ルイ・フェリペは軍人である。
クロッセル連合王国陸軍第47小隊の‘元’小隊長で、士官学校を‘そこそこ’優秀な成績で卒業し、
軍人として‘まあまあ’将来を期待されていた。
彼は初め、少尉として第47小隊に配属されたが、運とコネを最大限に利用し、わずか5ヶ月で中尉まで上り詰めた。
しかし、その(凡人としては)異例の(?)スピード出世に対して妬みは多かった。
多くの作戦において、はじめは平凡より少し上の戦果を挙げていたが、
段々と原因不明の失態を連発するようになり、疑う余地もなく最速のスピード左遷を受ける。
それから2ヵ月後。
彼は、ザハーラ領東部国境戦線の前線にて第47小隊マルコー分隊の二等兵として通信兵の任に就いていた。
対G戦線の中でも有数の激戦区の砂漠地帯において彼らは苦戦を強いられていた。
「こちら第47小隊マルコー分隊!本部!至急応援を!」
ルイは通信機に向かってひたすらそう叫んでいたが頭の中ではまったく別のことを考えていた。
(クソッ!何故この俺がこんな前線で通信兵などやらなきゃならないんだ!それもこれもぜーんぶあいつらのせいだ!)
彼はかつての部下だった者たちに、心の中で悪態を付いた。
だが、そんな元部下たちも先ほどワモンの大群の中に消えていった。
彼はそれを見ていたため、もはや残された時間はわずかだろうと感じていた。
先ほど補給を受けに行ったカルロ分隊にこっそりついていけばよかったなどと現実逃避をし始めた頃、
彼の居る塹壕はワモンの襲撃にあった。
そして、「こちら第47小隊マルコー分隊!本部!聞こえていてくれぇ!応援を・・ザーーーー」
この通信を最後に第47小隊マルコー分隊は壊滅したと判断され、彼らに応援が来ることはなかった。
同じ頃、同地区にてメードが1名消息不明となった。
本部は撤退してきた同部隊の証言から最前線での戦死と判断し、現段階での回収を諦めた。
第47小隊マルコー分隊壊滅から2日後。
ルイはまだ気もしない味方の到着を待っていた。
幸いにも味方の死体に隠れ、何とかGに発見されずに居る彼だが、
この塹壕も後3日ともたずに瘴気に満たされるであろうという事は理解していた。
もっともそのときの彼の脳内はもはや瘴気にやられるまでもなく壊れていたが。
(きっとあれだよ、こうもう駄目だ!やられる!って所に援軍が来て
「大丈夫か!もう安心だ」とか言ってくれるんだよ、そうに違いないさ、はははは)
周りには死体だらけ、少し離れたところからはがさがさとワモンの動く音が聞こえる。
この状況下でまだ希望を捨てていない彼はある意味大物なのかもしれない。
そしてそこから2km後のブロック塀が無造作に積まれただけの壁に寄りかかる者が一人居た。
彼女の名はジネット、エテルネ公国出身のクロッセル連合軍に所属するメードの一人である。
彼女はただ一人でFM24-29軽機関銃(現地調達)の残弾を確認していた。
「あと300発・・・・・・今Gの群に出くわしたら死にますね」
そうつぶやく彼女だったがそれに答える者は居なかった。
何故なら彼女の所属するクロッセル連合陸軍第27遊撃小隊は
彼女を回収したか否かを確認せずに撤退してしまったためである。
しかし、そんなこととは露知らず、彼女は味方は全てGにやられたものとしてしばらく戦い続けていた。
「やはり・・・・・・何かがおかしいですね」
部隊撤退から実に5日、彼女はようやく違和感に気が付いた。
「何故、死体がこんなにも少ないんですか、後の47名はどこに消えたんでしょうか」
その後、彼女は彼らが移動用に使っていた装甲車3台が全て無くなっていた事にいまさら気が付き、
第27遊撃小隊が撤退したことを確信したのであった。
そして忘れ去られた自信の影の薄さにあきれつつ携帯食料を少しかじるのだった。
第47小隊マルコー分隊壊滅から4日後の昼、ルイの居る塹壕の上を複数のウォーリアが通り過ぎた。
それを機にルイは塹壕にこれ以上居るのは危険だと判断した。
そして夜を待ち、Gの活動が鈍ったところで仲間の銃と弾薬を持って塹壕を脱出した。
しかし、視界が悪く、光源のない砂漠のど真ん中、しかも方向もわからず、自分の今の装備ではG一匹の足止めが限界。
もし、日が昇る前に味方と合流できなければ待っているのは死だけであろう。
彼は昔習った星座をおぼろげに思い出しつつ、西(と思われる方角)へと歩を進めた。
同時刻、ジネットは北上し、廃墟と化した村の民家に身を潜めていた。
(周りに戦車等の残骸が見えることから少し前までここも戦場だったと思われる)
何故、移動したにもかかわらず西にある本部に行かなかったのか。
その理由は昼を少しすぎた頃にさかのぼる。
ウォーリア3匹の強襲をうけ、左手の機械義肢が故障したため、このままでは危険であると判断した彼女は
手榴弾で何とかGの気をそらし、逃走した。
しかし、本来西に逃げるべき所を北に逃げてしまったため、結局状況は振り出しより少しマシ程度だった。
そして、第27遊撃小隊からはぐれて11日目の朝、外で砂利をける音がなった。
彼女は一瞬ついにGが来たか、と身を硬くしたがそれにしてはおかしい。
それは少し弱弱しいながらもコツコツという音を立てていた。
そう、人の足音だった。それに気付いた彼女は急いで外に出た。
そして彼らはお互いを見て同時に言い放った。
「「援軍!?助かった!」」
そして、まったく助かっていないことを認識したのだった。
彼らは気付いてしまったのである。お互いに同じ境遇である、と。
最終更新:2008年12月06日 15:14