「あ」
「……お」
ガウェインが以前よく足を運んでいた食堂に気まぐれに立ち寄ってみると、混んでいるためか相席でもいいかと聞かれ。
特に構わないと頷き、通された席にいたのはかつての仕事仲間だった。
「……久しぶり」
「…おお。生きとったんやね」
「まあね」
ガウェインの元仕事仲間…トルテは彼を見てそっけなく言いチキングラタンを混ぜる作業に戻る。
ガウェインも忙しそうな店員を捕まえて、手早く注文を伝える。
「……目」
「んぉ?」
「その目、どうしたの」
「ああ、これ。抉られたんよ」
「ふーん」
包帯の巻かれた右目を怪訝そうに見ていたトルテにそう伝えると、納得したのか食事に戻る。
程なくして来たポテトフライに、ガウェインも手をつけ始めた。
「最近仕事来なかったのは、そのせい?」
「んーにゃ、ちゃうよ。もう俺、仕事せんことにしたん」
「……は?何馬鹿なこと言ってんの。労働しないでどうやってここで生きて行くつもり、」
「ええんよ」
トルテの言葉を遮るように、一言。静かに、けれど力強く言い切る。
それに気圧されて言葉が途切れると、二人の間に沈黙が流れた。
先に沈黙を破ったのは、ガウェインだった。
「…もう、ええんよ。疲れたんよ、仕事すんのに。あの人らの奴隷でいんのに」
「…………」
「こう見えて貯蓄はあるねん。しばらくはふらっふらへらっへらしてても、餓死はせぇへん」
「……あっそ」
トルテは不機嫌そうにそう言うと、半ば自棄食いのようにグラタンをかっ込み始めた。
彼は、ガウェインが人に壁を作っていることを知っている。だからこそ、聞いてもはぐらかされると悟ったのだろう。
「あんがとなぁ、トルテ」
「別に」
「……ごめんなぁ。でも、俺があの人らから解放されるんは、もうこれしか方法がないんよ」
さく、とポテトフライを食べると、ガウェインは席を立つ。
彼が頼んだポテトフライは並盛りだが、それでもまだ器に半分以上残っている。
「おい、これどうすんの」
「トルテにあげるわぁ。お金は払っとくから、遠慮せぇへんでな」
「あ、おい…!」
トルテの制止も聞かず、ガウェインは「じゃあなー」と笑って店を出た。
「………。どうすんだよこれ…」
器に盛られたポテトフライを前に、トルテはぼやくように呟いた。
最終更新:2015年08月05日 22:51