「ジネット、どうだ?」
「ワモン3、ウォーリア1、上空にはフライが2です。この兵力で勝算は?」
「あるわけがない、逃げるぞ」
「了解、仮設基地まで退きましょう」
彼らは今、ザハーラ領東部国境戦線の最前線、つまり激戦区を走っていた。
いたる所から聞こえる銃声、罵声、怒号、悲鳴。
何故、本部に向かっていたはずの彼らがこの地獄に居るのか。
その答えは二日前、廃墟から出てすぐまでさかのぼる。
「・・・・・・・・であるとフォールマン少佐は唱えた。そしてその理論から塹壕を利用したが、
今回の戦闘によってその非実用性が明らかとなったわけで・・・・・」
ルイとジネットは歩きながら本部への帰還ルートを練っていた。
しかし、そこら中に残っている塹壕を利用してはどうかというジネットの発言によりルイの何かのスイッチが入ってしまったらしく、
先ほどから(ジネットの憂鬱そうな顔を無視した)熱の入った塹壕の解説が続いている。
「ルイ、あなたが塹壕でろくでもない目にあったのはわかりましたから、本題に戻りましょう」
ジネットはさすがにこれ以上は耐えられないといった表情でルイに進言した。
「あ・・・・・ああ、すまない。つい士官学校時代の癖が出てしまったらしいな」
「いやな学生ですね」
ジネットはルイには聞こえないよう言ったつもりだったがどうやら聞こえてしまったらしくむっとした表情をした後、
やれやれといった具合に首を横に振ってこう言った。
「君こそ随分と性格が悪いようだ」
「あなたの社交性の低さよりはマシです」
「なんだって?それは聞き捨てならないな。俺はこれでもそこそこ人望はあるんだぞ?」
「少尉から二等兵になった人が何を言いますか」
「中尉だ!!」
「今はどちらにせよ二等兵でしょう!!同じことです!!」
「君がそんなことを言うやつとはね!」
「あなたこそそんな人とは思いませんでしたよ!」
そんなくだらない喧嘩をしている所に怒号が響いた。
「そこの二人!!何をやってる!!暇なら援護しろ!!」
喧嘩をしながらもしっかりと歩を進めていた二人は(今まで気付かなかったことが奇跡だが)ようやっと自分達がどこに居るのかを認識した。
ザハーラ領東部国境戦線最前線、この戦線の最東端である。
「ジネット、先に謝っておく、俺が悪かった」
「いえ、私も今申し訳なさでいっぱいです、申し訳ありません」
彼らはろくな装備もなく、ろくに休みもしない状態で自ら激戦区へと踏み込んだのである。
言うまでもなく、本部とは反対方向だ。
とにかく状況を把握するため近くの隊との合流を図ろうと辺りを見回す。
するとルイにとっては見知った顔が居た。
「カルロ!カルロ・ダビッツ少尉!!」
「ルイ!?ルイ・フェリペか!?」
カルロ・ダビッツ少尉、クロッセル連合王国陸軍第47小隊カルロ分隊の隊長である。
彼はフェリペの士官学校時代の友人であった。
「何故貴様がここに居る。貴様の部隊は全滅したと聞いたぞ」
「ああ、俺以外は全員Gに殺されたよ。ていうかなんで援護が来なかったんだ!」
そういうとフェリペはカルロの胸倉を掴んだ。
「そんなものが間に合う訳あるか馬鹿者ッ!それにそんなとこにまわしてられるほど隊は余ってはいない!」
すかさずカルロもルイの胸倉を掴み、軽く首を絞め始めた。
「そもそもカルロ分隊の連中はどうしたんだ!」
「全員逃亡したわ!貴様らが抑えてるはずだった戦線が崩れたせいでワモンの大群が押し寄せてきたんだぞ!」
「俺の隊の責任だって言うのかよ!」
「当たり前だ!」
今にも殴り合いでも始めそうな雰囲気にジネットはただどうしたものかと悩んでいた。
するとカルロは唐突にジネットのほうを見てルイを適当に突き飛ばした。
「そこのお嬢さん、お見苦しいものをみせてすまない。自分はクロッセル連合王国陸軍第47小隊カルロ分隊隊長のカルロ・ダビッツ少尉です。
可憐なお嬢さん、あなたのお名前を教えていただきたい」
そういってカルロはジネットの前に膝を着き、手をとった。
「え、えと・・・・クロッセル連合王国陸軍第27遊撃小隊所属メードのジネットです」
「ジネット!!」
唐突にカルロが叫んだ。
「ああ、何て美しい響きだろう!まさにあなたの美しさを見事に表している!
しかし、あなたには少し足らないものがあります!そう、それは・・・・・・・・・笑顔!笑顔が足りない!
と、いう訳で今度ぜひ一緒にリスチア料理のお店に行きましょう、パスタがおいしいところを知っているんですよ」
ジネットが軽く引きつった顔をしているのも無視してカルロはさらに続けようとしていた。
「戦場でまで女を口説こうとするな!」
と、ルイの膝蹴りを頭に喰らい、中断した。
「ジネット、とりあえずここの第38小隊と行動することになったぞ」
そういうとルイはジネットに弾薬と水を渡した。
「いつの間に話をつけたのですか?」
「この色情魔がアホやってる間に、だ」
そういうと蹴られた頭を抱えたままのカルロを引きずって仮設基地の中へと入っていった。
最終更新:2008年12月26日 18:28