(投稿者:怨是)
私のこの生涯で唯一信頼できる部下、
ジークフリートへ。
十数年も前に貰った手紙に、やっと返信する決心が付いた。
まず、私はこの先の内心を日記の内に留めようとしていた事を、ここに告白する。
いつかにお前を殴ったのは、お前と深く関わることに対する恐怖だった。
失くした片腕、片目の代わりにお前を使う事。
私の人生の領域に、お前を介入させてしまう事。
それによってお前を、そして私を変えてしまう事……
その責任を取らねばならないのが、たまらなく怖かった。
無表情も、口数を減らしたのも、自分の感情の表出に伴う責任を取りたくなかった。
口から出る“規律”や“伝達事項”などといったものは、そんな私を守るための殻に過ぎなかったのだ。
上官命令を伝えるだけのマシーンになっていれば、全て上官のせいにできると思っていた。
国際対G連合統合司令部に移ったのも、お前を殴った後の居心地の悪さから逃れたかったからだ。
あの時から、周囲の人間の視線は蔑みへと変わり、私はそれに耐えられなかった。
上層部からの叱責が怖かった。
何もかもが敵に見え、何もかもが恐怖だった。
もちろん、お前自身の視線も怖かった。
毎晩のように悪夢にうなされ、どの悪夢でも例外なく、恨めしげな瞳でお前に見つめられていた。
思い出すだけでも背筋が凍る……
それ故に私は親衛隊を離れ、MAIDの悪用を防ぐ仕事に就くことで自身の罪悪感を消したかった。
そうしていれば、私が今まで傷つけて来た者たちへの贖罪になるのではないかと思ったのだ。
無愛想な私の厄介払いなのか、幸いにして手続きは滞り無く進んだ。
兵舎を後にした私は安堵してしまっていたことを、ここで白状せねばならない。
しかし、結局は心の隅にお前がちらついた。何度も。
いつか話したいと、そう思いつつも、同時に私はそれを拒んだ。
とんだ臆病者なのだ、私は。
すまない、どうか許してくれ……
私は今、MAIDの戦後復帰機関に勤めている。
あの時の自分を忘れない為に。罪悪感から逃げない為に。
そうしている間に、一人の女性と出会い、結婚した。
二人の息子が生まれ、すっかり元気に育っている。
いつか紹介する時が来るかもしれない。
私はようやく、自分の人生に、他人を受け入れる余裕が出来た。
今更だが、お前の返事が聞きたい。
虫のいい話だという事は解っている。
どんな言葉でもいい。
何を云われても構わない、甘んじて聞く。
……それが、私が思いつく範囲で唯一の、お前に対する贖罪だと思っている。
不甲斐ない担当官 Wolf von Schneider より
最終更新:2008年12月07日 21:15