反撃の狼煙

※リーザ死後、罪を被せられたグルート君達が王国へと逃げてきた
※同時期、シュテルンの傍に謎の少女「メアーネ」が現れる
※状況報告と「メアーネ」について相談すべく、ウンディーネの元へとやってきたドラコとシュテルン…というシチュエーションでの話





「―――…今、何て言ったんですか?」

 洞窟内で、ドラコのそんな声がよく響き渡った。
玉座に座る青色の肌をした女性…ウンディーネは憂いを帯びた表情で告げる。

「この世界には、【魔王】と【勇者】が本当にいたのです。」
「え…!」

 ドラコの隣にいたシュテルンが、彼と同様に驚愕を見せた。
【魔王】と【勇者】はお伽話であり、歴史にある事実ではなかったからだ。

「…かつて、【魔王】はこの世界を滅ぼそうとしていました。」

 ウンディーネは過去に懐古し、自ら見た真実を彼らへと伝えた。





 【魔王】はこの世界を滅ぼそうとしていました。
【魔王】には彼の眷属がいて、それらは我々に影響を及ぼし、
害を成すものとして変換した後、人間へと危害を加えていました。

 これを危惧した人間…特に、時の王は【勇者】を召喚し、魔王討伐を命じました。
当時の王は貴方方が存じている、帝国の前皇帝の祖先です。
【勇者】は彼の信頼のおける【魔法使い】、【戦士】、【治癒師】を連れ、魔王の元へと向かいました。

 そして、【魔王】は彼らによって討たれました。もちろん、世界に平和が戻りました。
【勇者】は魔王の亡骸を王の元へと運び、これを頭、心臓、羽、腕、足と五体を分け、
地へと深く埋めて欲しいと提案しました。もう二度と、彼が復活しないようにと、祈りを込めて…

 ここまでが、貴方方の知る《お伽噺》ですが、ここからが《真実》となります。
私の知る限りでは現在、【魔王】の身体は、心臓は帝国に、腕はこの王国の地へと眠っています。
残りの頭、羽、足は恐らく他のマナの眷属達が知っているでしょう…

 【勇者】達がそれぞれの役目を終え、故郷へと帰った後数年後に悲劇が起きました。

 【魔王】の眷属の1人が復活を遂げ、彼の心臓を手に入れたのです。
その力を使い、彼は彼自身の…独自のマナを創りました。それが、そのシュテルンが抱えているという、
マナを跳ね除ける力です。…そう、それは似て非なるマナであるのです。
《メアツィ・ピシュオーネ》、我々はこの力をこう呼んでいます。
…私にも、貴方の隣にいる《メアツィ・ピシュオーネ》が視えています。恐らく彼の眷属でしょうが、
根本的な性質はマナと似ています。…宿主の意志がない限り、自らの意志で我々に牙は向けないでしょう。
…メアーネ、と呼んで欲しいと?ふふ、ではそう呼んであげましょうか。
…あら、失礼。話が脱線してしまいましたね。

 彼はメアーネを使い、まずはこの《真実》を《お伽噺》へと変換させ、人間の記憶から消し去りました。
この為、この世界で《真実》を知るものはかつての【勇者】達の一族と【魔王】の眷属である彼、そして我々となりました。
…いえ、【観測者】もいましたね。
 次に彼は、身体の回収へと向かいました。【魔王】の力を手に入れ、再びこの世界を滅ぼす為に。
…勘の良いドラコなら、気付きましたでしょう。

 【古代兵器の回収】…今の、帝国の最優先事項です。
つまり、彼の眷属は今、帝国にいるのです。




「……待てよ、はは…冗談だろ?」

 ドラコはウンディーネの話を聞き笑みを浮かべたが、顔はあからさまに青い。
シュテルンも同様だが、自身の身体の秘密を知ったからか、戸惑いを隠せないでいた。

「つまり、帝国がこの戦争に勝てば、いや…そもそも兵器を回収したら、世界が滅びるのか?…それを知っていて、あいつら動いてるのかよ!?」
「いえ、恐らく知っているのは【魔王】の眷属のみでしょう。…帝国はそれを知らずに、動かされているのです。」
「そんなこと聞いたって、…っあぁ~畜生…どうしたら…」

 頭を抱え、ドラコはその場に仰向けに倒れてしまった。
今までの常識をほとんど覆されたのだ、理解するにも色々と追い付かない。
あの、とシュテルンがウンディーネへと問い掛ける。

「ど、どうして…そこまで、知って、るんですか…?…王国に、いるのに…」
「確かに、人間の政に我々が感知するには少々難しい立ち位置にいます。ですが、そのために【観測者】がいるのです。」

 そうだ、とドラコは起き上がり、彼女に尋ねる。

「それとさっき話に出てきた、【観測者】って何?」
「【観測者】はこの世界を観測する位置にある一族の事です。彼らは姓に"ヴォンス"…古代語で運命の輪、という言葉が与えられています。ただ、あくまで彼らの役目は観測する事にあり、我々の味方でも敵でもありません…」
「…助けを求めても無視される、ってことか。期待出来なさそう。」

 ドラコはちぇ、と吐き捨て、尚も複雑そうな表情を浮かべた。

《なんか大変そうねぇ、シューくん大丈夫?》
「………」

 傍らの黒い少女…メアーネから声を掛けられるが、シュテルンは黙ったままだ。
メアーネはふわふわと浮かびながら頬に触るが、それでも憂いを帯びた表情を拭う事は出来なかった。
それで、とドラコは再びウンディーネの方を向く。

「シュテルンの身体を治すには、そのメアツィ…えーっと、メアーネを生んだそいつを倒せば無くなるの?」
「…恐らくは。ただ、」
「ただ?」
「古代兵器を動かす原動力も、そのメアーネにあります。帝国がそれを看過するでしょうか…」
「…!」

 反射的に、シュテルンは身震いをした。もしかしたら捕まり、またあの場所へと戻されるかもしれないと危惧をしたのだ。
だが、ドラコは対照的にふふ、と笑う。

「大丈夫だって、ウンディーネ。こっちには今、帝国が抱えていた"生産型"の人間を抱えている。」
「グルート、でしたか…話を聞く限り、見捨てられたようにも受けますが?」
「いーや、違うね。あいつらはグルートがいなくちゃいけない。」

 彼はコートの裾を払いながら立ち上がると、話を続けた。

「イヴォルフさんの話を聞けば、帝国は貴重な人材をマナ生産に回そうとしてあえて罪を被せた。あいつらの目はグルートにしかいってない、しばらくはシュテルンの存在に気付くことは無いだろ。」
「…そうですね、ですが逆に…王国がグルートを匿っている事を知れば、衝突は避けられないのでは?」
「だったら、グルートを物にさせて、ぶつければいい。それをイヴォルフさんも望んでる。」

 ニヤリ、とドラコは笑みを浮かべた。

「あいつらに一矢を報いるどころか、世界を救うチャンスまで来たんだろ?絶対に逃してたまるか。」





「ここからが、俺達の反撃だ。」

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最終更新:2015年08月05日 22:45