海の撫子

(投稿者:エアロ)

A.D1945年、楼蘭海軍第8艦隊はクロッセルへの途上にあった。
楼蘭の東郷総理大臣とクロッセル連合議会のキングストン議長との会談の末に発案された共同宣言。
そこにはクロッセル南部の海域における対G哨戒活動が盛り込まれていた。
無論精強を誇るグリーデル王室海軍を始めとするクロッセル海軍の力は疑いようもない。
しかしアムリア大陸からクロッセルへと迫り来る海生型Gに大しては劣勢を強いられていることもまた事実なのである。


そこで楼蘭海軍は全12個艦隊の内、戦力に比較的余裕のある第8、第11の2個艦隊の派遣を決定。
第1陣として第8艦隊は進発し、アルトメリア北海洋をぬけ、まもなくクロッセル王国首都、セントグラールへ到着の予定だ。
現在は北海洋からくだり、北アムリア海を進んでいる。
第2陣の第11艦隊もすでに進発済みであり、現在北海洋を西進中である。
第8艦隊の旗艦は倭都級戦艦「長門」。
連合艦隊総旗艦「倭都」の栄光なる兄弟であり、その威容は山が動くほど、と称される。
その隣に艦首を並べ海原を進むのは重巡洋艦「澤雪」。
第2次建艦計画で作られた「久遠」級巡洋艦の2番艦であり、歴戦を潜り抜けてきたベテラン艦である。
その艦橋に立つのは、若干29歳の鷲尾 宗佑大佐である。

ベテラン艦に新人艦長。

ミスマッチともいえなくないが、彼は栄光の艦隊所属になれたことに誇りを持っていた。
そして彼のそばには軍人の中では目だって見える異装の少女がいた。
セーラー服に巫女服を足したような感じの服にエプロンをつけ、脚には変わった形のブーツが履かれている。
彼女こそ楼蘭が開発した「海上メード」の第2世代、名を「凛翠(りんすい)」といった。
海上を駆け、海生Gを駆逐する目的で作られた海上メード。
第8艦隊には彼女を始め、20人近くの海上メードが乗り込んでいるのだ。
この「澤雪」にも彼女を含め1個分隊6人が乗り込んでいる。
「凛、実戦は初陣だったな、君は」
鷲尾大佐は緊張した面持ちの凛翠にさりげなく呼びかける。
「はい、大佐。何事も起こらなければ良いのですが・・・」
凛翠は不安な面持ちで海を見つめている。
メードになる前はいざ知らず、今彼女は身を挺して御国を守る御国の盾・御国の矛なのだ。
「誰しも初陣は緊張するものだよ。
私だって、あの旗艦「長門」に士官学校のときに訓練生として乗り込んだ時は、緊張しっぱなしだったものさ」
鷲尾大佐は勤めて凛翠の緊張を和らげようと話してくる。
「凛、緊張してもいいけどさ、もっとやわらかくいこうよ。人生長いんだしさ。あたしだって初めてだけどさ~」
と、隊の先方でもある薫(かおる)も凛翠をなだめる。
艦橋には和やかな雰囲気が漂っていた。まるで春のうららかな日の光のように。


しかし、そのまどろみはけたたましく鳴り響く警報によって打ち消された。

「艦長、旗艦「長門」より連絡!前方の哨戒部隊より、Gを発見したとの事!
哨戒部隊は現在交戦中、至急来援を請う! とのことです!」
通信仕官が午睡をたたき起こす目覚まし時計のような大声でがなりたてると同時に艦橋の空気は一変した。
「凛、薫、どうやら敵が来たようだ。至急出撃してくれ」
「はいっ」
凛翠と薫は下部デッキへと駆け下りてゆく。
「総員、第一種戦闘配置!対空砲・魚雷発射管用意!上空・ソナー要員は電索から目を離すな!
 監視要員を増強、対空砲と魚雷の弾薬装填を欠かすな!機関室最大船速!」
鷲尾大佐はてきぱきと指示を飛ばす。
それにあわせ仕官や水兵も各々の配置に付く。
「澤雪」は旗艦「長門」に先駆けて海を駆ける。
その周りを駆逐艦や哨戒艇も駆けて行く。

