「で、部隊は全滅したけど俺は何とか逃げ延びたって訳だ。さて、次はあんたの番だ」
ルイは一通り自分の事情を話し終えると持っていた水を少し飲んでからジネットを見た。
彼女はひとしきり悩み、自嘲的な笑いを浮かべながら一言だけぼやく。
「私を忘れて部隊が撤退しちゃったんですよ」
ルイは貴重な戦力であるメードが居るにも関わらず撤退し、あまつさえそれを忘れて帰る友軍にあきれつつ、
仲間に恵まれないという境遇に親近感を抱くのだった。
「ま、まあとりあえず何とか本部まで行こう。幸いにも武器はあるしな」
ジネットの銃はFM24-29軽機関銃、一般的に使われているもので特に特別な所はない。
そのためルイが持っている弾をそのまま使えるのだ。しかし
「見ればわかると思いますが、私は左手が動きませんよ?」
ジネットはただぶら下がってるだけになっている左手を指差しながら言った。
ルイは「あちゃー」と言いたげな表情を浮かべたが、すぐに何か思いついた時のそれへと表情を変える。
「ちょっと見せてみろ。あー・・・・・いや、何とかなる、ちょっと待ってろ」
そういうとルイは近くに放置された戦車の残骸の方へと歩みを進め、
しばらく見てから一枚の鉄板を拾ってきた。
「工具はあるからな、応急処置になるけど直すぞ」
そういうとルイはポケットから工具を取り出し、ジネットの左手を修理し始めた。
「何故そんなに用意が良いんですか、あなたは通信兵と言ってませんでした?」
「そうだよ通信兵さ。通信機がよく壊れるんだよ。二回目くらいで工具は砂漠の通信兵の必須アイテムだと気付いたんだよ」
「わが軍はそんな壊れやすい通信機を使っていたんですか、呆れてきました」
「そうだよ、だからメイドイン楼蘭を使えって言ってるんだよ、それを変なプライドで自国の製品なんか使うから駄目なんだ」
ルイは慣れた手つきで使えなくなったコードを外し、通信機用の代えのコードを変わりに取り付けた。
「・・・・・動くんですか、それで」
ジネットが不信感と呆れの混ざったような視線を送りながら尋ねるとルイは口に工具をくわえたまま答えた。
「まあちょとまてよ。包帯は……これしかないか」
そういうとルイは持ってきた鉄板をジネットの腕のコードがむき出しになってしまっている部分にあてて、
包帯でぐるぐる巻きにし、その上からベルトで巻いて固定していく。
「随分と無理やりなやり方ですね」
「これでも丁寧にやってるつもりだ」
「動くか?」
ジネットはそっと左手に力を入れてみた。すると若干ぎこちないながらも動くようになっていた。
「・・・・・・動きました、けど何だか動きが鈍いですね」
「そこはしょうがない、戻るまでの我慢だ」
そういうとルイは工具を片付け始めた。
「途中でまた止まるんじゃないですか?これ」
不安そうにジネットがつぶやくとルイは少し悩んだ後、こう答えた。
「3日は持つだろ、多分だけどな」
「不安になる回答ですね」
ジネットが苦笑しつつ言うとルイも苦笑しつつまったくだとうなずいた。
その頃、戦局は微妙に変わってきていた。
一方的にGに押されていた状況だった戦局はメードなどの活躍により
少しずつではあるがこう着状態まで戻り始めたのである。
これにより彼らはただ西に向かって少し行くだけで味方と合流できる状況であった。
しかし、そんなことを彼らは知る由もなかった。そして彼らは
「下手に動くのは危険だ、移動するにしても出来るだけ隠れられる場所をたどっていこう」
というジネットの案にルイも同意し、少しずつ西へ向かうこととなった。
最終更新:2008年12月09日 13:49