我が儘な少女の話

今はもう地図上には存在しない小さな村に
ある少女が住んでいた、才能に溢れる訳でもなく、特に魅力的でもなく
嫌われても好かれても居ない、ありふれた少女だった
だがその少女はちょっとだけ、自分の境遇に満足して居なかった
四人姉妹の四女として生まれ、目立たない事が
自分自身を主張出来ない自分が、何よりも嫌いだった
別に両親や姉達から虐げられていたわけでは無く
むしろ愛情を込めて接されていた
それでも満足しないのは、その少女が年相応の我が儘だったからかも知れない
少女は反抗に出る事にした、自分で出来る限りのささやかな反抗だった

ある朝、その少女は学校の時間だと起こす母親に対して
「嫌だ、行きたくない」と答えた
その言葉に母親は心配そうな表情で体調不良を心配した
「違うの、行きたくないだけ」少女はそう返した
「じゃあ行きたくなったら起きてね」母親は自分の娘の為を思って言ったのかもしれない
でも結論から言えば、為にはならなかった訳で
その日から少女は引きこもるようになった
ただただ毎日二階の窓から外を眺め
何をするわけでもなく、思案に耽っていた
反抗は年相応だったが精神は幼かった
もっと構って欲しい、もっと心配して欲しい
姉妹の一人、では無く「私」としてみて欲しい
そんな子供っぽい、我が儘な考え

反抗を始めて、一週間が経つ頃にはその反抗は風景となった
両親は怒る事無く、ありのままを受け入れる事にした
「本人がそういうなら仕方ない、無理させちゃいけない」
その会話を聞いてしまった少女は絶望した、見捨てられたと思った
本当は心中叱って欲しかった、叱ってくれると思っていた

一ヶ月が経つ頃には、不満は苛立ちと嫉妬に変わっていた
ちょっとだけでも、人と違う所は積み重ねれば強烈な自分勝手になる
この頃から少女の場所は地下室になった、当然自分から出向いたのだが
もはやちょっと変わっている、では収まりきらない変人の領域にまで到達していた
ただぼんやりと引きこもり、鬱屈と考えているうちに彼女は極論へと辿り着いた
「姉妹が私だけになればきっと私を見てくれる」
考えはした物の、自分の姉に手をかける勇気など有るわけが無かった
そんな矢先に、幸か不幸か惨事は起こった
次の朝、目覚めると彼女は家の雰囲気に違和感を感じた
いつもならこの時間は慌ただしいはずだ、そう思いながら階段を上り、頭の上の扉を開けた

確かに彼女は一人になっていた
深夜、Gが村を襲い たまたま地下室へ籠もっていた彼女だけを残して
望んだ展開にはなったのかもしれない、このとき彼女は村にたった一人の『主役』だったかもしれない

狂いそうになる少女の精神とは裏腹に、見事なまでの秋晴れの日だった



「あれ?大尉、カルはどうしたんです?」
その呼び掛けに担当教官であるアーマンドは首を傾げた
「ん、その辺にいないなら多分外だろー? 作戦前だしそろそろ呼んできてくれ」
「はい、了解しましたー」
教官の言葉通り、カルディナは外で自身の得物である大きな鉈を振り回し、練習に励んでいた
「カル、大尉が呼んでますよ 作戦前だから戻ってこい、って」
声をかけるとカルディナは不満足そうな表情になり、鉈を動かす手を止めた
「えー・・・そんなー、もー少しでビシッと決まりそうだったのにぃー」
口を尖らせて文句を言いながら隣を歩くカルディナにフォルトゥーナはいつも通りの言葉を口にした
「主役はそんな事で文句を言っちゃ駄目ですよー、いつでも決めなきゃいけないんですよ?」
その言葉に、カルディナはにやっとした笑いを浮かべ口を開いた
「そうだよねっ、なんてったって私が主役なんだもん、ビシッとしっかり決めなきゃ駄目だよね!」
そう言ってにこにこと笑う少女のように、雲一つない晴天の日だった

(投稿者:りゅーる)
最終更新:2008年11月17日 20:08
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。