「澤雪」下部デッキの扉が開く。
凛翠たち海上メードも準備が完了したようだ。
彼女たちは特製のボードに乗ることで海を駆ける事ができる。
元々このボードは楼蘭海軍が突撃艇として開発していた物だが、
高速性が確保できずに放置されていたものだった。
だが、海上メードの開発はこの忘れられた遺物に光を与えた。
メードの力の源である宝玉にも似た鉱石・エターナルコア。
コアの生み出す無限のパワーは、スクリュー以上の推進力を生み出すには充分だったのだ。

「凛翠、出撃します!」
凛翠は自分のボード「禮麗」にのり、大海原へ飛び出した!
甲板から水兵たちが水兵帽を振って見送ってくれている。
薫を始めとする分隊メードも後に続き、やじりのように6人のメードは海を駆ける。
凛翠の持つ武器は57式有線誘導魚雷発射筒と中刀「磯撫」。
先方であるため、打撃力を重視し魚雷発射筒を、格闘戦に備え刀を持つ。
後方のメンバーは小銃、刀、槍、軽機、アルトメリア製メード特製銃「ガリング・ガント」など実に様々だ。
「凛、あなたが先方よ、思いっきり駆けなさい!」
真ん中に構える小隊長、天凪が凛翠へ呼びかける。
「了解です!いきますっ」凛翠は思いっきり海を駆ける。


「繰り返す、至急救援を乞う!」
哨戒部隊のリーダー艦である駆逐艦「草間」の艦橋は焦燥に包まれている。
すでに哨戒艇4隻、駆逐艦2隻がやられている。
転覆した哨戒艇に張り付いて毒のついた触手をうごめかせているジェリーフィッシュ。
その強靭なハサミで船だろうと人だろうとお構い無しに引き裂いて貪り食うクラブ
そしてそのハサミの一撃で駆逐艦を沈めてしまった最大クラスの海生G、ロブスター
哨戒部隊の抵抗はある程度効いたものの、暖簾に腕押し程度でこの体たらくである。
彼らは決して無能ではないのだが、Gの力はあまりにも圧倒的だった。
地上ならば防御線をはることができても、海の上では船という道具がなくては人はあまりにも無力である。
しかも、海生Gは陸生Gに比べてあまりにも特性が違いすぎた。
ジェリーフィッシュはそのやわらかい表皮で弾丸を包み込んでしまうし、
クラブとロブスターは硬質化した甲殻で弾丸を跳ね返してしまう。
「現在、澤雪を始め、主力が向かっている!踏ん張れ!」
「草間」艦長が呼びかけ、攻撃が繰り返されるが、魚雷は避けられ、艦砲も通じない。
その刹那、前方からクラブが飛び掛ってくる!

      • もう、だめだ・・・
乗員の誰もが死を覚悟した・・・・

しかし、爆炎とともにクラブは横へ吹っ飛び、水しぶきを立てる。
<こちら、海上メード。救援に来ました>
艦橋の窓からやじりのように海面を駆ける海上メード達の姿が見える。
「・・・助かった・・・」
「草間」艦長は胸をなでおろす。
「第1、第2分隊はジェリーフィッシュを!私たちは固い奴らを落とすわよ!」
天凪の支持で各分隊はGへと向かう。


「薫、ツー・マンセルであのクラブを叩く!」
「がってん承知のすけ!」
凛翠と薫は息のあったコンビネーションで颯爽と海上を駆け、クラブを翻弄する。
マシンガンで正確に目を打ち抜き、刀でハサミの先を切り落とす。
かと思えばワイヤーで脚を絡めとる。
「これでトドメよ!」
凛翠は魚雷をクラブの口めがけ発射する!
魚雷が炸裂し、クラブは泡を噴いてひっくり返った。

