗者”の周りに群がり始めるラルヴァやコイノバイエント。
”勝者”が手を下す必要も無いと感じたのか、また異形の化け物は地中へと去って行った。
少女は無意識の内に延命のためにコアの力を使うが、それだけでは出血を収める事はできはしない。
しかも、その出血場所にラルヴァが群がり、新しい同類の苗床にしようと、少女の身体をコイノバイエントは狙っていた。
四肢を亡くした少女は動けず、一言、呟いたが、呟いた後にその口を蟲でふさがれた。

「なんで…助けてくれなかったの…?」

―この数時間後、少女は無残な姿で奇跡的に救助される事となる。
尤も、四肢は切断され、服は服と呼べないほどに破かれ、身体は蟲に汚されていたのだが。
このケースは、コイノバイエントの生態の研究により良い成果をもたらす事となり、メードすらも無残に倒す存在を確認し得る事となった。

To be Interval3"Girl meets the Father"……
最終更新:2008年11月07日 23:47
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