「凛、薫、あらかた片付けたけど、駆逐艦を沈めたのは半端じゃないデカブツよ!加勢して!」
仲間からの援護要請が届き、2人は海域へと向かう。
海上メード達は渦の周りを回っていて、その渦の中心には、ロブスターがいる。
半端ではない大きさだ、駆逐艦と同じくらいあるだろうか。
しかもクラブとは比べ物にならない大きなハサミと、これまた巨大な尻尾がある。
あれで海面に叩きつけられればメードとてひとたまりもないだろう。
メード達とてただ見ているだけではない。
怪物の攻撃をかわしつつ、脚や眼の付け根を狙い魚雷やモリを打ち込んでいる。
しかし、クラブでは刺さったモリも跳ね返され、魚雷の爆発にも動じていないようだ。
「どうすればいいの・・・」
凛翠は不安に苛まれる。


<こちら「澤雪」!メード諸君、これよりそのポイントに艦砲射撃を加える!離れてくれ!>
鷲尾からの通信が届き、メード達はロブスターから距離を取る。
「目標、巨大海生G!照準よし!」「てーっ!」
「澤雪」の主砲と魚雷砲が火を噴き、他の艦もそれに呼応する。
しかしロブスターは気づいて移動を始めたようで、その速度は巨体ながら哨戒艇並みのすばやさだ。
艦砲が何箇所かに当たるも、さしてダメージを与えているようには見えない。
メード達も見つめることしかできていない・・・一人を除いては。

凛翠は着弾した魚雷が炸裂した箇所を見つめていた。


怪物の頭のてっぺんの焦げた箇所。


      • いける!

「薫、あれでいきましょ!」
「あれをやるの!?マジで?危険すぎない?」
「方法はこれしかないわ!いくわよ!」

言うや否や凛翠は駆け出し、薫も後に続く。
「貴女たち!何無茶をやらかそうというの!戻っていらっしゃい!」
天凪が呼びかけるも彼女たちにはもう聞こえない。

勝算が無ければこんな事はしないのだから!
凛翠と薫は目いっぱいボードをふかし、ロブスターへ向かっていく。
そして薫は長刀を低く構え、助走をつけている凛翠の前に出た。

      • チャンスは一回こっきり!

凛翠が駆け出し、薫の間合いに出た刹那、薫は凛翠を思いっきり跳ね上げた!
凛翠のボードは宙を舞い、後方からのコアエネルギー流はまるで天女の羽衣の如くうねっている。
メード達も、艦の艦橋から見ている水兵たちも、驚愕を禁じえない。


そして・・・

「いっけぇえええっ!」

凛翠はロブスターの頭に穿たれた裂け目に、コアエネルギーをこめた魚雷を発射した!
魚雷は一直線に裂け目に刺さり、内部へと入っていった、そして!
爆音とともにロブスターの肉が飛び散る。

ロブスターは頭の甲羅が真っ二つに裂け、悶えながら海中に沈んでいく。
「澤雪」艦橋からも、メード達からも歓喜の声が上がる。
<みんな、よくやってくれた。帰還してくれ>鷲尾大佐からのねぎらいの声が聞こえる。

「全く、今回は成功したとはいえ、なんて無茶をするの!戦場では命取りになることもあるのよ!」
「もうしわけありません・・・」
「澤雪」の甲板で凛翠と薫は天凪からたっぷりと油を絞られている。
「まぁまぁ、その辺にしておいたほうがいい。成功したんだし、結果オーライじゃないか、損害も最小限ですんだことだし」
鷲尾大佐が仲裁に入り、二人のメードは説教から開放された。

「まもなくセントグラールだ。君たちも羽を休めるといい」
「はい、大佐」
甲板で潮風を受ける軍人と2人のメード。
やがて第8艦隊は損害を受けた部隊を収容し、北上を続ける。
まもなく出迎えのグリーデル王室海軍の艦隊が見えてくるはずだ。


彼女らの活躍もこれからだが、今日はこの辺にて・・・
最終更新:2008年11月11日 21:44
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